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急展開

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「トシさん、具合はどうですか?」


「おー、花ちゃん。体に痛い所はないよ」


「……痛い所以外はどうですか?」


「……んー。ちょっと怠いかなぁ……疲れが抜けてないのかな?夏バテだろうかね」


「大人しく休んでいてくさだいね」


「おう」


 花ちゃんがおやつにプリンを置いて行ってくれた。

俺達がドーツ王国、イグルス帝国に行っている間に尾白が牛のつがいに鶏っぽい生き物を十羽連れて来てくれたらしい。

尾白は直ぐに帰ったとも聞いた。

尾白は花ちゃんを喜ばせるために、無理したんだろうなぁ……あいつは花ちゃんダイスキーだもの。

代金として砂糖と塩を渡したらしい。

対価としては悪くないんじゃないかな。

牛からは乳を、鶏からは卵をもらえる。

これで俺達の食生活は格段に向上する。

おやつもね。

実際、みんなは花ちゃんが作った各種のおやつを食べ比べている。


「花ちゃん、花ちゃん!このバナナミルクっていうの美味しいよー」


「この黒い……チョコレートだったか?苦味と甘みが良いぞ」


「カステラも美味しいです!これは売れますよ!!」


「ブランデーケーキやったっけ?これもええなぁ」


「どら焼きは素晴らしいでぇ。トシが言うには青いネコの大好物だったんやて。きっとケットシーに近い子やったんやな」


「わらわのバナナクレープをとるでない!わらわのじゃー!!」


「また作りますから、ケンカしちゃダメですよ。なっちゃん、バニラアイスを冷やしてー」


 俺は花ちゃんにお菓子と料理について色々と教えた。

それにしても微妙に違う食材と俺の適当な説明から、きっちり作ってくれる花ちゃんは天才だな。

俺はプリンを味わいながら、みんなの様子を眺めた。

みんな幸せそうである。


 これ、これだよね。

みんなの笑顔と美味しい食べ物。

もう花ちゃんの屋敷に引きこもろうかなぁ……ここら辺の魔物は敵じゃないし、なっちゃん、花ちゃん、尾白によって食材、料理に関しても心配いらない。

楽園はここにあったのだ。


 楽園がここなら、地獄?はヴァンパイア討伐軍とロセ帝国、ドーツ王国の戦場であろう。


 人間同士の戦場は拮抗しているがフリナス王国の出方次第で簡単に崩れそうだ。

そのフリナス王国は不気味なほど大人しくしている。

ドーツ王国も手を打っていない訳ではなかった。

ロセ帝国の辺境で反乱の手助けをしている。

小さな反乱だったが、ロセ帝国の対応が遅かったために反乱が拡大しつつある。

この対応を間違えるとロセ帝国は大打撃を喰らうであろう。

ドーツ王国にも策士がいる様だ。

俺でも先が読めない戦いになりつつある。


 ヴァンパイア討伐軍は死者を増やし、それがアンデッドの敵として向かってくるので厳しい戦いをしている。

勇者アベル、ランク0のアドルフ、アンドレ、俺と手合わせしたファリン達、それからパラディンがいる《福音》がいる戦場は優勢だ。おっとヨゼフ達も頑張っているな。

ヴァンパイアは昼に弱く、夜に強い。

一進一退の攻防を続けているがアンデッドは疲れ知らずなので、押され気味だ。

周辺国から人が逃げ出し始めている。

いずれ補給もままならなくなるかも知れない。

ラミアの里まで戦火が及ぶ様な事になったら不味い。

俺達が参戦するとしたらヴァンパイア討伐だな。

人間同士の戦いに手を出したくないし、ヴァンパイアは危険過ぎる。ヴァンパイアと戦った事のある俺だから、その危険性は良く解っている。

この世界で数少ない知り合いに死なれたくないってのもある。

ヨゼフ、ダンテ、フリオ、カミッラ……フリストとは仲良いしな。

特に、うちのなっちゃんとダンテ、フリオは気が合う様だからね。

精神年齢が近いのか波長が合うのか謎だけどな。


 だが一番問題があるのは俺だ。

さっき花ちゃんに体の調子を聞かれたが、問題はあったのだ。

どうも眠くなる事が多くなっている。俺が寝ている間に星の意思が表に出ている訳ではないが、俺の時間が減っている気がする。

イグルス帝国での戦闘、族長マグヌスに大怪我を負わされて、一週間近く眠っていたらしいが、それ以前からあった眠気に襲われるという事が多くなっていると思う。

花ちゃんの屋敷に帰ってくる途中も、大事をとってゆるゆると進んで来たといったが眠気に負けたというのが実際の所だ。

これが本当に星を取り込んだ?取り込まれたせいなのかは解らない。

この世界でも例のない事象なのである。

みんなに相談するかも悩んでいる。


「バニラアイス美味しー」


「なっちゃん、チョコレートを混ぜ込むと最高だぞ!!」


「カステラとバニラアイス……これこそ究極です!」


「ブランデーケーキとバニラアイスが至高やろ!」


「どら焼きに挟むバニラアイスは幸せやー」


「バナナクレープとバニラアイス……花!一生一緒にいてくれんかのぅ」


「雪乃ったら大げさね?あら、美味しいっ!」


 幸せそうなみんなには言い難いなぁ。

いや、ここは……。


「花さんや、わしにもバニラアイスをいただけんかのぅ」


「トシさん、さっき食べたでしょう?」


「あれはプリンじゃあ」


「そうでしたね」


 花ちゃんがバニラアイスをくれた。

日本で食べたのと違う気がするけど、冷たくて甘い。

バニラビーンズを探してきてくれた尾白に感謝だな。

また砂糖を分けてやろう。



 夕飯には花ちゃん特製冷やし担々麺だ。唐辛子万歳。

旨味が足りない気がしたが、何が足りなかったのだろう。

でも、みんなも美味しそうに食べていたから良いか。

これから改良出来るだろうしな。

花ちゃんはラー油も作っていた。

今度は餃子も作ってもらおうっと。

水餃子も焼き餃子も大好きだ。


 食後に飲む冷えた麦茶も美味い。

ふぅ……やはり話そう。

俺だけの問題じゃないからな。

塩で成り立っている店や移動方法なんかは、みんなにも影響が出てしまう。


「みんな、聞いてくれ」


「なぁに?」


「なんや、あらたまって」


「どしたん?」


「む」


「何でしょうか?」


「……」


「バナナは美味いのぅ」


 雪乃……食いしん坊キャラかよ!!

まぁ、良い。


「俺の体の話だ」


 みんなの顔が真面目になった。雪乃以外……。


「最近、眠いんだ。星の影響かは解らない。だけど俺の時間が減っている気がする」


「「「!」」」


「「「……」」」


 驚いている組と、心当たりのある組に分かれたな。

かっちゃん、けーちゃんは俺の異変に気づいていたのかも知れない。

花ちゃんも何となく気が付いていたっぽいのは歳の功だろうか?見た目童女だけどさ。


「今後どうなるかは解らない。俺は地球での知識や、こっちの世界の情報を書き残す作業をしたい」


 別に今すぐ死ぬ事はなさそうだが、やれる時にやっておきたい。


「トシちゃん?」


 なっちゃんが何を言っているの?って感じで聞いて来た。


「みんなに影響が出そうだからさ、残せる物は残したい」


「トシちゃん!?」


「不吉な事を言わないでください!」


「そうだぞ」


 なっちゃん、アリーナ、アンドロメダが驚きと怒りを混ぜたような感じになっている。


「過去に例のない事だ。やれる時にやっておきたい」


「うぅ……」


「そんな……」


「トシ、私との約束を覚えているだろうな?」


 アンドロメダが低い声で威圧する様に言って来た。

怖いぞ?アンドロメダさん。


「ああ。子作りの話だな」


「そうだ。やれる時にやろうではないか」


 その言い方はどうかと思います。

でも彼女は本気だな。

ちゃかす訳にもいかない。

みんなの前ってのは恥ずかしいがな。


「……アンドロメダ、好きだ。俺の子を産んでくれ」


「良いぞ。もっと早く言って欲しかったがな」


 アンドロメダはニッコリと良い笑顔になっている。

随分待たせてしまったな。


「ちゃんと好きなんだからね?」


 ツンデレサービスか。

嫌々ではないと解って欲しい。


「解っている。状況に流されてではない事くらい解っているさ」


「トシちゃん!!」


 なっちゃんから大きな声で名前を呼ばれた。

顔が赤いぞ、なっちゃん。


「お、おう」


「わたしも赤ちゃん欲しい!」


「お、おう?えーっ!?」


 えぇぇぇっ!?


「本気だもん!」


 なっちゃんの発言は冗談ではないらしい。

俺の事を好きだとは思っていたが肉親的な愛情だと思っていた。

俺がそうだったし。

ここも冗談で返してはいけない所らしい。


「ナターシャ、好きだ。俺の子を産んでくれ」


「はい!」


「でも二人ともで良いのだろうか……」


「良いに決まっている」


「もちろんだよー」


 問題ないのか……。


「なっちゃん、アンドロメダ、俺と結婚してくれ。お願いします」


 俺は頭を下げてお願いした。

こっちが先だったな。


「はい!!」


「その申し込み受けた」


 二人とも嬉しそうだ。

良かった。

俺はマジックバッグからミスリルとダイヤモンドを取り出して、結婚指輪を作る。

細工にまではこだわれないが、勘弁してくれ。

俺は、なっちゃん、アンドロメダの手をとって、薬指に指輪を着ける。


「やったー!」


「い、いいものだな」


 二人は更に嬉しそうにしてくれる。

俺も嬉しい。

二人の事は大好きだ。

急展開で気持ちが昂る。幸せだ。

俺が妻を持てるなんてな。

あー、ゴンタに報告したい。

大きな声で叫びたい気分だ。


 俺、なっちゃん、アンドロメダ以外の仲間達が呆然としている。

展開に着いてこれなかったらしい。


「お、おめでとうやなっ!!」


「そうやね。おめでとう」


「おめでとうございます!」


「産婆も出来ます!赤ちゃんのお世話は任せてください」


「赤飯……米がないのぅ」


 お、みんなから祝福をしてもらえた。

嬉しいなぁ。


「ありがとう!」


「なっちゃん、アンドロメダ良かったなぁ」


「二人とも嬉しそうや」


「念願叶いましたね!」


「赤ちゃん楽しみです」


「赤子と遊んでやろうではないか」


 主役は、なっちゃん、アンドロメダに変わった。

そうだよね。

結婚も出産も男なんて主役じゃない。

ちょっと寂しい。

なっちゃん、アンドロメダを囲んで楽しそうだ。


 アンドロメダは良いとして、なっちゃんと俺は添い遂げる事が出来ないだろう。

寿命が違うのだから。

だけど俺の存在がどうなるか解らない上で受け入れてもらえたなら話は別だ。

そこに問題がなくもないが、どちらかの種族で生まれるはずなので、赤ちゃんがなっちゃんと同じエルフなら長く一緒にいられるだろう。

なっちゃんには花ちゃんがいてくれるが、子供が一緒なら尚更良いだろう。

子供が成人するまで俺が見守れないのが悲しいけどな。


 本当に、俺がこれからどうなるかは解らない。

最悪に備えて行動しよう。

悔いは残すまい。

自己満足で終わらない様に気を付けないとな。

俺は仲間達に囲まれて嬉しそうな、なっちゃん、アンドロメダを見て強く心に誓った。


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