壊滅
183
「それでわざわざ寄ったのか」
遺跡の村の食堂でヨゼフ達に会うことが出来た。
今日は休養と補充の日らしかった。
「律儀ねー」
「トシの良い所だ」
カミッラとアンドロメダがヨゼフに続いて言う。
「なっちゃん、ここに座れよ!」
「座りなー」
「うん!」
ダンテとフリオはなっちゃん大好きだな。
なっちゃんも彼らを気に入ってるね。
子供達のじゃれあいみたいに見えるので、オディロンの時みたいに邪魔をする必要はない。
俺達も店員に昼飯とワインを注文した。
「アッツさん達はスクラス島のダンジョンの攻略ために残ったよ」
「そうか、俺達もアッツさん達に挨拶したかったな」
「そうねー」
俺がアッツさん達の動向について話すとヨゼフとカミッラが残念そうに言う。
アッツさん達は見習うべき冒険者達だから気持ちは解る。
「ヨゼフ達はいつまでここにいるんだ?」
「ここは中々良い所でなぁ」
「割の良い仕事も多いしねぇ」
「勢いはあるよな」
「ここにいる奴らは皆、目的があって集まってるからな」
ヨゼフが言う通り遺跡から出てくる物や、それを目的に潜る冒険者相手の商売で盛り上がっている。
「《殲滅の剣》の名前が効かないってのも、自分達の力でやっているって感じがして新鮮だ」
「自分の足で立っているって感じよね!」
ヨゼフ、カミッラも色々考えているんだな。
「冒険者の基本やな」
かっちゃんもカミッラの言葉を聞いてウンウン頷いて同意している。
「でもクランだと情報が集めやすかったり、大物討伐で人が集めやすかったり利点もあるだろう?」
「それはあるな。結局自分達が何をしたいかだよな」
「なるほど」
「今回は軽い観光のつもりだったんだがなぁ……」
「そうねぇ」
ヨゼフとカミッラは今後の冒険者のあり方を模索していると思われた。
俺達の昼飯も来たので食べ始める。
ギルスア王国は羊肉が安くて美味い。これが頻繁に食べられなくなるのは残念だ。
ワインは沢山買い込んで帰ろうと思う。
「しばらくここにいるって事か?」
「もう少しここで活動してみるさ」
ヨゼフが俺の質問に答える。
オナシス商会との伝手が出来たのも大きいんだろう。
冒険者と商人とは切り離せない関係だ。
ギルスア王国最大の商会が相手ともなれば尚更だ。
俺達は食後のお茶を飲む。
「そういえば隣の国で騎士団連合が壊滅したと聞いたぞ」
「騎士団連合?」
「ああ、対ヴァンパイアの為に国を超えて手を結んでいたらしいんだが……」
「ヴァンパイア!?」
「この国の隣の隣がヴァンパイアに滅ぼされた国だ」
「えっ!?そんなに近かったのか」
ヨゼフの口から出た雑談は俺を驚かせた。
「噂は聞いとったが、本当やったんやな」
「ああ、俺もここで話を聞いて情報を集め出した所だ」
「隣の国……ブレギルア王国辺りやろか?」
「うむ。辺境の砦が襲われて騎士団連合が救援に向かって激突したらしい」
「ブレギルア王国は無事なんか?」
「ああ、何とかいう将軍が兵を率いて砦を取り返した所までは聞いた」
「んー、ヴァンパイア達も騎士団連合と戦って無傷ではいられなかったんやな」
「ああ」
騎士団連合で勝てなかった相手を撃退出来たのには理由があるよな。
「ヨゼフらがここに残る理由の一つがそれなんちゃうか?」
「さすが、かっちゃんだな。その通りだ」
騎士団連合が壊滅したってんなら、冒険者の需要が大きくなるのは目に見えている。
そういう事か。
食後のお茶を飲んでしばらく話した後で、俺達は村を出る事にした。
お土産のワインはアリーナとアンドロメダに買いに行ってもらってある。
彼女達もシーダほどではないが酒が好きだから喜んで行ってくれた。
「またな」
「またどこかでな」
俺とヨゼフは別れの挨拶をする。
「なっちゃん!またなっ!」
「元気でな!」
「だんちゃんとふっちゃんも元気でねー」
ダンテ、フリオ、なっちゃんも挨拶を交わしている。
「ヨゼフと仲良くなぁ」
「か、かっちゃん!?」
かっちゃんとカミッラも何か話している。
ヨゼフ達と別れを済ませた俺達はラミアの里へ向かって歩き出す。
しかし、ヴァンパイアか……そんなに近くにいたとはな。
「ラミアの里にヴァンパイアが来てもおかしくないんじゃないか?」
「隣国と言っても、相当離れているから大丈夫だと思うが……」
アンドロメダも不安を拭いきれない様だ。
「ヴァンパイアには赤黒蜘蛛みたいに石化魔法が効くやろ」
俺は見逃したがアンドロメダが赤黒蜘蛛の動きを止めてゴンタが仕留めたと聞いた。
「固い外殻でなければ大体の生物に効くが……」
「奴らの再生能力もラミアの前では意味ないで」
かっちゃんがアンドロメダを落ち着かせる様にフォローしている。
「とにかく里長へ報告しよう」
「そうやな」
「うむ。警戒と対策は打っておくべきだな」
俺達にとってもラミアの里は大事な場所だ。
アンドロメダの生まれた里だしな。
夕方にはラミアの里へ着けるだろう。
自然と足の進みが早くなる。
ラミアの里へは順調に着いた。
日が落ちる前に着けたが、今日はラミアの里泊まり決定だ。
「里長へ面会の許可をもらってくる」
アンドロメダが里長の屋敷へ入っていった。
ゴンタは移動中も何かを浮かせて『念動力』の訓練をしていた。
今も魔鉄の玉を浮かせている。
ここまで気合を入れるとは思わなかったなぁ。
なっちゃん、アリーナはゴンタの側で楽しそうにしている。
ヤマト、ミズホは眠そうに欠伸をしている。
やはり子供だね。
「入ってくれ」
アンドロメダは里長からの了解を貰えたようで屋敷の中から俺達を呼ぶ。
アンドロメダに連れられて里長の元へと進む。
「良く来た」
「お久しぶりです」
「座りなされ」
俺達は里長に促されて座る。
「アンドロメダから話は聞いた」
ヴァンパイア侵攻の話だな。
「はい、俺達も今日聞いたばかりです」
「ふむ。何か動きがあったのは知っておったがヴァンパイアだったとはのぅ」
里長の情報網にも引っかかっていた様だが詳細までは伝わっていなかったらしい。
里長は難しい顔をしている。
「日中は大丈夫として、夜間警戒を強めて石化魔法で対抗すれば何とかなるんちゃう?」
「……今、出来る事はそのあたりじゃな」
かっちゃんの意見に同意する里長。
「ヴァンパイアの襲撃時の一般人の退避場所の設定や、防御施設の強化も考えるべきでしょう」
「退避場所については以前から決まっておる。防御の強化は考えよう」
里長は俺の提案にも答えてくれる。
何かの襲撃は元々想定してあったらしい。
魔物が闊歩する世界だ、あって当たり前かもな。
「後は情報じゃな。信頼出来る者達には限りがあるが頼んでみよう」
確かに情報は大切だ。
ラミアを外へは出していない様なので、外部機関に依頼して情報を得ていると思われる。
情報専門のシーフ系の組織があるとは聞いている。
そういう組織もピンキリで性質の悪い奴らも多いと聞いている。
「アンドロメダ、お前は数少ない外部活動員だ。油断してはならんぞ」
「はい。解りました」
里長は厳しい口調ながら優しい目でアンドロメダを見ている。
傍から見ていると祖母と孫って関係に見える。
ヒッコリーの二の舞を恐れながらも、アンドロメダの実力と、その仲間である俺達を信じてくれているのが感じられて嬉しい。
アンドロメダの外部活動を許可してくれているのが、その証拠だ。
特例と言っても良いと思う。
俺達はお土産として氷漬けの魚を渡した。
里長も海の魚が好きな様で、相好を崩していた。
そのおかげか宿を取らずに済んだ。
また宴を開いてくれるとの事。
かっちゃん、アンドロメダが刺身が美味いと言って、料理人に着いて行った。
恐らく魚の解凍と魚の切り方、醤油の提供などに行ったと思われる。
俺も刺身が食べたいので、ありがたい。
エールで刺身だと生臭さが際立つので、買って来たばかりの白ワインを提供した。
日本酒ほどではないが生の魚にも合う。
「トシ!」
里長の屋敷の食堂へシーダが来てくれた。
「シーダ!元気か?」
「ええ!」
シーダはシュルシュルと一目散に俺へ向かって来た。
勢いがあったので抱き留める。
うむ、良い感触だ。
「アリーナ、なっちゃん、元気そうねぇ」
シーダの感触は直ぐに消えた。
「うん!」
「シーダ……」
少し離れていただけなのに、懐かしく感じる。
アリーナは感極まって泣き出しそうだ。
アリーナも家族がいないから、仲間というものがとても大切なのかも知れない。
「ゴンタちゃん!」
わう
「あら、ヤマトちゃんと、ミズホちゃんは少し大きくなったんじゃない?」
わぅ
あ……ヤマトとミズホが嬉しそうにしている反面、ゴンタが落ち込んだ。
子供達に体格で負けているからな……。
俺はゴンタの隣に行き、撫でて慰める。
わぅ
言葉は掛け難いので黙って撫でる。
さすがにヒッコリーは来ていないな。
罰だから仕方ないか……子供の状態だから可哀想ではある。
そして食堂へ料理が届いた。宴の始まりです。
かっちゃんが美味しそうに刺身を食べているのを見て、様子を伺っていたラミア達も刺身に手を出し始めた。
「美味しい!!」
「生なのに……」
「この調味料は何!?」
「私のよー!」
あっという間に刺身の奪い合いにまで発展した。
赤身の刺身も白身の刺身も大人気になった。
彼女達はアンドロメダ、かっちゃんに詰め寄って美味しい理由を聞いている。
醤油は難しいだろうが、氷の魔法は執念でものにする人が出てくるかもな。
俺の分の刺身はちゃんと確保して置いた。
白ワインも沢山買ってきてあったが、凄い勢いで呑まれて行く。
さすがラミアだ。蟒蛇と言っても良いな。
アリーナとなっちゃんがシーダにくっついて、遺跡やダンジョンの話をしている。
ダンジョンの話の最後でシーダに睨まれた。
俺が無茶をしたのがバレてしまったらしい。
かっちゃん、アンドロメダも刺身好きなラミア達から解放されて話に混ざった。
アンドロメダとシーダが並んでいるのを見ると何か安心するな。
一緒にいるのが当たり前だったからね。
そしてヴァンパイアの話も出た。
周りのラミア達もワインを呑む手を緩めてヴァンパイアの話を聞いていた。
里長に確認にいった人もいたね。
パニックになることはなかったが、他人事ではない様で真剣な表情になっていた。
「トシ達がもたらしたヴァンパイアの話は確認中だが本当だろう」
「「……」」
「わしらも打てる手は打っている。夜の警戒を強めていくぞ」
「「「はい!」」」
ラミアは心も強いな。
それからは真面目な話、馬鹿話と色々な話で盛り上がった。
俺に好意的という理由もあるが、出来るだけ力になりたい。俺はそう思った。