大森林へ-4
19
オーク襲撃元調査で大森林へ入ってから3日目になりました。
順調に進んでいますね。
1日目に川で体を拭いただけなので、少し気持ち悪いです。
そういや、少しでていた腹も引き締まっていますね、異世界って素晴らしい。
作業員をしていましたので、腕回りの筋肉はありましたが、全体的にがっしりしているように思います。
鏡があったらポージングしてみたいです。
木々が生い茂っているので、直射日光を浴びないで済んでいます。
おかげで、ずいぶん違うと思います。
昼飯も食べて、黙々と進んでいきます。
足跡はまだ森の奥へと続いていますね、いったいどこまで行けばいいのか不安が頭をよぎります。ここは間違いなく人外の領域なのですから。
不安なのは俺だけでは無いのかもしれないと感じたのは、オルタンシアが姉であるホルフィーナの側を離れなくなった事や、カビーノによく話掛けていたキニートが無口になってきた事です。
隊を率いているカビーノとカッツォが、どうって事無い、いつもの事さと言う顔をしてくれているので、ある程度の不安は抑えられています。
リーダーって言うのは弱みを見せちゃいけないのかも知れないね。頼もしいです。
3日目の野営地を探していたところで変化がありました。
わうう
最初はゴンタからでした。
「この先に建物が立ち並んだ湖があるやと!?」
「建物だと?」
「へんやのぅ。オークつったら洞窟か、せいぜい毛皮や木を使ったテント程度に住んでるのしか見たことないで」
「おう、俺もそうだな。そんな文化を持っていると聞いた事はないぜ」
「そうねぇ、私も聞いた事は無いわね」
「うむ」
「見ないと判断はできないか。気配を探りながら近づくぞ」
「はいな」
「「おう」」
みんなで賛成の意を示し、ゴンタの先導で進む。
みんなの言う事から解るのはオークがある程度の知能をそなえているものの文化的なものは持っていないはずって事かな。
襲撃の時に見たオークもオークロードとオークナイト以外はまともな武器を持っていなかったはず。上の者だけ持っているって事は人からの戦利品で全員に渡せるほど無いって所か。
暗くなってきたが、何か見えた。
確かに湖があり、それに沿ってログハウスもどきが立ち並んでいた。
「俺は気配を感じないが、みんなはどうだ?」
カビーノが訝しげに問う。
「うちが見てもおらんね。魔力的に見てもいないで」
「うむ、いないと思う」
カッツォとオクタビオも何か腑に落ちないという顔をしてカビーノに返事をする。
他のメンバーも頷いていた、俺から見ても気配を感じなかったので頷く。
「よし、建物の所に行ってみるか。ゴンタとカッツォに先行してもらってもいいか?」
「うちらが適任やろね。ええよ」
わう
カビーノの提案はカッツォとゴンタでの斥候だった。カッツォの種族魔法を知っており、ゴンタの察知能力を買っているんだな。
カッツォとゴンタは返事をし行動を起こした。
「しかし木で作った家とはなぁ。50棟くらいあるぞ」
「そんな知能を持っていたなんて…」
「こんな所に人が住んでいたとも思えん」
遠目から判った事を話しながら、カッツォ達が呼んでくれるのを待つ。
カッツォとゴンタは建物の周りを見て回っているようだ。
2人とも大胆に覗いて回るなぁ、自分の能力に自信があるんだろうね。羨ましい。
カッツォが、こちらに向かって来いとジェスチャーしている。
カビーノに続いて、みんなで建物へ向かって歩く。
ふむ、雑なつくりだが大きいログハウスだな。
1棟に10人は寝泊まりできそうだ。
建物の周りはオークの足跡でいっぱいでした。
「大丈夫や。もぬけの殻やで」
わう
「そのようだな。どういうことだろうか?」
「サイズ的にはオークの住まいで合っているだろう」
カッツォとカビーノが不思議そうに話し出す。そしてオクタビオが人間の住まいではないと言う。
ここなら300ものオークがいてもおかしくない。しかし何もいないってのはどういう事だ?住んでたやつらが住処を捨てて戦いを挑んできたというのだろうか?
みんなも考えこんでいる。
「ねぇ、湖の向うにも建物があるんじゃない?」
ホルフィーナが湖を見ていたと思ったら、そう言ってきた。
みんなも湖のほうを見る。
んー、何かあるようだけど建物なのかな?俺には判断できない。
「そうっすね、なにかあるのは確かっす」
「おう、建物っぽいな」
キニートとカビーノが湖の先を眺めながら、そう言う。いい目をしてらっしゃる。
「なんぞ動いとるで」
わう
「本当ね。オークだと思うわ」
カッツォとゴンタが動いているものがいるといい、ホルフィーナがオークと言う。
ほんっとーに目がいいな。スキルとかなのかね?
「そうか。つまりオークの集落が最低2つはあったという事か」
「そうね。ここにいたものはサヒラを襲ったオークとあちらの集落へ行った非戦闘員のオークって事じゃないかしら?」
だれもいない集落を見てそういうホルフィーナだった。
確かに湖沿いをいく足跡も見られるな。
今まで追ってきた300もの足跡ほどではないが、それなりの人数が移動したようだ。ここを捨てるという判断もできるなんて、それなりの知能が感じられる。
「さて、どうしたもんかな?一応ケビンには報告できるが、あちらも調べるべきか?」
「難しい所やな。あっちを調べても日数的には大丈夫やろけど」
「そうね、あれで全てとも限らないし」
「ふむ……これだけの建物を作れる知能があり人数がいるのだ、へたをしたらオークの国みたいなものすらあるかもしれん」
カビーノ、カッツォ、ホルフィーナ、オクタビオの順番で発言している。
国か……人以外が繁栄していないとは言い切れないよな。
「俺は帰るべきだと思う、俺達の手には余るよ。ただゴンタに見に行ってもらいたいかな」
わう
俺はゴンタの頭を撫でながら提案をする。他力本願なのが悔しい。
みんなも思案顔だ。
「ゴンタ1人なら問題なく偵察できるやろうけど、ええん?」
わうー
「任せろって言っとるで」
「そうか、ゴンタに頼もうか」
「ゴンタ頑張って……」
「よし、ゴンタの偵察。カッツォがゴンタから聞き取り、明日の朝サヒラへ戻るぞ!この建物はそのまま残していく」
「「おう」」
「早速ゴンタの飯だけだすよ」
わう
ご飯と聞いて嬉しそうなゴンタ。ぶんぶん尻尾が止まらない、それにわたわた反応するオルタンシア。どっちもかわええ。
ジャーキーを大目に出し、木苺と水も用意した。
ゴンタは一気に食べると、一声吠えて出発した。
いってらっしゃい。
俺達は火を使わず、あるもので済ます。対岸のオークに見つかるわけにはいくまい。
ここは既に敵の領地であろう。
建物の外で警戒しながら、眠れぬ夜を過ごす俺達。対岸で火が起こされた様子は無かった。
ゴンタ無事帰っておいで。