状況確認
2
ざっぱーん!!
えっ何!?
ごぼごぼ
朦朧としている間に水に落ちたようだ。
混乱しつつも水面に顔を出す。
立ち泳ぎしながら辺りを見る。
「なんで海ー!?」
海でした。
水もしょっぱかったし。
ばしゃばしゃ
俺じゃない誰かが水飛沫をあげている。
あれは……ゴンタ!?
ゴンタに近寄り救助。
ゴンタを肩車した、ゴンタの前足と頭が俺の頭の上に乗ってる。
「大丈夫かねゴンタ君?」
わぅ
返事に元気がない。まぁ無理もないか、いきなり強制水泳だものな。
服に安全靴、バックパック装備の上に犬を肩車で立ち泳ぎとか無茶させよる。
ぐるっと周辺を見たら陸地が見えた。
わからんけどたぶん1kmくらい先だ。
見渡す限り海でなくてよかったよホント。
海水も冷たくないしな。
「あっちに陸地があるから行くぞゴンタ」
わう
「ゆっくり平泳ぎで向かうけど、そこでおとなしくしててくれよな」
わうわう
波も高くないおかげで陸地へ向かって進めてる。
ばしゃばしゃ
「もうちょいだ」
わう
これだけ装備があるのに泳げるとは大したもんだな俺っ!
自画自賛。
なんとか上陸に成功。
あー服が水含んで重いっす。
砂浜の先に木があるので、そこで服脱いで乾かそう。
「ゴンタあっちの木のとこで休もう」
わう
人がいる様子もないのですっぽんぽんに。
安全靴ひっくり返してザパー。
カーゴパンツを絞ってザパー。
チェックの長袖シャツとTシャツも絞ってザパー。
さすがに水吸ってたな。
バックパックは防水だったので袋の口周辺にあった作業用シャツが濡れただけですんだ。
木の枝に濡れた服を引っ掛けておく。靴下もー。
安全靴もひっくり返しておく。
銭湯で使うはずだったタオルで体を拭く。
着替え用のパンツも履く。
そして汚れている作業着をまた着る、嫌だが仕方あるまい。
ゴンタはぶるぶる水を飛ばしていた。
海を眺めつつ木に凭れかかる。
ゴンタも寄り添っている。
「神社にいたはずなのにな……」
わぅ……
よくわからんが現状確認だ。
神社にいたよー。
眩暈がしたよー。
海に落ちたよー。
終わり。
あの神社の近くに海なんてなかった。
なんでこんなとこに海が!?
なんなのこれ!?ここはどこ?
落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。
次だっ。
持ち物確認。
まずはスマホだな。
カーゴパンツから抜き取っておいたスマホを見る。
ああ…電源が落ちてる壊れたなこりゃ。
くそぅまだ新しいのに。
バックパック45Lが1
スマホ(壊れてるげ)が1
作業服上下が1
Tシャツが2
チェックシャツが1
カーゴパンツが1
靴下が2
パンツ(トランクス派)が2
ベルトが2
安全靴が1
タオルが2
シャンプーが1
石鹸が1
おにぎりが3
お茶ボトルが1
コーヒーボトルが1
水のペットボトル(飲みかけ)が1
どら焼きが1
コンビニの袋が1
財布(びしょ濡れで1万5千円と小銭少々)が1
腕時計(防水自動巻きの国産品)が1
以上
スマホが使えないのが痛すぎる。
わう
「ああ、大丈夫じゃないけど大丈夫」
わう
ゴンタが前足で水のペットボトルを転がす。
「水飲みたいのか」
わう
また手で器を作り水を飲ませる。
ぺろぺろ
なでなで
俺もコーヒーを飲む。
ゴンタを撫でてコーヒーを飲んだら少し落ち着いた。
夏の海っぽいなーと思いつつ海を眺めた、波も穏やかだ。
わうう
不意にゴンタが唸った。
む、いつもと違う感じだ。
「どうしたゴンタ」
わうわう
ゴンタの視線の先を追う。
そこは海の反対側の森だった。
木が生い茂っていて少し暗い。
暗い中で何かが動いていた。
「なんだあれ……」
わう
木の枝が意思でも持っているかのように動いていた。
何かを追って動いているようだ。
「木が動いているんですけど……」
わぅ……
「どう見ても自然現象じゃないなゲームとかにあるトレントとかいうやつかな」
わぅ
「確定したわけじゃないけど地球じゃないんじゃ……」
わう
ゴンタと見つめあってしまうー。
「あれの枝は動くが歩くわけではなさそうだな」
わうわう
「あんま警戒しなくてもよさげ?」
わう
ざっぱーん!!
海の方から音がした。
振り返ると沖合にでっけー蛇みたいなのがでっけー魚をくわえて海上に跳ね上がっていた。
お魚くわえてるがドラ猫じゃねぇ。
「おお、でっけーな」
わう
「やっぱり地球じゃないのかも」
わう
「ゴンタもそう思う?」
わう
「そっかだとしたらまいったな。職場に連絡どうしよう……」
わぅ
「ああ、冷蔵庫のプリンもー」
わぅ…
呆れた感じでゴンタが相槌を打ってくれたよ…。
「すぐには帰れないんだろうなー」
わぅ
「困ったねぇ……」
わぅ
困っているのは本当だが田舎から出てきて一人でいた身。
次男坊だし結婚の約束をしたひともいない。
帰れなくてもいいかな、というふうにも思っていたり。
「テンプレだと魔法が使えたりー」
わう
「えたーなるほーすぶりざーど!」
海が一面凍り付くようなイメージで声をあげる。
辺りには波の音だけが響いていた……。
「だめじゃん」
わぅ…
「い…いや、いきなり難易度が高すぎたんだってたぶん」
冷ややかな目のゴンタに言い訳する。
なんかこの子すごいな、感情が伝わってくるようだ。
こっちの言ってることもわかってるげだし。
次は指先に火を灯すイメージで
「ふぁいあー!」
わぅ…
だめでした。
もういいよ。
異世界だというなら魔法くらいねーのかよ。
「やっぱ地球なんじゃなかろうか」
苛立ちまぎれに木を殴る、拳が痛い。結構太い幹の木が揺れる。
あれれーなんか力強くなってる。
試しに拳大の石を海に投げてみると、かなり飛んだ当社比2倍くらい。
「おお、やべぇ!?力強くなってる!」
わう
ゴンタが伏せた状態からジャンプした。
俺の頭を超えたんですけどー!?
「おお、ゴンタもすごいな」
わうー
俺もジャンプしてみる。
たぶん2mくらいジャンプ出来た。
すげえ、ありえねぇ。どんな超人だよ。
でもゴンタには負けそう。
「異世界確定か!?」
わう
「テンプレだと鑑定が使えたりー」
木を見る。
海風にも負けず、しっかり根をおろし太い幹からは風格さえ漂ってくる。
だめじゃん。俺の感想だけじゃんか!
「よろしいならばステータス!」
半透明なゲームのステータス画面みたいのが出てきたよ!?
まじか…異世界確定かよ。
「ゴンタ君、ステータスって言ったらなんか情報が出てきたよ!?」
わう
「ゴンタも試してみー、出来るかわからんけども」
わう
わうわう
なんだかゲームみたいだな。
俺のステータス画面にはこう書かれていた。
<サトウ・トシオ>
・33
・ポーター
・錬成1
情報少なくね?
まぁいいや。
<サトウ・トシオ>ってのは俺の名前だな。
普通で悪かったな、DQNネームじゃないだけましだ。
・33はなんだろ?俺の歳は39だしなぁ。
おっさんで悪かったな、ふん。
この数字に思い当たるものはないな。
レベルとかかな。
・ポーターってのは職業かな。
たぶん運搬人だな。
現場作業員だからかな荷運びとかもしてた。
しかし勇者とか戦士とかじゃねーのか。
夢も希望もねーな、おい。
・錬成1はスキルかな。
地球でその手の事にかかわった記憶はないな、なんだろ。
理系ではあるが以前の仕事のSEとかは関係ないだろうしな。
製造業とかについたこともない。
・錬成1ってとこを注視したら詳細が出た。
・錬成1
このレベルでは非生物が対象。
分離と合成が可能で結果として素材が出来る。
よくわからんけど、便利そう。
レベルが上がれば生物も対象になるっぽいな。
キメラとか作れんのかな。
こっちは夢がひろがりんぐ。
さっきは文句つけてごめんなさい。
「さっそく実験君だな」
わう
解りやすそうな実験でいこう。
海水だ。
歩いて海に近づく。
日が高くなってきたせいか砂が少し熱い。
左手で海水に触れる。
「錬成!分離!」
ははぁ、なるほど。
スキルはちゃんと発動した。
どうやら対象に触れた手の逆の手に結果物をだせるようだ。
とってもファンタジー。
右手には塩ができていた、ちこっと舐めてみる、しょっぱい。
もう一度やってみる。
「錬成」
食卓にある塩のイメージでできた。
「分離」
塩ができる。
化学式のイメージでもできた。
錬成って言葉は必要ないみたいだ。
無言でもでっきるかな、でっきるかな、はてさてふむー。
結果無言でも塩ができた。
心で錬成とかいっときゃいいみたい。
イメージがすべてなんだなぁ。
わうわうー
「ああ、なんかすごいよね」
ゴンタが褒めてくれた気がした。
「海水から水と塩が作れるな」
わうー
「この力があれば最低限生きていけそうだね食べ物はいるけども」
わう
人間にも犬にも水と塩は必要だからねぇ。
コンビニの袋を持ってきて塩を詰める。
なんだかいくらでも塩作れるな。
とりあえず2kgくらい塩を確保したよ。
これって魔法なのかな。
塩と水の確保のために錬成したけど体に違和感はない。
魔力とか使ってんのかと思ったんだけどな。
よくわからんが、別段不都合もないので放置。
そのうち偉い人が教えてくれんだろ。
不思議な力を前にして、使わずにいられるだろうか?
いくつか試してみた。
木の皮と水で紙っぽいものができた。
合成を試したんだが足りなそうな材料もある程度補完してくれるようだ。
欠けたなりの結果だけども。
ほろほろと繊維が零れ落ちる糊とか使ってないしな。
あと途中経過いらずかよっ。
材料を用意して工程と最終的な結果物をイメージできればいいみたい。
とってもファンタジー。
生木から水分を分離して、すぐ使える薪ができたり。
石と木の棒を合成して石の突起がついた棍棒ができた。
これは素材自体が混ざりあったわけではなく組み込んだだけ。
混ざり合わせる事もできるのかもしれんがイメージが湧かなかった。
とても面白い力だ、便利だしね。
この世界に人の社会があれば商売ができそうだ。
ありがてぇありがてぇ。
でもトレントや、でっけー蛇みたいなのがいる世界で戦闘系スキルがないのはまずいのではないだろうか、いつ襲われるかもわからぬ。
実験もひと段落したので再び荷物のある木に戻った。
夏っぽい暑さのおかげで濡れた物はすべて乾いていた。
ごわごわな手触りと少し塩がついてるな、まぁいいか。
日が高いのでおそらく昼をすぎた頃かな。
時計を合わせておこう。
おにぎり3個をゴンタと半分こにした。
足りなかったのでどら焼きも食った、粒あんが好きだ。
こっちの世界にも米はあるのだろうか?頑張って探そう……。
「ゴンタ、ご飯うまかったかい?」
わうー
ゴンタの反応からするに俺の言ってること理解してるような気がするな。
「もしかして俺の言ってることわかる?」
わう
「ふむ、これから質問するから、はいなら1回吠えて、いいえなら2回吠えてね」
わう
「ゴンタは犬ですか?」
わう
「ゴンタは犬じゃない?」
わうわう
「おお、おにぎりは好き?」
わう
「おにぎりは嫌い?」
わうわう
「ちゃんと理解してるっぽいね」
わう
「すごいなゴンタ、賢さにも補正がかかったのかな」
わう
「いきなりこんな事になったけどゴンタがいてくれて良かった」
わうー
座ってる俺の足にゴンタが顔をすりすりしてくれた。
なでなで
かわいいやつめ。
「よし!これからの活動目標を決めよう」
わう
「今日やることは周囲の探索かな」
わう
「食べるもの、寝るところを中心に探そう、あと危険なやつらがいるかどうかもね」
わう
「先のことでは人のいる町探しだ」
わう
「がんばろー」
わうー
ゴンタと一緒に頑張ろう。
「俺にスキルがあったように、ゴンタにもスキルがあるんかもなー」
わうー
「ゴンタ様のおちからで、あっしをまもってくだせぇ」
わぅ
微妙な反応。
守っていただけませんかのぅ。
あとゴンタのステータスは見れなかった。
自分のステータスだけかぁ、ほかの人のなら見れるのかな?見れたらいいな。
情報は大事だよね。
周辺を探ってみた、おもにゴンタが。
だってゴンタは鼻が利くし音にも反応がいい察知能力とういうか斥候としての力量が俺とは段違いだ。
俺はこそこそとゴンタの後ろを進んで人間の知識を使って物を見ていった。
役に立ちそうな物とかは俺の方が解るもんね負け惜しみじゃない。
わう
「どしたゴンタ?」
わう
ゴンタが木苺っぽいものを鼻で示している。
地球にあるのと同じに見えるな、ちっと大き目なの以外は。
「その木苺食べれそう?」
わう
ゴンタが返事とともに木苺を食べる。
俺も食べてみた。
もぐもぐ
「うぉ、すっぺー!」
わぅ
「強い酸味の中に少しだけ甘味があるねビタミン一杯そうだな」
わう
「ゴンタ、ビタミンとか解らんだろ?どこまで理解してるのやら」
わぅ…
「ああ、いいんだいいんだ怒ってるとか馬鹿にしてるわけじゃないんだよ、一緒に行動する上で情報の共有は大切だから
どこまで理解できてるかなと思ってさ。寝る前とかにいろいろ教えるよ」
わうー
ゴンタの頭を撫でる。
なでなで
嬉しそうに尻尾を振っているな、こっちも嬉しいぞ。
「俺が木苺収穫するからゴンタは辺りの警戒をしてね」
わう
もぎもぎ
錬成で作った籠に木苺を入れていく。
酸味が強いが体に良さそう、わからんけどもきっとそう。
砂糖があればジャムにできそうなんだけどな、そのうちだな。
「よっしゃ結構取れたし来た道じゃないとこ通って調べながら木のとこ戻ろうか?」
わう
ゴンタに先導してもらう。
戻る間もトレント以外は小鳥くらいしか見かけなかった割と安全な地域なんだろうか?
途中で胡桃っぽいのも見つけた。
殻が固くてしかも身は少なかったけども、味は良かった。
ゴンタにも味見させたよ、わりと喜んでたようだ。量があればのぅ、残念。
でも一番の収穫は胡椒っぽい物だ!
料理はしていたから調味料の類は検索サイトグググルで調べていたりする。
調理法や素材とかもね。
かなり見つけたよ嬉しくてはしゃいでしまってゴンタに心配されたけど…。
仕方ないじゃないか地球の調味料を知っている身としては必須といっていい物だ。
1kgくらい取った。水分を抜いて使ってみよう。
ミルは無理だが錬成で木の調味料入れを作った蓋付きだぜ。
あとで塩もこれに移そう。
だんだん錬成もうまくなってる気がする。
素材といってもある程度形を変えられるのは、素晴らしい。
木のとこまで無事に戻り休憩する。
「水のみなせ塩舐めなせ」
わうー
ぺろぺろ
なでなで
「川とか湖は見つからなかったね」
わぅ
ここが大陸なのか小さな島なのかも解らない。
グググルマップどこー?
「森は視界も悪いし水の確保が確保できるかも判らないから明日からの本格的な移動は海沿いを行こうか」
わう
「今は16時くらいか今日はここで野宿しよう。幸い夏みたいだから掛けるものがなくても眠れるだろう」
わう
「まだ元気ならこの辺りで遊んでていいよー」
わうー
ゴンタは走り回ったり草や木の匂いを嗅いだりしている結構歩き回ったのに元気だねぇ。
あっしは夕飯までお休みするっす。
夕飯つっても木苺とクルミだけだけど。
肉か魚は今後どうやってとっていこうかな……。
ゴンタ先生が大活躍してくれるよね!
米と小麦粉も欲しい。
味噌や醤油は特殊だから難しいかも。
浅瀬に貝がいたけど食中毒とか怖いので、やむを得ない場合を除いて手をださないでおこう。
質素な夕飯の後で、ゴンタにいろいろ教えてから木そばで眠りについた。
カレーライス食べたいな……。
おやすみなさい。
Zzz。
2015-04-13ご指摘のあった黒胡椒部分を修正。