一見
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『トシ、町の側まで着いていきたい』
都市リャンへ向かうために花ちゃんの屋敷出る時にゴンタが紙に書いた。
「ふむ……都市に入らなければ良いか」
「そうですよ!一緒に行きましょう!!」
なっちゃんから借りたマントを羽織ったアリーナが元気百倍といった感じになった。
「ゴンタ、着いて来てくれるかい?」
わうー!
ゴンタが嬉しそうに吠えた。
「ミナモ達はどうするのかな?」
わう
わふ
『行っていない森があるなら行くって』
ヤマトとミズホも行く様だ。
ゴンタの両脇にお座りした。
アリーナがガッツポーズを取った。良かったねぇ。
「ゴンタが途中までとはいえ行ってくれるなら安心やな」
「うん!」
「ゴンタちゃん、お願いね」
「ゴンタ頼むぞ」
わうー
ゴンタは信頼されているな。
実力については折り紙付きだから当然か。索敵は俺達の中で一番だしね。
「うちらは遠見の水晶で様子を伺っとるから、何か問題が起こったら紙に書いてや」
「あいよ」
遠見の水晶のおかげで離れていても出来る事はある。
俺とアリーナがバラバラになる事態があっても遠見の水晶でなっちゃんにお願いすれば、俺に送話魔法で連絡が来るとかな。
「危なくなったら逃げるんだぞ?」
「私も強くなってるんだけどなぁ」
「解っている。それでもだ」
「はぁい」
アンドロメダとアリーナは姉と妹みたいだな。
アンドロメダが心配性の姉に見える。
アリーナの口調も俺に向けるのとは違って緩い感じだ。
「それじゃ行ってくる。かっちゃん、みんなをよろしくね」
「はいな」
「いってらっしゃーい」
「行ってらっしゃい」
「無理はするなよ」
俺、ゴンタ一家、アリーナは仲間達に見送られて出発した。
夜中に雨が振ったらしく、地面が少し湿っている。
しかし今日の天気は良い。雨が振ったのが夜で良かった。
心なしか植物も元気そうだ。
俺達は森を歩き、山を越えた。
ゴンタ達が先行してくれているので魔物も退治されていた。
二日目も良い天気だった。
既に知らない地形になっていた。
だが俺達は迷わないで最短距離を進んでいる。
それが出来るのも俺の新しい力のおかげだ。
なんせ星の皮膚みたいなもんだから全ての地形が把握出来ている。
目を閉じれば瞼の裏に地図が見えるので迷う事はない。
これは俺がイメージしたやり方なので、もっと良い方法にも出来そうだ。
世界樹の情報を合わせると地図に人の位置まで出せる。
もっとも自動検索ではないので、自分で対象の人を意識しなくてはいけない。
花ちゃんの屋敷を出てから三日目にはゴブリン部隊と戦わせてもらった。
放っておくとゴンタ一家が全て終わらせてしまうので、俺達に戦わせてくれる様に頼んだのだ。
実戦の感覚を忘れないためと、アリーナに魔剣を慣れさせるためだ。
だから戦いの主力はアリーナで、俺はアリーナの補助に徹した。
炎を湧き上がらせるまでもなく次々とゴブリンを仕留めていくアリーナだった。
都市リャンも近いせいか錆びた剣を持っているゴブリンもいたが剣ごと叩き切っていた。
アリーナの持つ魔剣ファイアザッパーは頑丈で切れ味も良い。
俺は一体のゴブリンを切っただけでした。
アリーナも魔剣を気に入ったようで、戦いにも満足していた。
そして昼前に都市リャンが見えるところまで来た。
「ゴンタ達はここまでかな」
わう
「俺達が戻ってくるまで、ここらの森で遊んでいるかい?それとも花ちゃんの屋敷に戻る?」
『この辺りで遊んでる』
ゴンタは背中のリュックから紙と画板、ペンを出して書いた。
さすがゴンタだ。
見えない背中への『念動力』も出来る様になっていたとはな。
強いのに努力も惜しまない。見習わないといけない。
「何かあったらなっちゃんから送話の魔法を送ってもらうよ」
『解った』
そしてゴンタ達は森の奥へ消えていった。
「俺達も行くか」
「はい」
俺とアリーナは都市リャンへ足を向けた。
森を出た俺達の目に映るのは一面の黄金色に輝く小麦畑であった。
既に刈り終っている畑もある。
そういう時期であったか。
忙しく働いている獣人達が見えた。
「小麦の海ですね」
「ああ、綺麗なもんだ」
「あっちの街道沿いにある小屋から強い気配を感じます」
「だな。たぶん兵士の詰所だな」
森の警戒も兼ねた兵士の詰所だろう。
農業国らしく、農民の保護には力を入れているね。
自分の目で見てみると情報だけで解らない所も見えてくるな。
ちゃんと民のために働いているんだなと感心した。
「城壁が二つあるな」
「人数が増えたから無理やり増築したって感じですね」
「おう。ここに来るまで大した魔物もいないようだったし、城壁なんていらないかもな」
「ですね」
そして俺達は城壁で衛兵から身分証明書の提示を求められた。
衛兵に俺達の冒険者カードを見せただけで通してもらえた。
衛兵たちは怠そうにしていたが、特に理不尽な事をしてきたりはしなかった。
割とまともな領主が治めている都市だとは知っていたが、思った以上にまともな対応だった。
貴族、兵士を必要以上に警戒しすぎていたかも知れない。
情報から読み取れない事もあるんだと認識を改めた。
「アリーナ、フリナス王国は食べ物も美味いらしいぞ」
「凝った料理法があるらしいですね」
「早速食堂へ行こうぜ」
「もうすぐお昼ですしね」
俺もアリーナも食べるのが好きだから異論はなかった。
俺達の目の前を歩いていた冒険者らしき者達が食堂へ入っていったので、俺達もそこに決めた。
「肉の定食以外は単品料理ですね」
「周りも肉の定食ばかりだから、それで行こうぜ」
俺達は肉の定食を注文した。
冒険者以外にも商人や職人も食堂にいた。
綺麗な金髪からくすんだ金髪までいたが、ほとんどの人が金髪だった。
何かモデルだらけって感じだ。
今迄の町で一番美形が多いかも知れない。
何かムカつく町だ。
凛々しく美女の範疇に入るアリーナでも平凡に見える。
食堂には男だけだが女も気になる。
きっと美女だらけに違いない。
そして定食が来た。
グリーンサラダに燻製肉とクルトンの様なパンっぽい物が散らしてある。
ドレッシングはトマトを加工した物らしい。
パンは他の国のパンより柔らかい。酵母を使った俺達のパンほどではないけどね。
そしてメインの肉は、パン粉を着けて焼いた肉料理だ。
スープはコンソメかな?澄んでいる。
赤ワインも付いて来た。
俺達は食べ始めた。
「赤ワインが美味しいです……定食に付いてくる代物じゃありませんよ」
「本当だ……単品で注文すべき代物だな」
「サラダに掛っているトマトっぽいのが美味しいです」
「酸味が抑えられていて、何だろうか妙な旨みがあるね」
クルトンも良いアクセントになっている。燻製肉の塩は濃いがサラダだと丁度良い。
「スープも単純ながら美味しいです」
「意外と手間が掛ってそうだなぁ」
そしてメインの肉料理は牛の内臓だった。
一度煮込んだ内臓にパン粉を付けて焼いたものだった。
美味い!煮込んでいるから味も深くしみ込んでいる。
内臓なんて臭みが強いのに時間を掛けてハーブと煮込んだのであろう、臭みが消えている。
外側はカリッとしていて良い感触だ。
こりゃー期待以上だ。
料理法も今までの町では見た事もない。
こういうのも高い文化の国っていうのに含まれるんだろうね。
「美味しかったです」
「ああ、美味かったな」
俺もアリーナも満足した。
値段も昼飯の値段だったのでお得だ。
食材も悪くないのだろうが、それ以上に手間を掛けている。
俺は単純だね。美味い物を食べただけでフリナス王国に好印象を抱いた。
「こうなると日帰りのつもりだったが夕飯も食べたくなるな」
「本当ですね……」
俺達はそんな事を話しながら店を出た。
そして都市リャンに来た目的を果たしに行く。
尾白が会長を務める商会は、エティゴという名前の商会だった。
たぶん越後屋だね……そのセンスはどうかと思う。
昔の人だからしょうがないか。
尾白の店はリャンの大通り沿いにあった。
領主の館にも近く良い立地だと思う。
一階の半分は八百屋みたいだね。
残りの半分は高級食材、乾物、香辛料を扱っているらしい。
酒もあるね。
俺達は店に入って見ていた。
「俺達は会長の友人から依頼されて会いに来たのですが、会長はおられますか?」
俺は店員で一番偉そうな人に話しかけた。
「お約束はされていますか?」
丁寧な口調のおじさんが聞き返してくる。
「約束はしていませんが、花という名前を出せと言われてきました」
「そうですか……確認してまいりますので、少々お待ちを」
おじさんは俺達に一礼して奥へ行った。
良かった。門前払いをされたりはしなかった。
丁寧な口調ではあったが怪しい奴だなと思われていただろう。
その証拠に俺達は立ったままで店に残されているからね。
まぁいきなり来たんだし文句はない。
俺は店内にある商品を見回した。
あ、蕎麦っぽい物がある!そういや屋台でガレットもあったもんな。
肉を挟んだ蕎麦粉のクレープみたいなものだった。
残念ながら、ここにも米はなかった。
尾白なら扱っていると思ったんだけどなぁ。
後ギルスア王国と同じくらい香辛料があった。
値段は倍くらいしていたけどね……俺達で運搬して売ってやろうかと思うような値段だ。
「お待たせしました。会長がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
おじさんはさっきより深くお辞儀をして言う。
扱いが変わったね。
そういやお辞儀なんて初めてかも。
俺とアリーナはおじさんに連れられて二階への階段を上った。
さて情報では知っているが、どんな人なんだろうか。
なぁ、オジロ君。