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「今日は予習をします」


 花ちゃんの屋敷で朝飯を食べ終わり、麦茶で一息ついた所で俺が話を切り出す。


「予習ですか?」


 アリーナが聞き返してくる。


「おう。花ちゃんの友達である尾白がいるフリナス王国についてだ」


「なるほど」


 アリーナは納得した様だ。

そして花ちゃんも食器を纏めている手を止めて座布団に座った。

聞く体勢に入っている。

外に遊びに行こうとしていたヤマトとミズホが花ちゃんの側に来て伏せた。

子供達は花ちゃんが好きだねぇ。

ヤマトとミズホも情報は必要だと考えているんだね。賢い。

そして羨ましそうに花ちゃんを見ているアリーナは放置しておこう。


「かっちゃん、フリナス王国で知っている事を言ってみて」


 かっちゃんは説明上手だから、俺が補足する形にしたい。


「フリナス王国は王族、貴族の力がとても強いんよ。そして身分の差が大きい。奴隷も多く使われとる」


「奴隷か……」


 アンドロメダが顔を顰める。

ラミアの里にはいないし、ギルスア王国にいる奴隷自体が少ない。

彼女は奴隷という身分制度に納得していない様だ。


「フリナス王国の奴隷は犯罪奴隷以外にも奴隷商人が、どこからか集めて来とるっちゅう話しや」


「奴隷商人……いやな商売ですね」


 アリーナも思考をヤマトとミズホから戻したのか言う。


「領土も広く都市も多い。農業、文化では各国の上をいっとる。魔物はおるが冒険者と兵士、騎士団で抑えとるな」


「大国ですね」


 アリーナもフリナス王国の事を知っている様子。

まぁロセ帝国の情報部出身だから大国の情報は持っていても不思議はない。


「海を挟んどるがイグルス帝国とは仲が悪いなぁ。イグルス帝国と、フリナス王国が二大強国やろうね」


「その後にドーツ王国、ロセ帝国が続きますね」


 かっちゃんに続いてアリーナも捕捉してくれる。

そしてその情報は正しい。


「トシ、こんなとこでええか?」


 かっちゃんが俺に話を戻してきた。


「うん。ありがとう」


「ええんよ」


「俺の言う事がほとんどないね。かっちゃんの情報は正確だ」


「かっちゃん、すごーい」


「任せとき」


 俺となっちゃんの賞賛に、かっちゃんは鼻を膨らませつつ胸を張って答える。

花ちゃんもパチパチと拍手をしている。

なっちゃんもマネをして手を叩き出した。


「オホンッ、フリナス王国は長い歴史のある国です。そしてかっちゃんが言ったように一番近づいていけないのは貴族だ。騎士団、兵士がそれに続く」


 俺は注目を集めるために一つ咳払いをして話す。


「商人も強い力を持っているが貴族達には頭が上がらない。そしてチンピラの組織がはびこっている」


 俺は続けて話す。


「チンピラ達は大きく分けて二つの組織に所属している。腕に赤い布を巻きつけた組織と、そいつらに対抗するために纏まった組織だ」


「魔物を脅威としない国の代表例やな」


「暇人のやる事です」


 かっちゃんが言い、アリーナも続けて言う。

人同士の争いなんて、アリーナの言う通り余裕と暇がなくては出来まい。

周りが許さないはずだ。

だが国民は不満も言えない。

いや大っぴらではないものの不満は口にしているし、何人かは役人にも訴え出ていたが何も変わっていない。それどころか訴え出た人に不幸が訪れていた。

それもそのはずで貴族がチンピラの元締めだった。

そして商人も組織に金を出していた。

それらの話は噂話として国民に流れていた。だから不満も言えないのである。

そこまで知られていれば暴動などに繋がりそうなものだが、何をしたら良いのか解らないというのが現状だ。

しかし俺の言葉で国を見て欲しくないので言わない。


「だから赤い布と巻いたチンピラにも近づかないように。後、獣人といった人間と容姿の違う者は一般市民からも差別されやすい」


「むぅ……」


 アンドロメダが嫌そうな顔をしている。


「アンドロメダは留守番やな」


 アンドロメダの様子を見たかっちゃんが言う。


「かっちゃんも嫌な思いをするのではないか?」


 アンドロメダもかっちゃんへ返す。


「うちは冒険者のランクが高いからそこまで酷い扱いは受けなかったんやけど……そうやな、止めとこか」


「うむ」


 かっちゃん、アンドロメダ、二人共留守番だね。


「ゴンタ一家も留守番をしていてくれ。絶対に絡まれる原因になるからさ」


わぅ……


『留守番する』


 ゴンタは悲しげに吠えた後、紙に書いた。

アリーナが俺をチラチラ見てくる。

ゴンタ達が留守番だから私も留守番にって言いたいんだろうね。

どっこいそうは行きません!人の町でこそアリーナは役に立つんです。


「俺となっちゃん、アリーナで向かうぞ」


「なっちゃんも留守番に残った方がええんちゃう?」


 かっちゃんが提案してきた。


「なっちゃん、どうする?」


 かっちゃんが何故なっちゃんを留守番にしたいか解らないが、先に本人に聞いてみよう。


「んー。魔法使いが一人はいた方がいいんじゃないかなー」


 俺がなっちゃんに問いかけると、しっかりとした意見が返って来た。

感情とかでなく俺やアリーナの事も考えてくれている。

成長してるんだな……俺は嬉しくなった。


「それはそうなんやろうけど……なっちゃんの魔力は注目の的やで?」


 あー、なるほど。

俺は世界樹……星の力を得ても魔力はないままだ。魔力感知も出来ないので頭から抜けていた。

フリナス王国は魔法使いも多い国なのです。異常に多い魔力から注目を集めてしまうのは必然か

エルフだとばれたら攫われかねない。


「かっちゃんの言う事はもっともだ。なっちゃんも留守番ね」


 俺はあっさりと前言を翻す。

参加人数がガシガシ減った。

俺一人でも事足りるからいいんだけどね。


「うん……」


 なっちゃんは俺達と一緒にフリナス王国へ行きたかったのだろうか?いつもの調子ではなかった。


「なっちゃん、花ちゃんにフリナス王国を見せたかったんやろ?」


 かっちゃんがなっちゃんに優しく語り掛ける。


「そうなの……」


「なっちゃん!なっちゃんを危ない目に遭わせてまでは見たくないです」


 花ちゃんが珍しく大きな声を上げた。


「花ちゃん……」


「なっちゃん……」


 お互いの名前を呼んだ二人は黙った。

しかしお互いの気持ちを察した様で柔らかい空気が流れている。

かっちゃんがなっちゃんの背中を押して二人をくっつけた。

ガッシと手を握り合う二人。

金髪スレンダー美女と黒髪おかっぱ着物童女は絵になる。

カメラがないのが残念です。


「よしっ!俺とアリーナの二人でフリナス王国へ行ってくる」


「はいっ!」


 なっちゃんと花ちゃんの様子を見たアリーナもヤル気を見せた。

何だかんだ言っても良い奴だ。

既にゴンタ一家の事は自分の中で折り合いを着けたらしい。


「私が遠見の水晶のマントを着けて行ってきますっ!!」


 アリーナがなっちゃん、花ちゃんを見て宣言した。


「ありがとー」


「ありがとうございます!」


 そんなアリーナに礼を言うなっちゃんと花ちゃん。

良い関係が出来つつあるな。

かっちゃん、アンドロメダも嬉しそうに見ている。


「明日の朝出発するぞ」


「はい!」


 花ちゃんの友達である尾白は割と近くの都市にいる。

尾白は大きな商会の主だが、首都の店にいる訳ではなかった。

俺も王族や貴族といった面倒な相手に絡みたくないので助かる。


「尾白はリャンという都市にいる」


「リャン!?バッキンよりずっと近いやん」


「ここから海へ出るくらいじゃないですか!」


 地理を把握しているかっちゃんと、アリーナが驚いている。

かっちゃんの言う通り、ここからバッキンへ行くより都市リャンの方が近い。

もっとも直線距離の話なので山や森を迂回して行くとなると時間は倍くらい違う。



「うん、近いよね。だからすぐ戻ってこれると思う」


「そんなに近いのですか?」


 花ちゃんが俺に聞いてくる。


「うん。山と森を突っ切れば徒歩で三日くらいだね」


「ご近所さんだったんですね」


「だねぇ」


「尾白……」


 花ちゃんは尾白の名前を呟いている。


「尾白は大きな商会の会長だから忙しいけど、これだけ近ければ遊びにこれるんじゃないかな?」


「はい!」


 俺の言葉に元気よく返事をする花ちゃん。

どうなるかは尾白に会ってみないと解らない。


 花ちゃんに尾白を会わせてやりたいもんだ。

花ちゃんには昔話が出来る相手もいた方が良い。

そして情報は集めた物の、初めて訪れる都市に想いを馳せる。


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