土産
189
「花ちゃん!!」
「なっちゃん、お帰りなさい!」
俺達が花ちゃんの屋敷に着くと同時に花ちゃんが中から顔を出した。
良かった存在感は減っていない。
馬達と仲良くしてくれていたんだね。
今も馬達が俺達が帰って来た事を教えたんだろう。
屋敷の入口に入った所で、なっちゃんが片膝立ちになり花ちゃんを抱きしめている。
おっさんは、こういうのに弱いのだ。
俺もちょっと泣きそうだ。
ヤマトとミズホも生まれてからしばらく花ちゃんの世話になっていたので、花ちゃんに懐いている。
なっちゃんの後ろでお座りをして花ちゃんと触れ合う順番待ちをしている。
ミナモも花ちゃんが好きなんだね。
そんな子供達の様子を優しげな目で見ている。
「本当に仲が良いですねぇ」
「微笑ましいじゃないか」
「いいよな」
「二人ともええ子やから」
俺達は置いてけぼりだが、なっちゃんと花ちゃんの様子を見て、親馬鹿みたいに感想を言い合う。
花ちゃんの屋敷の側での親馬鹿会議は、しばらく続いた。
「みなさん、お帰りなさい!」
花ちゃんが俺達の事も思い出してくれたようだ。
「おう!ただいま」
「帰ったでー」
「帰りましたー」
「元気そうだな」
ようやく俺達も花ちゃんに帰還の挨拶が出来た。
そして花ちゃんの屋敷へ入れた。
「久しぶりの家だ!やっぱり良いね!」
「なんや、落ち着くなぁ」
「不思議ですよね」
俺達は靴を脱ぎ土間から上がる。
旅装を解き囲炉裏端へ座り込む。
「あー」
俺はおっさん臭い声を漏らす。
「トシさんったら」
花ちゃんが口に手を当てて笑っている。
あぁ、これだ。
柔らかい雰囲気のある、花ちゃんの屋敷だ。
「あ、そうだ。海で人魚に会って真珠を貰ったんだ。その腕輪を貸してよ、真珠を付けてあげるよ」
「まぁ、人魚ですか?」
「花ちゃんも人魚を知っているんだね」
「ええ、昔聞いたことがあります」
「自由奔放な女の子だったよ」
「色々あったようですね。お話を聞きたいです!」
花ちゃんは腕輪を外して俺に渡してくれた。
愛用してくれているね。
「沢山話すことがあるよ」
「トシちゃん!私のにも真珠を付けてー」
「あいよ。そうだなっちゃんアレを渡さないと」
「アレ?あー!!」
なっちゃんは荷物の所へ走った。
マジックバッグをゴソゴソしている。
「花ちゃん!これお土産!」
なっちゃんが花ちゃんに遠見の水晶の片割れを渡している。
「なっちゃん、ありがとう」
「あのねあのねー、これは私のこれと繋がっていて離れていても見えるんだよー」
なっちゃんは興奮しているのか、良く判らない説明をしている。
実際に花ちゃんに覗いてもらっているから、どんな物かは解るだろう。
「凄いです!なっちゃんそれを着けたまま歩いてもらっても良い?」
「うん!」
花ちゃんのお願いを嬉しそうに聞くなっちゃん。
畳の部屋まで歩いている。
「わぁ!」
花ちゃんは遠見の水晶を覗いて楽しげな声を上げる。
「なっちゃん!見えます!見えますよー!」
「これがあれば旅気分なのー」
囲炉裏端へ戻って来たなっちゃんが花ちゃんに言う。
「なっちゃん!」
「花ちゃん!」
二人はガッシと抱き合っている。
花ちゃんも感極まっているという感じだ。
なっちゃんがオークションで落札してくれたおかげだな。
こんなに嬉しそうな花ちゃんを見れるとはな。
俺も嬉しくなる。
「花ちゃん、遠見の水晶の台座として小さい座布団でも作りなよ」
「そうですね!落として壊さないようにしないと……」
花ちゃんは畳の部屋へ行った。
そして裁縫道具と綿、布を持って戻って来た。
花ちゃんは家事、裁縫が得意だからね。
花ちゃんは、なっちゃんの横に座り、チクチクやりだした。
俺も腕輪に真珠を組み込む。
俺に真珠の良し悪しは判らないが、綺麗な乳白色で光が当たると虹の様に色が浮かぶ綺麗な真珠だ。
ディンギーは憎めない奴だし、こんな綺麗な物ももらえたし、解毒薬を買い占めておこうかな。また会うこともあるだろう。
「なっちゃん!お風呂に入るでー」
「もうちょっと待ってー」
「直ぐ来るんやでー」
「はーい」
かっちゃんはお風呂の準備をしていたらしい。
アリーナとアンドロメダも風呂場にいるっぽい。
なっちゃんは花ちゃんの手元を楽しげに見ている。器用に動くもんだ。
「出来たー」
「はい」
「水晶にぴったりー」
まぁそのために作ってたからね。
「なっちゃん、お風呂に行ってらっしゃい」
「うん!」
花ちゃんに言われて、なっちゃんはお風呂に走っていった。
「腕輪を返すよ」
「ありがとうございます!綺麗な真珠ですね!」
花ちゃんのテンションも高いな。
やはり俺達が帰って来て嬉しいのだと思われる。
慕われていると思うと顔がにやけてしまう。
花ちゃんは腕輪を眺めている。
腕輪一つに真珠を三つ埋め込んだ。数に意味はない。
童女の笑顔を見ていると、もっと喜ばせたくなるのは何故なんだろう?俺は調べてあった事を口に出した。
「花ちゃん、俺は新たな力を手に入れたんだ」
「そうなのですか?」
「その力で雪乃と尾白の居場所が解った。二人とも元気みたいだよ」
以前話に出て来た雪女と妖狐だ。
「えっ!?雪乃と尾白ですか!?」
「うん」
「トシさん!凄いです!嬉しいです!!」
花ちゃんが俺ににじり寄って来て俺の手をギュッっと握った。
花ちゃんから俺に触れてくるなんて初めてかも。嬉しい。
それほどの相手って事か。
う……なっちゃんが嫉妬しちゃう様な二人だったら困るな。
先走り過ぎたかも。
でも、今更なかったことには出来ない。
「雪乃は俺達が行こうと思っているロセ帝国の山にいる。尾白は割と近くてフリナス王国で商人をやっている」
「二人は元気なのですね?」
「うん。二人に会って花ちゃんの事を伝えようか?」
「お手数でなければお願いしたいです」
「解った。一応みんなと相談するね」
「はい!」
嬉しそうな花ちゃんを見ると、やはり二人の事を伝えて良かったと思う。
ただ、この屋敷では暑すぎて雪女は住めないだろう。
そして妖狐の方はフリナス王国で食料品の商会を持っている。規模も大きくフリナス王国で五本の指に入るほどの商会だ。
二人とも花ちゃんの屋敷に連れて来たいが、そういう事情があるから難しいかも知れない。
「今日は豪勢にいきますね」
「それなら食材を取りに行ってくるよ」
「……帰って来たばかりなのに、すみません」
「いいっていいって。俺達の腹に収まるもんだしね。ゴンタ達と言って来るからみんなに説明をよろしくね」
「はい!」
「ゴンター!夕飯の食材を取りに行こう!」
わう!
花ちゃんは夕飯の下ごしらえのために台所へ、俺は魔剣とマジックバッグを持ってゴンタ達と森へ向かった。
わうー!
森に入るとゴンタが大きく吠えた。
きっと配下の狼達に挨拶しているんだろう。
小さくても親分だからな。
遠くの森から狼の声が何度か聞こえた。
「それじゃ夕方までに屋敷に戻ろうな」
わう
俺達は各自別れて森で狩りをした。
気功術による索敵でホーンボアを見つけて倒した。
猪はガンガン突進してくるから俺としては戦いやすい相手だった。
一撃で首を刎ねたので魔剣の力は要らなかった。
大型バイクほどもあるので、これ以上の獲物は必要ない。
血抜きをしたホーンボアを手頃なブロック肉にしていく。
肉は二百kg以上ありそうだ。
そしてマジックバッグへ入れて行った。
仕事が終わったのでゴンタ達が戻ってくるまで休憩だ。
わう!
わふ
ゴンタとミナモは鹿の魔物を引きずって来た。
そして子供達は魔法で撃ち落としたのか、鳥を二羽咥えて戻って来た。
どちらも血抜きをした。
鹿は丸太に括り付けて俺が担いだ。
鳥は俺の腰にぶら下げてある。
「帰るぞー」
わう
そして夕飯にはたっぷりの肉が出ました。
焼き鳥にステーキ、パスタも肉だらけでした。
スープも肉がゴロゴロでしたとも。
ゴンタ達は大喜びでしたね。
肉大好きだもの。
山菜も取って帰ったが肉ほど大量ではなかった。
お浸しやスープの分で終わりです。
森で取った酸っぱいオレンジが一応デザートです。
味はともかく体には良さそうだよね。
肉は取ったばかりよりも、少し置いて熟成させた方が美味いとは聞くが、取り立てでも十分美味かった。
「トシ、花ちゃんの友達の行方が解ったんやってな?」
「おう。ロセ帝国の山とフリナス王国、それぞれにいる」
「うちらが行って遠見の水晶で様子を見てもらおうや」
「そうしよー!」
なっちゃんは大喜びだ。花ちゃんと仲の良い友達ということで心配していたが杞憂だったな。
「ロセ帝国には別件で用もあるんだ」
「アリーナとアンドロメダから聞いたで。もちろんうちらも行くで」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
かっちゃんが男前な事を言う。
そして礼を言う二人。
「だから順番としてフリナス王国の尾白の方から行こうと思う」
「ええんちゃう?」
「解った」
「フリナス王国なら隣ですからね」
かっちゃん、アンドロメダの同意に続いてアリーナが言う。
頭に地図を思い浮かべているのか斜め上を見ているね。
ここ花ちゃんの屋敷は厳密に言うとフリナス王国の一番東の辺境になる。
ドワーフ領でも通るそんな場所だ。
人は見かけないので領土とは言えないだろうけどね。
「しばらく花ちゃんの屋敷でゆっくりしてからの話だ。あ、バッキンにも顔を出すよ」
「そうやな」
「さんせーい」
今後の予定を決めた後は旅の話を花ちゃんにしていった。
シーダがいない理由は一番最初になっちゃんが話してくれていたらしく、花ちゃんは知っていた。
大蛇との戦い、遺跡のゴーレム、岩の魔物と海水浴、オークション、そしてダンジョンの蜘蛛と話題は尽きなかった。
花ちゃんは、ずっとニコニコして聞いてくれていた。
食べ物の話になると花ちゃんからの質問も飛んできた。
そうして、久しぶりの花ちゃんの屋敷を堪能した。
誤字修正。