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「あの……そろそろ」


「それ!取ってこい!」


「あー、トシさん、私の番ですよ!」


「えっと……山に向かわないと」


「ヤマトちゃん、ミズホちゃん、えらいえらーい」


「珍しくゴンタが負けたなぁ」


「早いうちに出た方が……」


「ミナモも頑張れ!」


「みんな元気です」


「……しくしく」


「口で言うのはどうかと思うんじゃ」


 エリカがヤマトとミズホを連れて行くはずの朝だったが、既に昼を回っている。

今日出発とは聞いていたが、時間指定まではしていない!ギリギリまで遊ぶのだ。

棒を投げては咥えてくる遊びだ。

ヤマトとミズホだけで始めたが、ゴンタとミナモも参戦した。

ミナモはゴンタ、ヤマト、ミズホに運動能力で負けていたが、一度だけ取れていたのでホッとした。

やはり子供達に負けっぱなしは可愛そうだからな。

絶妙なタイミングでゴンタが譲っていた気もするが俺が何か言う必要もない。


「ヤマトとミズホの寝床に使っている毛布とクッションを鞄に入れてやろう」


「あの子達のお気に入りですものね」


 俺は花ちゃんと子供達の荷造りをする。

ヤマトとミズホが生まれた時から使っている毛布とクッションだ。

今も寝る時に必ず使っている。

そういう所は小さい子供っぽい。

ヤマトとミズホには餞別として俺の使っているマジックバッグもあげようと思う。

ずっと持って動くのは大変だろうから居場所が決まったら住処に置いてくれと言おう。


「日持ちのする食べ物を入れてやろう」


「ご飯は自分達で調達できますもんね」


「大蛇のジャーキーは残り少ないがヤマトとミズホの好物だからもたせてやろう」


「本当に行っちゃうんですね……あの子達」


「うん……」


「あの子達に遠見の水晶を持たせませんか?」


「花ちゃん、心配なのは解るがそれはダメだろう。同じようなマジックアイテムを別で探すよ」


「そうですか……そうですね。マジックアイテムの事はお願いします」


「花はヤマトさんとミズホさんとも仲良しなんじゃな」


「あの子達が生まれた時からお世話をしていましたもの」


「わらわも生まれる所を見たかったのぅ」


「とても小さくて可愛い子達だったの」


「羨ましい……」


 雪乃は花ちゃんからヤマト、ミズホの話を聞いて呟いた。

生まれたばかりの子供達に近寄れたのは花ちゃんだけだったからなぁ。

カメラやビデオカメラが欲しかった。

みんなに見せて回ったり自慢出来たろうな。

親はゴンタとミナモだけど、俺の親馬鹿にも拍車が掛ったに違いない。


「楽しそうです」


「エリカに連れ去られてまうんやな」


「私のせいじゃありませんよぅ」


「酷いやっちゃで」


「かっちゃん、私をいじめないでくださいな」


「誰かにあたらないではいられんのや」


「むぅ……」


 黙ってはいないが、実力行使に出て来ないエリカだ。

何だかんだ言って俺達とヤマト、ミズホが戯れているのを止めないでくれている。

エリカの護衛?旅行神の使徒であるファンは木に寄り掛っている。

昨日の殺気を収めて以来は大人しいものだ。

今思うと良く動けたな俺。

あんな農夫みたいな男があの殺気を出せるんだから、見た目じゃ解らないね。

そういえばファンは俺の強者監視に入っていないな……神によって情報が制限されているのだろうか?使徒ならあり得るかも知れない。

世界樹の情報にも特例ってもんがありそうだ。

頼りきる訳にはいかないな。


「また会おう」


 そんな時間は早く過ぎた。


わう


『ヤマトとミズホを山まで送って行っても良い?』


 ゴンタが俺を見て言ってきた。


「もちろん良いよ。ヤマトとミズホが暮らすところをちゃんと見ておいで」


「ゴンタちゃん、行ってらっしゃーい」


わう!


「しっかり見てくるんやで」


わふ


「あぁ……ゴンタさんまで……」


「仕方ないだろう」


「ミナモちゃん、嬉しそうです」


「もっと撫でたかったのぅ」


「ゴンタ、このマジックバッグを持って行きな。ヤマトとミズホへの餞別だ」


『トシ、ありがとう』


わう


 ヤマトとミズホは俺から始まって全員に自分の匂いを付けるかの様に体を擦り付けていった。

俺達はヤマトとミズホの物って事かな。

家族って意味なら嬉しいぞ。


 そしてエリカ、ファンに連れられてゴンタ一家が去っていった。

日暮れも近い時間になっていたのは気のせいではない。

ちょっと引き止めすぎた。

夏の終わりでもないのに無性に切ない気分だ。


 ゴンタも着いて行くなら道中も安全だ。

エリカとファンの事は知らないが、ゴンタなら安心出来る。

エリカの足が一番遅そうだから、彼女の移動速度に合わせる事になるだろう。

ゴンタとミナモが向うにどのくらいいるか解らないが、往復で一月以上は掛りそうだな。

ゴンタとミナモが帰ってくるまでに住環境と食材集めを終わらせておこう。

俺も遊んでばかりはいられない。


 ゴンタ一家を見送った俺達は、花ちゃんの屋敷に入る。

誰も何も言わなかった。


「……」


 アリーナは放心している。


「家の中が広い気がするな……」


 屋敷の中を見回したアンドロメダが呟いた


「うぅ……」


「泣くな、アリーナ」


 アンドロメダの呟きを聞いたアリーナの目から涙が零れ落ちた。

そしてアリーナの肩を抱くアンドロメダ。そのアンドロメダも気丈に振る舞っているが無理をしている様に見える。


「寂しいね……」


「なっちゃん……」


「ずっと一緒だと思っていたの」


「出会いと別れは付き物です。でも……やはり寂しい物ですね」


 なっちゃんと花ちゃんが寄り添って座り込んだ。

見ているだけで痛々しい。

雪乃は花ちゃんの隣で花ちゃんの様子を伺っている。

来たばかりなのに気を遣わせてしまったな。


「ヤマトとミズホが自分で選んだ事なんやけど……」


「そうだね。まだ早いよな」


「まだ子供やと思っとった」


「ミナモは子供達を外で暮らさせたいと思っていたみたいだね」


「それも間違ってはおらんよなぁ」


「ゴンタが特別なんだろうね」


「ゴンタは特別や」


「神使か……」


「普通の家族では居られんのやな」


「強い力も考えものだね」


「必ず会いに行こうや」


「ああ、行こう」


 俺とかっちゃんも話してはいるが、お互い言葉に元気がない。

心に隙間が出来ている気がする。

増える一方で欠ける事のなかった仲間が初めて離れたのだ。

俺でこうなのだから、多感ななっちゃんには堪えるだろう。

なっちゃんは花ちゃんと話しているが口数も少ない。

今のなっちゃんは初めて会った時のなっちゃんに似ている。

あの時はお爺さんを亡くした時だった……またあんな顔を見る事になるとはな。

上手くいかないものだ。


 俺はリーダーとしてみんなを引っ張っていかないといけないが、今日はそっとしておこう。

突然の事だが心の整理をする時間は必要だ。


 俺はジッとしているとヤマトとミズホの事を考えてしまうので、体を動かすことにした。

雪乃の居場所造りに取り掛かっただけだがね。

板の間に予備の畳を二枚敷いて、木で衝立の壁を作った。

この部屋に氷柱を置いておけば、他の場所はそれほど冷えないだろう。

周りの壁にくっつけて作った訳ではないので移動も取り壊しも楽だ。

花ちゃん、雪乃からの要望が出たら本格的な部屋に改造しよう。


 花ちゃんはなっちゃんに付きっ切りなので、夕飯は俺が作ろう。

トマトパスタと焼肉、冷製ジャガイモのポタージュスープで良いな。

ジャガイモは使い勝手が良い。

野菜が足りない気がするけど我慢してもらう。

なっちゃんの作った野菜畑が花ちゃんの屋敷の裏にあるが、花ちゃんと相談して育てているから勝手には使えない。


 夕飯の席は静かな物だった。

みんなの元気が戻るのにどれくらい掛るかな……頑張ろう。


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