表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/387

息吹

205


わうー!!


わふー!


 ゴンタが大きな声で吠えたのは早朝であった。

俺は跳ね起き状況を確認する。

この吠え方は敵襲だ。

直ぐに大きな気配を空に感じた……ワイバーン!

俺とゴンタの瞑想でも探れない位置だったのに索敵されたのか!

山もあるから問題ないと思っていたが甘かったか。


「ワイバーンだ!」


「「ワイバーン!!」」


 誰かが反応した。


「今の私達にアレは倒せない!逃げなさい!」


 そう言ったのは勇者アベルであったろう。


「まだ間に合う逃げるぞ!」


 カーシーではない男の声だ……エリックか。


「むぅ……みなさん!我々は逃げます。あなた方も逃げてください。いつかまた!」


 その言葉を最後に勇者アベルはカーシー、エリックを抱えて森を低空で飛び去ったのが見えた。

カーシーが「すまぬ」と言っていた気がする。


「トシ、空にいるワイバーンには勝てん!うちらも逃げるで!!」


「逃げましょう!」


「何と言う威圧感だ……」


「こわいよ」


わう


 みんなも倒せないと感じている様だ。

空に見えてきた影は次第に大きくなっている。

人をはるかに凌駕した生命力を感じる……これがワイバーン!まだ上のドラゴンがいるってのが信じられないほどだ。


「みんな!スターインに入れ!潜るぞ」


「「はい」」


わうー


 ヤバイ!間に合うか!?

空にいるワイバーンの姿がはっきりと確認出来る距離になった。

む、結構長い首を持ち上げた……何かの予備動作か!?


「急げ!何か来るぞ!!」


 俺の後ろでスターインへ入っていく仲間の気配を感じながら大声で叫んだ。


「おりゃっ!!」


 俺はスターインと俺の側に土を盛り上げ壁を作る。

何が来るか判らないが防壁はいるだろう。


ゴハァァァァッ!!


 空から叫び声とも風の音とも判断のつかない音が聞こえた。

その直後に俺の周囲の大気が揺れた。

土が舞い上がり、木が倒れた。

だが俺もスターインも最後に残ったゴンタも無事だ。

よし!俺もスターインへ……グフッ。

足を一歩踏み出した所で息が出来なくなった。

毒のブレスだったか!?何かを吸い込んでしまったらしい。

肺が痛い!しかしここに留まる訳には行かない。

幸い体は動く。痛いのは肺だけだ。

ヤバイ!大きな気配が空から向かってくる!

俺は足に力を籠めて大きく跳ぶ。

スターインの上部から内部へ飛び込んだ俺は、入口を締めスターインを地中へ潜らせる。


「毒ブレス……ハァハァ……」


「毒だな?ちょっと待ってくれ」


 俺はスターインの操作に集中する。

解毒は後だ。

俺に返事をしたのはアンドロメダだったと思う。


 ザシャァァッ!!


 スターインの上の方で凄まじい音がした。

間に合った!ワイバーンの大きな気配を近くに感じる。

俺は肺の痛みを我慢しながらスターインを更に地中へ潜らせる。


「ハァッ……」


 息も出来なくなってきた。

あぁ……体勢がきつい。俺は横になってスターインの操作を続けた。

ワイバーンの気配が小さく感じる距離まで離れた所で、アンドロメダが解毒薬を持ってきた。

外傷ではないので薬を飲まなくてはいけない。

アンドロメダは俺の口に解毒薬の瓶を持ってくるが上手く飲めない。


「これに含ませるんや」


 そう言ってアンドロメダに手拭に渡したのはかっちゃんであった。

アンドロメダは手拭に解毒薬を染みこませて俺の口に含ませた。

俺は意識を朦朧とさせながら、チュウチュウと解毒薬を吸い出した。

解毒薬を体内に取り込んだという事だけで幾分か楽になった気がする。

実際まだ効いていないだろうに。

そしてアンドロメダが再び手拭に解毒薬を染みこませてくれた。

俺は横になったまま手拭から解毒薬を吸い出す。

その繰り返しと何回やったろうか?肺の痛みは完全には消えていないが呼吸は楽になった。


「ありがとう。アンドロメダ」


「もう大丈夫か?」


「まだ肺が痛いが何とかな」


「そうか」


 アンドロメダが解毒薬の入った瓶を俺に渡してきた。

俺は瓶の中身を飲み干した。

不味い。苦味と青臭さが絶妙な味わいだ。

生きているから感じる味だと思っておこう。


「トシ、しばらく休んどき。ワイバーンの気配を微かに感じるが問題ないやろう」


 かっちゃんの言う通り、ワイバーンはまだ上をウロウロしている様だ。

さすがに地中深くまでは攻撃できまい。


「そうする」


 俺はアンドロメダとアリーナの肩を借りてベッドへ移動した。

しかしワイバーンか……触りさえ出来れば倒せると思うが、空にいるんじゃなぁ。

毒のブレスは毒だけでなく物理的な威力もあった。

厄介な魔物だぜ。

うちの仲間達の対空能力というと、かっちゃん、なっちゃんの魔法、アンドロメダの弓矢か。

かっちゃんも逃げろと言っていたから、攻撃魔法は効きそうにない。

朝日を反射していたからワイバーンの体は鉄っぽい鱗で覆われているに違いない。防御力も高そうだ。

アンドロメダの矢なら刺さるかも知れないが表面で止まる程度だろう。

ゴンタが……ゴンタが空を飛べるようになれば戦えそうではある。

戦う準備のない俺達では厳しい相手だ。

逃げられて良かった。

生きていれば借りは返せる。

怪物め、借りは返すぜ。俺は今のワイバーンをマーキングしておいた。

これで個体を間違えずに狙える。


 三十分ほど横になっていたら肺の痛みも治まった。


「復活!」


「トシちゃーん!」


 なっちゃんが抱き付いて来た。

なっちゃんの背中をポンポン叩いてあやす。


「解毒薬が効いたか」


「良かったです」


 アンドロメダ、アリーナから声が掛る。


「おう」


わう


 ゴンタ、みんな、心配掛けたね。


「トシ、直ぐで悪いけどスターインを動かしてんか?何や嫌なモンを感じるで」


 かっちゃんが真面目な顔で言ってきた。

気配を探るが上にいるワイバーンの気配しか感じない。

酸素かな?それとも他の要因?かっちゃんの言うことを信じて動こう。


「出発するぞ!みんな座れ」


 俺はみんなが座った所でスターインをロセ帝国へ向けて進めた。

ワイバーンは俺達の気配を追っているのか、魔力を追っているのか判らないが着いて来たので、斜め下へ進路を取った。


 ワイバーンの気配が消えて二時間後くらいに浮上した。

また意識を失う訳にはいかないからね。


「かっちゃん、大丈夫そう?」


「……問題なさそうやね」


 そして俺達はワイバーンの事を話す。


「トシ、ワイバーンの毒ブレスはどんなんやった?」


「俺も土で防壁を作ったから直接は見ていないが、強い風を纏ったブレスだった。土が舞い上がり、木がなぎ倒されていたよ」


「その威力で毒もあるんか……」


「空からブレスを吐かれるだけで勝負にならないな」


「戦うなんて考えちゃだめでしょう!?」


 アンドトメダにきつい口調で反論するアリーナ。


「だが避けられない戦いってモノもあるだろう?対策を考えておくのは無駄ではない」


「そうかも知れませんが……」


「アンドロメダの言う通りやで。うちらの意思とは関係なしに襲ってくるもんや」


わう


『ボクが飛んで戦う』


「飛べるようになったんか?」


わぅ……


『もうちょっとで浮かぶと思う』


 ゴンタの声に力がない。

もうちょっとか、もうちょっとで飛べるのかな。少なくとも飛べそうな手ごたえは感じているっぽい。楽しみだぜ。


「さすがゴンタさんです!」


 ワイバーンの恐怖もゴンタの前では霞むらしい。

アリーナの声が元気になっている。


「ワイバーンは魔力も高かったよー」


「そうやな。なっちゃんに匹敵するほどやったな」


「高いとは思ったが、そこまでだったか」


 なっちゃん、かっちゃん、アンドロメダの魔法使い組が言う。


「ドラゴンは精霊を使わない魔法を使うらしいで?ワイバーンはどうなんやろなぁ」


「竜魔法という奴を持っているね」


「竜魔法ですか」


「反属性もなく、威力も強いんや。厄介やで」


 反属性なしか……火も水の魔法も使ってくるという事か。

弱点が少なそうだな。確かに厄介だ。


「ゴンタの空戦、後は俺が触れれば勝機はあると思うんだ」


「トシの『錬成』ならいけるやろうな。相手がドラゴンでもや」


「……如何にして近づくかだな」


「無事に近づける所が想像できません……」


 みんなで対抗策を考えるがワイバーンは空中要塞の様な物だ、簡単に倒せそうにない。


「しかし勇者とは魔王とも戦える存在なのではないのか?」


「そう……ですね」


 飛び去った勇者アベルの事を思い出したのか、アンドロメダが俺に聞いてきた。アリーナも思い出したのであろう続いて言う。

なっちゃんは両手を膝の上で握りしめて黙って聞いている。


「俺が見た情報だと勇者は周りの仲間達を強化し、希望を持たせてくれるスキルを持っていた。仲間の定義が解らないが、仲間が多ければ多いほど威力を発揮するのだろう。個人の強さとしてはちょっと前の俺くらいだね」


「アベルは勇者の力の使い方を解っとるんか?」


「うん」


「それで少人数で行動してたらアカンやん」


「まぁ、そうなんだけど。無理に飛び出してきたって言ってたからなぁ」


「それで勇者が死んでしまう方が影響しそうやな……」


「現在唯一の存在だからねぇ……」


「無事にヴァンパイア討伐軍と合流できるとええな」


「まったくだ」


「そうだな」


「本当ですね」


 俺達は勇者アベルとヴァンパイア討伐軍が合流して強化される事を祈った。


「とりあえず俺も対ワイバーンの事を考えておくから、みんなも考えておいてよ」


「はいな。対ワイバーン用の武器と防具もいるなぁ」


「解毒薬もね」


 戦うならば、入念な準備をしなければならないという事で話は纏まった。

今は雪乃に会いに行くというのが旅の目的なので、ワイバーンは放置です。


 あのワイバーンより強いドラゴンは、どんな奴なんだろう?恐ろしいが興味がある。

情報だけでは実際の姿、力は解らない。

俺の出来る事をきっちり把握していかないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ