注目
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「戻ったぞー」
「トシさん!お帰りなさい!!……ッ!?」
バッキンに戻った俺達を店先で出迎えたビアンカが、挨拶とともに後方へ跳ねて正座した。
「ゴ、ゴンタ様のお子様であら、あら在らせられますか!」
ビアンカよ、噛み噛みだな。
そしてジャンピング土下座に近い。かなりの大技だ。
さすが犬の獣人、凄いバネを持っている。
俺は妙な所に感心してしまった。
ビアンカはヤマトとミズホを見て感動している。
やはり解るんだな……犬繋がりだろうかね。
デイジーは店にはいないらしい。いたらビアンカと同じ様なリアクションをしたのだろう。
「そうだぞー。ゴンタとミナモの子供で黒い子がヤマト。白い子がミズホだ」
「ははーっ!ヤマト様、ミズホ様。何なりとお申し付けください」
どこの王族対応だ……ゴンタを初めて見た時に近い対応だぜ。
ビアンカがキラキラした目でゴンタ、ヤマト、ミズホを見ている。
良く判らないけど、ゴンタの奥さんであるミナモはほとんど無視してるんだよね。
謎だ。
わぅ
「ゴンタが困っているぞ。店先ではやめろ」
「うぅ……そうですか」
ゴンタを困らせたからか、ヤマト、ミズホの役に立てなかったからか、しょんぼりしながら立ち上がるビアンカ。
俺達は馬達を厩舎へ連れて行って水を飲ませた後で旅装を解いた。
居間から店の様子を伺う……問題はなさそうだ。
「あの……そちらの方は?」
ビアンカがアンドロメダを見て聞いてくる。
「ラミアのアンドロメダだ。俺達の仲間だから、仲良くしてくれ」
「アンドロメダだ。よろしく頼む」
「はい!こちらこそ」
アンドロメダとビアンカが握手した。
ビアンカはアンドロメダの足を興味深そうに見ている。
ラミアという種族を知らないのだろう。
「ラミアってのは種族名な?見ての通り蛇の足を持っている」
「そうでしたかー。変わってますねー」
「良く言われる」
率直な意見ですなビアンカ君。
慣れているのかアンドロメダも怒ったりはしなかった。
「おねーちゃん、ただいまー!……ッ!?」
どこかへ行っていたデイジーが帰って来た。
そして居間にいるヤマト、ミズホを見て硬直した。
直立不動だね。
後ろにいる手伝いらしき子供達がデイジーの顔を覗き込んでいる。
あ、顔を指でつつき出した。
「ゴンタ様のお子様であるヤマト様とミズホ様の前ですよ?しゃっきりしなさい!」
自分の事は棚に上げてデイジーにお説教をするビアンカ。
「……ヤマト様、ミズホ様」
デイジーはポーッと頬を染めて子供達を見つめている。
謎が謎を呼ぶ反応だな。
「トシちゃん、町の中を花ちゃんに見せてくるねー」
「あいよ。ゴンタ、護衛に着いて行ってやって」
わうー
「ゴンタちゃんいこー」
わう!
なっちゃんは道中も花ちゃんと遠見の水晶を通して話をしていた。
花ちゃんが屋敷の外を見て楽しんでいたので、なっちゃんは張り切っている。
海に出た当たりでなっちゃんの送話の魔法が届かなくなったので紙による会話だ。
あ、ヤマトとミズホもゴンタに着いて行っちゃった。
ミナモも仕方ないって感じで着いて行った。
当然アリーナはゴンタの後を追っている。
「トシ、私も行ってくる」
「そうかバッキンは初めてだったな。なら俺も行こう」
「うむ」
「ビアンカ、デイジー、ちょっと町の案内をしてくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「ヤマト様、ミズホ様……」
ビアンカは普通だが、デイジーが現実に戻ってこない。
何か楽しい夢でも見ているのだろう。
俺とアンドロメダもなっちゃん達を追いかける。
ラミアのアンドロメダは注目の的だろうから護衛として着いて行かないとな。
ゴンタに関しても注目は集めるが、既に町の人気者としての地位が固まっているので問題ない。
ヒミコと散歩した事もあったしな。
教団のトップのお墨付きみたいなもんだ。
そうそうトラブルにはならないはず。
まだ昼過ぎという時間帯のせいか、通りにいる人達は多かった。
そして予想通りにラミアのアンドロメダは注目を集めていた。
今日の井戸端会議での議題はアンドロメダだろうな。
ゴンタ一家には黄色い声が飛んでいた。
やっぱりゴンタは女子供に人気がある。
ミナモが妙なプレッシャーを掛けているので近寄ってはいなかったけどな。新技だろうか?
そしてなっちゃんを先頭に商店街、屋台を見て回った。
俺が知らない店も増えていたね。
ゴンタのためにマジックバッグを探したが、魔法屋にも、かばん屋にも売っていなかった。
露店もかなり見て回ったが見つからなかった。
妖狐に会いにフリナス王国へ行くから、その時にまた探すつもりだ。
「なんだぁ?お前ら偉そうに歩きやがって」
「ん?」
「もっと端を歩きやがれってんだ」
前から歩いて来た冒険者らしき五人の内の一人が俺達に向かって言う。
「おぉ、邪魔したか悪い。みんな広がって歩くなー」
「はーい」
道には余裕があったが、花ちゃんも見ているので穏便に済ます。
「おい、てめー」
「馬鹿、やめとけ」
声を掛けて来た男の腕を掴んで止める仲間らしき男。
「なんだよ」
「ありゃ、前にギガントセンチピードをやった奴らだ」
「何だとっ!?」
俺達の事を知っている人がいたらしい。
「気ぃつけろ……」
声を掛けて来た男は捨て台詞を残してそそくさと去っていった。
花ちゃんに血を見せないで済んだよ。
「ギガントセンチピードとやりあったのか?」
「町の外でちょっとな」
アンドロメダの問いに答える。
彼女は、いちゃもんを気にしていない。
アンドロメダは軍人あがりだから荒事は得意なのか平然としている。
違う意味でなっちゃんも気にしていない。
とっくに屋台で焼き鳥を買って、ぱくついている。
ヤマトとミズホが、なっちゃんに焼き鳥をねだっている。
アリーナが大急ぎで焼き鳥を焼いてもらっているのは、なっちゃんが羨ましいからだろう。
ゴンタとミナモは欠伸をしている。
眼中無しだな。
真面目に相手をしていた俺がアホみたいですな。
ちょっと悲しい。
「孤児院へ行って、ヒミコに挨拶するぞー」
「はーい」
俺達は孤児院へ向かった。
どこへ行っても人の目が集まるが、アンドロメダは気にも留めていない。
大物っぽい。
ヒミコは孤児院にいてくれた。
こちらの人数が多いので庭での面会になった。
「まぁまぁ!」
「結構大きいですね」
ヤマトとミズホを見てヒミコとヤマが言う。
「おさわりは厳禁ですよ」
「あぅ……」
ミナモの目が怖いので注意しておく。
ヒミコは目に見えてがっかりしている。
「ゴンタとミナモの子供達です。黒い子がヤマト、白い子がミズホです」
「良いお名前です」
「ですね」
そう言ってくれたヒミコとヤマの周りには孤児院の子供達が集まっている。
みんなゴンタ一家と遊びたいのかな?前にゴンタと遊んだ事のある子供もいる。
「おねーちゃん、足が変」
「そうだな。それ」
アンドロメダに話しかけていた女の子に向かって、足を伸ばすアンドロメダ。
ちょっと表情が柔らかく見える。
子供好きなのかも知れない。
キャーキャー言ってアンドロメダの足に触る女の子。
他の子供達も興味を持ったのかアンドロメダの周りも騒がしくなる。
俺が肉と魚を提供して孤児院の庭で焼肉が始まった。
おさわり厳禁だが、食べ物を与えるのは問題ない様でミナモは怒ったりしなかった。
ヒミコ、ヤマを筆頭に子供達やシスターも肉をゴンタ一家に与えていた。
なっちゃんの送話でビアンカとデイジーも呼んだ。
孤児院に着いたビアンカとデイジーもゴンタ一家の給仕に動いた。
アリーナと火花を散らせていたね。
そこまで栄誉ある仕事なのかなぁ……良く判らん。
ヒミコとヤマに、遠見の水晶を介して花ちゃんの紹介もした。
ビアンカとデイジーにも紹介した。
そして紙で会話もしたね。
ヒミコも遠見の水晶は初めて見たと言っていたので、ゴロゴロあるマジックアイテムではなさそうだ。
もっと購入したいんだけどな。
「花ちゃんが嬉しそうなのー」
「だね。良かった」
「うん!これからは同じ景色を見られるのー」
なっちゃんは良い子に育っている。
俺と言うよりかっちゃん、花ちゃんのおかげなのは間違いない。
見習わないとな。
バッキンは平和でしたね。