実験
252
「ソレは凄まじい威力だな」
アンドロメダが俺の左腕を見て呆れた様に言う。
俺達の前には大型バイクほどの大きさがあるホーンボアが頭を失って倒れている。
「ドンッって音もすごいー」
なっちゃんは新しい武器の爆音に驚いたか。
俺の新しい武器、左腕に仕込んだ大口径の銃だ。
デートを兼ねて実験に来ている。
今は花ちゃんの屋敷から少し離れた森である。
練習で五十m先の的でも命中させる事が出来る様になったので実戦で試している。
今の俺で、まともに狙える距離は二百程度だ。
射程距離だけでいえば一kmは行くと思う。
威力は……アーマーリザードの様な外殻を持っていない奴らなら一撃だろう。
やっと俺にも遠距離攻撃手段が出来たよ。
俺はホーンボアの回収をして、次の獲物を目指して移動を始めた。
「次は対空戦を試したい」
「うむ。空の敵は距離感も掴み難く、楽ではないぞ」
「私も射程距離の長い魔法を作ろうかなー」
「そんなに簡単に作れる物ではないぞ……普通は」
なっちゃんに対してアンドロメダがニヤリとしている。
なっちゃんは軽く言ったが、魔法は使用者の体から離れれば離れるほど魔力を拡散して威力が減る。
そう簡単にはいかないはず……なんだけど、エルフの魔力とかっちゃんに師事して来た、なっちゃんのセンスなら新しい魔法も作れるのだろう。
「海の方へ行くよー。狙うはストームバードだ!」
「ストームバード?」
「ほう。戦った事はないが風の魔法を使う大型の鳥だな」
「あーちゃんは良く知っているねー」
「情報は大切だからな。里長に色々尋ねた物だ」
なっちゃんは知らない様だが、アンドロメダはストームバードについて知っているらしい。
ストームバードは以前の船旅でカビーノ達と一緒に戦った事がある。
かっちゃんが壁でストームバードの動きを止め、カビーノの大剣で仕留めたんだよな。
空の魔物は初めてだったな。俺は対空攻撃がないので何も出来なかったな。
そう言えば、あの戦いの後でなっちゃんと出会ったんだっけ。
懐かしい。
「アンドロメダは勉強家だねぇ」
「……トシ、アンと呼べと言ったろう?」
「そうだったな。アン」
結婚を機に呼び方を変えろと言われたんだった。
アンドロメダの母親がアンと呼ぶらしいので、同じ呼び方を要求された。
いきなり呼び方を変えるのって難しいよね……。
そう言えばアンの母親に会った事がないな。
アンが言うには元気すぎるほど元気らしいのだが、今度ラミアの里へ行ったら挨拶させてもらわないとな。
ちょっと緊張する。
「なっちゃんは、なっちゃんだよー」
「そうだね。なっちゃん」
「トシちゃん!」
なっちゃんは嬉しそうだ。
なっちゃんとはお互い呼び方は変わっていない。
これで良いのだ。
「尾白がいる都市リャンの南、海沿いにある岸壁にストームバードがいるね」
「今日中に帰れそうだな」
「花ちゃんに焼き鳥をつくってもらおー!」
「ああ、それは良い!良いぞー!つくねも頼もう」
アンは肉大好きだからな。
うちの仲間達は焼き鳥が好きなんだよね。
つくねも良いな。
俺、ゴンタ一家、かっちゃん、花ちゃん、けーちゃんは塩派。
なっちゃん、アン、アリーナ、雪乃はタレ派だ。
別に言い争いをしたりはしない。
唐揚げにレモンを掛けるかでもめたりもしない。
そう、最近揚げ物も食卓に上る様になった。
まだ、鳥の唐揚げしか教えていないが大好評である。
俺も大好きだ。
次はトンカツかな。
お米が手に入ったらカツ丼だね!
花ちゃんの屋敷周辺には山菜が多いので天ぷらもありだな。
ここも、塩か天つゆかで好みが別れそうだ。
だが、きのこ、たけのこで戦争になるかも知れない。似たようなお菓子を作って試してみたい。
まぁ、うちに人の好みについて口を出す人はいないんだけどね。
俺がスターインを操縦している後ろで、なっちゃんとアンが鶏肉料理談義をしている。
この二人の接点は戦闘以外だと、俺を構う時しかなかった様に思う。
いやゴンタ一家や花ちゃんの話題では盛り上がっていたか。
アンは可愛い物が好きだし、なっちゃんはゴンタ一家も花ちゃんも大好きだからな。
そんな二人が俺の奥さんになって仲良くしてくれている。
最初は俺に気を遣っていたのだろうけど、今はそんな感じがしない。
修羅場になってもおかしくなかったのに、ありがたい話だ。
感謝です。
「そろそろ着くぞー」
「はーい」
「ストームバードとは戦った事がないから、私も参戦するぞ」
「おう……でも一撃で倒さないでくれよ?」
「ふむ。やってみよう」
アンは弓の名手で魔物の素材と金属を使ったコンポジットボウの威力は強烈だ。
射程三百mまでは正確に狙えるそうだ。
正確さを求めなければ射程一kmも飛ばせるとの事。
ストームバードを一撃で倒せるとは思わないが念を押しておかないとな。
連射で倒されそうだ。
「私もちょっとだけ参戦ー」
「ちょっとだけだぞぅ」
「はーい」
なっちゃんに参戦されたら俺の出番がなくなってしまう。
是非手加減してもらわないとな。
「さぁ、行こうか。なっちゃん、アン」
「うん!」
「行こう」
俺達はスターインを下りて岸壁の上に向かう。
岩場にストームバードが一体いるのは解っている。
「気配でおびき寄せるぞ」
「はーい」
「解った」
俺達は気功術で気配を放出する。
俺達はここにいるぞとストームバードに教えてやるのだ。
お、反応したな。
魔物は逃げるって選択をほとんど選ばないから助かる。
「来るぞ!ちょっと下がろう」
俺の言葉と共に岸壁から離れ森に近づく。
ストームバードを仕留めて海に落ちられても面倒だからね。
「ここで迎え撃とう」
「やるぞー」
「中々強そうではないか」
なっちゃんは氷の槍を展開して待機している。展開が速いな。
アンもコンポジットボウに矢をつがえている。
俺も左腕の銃口を開き、撃てる体勢をとる。
撃つ時に反動で左腕が後方に持って行かれるので、半身の状態で左腕を前方へ突き出して足を踏ん張るのだ。
腰も落としてバランスを崩さない様にする。
さぁ、来い!
ストームバードは大きいが、もっと大きい魔物を見た事があるので驚かない。
「フッ!」
「とー」
俺達とストームバードの間の距離が百mを切った辺りでアンの矢に続いて、なっちゃんの氷の槍が飛んだ。
なっちゃんの氷の槍は、改造したのか、槍と言うか弾丸だな。しかも高速で回転している様に見えた。
俺の左腕の銃の実験で弾丸は回転が加わると、飛距離が伸びて安定すると教えた。
それを取り込んだのだろう。
簡単に取り込める所が、なっちゃんらしい。
俺も頭に狙いを定める。
「おりゃー!」
ドンッ!!
左腕銃を撃つ。
俺の体に衝動が伝わる。
身体能力が高いので何とか抑え込める。
アンは矢を連射していたのか、ストームバードの両の翼の根本に矢がそれぞれ刺さっている。
彼女だけでも倒せたんだろうな……。
なっちゃんの新型氷の槍は胴体を貫いていた。
やはり飛距離も伸びている。
なっちゃんは満足そうだ。
そして俺の弾丸は……ストームバードの頭を消し飛ばしていた。
「トシちゃん!盾」
「トシ!」
「おう!」
なっちゃんとアンから警告が来る。
俺は左腕のミスリルに『錬成』を使い盾を作った。
シュゴッ!
ストームバードはかまいたちを飛ばして来ていた様だが間一髪、盾の展開が間に合った。
横に広いかまいたちだったらしいので、ジャンプか伏せるで躱せたかな?と後で聞いてから思った。
「威力も狙いも中々だな」
「もっと遠くで試したいねー」
「おう!俺的には満足だ。やっと遠距離攻撃が出来る武器が持てたよ」
「アリーナが落ち込むな……」
「遠距離武器がないもんね」
「むぅ……」
今まで遠距離攻撃が出来ないのは俺、ゴンタ、ミナモ、アリーナの四人だった。
ゴンタ、ミナモはそれを補う身体能力、速さがあるから良い。
俺が遠距離武器を手に入れた今、アリーナだけになってしまう。
さすがに可哀想だな。俺もそうだっただけに気持ちが良く解る。
何か考えてみるか。
俺達はストームバードを何とか回収して、夜に花ちゃんの屋敷へ帰った。
遅い夕飯だったが、焼き鳥で一杯呑みました。
このチープさが良いのです!
こんな日も良いね。




