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相談

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「トシさん、相談があります」


 ビアンカが朝食の席で畏まって言ってきた。

何だろう?また問題を持ち込んで来た商人でもいるのかね。


「おう、何だ?」


「私の友人や、その家族達を雇っていただけないかと……」


 ビアンカの声は段々小さくなっていった。

この店では無理だと解っているからだろう。

無理と言うのは店の狭さのためである。


「人数はどれくらいいるんだ?」


「十二人です!」


 俺の返事に希望を持てたのか大きな声に戻った。

十二人か……多いな。


「今までどうやって暮らしてた人達なんだ?」


「港で荷卸しの手伝いや、農場の手伝いです。友達の父親や兄といった稼ぎ頭が揃って病気になりました。流行病だったらしいのですが、薬代でお金が無くなってしまったのです」


 流行病か……港だと他の国から来た船が感染源かな。

薬で治ったなら流行病も収束したのかね。

ヒミコと話していても出て来なかった話題だ。

おそらく大丈夫だろう。


「全員、犬の獣人なのかい?」


「はい」


「私の友達もいるんです」


 デイジーも話に加わって来た。

デイジーの表情も真剣だ。


「借金はあるのか?」


「ええっと、はい。私の給金がかなりあったので貸しました……」


 ふむ。どうしたもんかな。


わう


『トシ、助けてあげて』


 ゴンタは一声吠えてから紙に書いた。


「理由を聞いても良いかな?」


『ビアンカとデイジー、犬の獣人はボクと波長が合う』


「近い種族って事?」


『たぶんそう。近しいものを感じる』


 ゴンタも書き慣れて来たのか早く書ける。


「「ゴンタ様……」」


 ビアンカとデイジーが感動に打ち震えている。

崇拝しているゴンタの口から出た言葉だからだろう。

仲間の内に数えられているからかも知れない。


「ゴンタが言うなら助けないとな」


 ゴンタは報酬を全て俺に寄越していたから、当然使う権利もある。

ビアンカとデイジーのお願いは聞いてあげたいとは思っていたが、彼女達に限定しての話だった。

ゴンタの意見は俺に取っても救いだったかも。

やはり以前とは何かが違う。


「ゴンタちゃん、優しいねー」


「さすがです!」


 なっちゃん、アリーナもゴンタを褒める。


「ありがとうございます!」


「良かったぁ」


 ビアンカとデイジーがゴンタに礼を言う。

さて、助けるのは良いとして、どうしたもんかな。

やると決めたからには俺も手を抜かない。

この店以外に働く場所を用意してやらないといけない。

場合によっては済む場所も。

現金は店の商売で稼げる。

はっきりいえば十二人なら余裕で養えるだけの儲けは出ている。

だからそれ以外の仕事を考えよう。

衣食住、これはこの世界でも需要が高い。

ここはやはり食だな。

食材にしよう。

農場での手伝いをしていたと言っていたから農場を買うか。

そこから取れた物を食べ、食材として使い客に提供する。

食堂の方は直ぐでなくても良い。将来的に考えておこう。

ヒミコに農地の件で相談でも良いが、せっかく入っている商業ギルドだ、役に立ってもらおう。

アッツさん達と一緒に稼いだから資金は潤沢だ。

よし、これで行こう。


「この店で現金は稼げる。ビアンカとデイジーの友達には農業をやってもらう」


「農業ですか」


「おう、料理上手がいたら、農場で取れた食材を使って食堂を開いても良い」


「わぁ!」


 デイジーが嬉しそうだ。デイジーも食べるのが好きだもんな。


「農場の責任者はビアンカ、お前がやれ」


「わ、私ですか?」


「おう、俺はビアンカに金を出す。お前が責任を持って友達の面倒を見ろ」


「……」


「別にビアンカが率先して農場に出る必要はない。農業をしていく上で必要な経費の管理をしろ」


「お金の管理ですか。それなら出来ます!」


「友達の誰かを農場の現場責任者として選んで働いてもらえ」


「はい!」


「ちゃんと作物が出来るまでは店の金で食べさせても良いぞ」


「あの……お給金はどうしましょう?」


 ビアンカが言い難そうにしていたが、意を決したのか言ってきた。

この店の一月の売り上げは金貨二十枚ちょっとだ。

ビアンカとデイジーの給金が合わせて金貨三枚。

一家四人で金貨一枚あれば一月生活が出来る。


「一月、十二人で総額金貨三枚だ。農業が軌道に乗ったら給金を増やしても良い」


「分配は……」


「それはビアンカの仕事だ。それぞれの家族の人数や働きを見て分配しろ」


「解りました」


「よし、商業ギルドへ行くぞ」


「はい!」


 俺とビアンカで商業ギルドへ向かう。

なっちゃんとアンドロメダも着いて来た。

花ちゃんに見せたいのと、興味本位だろうな。

ゴンタは『念動力』の訓練、ミナモはヤマト、ミズホを連れて奥で二度寝に入った。


 俺達は商業ギルドで悪くない扱いを受けた。

俺達とヒミコが仲が良いと言うのを知っていたから、そのおかげであろう。

ヒミコに感謝だ。またお土産を持って行かないとな。

天光貨一枚で町から少し距離があるが、かなり広い農地を買えるとの事。

町の中の家が買える金額だから当然といえば当然だ。

つい最近売りに出た土地だそうで、直ぐに作物が作れる状態というのはありがたかった。

ついでに農業の指導者も紹介してもらえる事になった。

お金は必要だったが、手さぐりで農業をさせるよりは良い、

商業ギルドの紹介だから問題も起こらないだろう。


 ビアンカの友達はみな下町の長屋住まいだそうで、家賃も安かった。

そちらも持ってやることにした。

いずれ返してもらう。

イニシャルコストはそれなりの金額だ。

ランニングコストは店の毎月の売り上げで賄える。

ビアンカには農業にかかる経費として店の売り上げから出す様に言った。

念のため白金貨五枚も渡した。

ゴンタの稼ぎ分でいえば、なんてことのない金額だが、ビアンカはアワアワしてそのまま商業ギルドに金を預けた。

商業ギルドには銀行の様な機能もあるらしい。

為替ではなく単純に預かるだけだった。


 アンドロメダは一部始終を後ろから眺めていた。

こういう場は珍しいのか楽しげであった。

キョロキョロと商業ギルド内も見ていたが、ラミアであるアンドロメダの方も見られていた。珍しいのはお互い様だったようです。


 そして商業ギルド員の案内で農地を見に行き、問題がないのを確認させてもらった。土地の良し悪しは判らないが周りの農地と同じに見えるので大丈夫であろう。

商業ギルドへ戻り、お金を払って農地の所有書を受け取った。

これで俺の農地になった。

農地の所有書は後で店の地下倉庫へ隠しておこう。

そして税金の事はビアンカに丸投げした。

冒険者ギルドの様に報酬から天引きされていれば簡単なのにね。


「トシさん、私の友達に会いませんか?」


「あまりバッキンにいない俺が出張ってもな。今後はビアンカと友達の頑張り次第だしな」


「解りました」


 ビアンカはヤル気に溢れている。

お金はため込んでもしょうがない。

上手く循環してくれるほうが良い。

頑張ってほしい。

将来は食堂、酒場もやりたいよね。

自分の店で呑み食いとか楽しそう。


「食堂や酒場の件も考えておいてよ」


「私が参加したいくらいですよ」


「うちの店からビアンカにいなくなられるのは困るぞ」


「えへへ」


 俺の言葉を聞いて照れているビアンカ。尻尾がブンブン振られているので喜んでいるのが解る。

食堂の話に戻るが、ビアンカの手料理は美味しい。家庭の味の域を出ないけどさ。

うちの店はビアンカを信頼して成り立っている店だから抜けられても困る。

ゴンタが犬の獣人を保護したいって言うのが広まって、どんどん集まってくるかも知れない。

俺も犬の獣人の尻尾は好きだ。

感情が解りやすくて良い。

いずれ食堂を任せられる人物も見つかるだろう。


「私もヒラヒラの服を着て給仕をしたいのー」


 服飾に凝った店も増えて来たからね。


「似合うだろうなー」


「えへへー」


 なっちゃんとアンドロメダにもウェイトレスをしてもらおうかね。

想像しただけで通いたくなるぞ。


 こうやって仲間と関わっていかないと俺が俺でなくなりそうだ。

俺の存在は仲間によって維持されているといっても過言ではない。

俺はそんな存在になっている。


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