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玩具

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「戻ったでー」


「帰りました」


「花ちゃん、おやつー」


 ストームバードで対空戦の実験をしてから一週間後に、バッキンの店の商品補充をして来てくれた、かっちゃん、アリーナ、けーちゃんは花ちゃんの屋敷に帰って来た。


「お帰りー」


「おかえりー」


「お帰り」


「お帰りなさい」


「花、おやつを作ってやるべきじゃ」


 帰ったと挨拶する方と、出迎えた方にそれぞれ間違ってそうな者がいるな。

困った人達だよ。

そう言えば、俺はいつも出かける側だったから出迎えるのは初めてかも。

ちょっと新鮮だ。

仲間の無事な姿を見てホッとしている自分がいた。

花ちゃんは、いつもこんな気分なのかな。

うん、怪我をしちゃいかんな。

少なくとも元気に見える様にしないといけない。


「馬達の世話は俺がするから、休憩しなよ」


 俺は、バクシンオーとカエデの二頭の手綱をアリーナから受け取る。


ひひんっ


 今回の旅で思う存分走れたのか、機嫌が良さそうだ。

汗を拭ってやらないとな。

水もあげよう。


「そうさせてもらうで」


「お言葉に甘えます」


「水羊羹ー」


「バナナシェイクを頼むのじゃ」


「食いしん坊さんねぇ」


 花ちゃんが、けーちゃんと雪乃を見て笑っている。

花ちゃんは、みんなの世話をするのが好きだ。

料理、お菓子を食べているみんなを見ている時の花ちゃんは、とても嬉しそうに見える。

俺達はお世話になりっぱなしだ。

遠見の水晶で外の世界を見せる事が出来て良かった。

今回のかっちゃん達のバッキン行きも遠見のマントを着けたアリーナを通して旅を楽しんでいた。

花ちゃんの横で、なっちゃんがけーちゃんと送話魔法でやり取りをしていたので、リアルタイムな観光であった。

送話魔法は屋外のみだが、密室でなければ問題無い。

窓が開いていれば大丈夫なのだ。

遠見の水晶を通じて、ビアンカ、デイジー、それからヒミコ達から結婚のお祝いをしてもらった。

早く赤ちゃんを連れてきてくださいと、みんなから言われた。

ゴンタ一家が遠くに行ったという話は後回しにしてもらったので、バッキンの人達が落ち込んだ所は見ていない。

彼らはゴンタ一家の信奉者だから、さぞかし嘆き悲しんだ事であろう。

さすがに彼らでもヤマトとミズホが住む山に移住したりはしないだろう……たぶん。

断言出来ないのが怖い。


「なっちゃん、アンドロメダ、トシと仲良くやっとった様やな」


 かっちゃんが二人に向けて言う。


「うん!仲良しだよー!」


「うむ。私にもこんな幸せがあるとはな」


「んまー!新婚さんっぽいですっ!」


 う……なんだかこっぱずかしい。

ちょっと離れて馬達の世話をしよう……俺は花ちゃんの屋敷の側にある木の下へ馬達を連れて歩いた。

水の入った桶を馬達の前に置き、桶の端っこに塩を盛る。


「バクシンオー、カエデ、水を飲めー、塩も舐めろー」


 地球だったら暑さのピークが過ぎた時期ではあるが、こっちではまだまだ暑い。

動くだけで汗を掻く。水も塩分も補給しないとな。

ちなみに馬達は利口ではあるが、俺の言葉は理解していないと思う。


 俺はタオルもどきで馬達の汗を拭う。

屋敷の方からキャーキャーと黄色い声が聞こえたりする。

絶対、俺に関する話だ。

まさか夜の話じゃないだろうな?勘弁してくれ。

迂闊に加わる訳にはいかない。

一心不乱に馬の世話をするのだ。

フキフキ。


 俺は木陰で馬達と並んで座り込む。

屋敷に入り難いので、ちょっと時間を潰そう。

世界樹の力で情報収集でもするかね……。


 ロセ帝国はドーツ王国から取った砦一つを残して撤退している。

辺境で起こった反乱を鎮圧するために帝都の兵を向かわせ、ドーツ王国で戦っていた兵を帝都へ入れていた。

ドーツ王国はロセ帝国の各地で反乱を扇動している。

まだ鎮圧には時間が掛るだろう。

ロセ帝国も反乱鎮圧に動かなかったら帝国崩壊まで行っていたかも知れない。

状況を正しく判断出来る皇帝だ。だけど人間同士の戦いはするんだよなぁ。

そしてドーツ王国から取った砦には、かなりの兵が残されている。

ボリスが砦の指揮官補佐となっている。

砦は今後の足掛かりとして守り抜くつもりらしい。

皇帝の決意が伺える。

いずれまた戦争が起こるんだろうね。


 結局、フリナス王国は表だって兵を動かす事はなかった。

ドーツ王国の村々を襲ったが取れた物は微々たる物だった。

それ以上に俺達が倒した賊……フリナス王国の正規兵の損害の方が大きかったであろう。

人を駒として見ていそうだ。

嫌な国だな、という思いが増していく。

尾白は、よくこんな国で立ち回れるものだ。

俺には無理だね。

尾白と言えば、商隊をイグルス帝国に送っていた。

食料品、木材、石材、帝都復興の素材や必需品を大量に輸送していた。

船の護衛として雇った冒険者達は高くついた様だが安全第一だ。

それ以上の見返りは期待出来るだろうしね。


 それから、ヴァンパイア討伐軍の話だ。

各国の兵と騎士団は砦で防戦一方になりつつある。

だが勇者アベルがいるので兵全体が強化されているので簡単には落ちないだろう。

ヴァンパイア討伐は一部の強者だけになっている。

アドルフ、アンドレの兄弟に、ヴァンパイアハンター(自称)のファリン達、パラディンのいる《福音》、クラン《殲滅の剣》もほとんどが参戦している。ヨゼフ達も今の所無事な様だ。

彼らのおかげでヴァンパイア自体は減っている。

討伐軍側の死者がアンデッドとして蘇っているので厄介だ。

ゾンビ、スケルトン、スカルナイトといったアンデッドは武器も持っているので並のアンデッドより強い。

周辺諸国は大きな都市に人を集めている。

集めているというか、村や町ではヴァンパイアに襲われたら守りようがないので都市に逃げ込んでいるのが現状だ。

ヴァンパイア討伐軍の勝利に終わったとしても、農作物の生産性は下がり難民問題で苦労するのは目に見えている。

泥沼だな。


「おーい、トシー、一緒に話そうやー」


「そうですよー」


 かっちゃん、アリーナがニヤニヤしながら屋敷から声を掛けて来た。

うぅ……新婚さんで遊ぶつもりだな。

良いだろう、受けて立つ!逆に惚気で逃げ出したくなる様にしてやる。


「おやつの取り分が減るではないか」


「トシ、ゆっくり外で休んどれ」


「えーっ!トシちゃん、一緒にバニラアイスとプリンを食べようー」


「ナッツの入ったクッキーにバニラアイスを乗せると美味いぞ」


 雪乃とけーちゃんは、おやつの虜だな。

太っても知らんぞ。

そして奥さん達はニコニコしている。

みんなが帰って来て嬉しいのだろう。

俺も嬉しい。

なっちゃん、アンと共にかっちゃん、アリーナという耳年増を撃退して見せる。

気合を入れた俺は馬達を連れて花ちゃんの屋敷へ向かう。

さながら戦場へ向かう兵士の様に……。


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