食材
219
俺達が南の大陸へ着いてから三日目になる。
「大森林は過ごしやすいな」
「そぉ?」
大森林は花ちゃんの屋敷辺りよりも暑く湿度も高めだ。
ラミアには過ごしやすいらしい。
今が一番暑い時期で俺は風のある木陰でないときつい。
「トシちゃん、バナナって黄色いんだっけー?」
「黄色か緑色だね。房になってるんだ」
「ふさふさー、ふさー、バナナバナナー、バナー」
俺達はスターインを下りて大森林の中を歩いている。
バナナを探してなっちゃんが妙な歌を歌い出だした。
何やら楽しそうです。
「あれではないか?」
「どこー?」
「あの木の奥だ」
アンドロメダが指し示した所には、ちょっと大きい楕円形の実が生っていた。
黄色と黄色に成り掛っている緑色の実だ。
房になっていないぞ?それに大きい……ってカカオじゃないのか!?おいおいちょっと待て!?
俺は情報を探る。
俺が手に取った物はカカオで間違いなかった。マジか!!
「これはバナナじゃない!カカオだ!!」
「バナナじゃないのー?」
なっちゃんはがっかりしている。
「食べられないのか?」
「これもお菓子や飲み物の材料になる。大発見だよ!でかしたアンドロメダ!」
「お、おぉ。喜んでもらえて何よりだ」
アンドロメダは若干引き気味だ。
俺、ちょっと興奮しすぎたか。
「お菓子!!」
なっちゃんはお菓子と聞いて表情が一転した。
とても嬉しそうである。
どんなお菓子かも知らないであろうに。
「これも収穫して行くぞー!」
「おー!!」
「ああ」
俺達はカカオに実をもぎ取った。
出来れば木を持って帰りたいけど、花ちゃんの屋敷周辺で上手く育つか解らない。
なっちゃんの草木魔法に期待したい所だ。
しかし、思わぬ収穫だ。嬉しすぎる。
直接食べる事が出来る果物しか検索しなかったからね。
チョコレートやココアというお菓子界の英雄を忘れていたとな。
「俺は実を加工してみるから、二人は収穫を続けてくれ」
「任せてー」
「解った」
なっちゃんとアンドロメダにカカオの実の収穫を任せて、俺はカカオの実の加工に取り掛かった。
カカオの実……中に豆が詰まっていた、カカオ豆かな。
カカオ豆の水分を抜いて石で潰してみたがココアっぽくない。
焼く、いや焙煎だっけ?そういうのも必要だったか。
これは花ちゃんと相談しながら加工していくしかないな。
俺は今すぐ食べる事を諦めた。
みんなから借りて来たマジックバッグが全部あるので、かなり持って帰れる。
だがバナナとサトウキビもあるからカカオだけで一杯にする訳にはいかない。
「バナナとサトウキビも持って帰るからマジックバッグを一杯にしちゃダメだぞー」
「はーい」
「これくらいにしておくか」
アンドロメダがカカオの実を取るの止めた。
なっちゃんの手も止まった。
かなり収穫したらしい。
「カカオの加工は難しいから花ちゃんとで頑張るよ」
「そっかー」
「次はバナナだ!」
「おー!」
それほど歩き回ることもなく、バナナも発見出来た。
地球で食べていたバナナより一回り大きかった。
青くて実も固かったが熟させれば問題ないだろう。
バナナは花ちゃんの屋敷で育てられると思う。
栄養価も高いし、美味しさ甘さにも期待出来そうだ、楽しみである。
なっちゃんがバナナを食べて期待外れだったのか悲しそうにしていた。
「まだ食べるには早かったね。もうちょっと置くと美味しくなるよ」
「ほんと?」
「トシ、ウソ、つかない」
「何でカタコトになる」
「何となくだ」
「そうか」
「よし!サトウキビのある島へ行くぞー!」
「おー!」
「島?」
「ここらにもあったんだが……魔物に食べられてしまって、ほとんどなくなっちまった」
「魔物も甘い物を食べるのか」
「好む奴もいるみたいだね」
「そうなのか」
「甘い物はみんな大好きー」
なっちゃん、みんなに魔物も含めちゃうのか。
「海の底を通るから念のために長めの休憩にしよう」
「ああ、それが良い」
「危ないもんねー」
「おう」
そんな話をしていると俺の索敵に魔物が引っかかった。
結構いるな。
「トシ、我らでやるから休んでいろ」
「任せてー」
俺は立ち上がろうとしたが、二人に止められた。
なっちゃんとアンドロメダの二人なら問題ないか。
「なら任せる。魔物はたぶんオークだからね」
「解った」
「いこー」
アンドロメダとなっちゃんは魔物のいる方へ向かっていった。
そして俺の索敵から魔物の気配がドンドン減っていった。
なっちゃんと、アンドロメダに掛っては二十近い数も問題ではなさそうだ。
あっという間に魔物の気配が消えた。
「トシの言う通りオークの集団だった」
「お肉もたっぷりー」
「夕飯が楽しみだな」
アンドロメダとなっちゃんが回収も終えて帰って来た。
二人で夕飯の献立の相談をしている。
きっとステーキになるんだろうな。
アンドロメダの好物だからね。
昼飯を食べて間もないのに食欲旺盛ですな。
オークは、まさに豚肉って感じで美味しいのです。
部位によっては脂だらけで食べられた物ではないが、脂の少ない部分は非常に美味い。
そして長めの休憩の後スターインへ乗り込み、サトウキビのある島を目指した。
一度海の下の地中でスターインを止めて休憩を挟んだ。
かっちゃんという土の魔法使いがいないから無理は出来ない。
もし俺に何かあったら、なっちゃん、アンドロメダもただでは済まない。
念には念を入れないとね。
そしてサトウキビが大量にある島へスターインを浮上させた。
相当広い島だ……イチルア王国とバッキン教国を合わせた以上の広さがある。
俺達が追われるような事があったら逃げ込もうと思っている島でもある。
前から目を付けていたんだよね。
人間は住んでいない。
それどころか周囲五千kmに人はいない。
強力な魔物はちらほら見受けられるがね。
星の力がある今、住環境を整えて、魔物を隔離する事も難しくない。
バッキンで農場をやってもらっている者達や、犯罪奴隷ではなく奴隷扱いされている獣人達を連れてきて住まわせようかな。
お金も沢山あるから獣人の国でも作るか。何で獣人かって?耳と尻尾は良いよね!
今の所は俺の妄想だけだが考えておこう。
「これは……島という大きさではないな」
「広いねー」
アンドロメダとなっちゃんが辺りを見回している。
「あっちの大陸を追われたら、ここに移住しようかと思っているんだ」
「楽しそー!」
なっちゃんはピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。
「前に言っていた場所か。ラミアでも暮らせそうだな」
アンドロメダはラミアの里の移転まで考えているらしい。
たぶんそんな事にはならないだろうがね。
ヴァンパイアの国が襲ってこない限り問題はない。
ロセ帝国って線もあるが、間にいくつも国があるからな。
「これがサトウキビだ」
俺はサトウキビをもぎ取って二人に見せた。
この島は食材の宝庫だな。
サトウキビも有り余るほど生えている。
俺はサトウキビの茎を剥いて白い芯を口に含んでみた。
甘い。
「うん、甘い」
そして俺はなっちゃん、アンドロメダの口に向けて一本ずつサトウキビを差し出した。
それを口に入れる二人。
「あまーい」
「おぉ、甘い」
「だろ?これだけあると商売にしても、売りつくせるかどうか」
俺は一面のサトウキビ畑を見て言う。
畑とは言うが他の植物が見えないだけだね。
島の奥には山もあるし、湖もあるのが解っている。
森も魔物もね。
「尾白が喜びそうだな」
「食べ物のお店だもんねー」
「ああ。欲しがる人は多いだろう」
俺は『錬成』で砂糖を抽出してみた。
問題なく作れたが……少ない。
海水から塩を取り出す様にはいかないな。
どうしても大量の水で大量のサトウキビを煮ださないと砂糖を作れそうにない。
「これが砂糖ね」
俺は手のひらに少しだけ砂糖を乗せて二人に差しだす。
なっちゃんとアンドロメダは指先に砂糖を付けて舐めた。
「あまあまー」
「さっきの比ではない甘さだな」
二人は砂糖の甘さに驚いている。
「これを大量に作るのは大変だ。塩の様にはいかなかった」
「そうか……作り方を考えないといけないな」
「トシちゃん、頑張ろうー」
「おう!まずは収穫だ」
砂糖のためだ頑張るぜ!
俺達はサトウキビの収穫に入った。
今後が楽しみだね。




