大森林へ-5
20
「ゴンタァッ!なんでだよ、なんで俺を置いていくんだ……なんで……」
辺りは静寂に包まれていた。
少しだけ白んで来ており、周辺の視界も確保されてきた時間だった。
湖はいつもと変わっていないのだろう、静かな水面であった。
そんな中で俺の悲痛な声が辺りを支配する。
俺以外のみんなは事情を理解したのか、俺に背を向け肩を震わせている……。
「トシ、少し落ち着き?」
カッツォが地面を拳で殴る俺の肩に手を置いて、いつもより幾分優しげな声でそう言う。
「でもっ、でもさ」
「トシにはトシの人生があるんや、前を向いて歩かなあかんで」
人生の先輩からの励ましの言葉であった。
「ゴンタッ!」
この時の俺の目は涙で滲んでいたと後からカッツォに言われたよ。
恥ずかしい話さ、俺にもこんな思いがあったとは。
「なんっ、なんで……およ……お、お嫁さん連れてきてるんだよぅ!?」
本当に恥ずかしい。みんなにも笑いを堪えられていた。
わうー
偵察から無事帰還してくれたゴンタの傍らには、メスの灰色狼が寄り添っていた。
カッツォの通訳によると、偵察中にオークと争っていた狼を助けたらしい。任務も終わって帰る所だったので、そのまま走って来たそうな。ゴンタは、よく解らないけど気に入られたといっているらしい。
ゴンタより一回り以上大きいその狼は、傍目にもラブラブって感じに見える。
俺は、おっさんなので既に結婚とかどーでもよくなっていたんだが、自分に出来なかった奥さんをあっさり連れてこられるとは……。
まぁ、ゴンタの奥さんなら俺にとっても家族だからいいんだけどさ。取り乱しちゃったぜ、ふぅ。
「トシは放っとけ。ゴンタから偵察の詳細を聞いたか?」
笑いから復帰したカビーノがカッツォに問いかける。
「聞いたで。ずっと走って往復して、この時間やったんやと。あちらのオークの集落はここの倍くらいで、小さいオークもいたそうだ。そしてあの湖の奥に見える山に向かって道が出来ていたそうや」
「倍かよ。山に向かってってのが気になるな」
「そうね。洞窟とかに他の集団もいそうね」
「そうだな、ただ狩りや採取で向かって出来た道なら問題はないんだがな」
「ある程度の連携もあると考えておいたほうがいいだろう」
「そうっすね」
「今はうちらの存在を気付かせず、でばってこられんようにした方がええなぁ」
「おう」
みんなが真面目に報告と相談をしている中、俺は地面を叩いていた。
いや、半分冗談なんだけどね、引っ込みが付かないというか神様がそうしとけと言っていたというかネ。
ちゃんと耳を傾けて話は聞いていましたとも。
「おら、遊んでないで出発の準備しろ!」
カビーノにポカッと頭に一撃いただきました。
俺の冗談をカビーノも理解していたようだ。
ピエロも楽じゃないぜ。
「うーい」
カビーノに返事をした後、ゴンタへ歩み寄る。
「ゴンタ良かったなお嫁さん」
ゴンタの頭を撫でながら声を掛ける。
わう
なんだかよく解らないといった顔で返事をくれたよ。
わうわう
「なんだい?」
「この狼に名前を付けてやって欲しいんやと」
カッツォが通訳してくれた。
「俺に?」
わう
「トシに頼みたいんやって」
「そうか。んーどんなのがいいかな……」
「ええ名前つけちゃり」
「おう」
2匹は、寄り添ってお座りし俺を見上げてくる。
プ……プレッシャー。
ハナコ、オカミ、ユーコ、ナツミ、うーん。
あ、ミナモってのはどうだろう、ちょうど湖の側で出会ってるしな。
「ミナモって名前でどうだろうか?水の表面の事なんだけどさ、湖の側で出会ったんだろ」
わうー
わふ
「それが良いって喜んどるで、ええ名前やん」
カッツォも褒めてくれた。ゴンタ達にも喜んでもらえたようで嬉しい。
「ゴンタ、ミナモこれから仲良くな」
わう
わふ
ミナモも撫でたいな……いやそのうち機会があるだろう。
カビーノに怒られそうだったので、荷物を纏め背負った。
「サヒラへ帰還する!隊形は変わらずだ、ゴンタの奥さんはゴンタに着いていくように」
「「おう」」
わう
わふ
仲がよろしいようで。これがリア獣ってやつか破壊力あるぜ。
ミナモにはゴンタが指示をするのかな?
オルタンシアも、もふもふ増量で嬉しそうに見える。
急ぎ足で動き出す。
暫くゴンタを別行動にさせてやったほうがいいのか?なんて思いながら歩き出した俺であった。