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生物が対象の時のみ使用者に生物を取り込める。


 『錬成』のレベル5の解説には、こう書いてあったが例外というか違う結果になった……なんてこった。

取り込めるってのも能力だけなのか、俺の外観も変わるのか良く判らなかった。

世界樹にどんな力があるか判らなかったので、同化するイメージでやったのがいけなかったのかも知れないが、どちらかと言うと俺が一部になったらしい。

自我はあるし、体に変化もないが理解出来た。

その代わりに出来る事がいくつか増えた。

その一つが情報だ。

俺はこの世界の事を全て知ってしまったのではないだろうか?

世界樹の葉一枚に一人の人生全てが書いてあった。

死んだ人の事が書いてある葉も落ちずに残っている。

その時の感情すら書いてあるのだ。

誰の視点なのかも解った。

世界樹の葉全てに意味がある。

これは恐ろしい。

身近な人の情報ほど知らない方が良い。

恐ろしすぎる。

世界樹の葉に書いてないのは神が関わる情報だけだ。

そこは読み取れなくなっている。

俺が地に足を着けていれば、いつでもこの情報にアクセス出来る事も解った。

人が関わった物も情報にある。

どうやら人物鑑定、物品鑑定は限定的でありながら世界樹へのアクセスをする事によって情報を手に入れている事も解った。

地脈や魔力を介して繋がっている。

俺は亜神といっても良い力を手に入れてしまった。


 デメリットらしき物もあった。

それは人への感情が薄くなってしまったのだ。

どうでも良い存在に感じられる……意識しないと蟻などと同等の物としか思えない。

仲間達にこんな事を知られたくない。

常に意識出来る様にせねばなるまい。

そしてこの感情が誰のモノかも知っている。


「なんやトシ実験は失敗か?」


「いや、成功したよ」


「そうやったんか」


 俺は失敗したような顔をしていた様だ。

かっちゃんが世界樹の近くまで来て声を掛けてくれた。


「職業変化のあったもんもおったでー」


「誰?」


「後で話そうや」


「あいよ」


 俺はかっちゃんの後に続き世界樹から離れる。

物理的に離れても身近に感じる。

五感は俺のままだな。

目で見える物も、風の運んでくる匂いも、小鳥が囀る声も全て俺の物のはずだ。

自分が自分でなくなったのかと不安になる。


「なっちゃんどうやった?」


「あのね、ナーシサスさんが上の人に聞いてくれるってー」


「そうなんやね。草木魔法を教えてもらえるとええなぁ」


「うん」


 どうやら、なっちゃんが草木魔法を教えてくれとナーシサスに聞いたらしい。

世界樹にアクセスすれば解るんだろうけど、仲間の事は調べない事に決めた。

グググルじゃないけど、名前や顔、曖昧な情報からですら情報は流れ込んでくるのだ。

情報の限定も出来るので、ある人物の現在地だけを知ることも出来る。

目を閉じれば地図上に視覚的に見る事も出来る。

出来る事が増えすぎて混乱気味だ。

情報量が多すぎてオーバーフローしそうだ。

一人の情報だけでこれだと複数人を一気に調べたら頭がパンクしそうだ。

もっと情報を絞って検索しないと不味い。

欲しいと思っていた鑑定だが、それ以上の物が手に入ってしまった。


「草木魔法の件については後で連絡する。宿で休んでいてくれ。町には出ないようにな」


 ナーシサスはそう言って俺達を宿へ送ってくれた。


「トシの実験ってのが気になるで」


 ログハウスに入って荷物を置いて直ぐにかっちゃんが言ってきた。


「気になるー」


「そうですね」


「成功したんだろう?」


わうー


 席に着いたみんなからも言われた。


「うん。実験は成功した」


「焦らさんと教えてやー」


 かっちゃんの好奇心が疼いているらしい。


「世界樹の力を手に入れたよ」


 俺は正しくもあり間違いでもある答えを言った。

俺は正確な情報を精査するまではこれで進める。


「世界樹の力?」


 なっちゃんが首を傾げて可愛らしく聞き返してくる。


「世界樹には数えきれないほどの葉っぱがあるだろう?」


「うん」


「あの一枚一枚には人の一生が書かれている。それを読み解ける力が手に入った」


「……アカシックレコードっちゅう奴やな」


「こっちの世界にもその名前があったんだね」


「神の情報や言われとる……それが世界樹の葉っぱやったとはな」


 かっちゃんが驚愕の眼差しで俺を見てくる。

頬が紅潮しているので興奮もしていそうだ。

かっちゃん以外の人達からの反応は薄い。

そんなに知られている事ではなかったようだ。


「人物鑑定や、物品鑑定は地脈や魔力を伝わって世界樹から情報を引き出した結果だ」


「なるほどなぁ!」


「仲間の情報は調べないから安心してくれ」


「そんな心配はしとらんで」


「どっちかと言うと俺のためなんだけどね」


「……恐ろしい情報やな」


 本当にかっちゃんは察しが良い。

俺が恐れている事が何なのか理解しているらしい。

なっちゃん、アリーナ、アンドロメダは不思議そうな顔でかっちゃんと俺を見ている。

やはりかっちゃんが特別なんだな。


「『錬成』のレベルも5になったんやな?」


「うん。遺跡の村で気が付いたよ」


 俺が世界樹に『錬成』を使ったのはレベルが5になったという事と、この力がこの世界の最高神である世界神から直接貰ったギフトだからである。

自由に使えとも言われている。

この力が通用する物に遠慮する理由がないのだ。

そして実際に世界樹には通用した。

世界樹は世界神より下の存在であることは間違いない。


「それで生物も対象になったんやね」


「当たり」


「あー、何から聞いたらええんやろ。聞きたい事が多すぎるで」


「俺も混乱中だよ」


「そうは見えんで?えらい落ち着いとる」


「そうかな?」


「そうや」


 かっちゃんは俺の気が付かない所まで気が付いている。

俺の中に俺でない部分が存在していそうだ……やはり怖い。


「人の一生が読み解ける?だと」


 アンドロメダも話に加わって来た。


「ああ」


「良く解らんな」


「じゃ例を出そう……アリーナ、ヒッコリーに闇の魔法を掛けた奴の情報でどうだ?」


「何っ!?」


「えっ!?」


「ホンマか……」


 アンドロメダ、アリーナ、かっちゃんから相次いで驚きの声が上がる。


「頼む!教えてくれ」


 アンドロメダが必死になって聞いてくる。

俺はヒッコリーの情報から調べて犯人にたどり着いた。


「ボリス・ガイダール。ロセ帝国の水の魔法と闇の魔法を使うソーサラーにしてワイズマン。皇帝直轄の表に出ない部隊《皇帝の瞳》の隊長で五十歳」


「ロセ帝国……」


「皇帝直轄ですか……」


 アンドロメダとアリーナが俺の言葉を聞き呆然として呟く。


「ホンマに恐ろしい力を手に入れよったな」


「凄いねー」


 かっちゃんと違い、なっちゃんの声は軽くて明るい。


わう!


 ゴンタもなっちゃん寄りかな?素直に俺の新たな力を褒めてくれているっぽい。

何故精神汚染や精神操作をしたのかも解った。

想像通りではあった。

アリーナに関してはバックドアみたいなもので、自分の目の前に現れた時に自分以外にの周囲にいる者を殺し自害する様になっていた。

ヒッコリーはドーツ王国の弱体化とロセ帝国の強化のために鉱物と鍛冶師を盗るためだった。

新たな命令がない限り、ある男の指揮下で働くようにされていた。

その男は既にこの世にはいなかった。

ヒッコリーが精神操作のまま、その男の死を知ったらボリスの元へ戻るようにも設定されていた。

闇魔法が凄いと言うよりボリスという男が凄いのだ。

皇帝の指示で暗殺なども請け負っていた。

裏の世界の住人だ。

ロセ帝国は国民の不満が増してきており、矛先を国外へ向ける事によってガス抜きをしている。

厄介な国だ。


「まぁ俺の方は何が出来るかはっきりしていない。みんなの話を聞きたいな」


「そうなんか?まぁええやろ」


「誰が変わったのかな?」


「はーい」


「おぉ!なっちゃんか」


「うん!ワイズマンが増えたよー。かっちゃんとお揃いー」


「お揃いやな!」


「えへへー」


「氷の魔法に記憶術や高速思考だよね」


「そうなのー」


「なっちゃんにも素質はあると思ってたで」


「学習能力も高いもんね」


「照れるー」


 なっちゃんは両手で頬を抑えてクネクネしている。


「エレメンタラーっていうのも増えたよー」


「お、初めて聞いたぞ」


「精霊にお願いしてお休みしてもらえるのー」


「ん?」


「なっちゃんの場合、敵が水と風の精霊と契約してる場合に魔法の使用の禁止や制限が掛けられるっちゅう所らしいで」


 かっちゃんがフォローしてくれた。

エレメンタラーが契約している精霊と同じ精霊にお願い出来るって事か。

それって凄いんじゃなかろうか?


「水と風の魔法を使う者に対して、圧倒的優位に立てるな!」


「うちでちょっと試してみたんやけど、効かんかったがな」


「ダメだったのー」


「む?」


「何らかの条件があるみたいやね」


「そこまで上手くは行かないか」


「これから調べていくで」


「うん!」


 かっちゃんとなっちゃんは新しい玩具を手に入れた子供の様に楽しそうです。


「後のもんは強度やスキル値が上がってたものの職業に変化はなかったで」


「そっか」


「そういやトシのステータスを最近聞いてへんなぁ」


「強度が131でオーラマスターがオーラロードになってるよ。あとスカウトがシーフになってる」


「う……トシに強度が抜かれたで。うち129やもん」


 かっちゃんが悲しそうな顔をする。


「魔力を考慮すれば元々俺の方が上だったじゃん」


「それもそうやな」


 かっちゃんはあっさり復活する。


「オーラロードっちゅうことは気功術が四になったんやね」


「うん。やっとだよ」


「いやいや、おかしいからな?一年で零から四とか異常やで?」


「そぉ?」


わう?


「あー、ゴンタもおかしいからな?体術が五、気功術が四なんてなぁ」


わぅ……


 ゴンタの成長も凄いな。体術なんて最大値じゃないか!気功術に関しては俺と互角だ。


「褒め言葉やから、落ち込まんといてー」


わう


「あんたら転落組は成長の仕方が違うんやろな」


「そうかも」


わう


 そうして各自の成長を喜んだ。

俺は自分の出来る事を確認していかないとな。

アカシックレコードだけで、お腹いっぱいではあるけれども。


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