帝都での仕事
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エドワードさんに《闘族》幹部達の亡骸を渡し終わった様だ。
俺の気配察知ギリギリ、頭上に複数の人間の気配が現れ消えていった。
今地上にいるのは、かっちゃんだけらしい。
けーちゃんは冒険者ギルド本部へ行ったのかな。
なら俺は、もう一つの仕事を終わらせよう。
スターインの酸素部屋……今は《闘族》の族長マグヌスが氷漬けになっている部屋の壁を魔鉄で補強する。代わりに本隊の魔鉄の壁が薄くなった。
厚さ一mもあれば十分だろう。
人の手で破壊出来る厚さではない。
完全な密室の鉄の箱だ。
「族長マグヌスと、さようならだ」
「んー?」
「どうするんだ?」
「えっ?」
「『復活』がどこまで有効かは解らないが、地下深くで繰り返してもらう」
寿命で死ねると良いな。
「ふむ……」
「敵ながら同情します」
「ばいばい」
俺は『錬成』で族長マグヌスの棺桶となる部屋をスターインから切り離した。
本当は火山にでも送り込みたかったが近くに火山がなかったのだ。
かといって海中深くだと不安が残る。
だから帝都の地下深くに送る。
地形操作で族長マグヌスの棺桶を下へ、下へと移動させる。
たぶん地下二十kmくらいまで行ったろう。
誰かが彼の存在に気が付いたとしても救出出来る物ではない。
上には帝都の建物もある。
分厚い魔鉄の棺桶は密閉され酸素にも限りがある。それに暑さも相当だろう。
死にきれない自分を地下深くで呪ってくれ……あばよ。
最後の《闘族》がイグルス帝国の帝都ローダンの地下深くに封印された。
「ふぅ……」
「トシちゃん、おつかれさまー」
「お疲れ様だ」
「やっと安心出来ます」
「うん。これで俺達を狙う者はいなくなったよ」
「バッキンの店もそのまま続けられますね!」
「ラミアの里もだ」
「ああ。みんなに迷惑を掛けなくて済んで良かった」
「うん!」
最悪、俺達の関係者をサトウキビ島へ移住させようかとすら考えていたからな。
想像すると、それはそれで楽しそうではあった。
権力から離れて自分達の好きな様に生きられそうだったからね。
俺がいる間なら物資の補充も楽だし、ちょっとやって見たかった。
「トシさん!ゴンタさんはどうしていますか?」
みんなって言葉からゴンタ達を連想したのかな?アリーナが聞いてくる。
「ちょっと待ってろ」
「はい!」
俺は旅行神の巫女エリカ、使徒ファンの情報を調べる。
仲間の情報はなるべく調べたくない。
明らかに窮地に立たされている場合は除くけどね。
お、まだエリカとファンはヤマトとミズホの神使としての心得、やるべき事、力の使い方を神託によって伝えているね。
ゴンタとミナモも一緒に聞いているらしい。
既に山周辺は見て回った様だ。
一家団欒、山での生活を楽しんでいるっぽい。
ゴンタは特別だったが、これが正しい姿な気がする。
「ゴンタ一家はヤマトとミズホが今後住む山にいる。エリカとファンも一緒だな」
「そうですか……」
アリーナは、当分ゴンタと会えないと解って落ち込んでいる。
ようやくアリーナらしさが戻ってきたな。
スカルドラゴンを見てから、ちょっとおかしかったからな。
それでも族長には立ち向かっていた……仲間を想う気持ちが上回っていたんだろう。
人間らしい弱さと強さが同居している。こういうヤツは好きだ。
「ゴンタちゃん達に会いたいねー」
「うむ」
「ですよねー!」
ゴンタ一家は、みんなに好かれているなぁ。愛されているといっても良い。
強くて可愛い。そして真面目で真っ直ぐな良い子だものな。
アリーナ達はゴンタ一家の話をし始めた。
《闘族》の心配がなくなった事と、俺の命に問題がないと解って、やっと余裕が出たのだろう。
心配掛けちゃったなぁ。
俺は自分の左腕を見る。
『錬成』で切り口を綺麗に整えた。
痛みはないが、凄い喪失感がある。
どうせなら男のロマン……ドリルでも付けるか。
錬成繋がりで義手にしておくか。
あっ!そうだ。
おれには『錬成』がある。
今の所力を使ってもなんのデメリットもないと思う。
ならばミスリルを塊にして腕、手を作っておこう。
『錬成』の力を使えば、右手ほどの反応の速さはないにしても似たように動かせるはずだ!
これは良い考えだ。
俺はマジックバッグからミスリルを取り出し左腕を作る……籠手みたいだが上手く固定出来ないぞ……。
仕方ない、少し重くてバランスが悪いが上腕、肩までの部分鎧にしよう。
振り回しても外れない様に左肩から右わき腹へ向けてベルトで固定するか。
……何これ、恰好良くないか!?忘れていた想いが蘇ってきそうだぜ!
魔眼すら覚醒してきそうだ。
「トシちゃん、カッコイー」
「イカス……」
「えぇー?」
なっちゃん、アンドロメダは解る人だったか。
俺の新たな装備を見て褒めてくれている。たぶん。
アリーナは修行が足りないんだね。残念な子だよぅ。
「真銀の錬成術師と呼んでくれたまえ」
「真銀の錬成術師!」
「真銀の錬成術師!」
「真銀の錬成術師?」
「すみません。うそです。呼ばないでください……」
真顔で言われると、恥ずかしいのです。
「おっ!かっちゃんと、けーちゃんが上に戻って来た!行くよー」
俺は誤魔化す様に話を逸らす。
いや二人が来たのは本当なのよ。
「真銀の錬成術師……カッコイー」
「真銀の錬成術師か」
なっちゃん、アンドロメダ、それは忘れてくだされ。
俺は自分の顔が赤くなっているだろう事を理解する。
逃避するかの様にスターインを浮上させる。
あ、今だと監視の目があるかも知れないな。
俺は完全に浮上させずに、気功術で気配を放出しながら防壁の角まで、かっちゃん、けーちゃんを誘導する。
彼女達なら解ってくれるだろう。
ゆっくりスターインを動かす。
よし、着いて来てくれている。
俺は防壁の角を曲がってスターインを浮上させた。
「戻ったでー」
「ただいまー」
二人がスターインに入って来た。
無事に帰って来た所を見ると、問題無く亡骸の処理を終えたらしい。
「お帰り。直ぐ潜るよー」
「「はいな」」
そして俺達は再び地中の人になった。
「なんやトシ、恰好ええなぁ」
「ええやん」
かっちゃん、けーちゃんも俺の左腕を見て褒めてくれる。
「そうだろ!反応は遅れるけど左腕、左手として使えるんだ」
「『錬成』様々や」
「イカサマくさいなぁ」
そして胡散臭そうにも見られる。
うん。俺もそう思うよ。
でも感謝だ。
……いっそ全身鎧ってのも面白いかも……サイボーグ?パワーアーマー?ちょっと違うか。
これはこれで男のロマンだよねっ!
銃じゃないけど、鉄の弾丸くらい射出も可能かも……。
うぉーっ!!燃える。
みんなから生暖かい目で見られたが気にしない。
「都市ハーベレゲへ向かうよ」
「はいな!」
「花ちゃんの屋敷でなくてええんか?」
「そうだぞ、トシには休息が必要だ」
「かえろー」
「畳の部屋でゴロゴロ引きこもりたいです」
「けーちゃんを送ったらね」
「うちは後でええよ。花ちゃん家に直行しようや」
「いいの?」
「かまへん。水羊羹やプリンが食べたいとかやないんよ?」
「お、おう」
花ちゃんの屋敷に帰る事に決まった。
博士の話と、ロセ帝国のボリスは後回しだ。
俺も畳の部屋でゴロゴロしたいぞ。