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移動方法

202


 翌日の朝飯を食べて直ぐに尾白は都市リャンへ戻っていった。

俺達への挨拶もそこそこに「花、また来る」と花ちゃんと握手をして出て行った。

何でも貴族との商談があるらしい。

本当に無理やり時間を作って来たんだな。


 最近、日課に加わったのは情報収集である。

花ちゃんの屋敷では日課を出来る時間が多いので捗る。

《闘族》、ヴァンパイアの動き、そして強者の位置の確認をしている。


「昨日ヴァンパイアの国へ周辺国が戦いを仕掛けたよ」


 俺は尾白を見送って畳の部屋に座った所でみんなに話した。

そう、強者の集団が固まっていたので詳しく調べた結果です。


「おいおい、大丈夫なのか?」


 アンドロメダが心配そうに言う。


「高ランクの冒険者が、かなり集まっている。中心は各国の兵士なんだが優勢に戦いを進めている」


「高ランクの冒険者なぁ……うちらの知り合いも誰か行っとるんか?」


「ファリン達三人が行っているね。後はエニアス達だな……王子のくせに良くやるぜ」


 ヴァンパイアに因縁のありそうな拳法家のファリン達と、ギルスア王国の第三王子であるエニアスが参戦している。

ヨゼフ達はイチルア王国へ戻っている。クランに参戦要請をしに戻ったらしい。


「ファリンー?」


 なっちゃんがファリンの名前に反応した。


「うん。今のところ無事だね」


「昼間はええとして、夜はおっかないやろ」


「だね。昼にはかなり押し込んだけど昨夜はきびしい防戦をしている」


「やろうなぁ」


「ヴァンパイア討伐軍には強力な戦力が加わっているよ」


「高ランクの冒険者以外でですか?」


 アリーナが聞いてくる。


「おう。パラディン三人を含む対不死者を得意とするパーティだ」


「《福音》なら参戦するやろな」


 かっちゃんは《福音》というパーティも知っていた様だ。

パラディンは浄化の力と対瘴気の力を持つ強力な戦士職である。

レアな職業といっても良い。

そんなパラディンが三人もいるのだから名も知れ渡るというものだ。

俺の調査でもパラディンは世界に十一人しかいない。


「さすがかっちゃん。《福音》を知っていたか」


「イチルア王国の王家の墓がある墓場に出現したリッチロードの討伐から有名になったはずや」


「不死者を浄化できるのは大きいよね」


「夜でも不利にならんっちゅうのも大きいで」


「トシ、行くのか?」


 アンドロメダが俺に言ってきた。

俺がいきなり話したからだね。

そう思われても仕方ないか。


「いや行くつもりはないよ。ただラミアの里へヴァンパイア達が行く可能性が減ったと伝えたかったんだ」


「む、そうか」


「俺に取ってもアンドロメダの故郷であり、シーダのいるあの里は大事な場所だからね」


「トシ……」


 アンドロメダが俺の手を握って来た。ジッと見つめられると照れる。


「そしたら予定通りに雪乃に会いに行くんやね?」


「そのつもりだ。だけど今回の旅は今までとは距離が違うんだよ……」


「そうですね。ロセ帝国までとなると山を避けて街道を馬で行っても一月はかかります」


 ロセ帝国出身のアリーナが俺の補足をしてくれる。


「更に雪乃は人のいない山の奥に住んでいるんだ」


「そうなんか」


「雪乃……」


 花ちゃんが心配そうに呟く。


「それでどうするんや?」


「俺の新しい力を実験したいと思うんだ」


「世界樹の情報やなくて?」


「そう。今の所、かっちゃん、なっちゃんの力を借りないと有効に使えなそうなんだけどね」


「何や面白そうやん」


「お手伝いするよー」


 かっちゃん、なっちゃんが俺の隣に来て言う。


「俺も少し試したけど限界があったんだ。せっかくだから今からやろう」


「はいな」


「はーい」


わう


「面白そうですね」


「ああ」


 みんな俺の周りに集まった。


「星の皮膚と言うべき地面……土を使うんだ。よっと」


 俺は星の力を使う。

俺の目の前の地面から鉄の箱が出てくる。

前に試した時に使った鉄の箱である。

見ているみんなが何事かと凝視している。


「何やこれ……魔法とはちゃうよな?」


 かっちゃんは目の前の現象について考えている様だ。


「魔法じゃないんですか?」


 鉄の箱が出てくるのを見てアリーナが首を傾げている。


「ああ、魔法ではないな」


「うん。魔法じゃないのー」


 アンドロメダ、なっちゃん、二人の魔法使いがアリーナに答える。

俺には魔力がないからね。


「で、なんなんや?」


 かっちゃんがキラキラした目で俺を見てくる。

好奇心に火が付いたね。


「んー、例えるなら腕を動かした……ってのはちょっと違うな。口から舌を出したって感じかな。」


「つまり星の肉体操作って事なんか?」


「そうなるね」


「……戦闘にも使えるんちゃうか?」


「さすが、かっちゃん。まだ二回しか試してないけど出来ると思う」


 一昨日気が付いたばかりだからね。

落とし穴なら直ぐにでも可能だ。


わう!


「ああ、そうやね。ゴンタの言う通り、この箱に入って長距離移動するんやろ」


 ゴンタが俺の意図に気付いたらしい。

鉄の箱は移動用の乗り物みたいな物だ。

これに入って地中を移動する。

浅い地中なら問題ないけど、地形によっては深い地中を通らなくてはならない。

そこまで行くと人間に耐えられない温度まで上がってしまったのだ。

鉄の箱も二重の壁にして中空にしたんだけど、真空になっていないので断熱としては弱かった。


「当たり」


わうー


 ゴンタは嬉しそうだ。


「うちらは何をしたらええんや?」


「移動する時に地中深くを通らないといけない時がある。それで地中深くは熱いんだ」


「うちとなっちゃんで冷やせばええんやな」


 理解が早くて助かる。


「頑張る!」


「冷やしすぎても辛いから、加減が難しいと思うよ」


「何とか調整したるわ」


「ちょっと改造して大きさと居住性を上げるね」


 俺は一人乗りの鉄の箱を魔鉄で改造して十畳ほどの部屋が入る箱にした。

椅子も作った。

更にもう一枚壁を追加して、間に水を注入した。

これで凍らせられるだろう。


「そこの水を凍らせるんか?」


「実際どうなるか試してみないと解らないけど、部屋の中で冷やすよりは影響が少ないかと思ってさ」


「やって見ようや」


 かっちゃんはノリノリだ。

率先して部屋に入っていった。


「気を付けていってらっしゃい」


 みんなが鉄の箱に入った所で花ちゃんが屋敷の入口から声を掛けてくれた。

俺は花ちゃんに手を振って鉄の箱を閉じた。


「酸欠も怖いで」


「今回は実験だけだから、そんなに籠らないよ」


「はいな」


 俺は星の力で箱を地面に潜らせる。

部屋の中は光のマジックアイテムで明るくしてある。

実験なので、どんどん下へ潜らせる。


「確かに温かくなって来たな」


「本当ねぇ」


 アンドロメダとアリーナが話している。

更に潜らせる。


「これはアカン。いくでなっちゃん!」


「はーい」


 かなりの深さになった所で、かっちゃんが暑さに耐えられなくなり、なっちゃんと共に壁の外の水を凍らせた。

それでも足りずに部屋に氷柱を作った。


「面白いなぁ。地中ってのは暑くなるんやな!」


「ああ、面白いものだ」


「初めて知りましたよ」


「涼しくなったー」


わう!


 それぞれ感想を言っている。

俺は潜るのを止めた。

大体の深さと温度の関係が解った。

かっちゃんとなっちゃんがいないと使えないってのも解った。

今度は横への移動をしてみる。

ふむ、血管の中を移動している血球って感じの方が正しいかも知れない。


「上に出るぞ」


「はいな」


 俺は鉄の箱を浮上させる。


「ふー、やはり空調も考えないといけないな」


「……前に大蛇と戦った湖じゃないか」


 俺達は鉄の箱から出た。

新鮮な空気が美味い。

そしてアンドロメダが呟いた。

ちょっとだけ移動してみたんだ。

時速100kmは出ていたんじゃないかな?安全運転でこれだから、本気でやったらどうなる事やら……箱の中の人が無事ではいられなそうだけどね。


「凄いやん!」


「移動が楽ー」


 かっちゃんが感嘆の声を上げ、なっちゃんは今後の旅についての感想かな。


わうー!


『トシ、凄い』


 ゴンタが俺を褒めてくれた。俺じゃなくて星の力なんだけどね。

そしてアリーナは呆然としている。

ミナモ、ヤマト、ミズホは湖に行ってしまった。

喉が渇いたのかな。


「移動する場所によっては俺だけでいけるけど、長距離移動にはかっちゃん、なっちゃんの力が必要だね」


「任せてや!面白いなぁ!!」


「任せてー」


 頼もしいお返事です。


「まだ、この力についての理解は浅いけど、花ちゃんの屋敷ごと移動ってのも可能かもしれない」


「花ちゃんと旅が出来るの!?やったー」


 なっちゃんがピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。

まだ花ちゃんに影響がないか、屋敷に負担が掛らないかといった確認は取れていない。

でも可能性はある。


「それはええな」


「いっそどこかの島へ移住ってのもいいかな」


「それは面白そうですね」


「いざとなったらラミアの里も……」


 アリーナが俺に同意し、アンドロメダも何かを考えている。


「これならロセ帝国の山だって、直ぐに行けそうやな」


「だろ?雪女は暑いのが苦手だから、かっちゃん、なっちゃんには頑張ってもらわないとね」


「楽しくなって来たなぁ」


 かっちゃんはそう言って考え込んでいる。

この力で出来そうな事を考えているのだろう。


「せっかくだから湖で魚を取って帰ろう」


「魚!」


「いこー」


 俺達は船で湖に出て網で魚を取った。

今回は大蛇が出てくるような事はなかったね。


 そして鉄の箱で移動して花ちゃんの屋敷に戻った。

魚が大量だったので、かっちゃんは大喜びだった。

花ちゃんが塩焼きにしてくれた魚を頬張りながら、俺の新たな力で出来る事を話し合った。


「わたくしも皆さんと一緒に行動出来るかも知れないのですね……」


「ああ。まだ花ちゃんへの影響や安全さが解らないから無理は出来ないけどね」


「トシさん!それでも嬉しいです!」


「トシちゃん、ありがとー」


 うぅ……二人ともプレッシャーを掛けないでー。


「なんだかんだ言っても、ここの立地も悪くない。ここが危なくなったりしたら移住を考えようね」


「はいな」


「はーい」


『その時は配下の子達も連れて行ってね』


 ゴンタがお願いしてきた。


「おう。ゴンタのお願いなら聞くぞー」


わう!


「ラミアの里が危なくなったら頼む」


「それは良いですね」


 アンドロメダもお願いをしてきた。アリーナも隣で頷いている。


「ああ、任せろ」


 今日の移動実験でやれそうな事が多くなった。

米、砂糖といった遠方にある食材も取りに行けそうだ。

そのうち海でも実験してみたいと思う。


 夢が広がるぜ。


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