開始
239
《闘族》本隊は上陸地点から東へ行った。
その方向には港町がある。
町には、帝国の兵もいるし軍艦もある。
そして冒険者ギルドもあった。
冒険者ギルド本部から派遣されている斥候も多い。
斥候達は《闘族》の情報を集めて今も忙しく動き回っていた。
その港町から西へ離れた森に馬を連れた集団がいた。
そいつらが《闘族》の協力者だと解った。
幹部達の情報から辿れず、アンドロメダ達の方にいる戦士から情報を追っていって、ようやくその馬を連れた集団を見つけられた。
ある程度の情報や予測がないと特定出来ないのが面倒だ。
「《闘族》本隊は東にいる集団から馬を貰って北上するつもりらしい」
俺はスターインで移動しながら状況を伝える。
「……それなら、急いで船を沈めようや」
「おー!」
船を守っている奴らはランク2相当が一人、ランク3相当が五人で魔法使いはいない。
奇襲すれば問題ない相手だ。
「船番に魔法使いはいない」
「うちとなっちゃんが魔法で船を沈めるで。トシは船から逃げ出す奴らの監視と始末を頼むわ」
「やるぞー!」
「解った。《闘族》本隊は離れているけど、なるべく静かにね」
しかし、なっちゃんがヤル気に溢れている。
あまり好戦的に育って欲しくないかも……俺やかっちゃんを側で見ているから影響を受けてしまったかな。
なっちゃんも敵には容赦しなそうだ。
仲間には寛容だと思うけどね。
俺はスターインを船が見える場所へ浮上させた。
「着いたよ。なっちゃん、けーちゃんに送話魔法で連絡頼む。俺達は船を沈めに動くってね」
「はーい」
アンドロメダ達の敵も、そろそろ動くはずだ。
なっちゃんが連絡を終えたら戦闘開始だ。
俺は海の方へ視線を移す。
月明かりでぼんやりと照らされた船は何となく綺麗に見える。
もうすぐ海上から消えてしまうがね。
「トシちゃん、けーちゃん達の方はまだ動いてないけど健闘を祈るだってー」
「おう」
「行くで!」
「はーい!」
「あいよ」
まずは《闘族》の逃走手段をなくさないとな。
俺達は気配を消して船へ近づく。
なっちゃんの気功術も上達しているなぁ……若者の成長は早い。
船は岩場の先三十mほどの海上で停泊している様だ。
もっと離れているかと思っていたが近くて助かる。
これなら魔法攻撃も余裕だ。
俺も岩を投げようかな。
「なっちゃん、準備ええか?」
「うん!いいよー」
お互いを見て一つ頷き合った後で、かっちゃんとなっちゃんがタイミングを合わせて攻撃魔法を船に向かって放った。
かっちゃんは自分より大きな岩の塊を射出し、なっちゃんは更に大きな氷の塊を射出した。
こんなのを連打されたら船なんて沈むわな……おっかねぇ。
かっちゃん、なっちゃんの魔法が船に命中している。
そして船からは怒号が上がった。
船の中にいた奴らは慌てて動き出したのが見えた。
だが何が起きているか良く解っていなそうだ。
攻撃されているとしか解るまい。
どこから攻撃されているか気づく頃には船が沈むんじゃないかな……他人事ながら気の毒に思ってしまう。
俺も石を拾って投げてみた。
弓はダメだが、投石は自信あるんだよね。
ちゃんと船に当たったが、かっちゃん、なっちゃんとは比べるべくもない破壊力だ。
やはり逃げてくる奴らの相手だけにしておこう。
かっちゃん、なっちゃんは同じ大きさの岩と氷を連続して放ち続けている。
俺には魔力感知が出来ないが、異常な事なんじゃないかと思う。
涼しげな顔で魔法を放つ二人に頼もしさを覚える。
あー、船が傾いている。
ボートを下ろしている奴らも見えた。
あんな状況なのに冷静に行動出来る奴らもいるんだな。
慌てて海へ飛び込んでいる奴らの方が多いけどね。
こっちに向かって泳いでくるな。
あれ?なっちゃんからの氷の塊が飛ばなくなった。
俺がなっちゃんを見ると……。
「トシちゃん、けーちゃんから連絡ー。戦士団が動き出したから作戦開始するってー」
なっちゃんの攻撃魔法が止まったと思ったら、連絡を受けていたのか。
「あいよ。あっちも動いたか」
「まずは、きっちり船を沈めんとな」
「はーい」
なっちゃんから再び氷の塊が射出され出した。
既に敵の船は半分沈んでいるからオーバーキルって気がしないでもない。
さて、俺は俺の仕事をしますかね。
岩場に転がっている石をいくつか拾った。
船から逃げ出しているのは……十二人か。
ボートには六人、船番で戦える奴らだな。
ボートはかっちゃんとなっちゃんがやるだろう。
俺はこちらへ向かって泳いでくる奴ら目掛けて、拾った石を投げた。
悪いが誰も残すわけにはいかないんだ。
俺は石を投げ続ける。
ガチッ!ボートからの矢が岩に当たった音だろう。
敵の弓士は二人だな。
矢を喰らわない様に気を付けないとな。
かっちゃんとなっちゃんが攻撃魔法の対象をボートに移した時には、泳いでいる奴らはいなくなっていた。
そして敵の船は沈み、ボートもひっくり返った。
ボートから海に投げ出された敵は健在だ。
だが矢が飛んでくることはなくなった。
もう、かっちゃん、なっちゃんの魔法の的でしかない。
俺は状況判断だけすれば良いな。
周囲の索敵……六人だけだな。
問題ない。
そして《闘族》本隊と戦士団の動きを調べる。
《闘族》本隊は馬を受け取り、人数を三十五名に増やして北上を始めている。
アンドロメダ達の方にいた戦士団で北西に移動している者達は総勢三十二名か。
あっちの船に残っている奴らは十名だな。
強度的にはランク3程度なので問題ないだろう。
アンドロメダ達は動いた戦士団に気付かれる事もなく船への攻撃をしている。
あちらの船も沖ではなく陸地に近い様で攻撃魔法が届いているね。
「終わったで」
「やったよー」
俺が情報を追っている間に、戦闘は終わっていたらしい。
海にも岩場にも俺達以外の気配は感じなかった。
戦闘と言える様な物ではなかったが……一方的だったからね。
「お疲れ様。魔力の残りは問題ない?」
ここが最後の戦いではないから確認しておかないとな。
本番はこれからだ。
「うちは半分くらい使ってしもた」
「私は余裕だよー」
「それなら大丈夫そうだね」
なっちゃんはあれだけの魔法を放っても余裕なのか……かっちゃんは移動中に休めるから、もう少し魔力も回復するだろう。
「けーちゃん達の方はどうなっとる?」
「戦士団をやり過ごして船を襲っているよ」
「問題ないんやな?」
「おう」
「《闘族》の本隊はどうや?」
「人数が三十五名に増えて馬に乗って北上中」
「増えたなぁ」
「やはり冒険者ギルド本部と激突してもらわないと困る」
「こまるー」
なっちゃん、ノリで言ってないか?
ニコニコしている、なっちゃんであった。
「スターインに乗って移動するよ。状況次第で変わるけど、アンドロメダ達と合流しよう」
「はいな」
「はーい」
今の所は順調だ。
この調子ならイケル。