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課題

182


 俺が灰白蜘蛛の体当たりをダメージから完全回復したのはダンジョンから戻って三日目だった。

マルクは前日に復活していた。

胸と腰に痛みが残っていたので、無理をしなかったというのもある。

腰はヤバイ。


 ベッドで体を起こすのは問題なかったので、壊れた胴鎧の修理をした。

アーマーリザードの鎧は斬撃や刺突には強いが打撃にはイマイチだ。

そこの部分も改良してみた。

ブラッドベアの毛皮を二重にして鎧の内部にくっつけた。

布も当てたのでチクチクはしないが、これから本格的に暑くなるのだけが心配だ。


 ゴンタの『念動力』練習用に少し大きさの違う魔鉄の玉もいくつか作った。

宿にいる間、ゴンタはずっと練習していたとアリーナが教えてくれた。


「トシ、ようやく復活したんやな」


「サム、やっとだよ」


 朝食の席でサムが声を掛けて来た。


「まぁ、トシのためにも仲間のためにも無茶をする場面は考えるんやな」


「う……そこは反省しましたとも」


 アッツさんが痛い所を突いてくる。

俺の状況把握が甘かった。

討伐の仕事でないなら、今度は逃げるさ。


「うちらは花ちゃんの屋敷へ戻ろうかと思うんやけど、おっちゃんらはどうするん?」


 パンをスープに浸しているかっちゃんがアッツさんに聞いた。

そう、ヒッコリーの精神操作の解除は終わったし宝珠の鑑定、使用も終わったので花ちゃんの屋敷に帰るのです。

もう目的は果たした。

みんなは俺が臥せっている間に島や商店を見て回ったらしいしな。


「そうか……わしらは兵士経由で来たギルスア王国の依頼を受けて、ここのダンジョンへまた潜ることにしたで」


 アッツさんは、ちょっと悲しそうだった顔がキリリッと引き締まった。

ギルスア王国からの依頼か……さすが名が売れているだけの事はある。

アッツさん達もダンジョンより遺跡の方が面白いと言っていた。

アッツさん達にはアッツさん達の付き合いってもんがあるから断れなかったのだろう。


「トシ達とダンジョンに潜って熱くなれたしな。ダンジョンも悪くねぇ!」


 エディの戦闘狂に火が付いたらしい。

嫌々潜るよりは良いか。


「デメトラとフェドラもいるしなー」


 クァンタンも乗り気らしいが理由が違いそうだ。


「そうだね」


 オディロンもクァンタン寄りの意見かな?彼なら女性も選べる立場だろうに。

オディロンとデメトラが並ぶとお似合いではあるな。ちょっと思い出してしまった。


「ひっひっひ」


 ガストンは斥候の仕事以外はコレばっかりだな。


「……今度は勝つ」


 マルクはリベンジに燃えている様だ。

それぞれ前向きにダンジョンへ挑むのが伺えた。


「それじゃ、ここでお別れやな」


「やな」


 かっちゃんも、アッツさんも出会いと別れとの付き合い方を良く知っている。

切り替えが早い。


「トシ、今日のうちに島を出ようや」


「あいよ」


「はーい」


わう


「ラミアの里へは寄ってもらうぞ?」


「当然ですよ」


 かっちゃんの提案は仲間達に受け入れられた。

アンドロメダの言うようにラミアの里を覗いてから帰ろう。

俺達はアッツさん達と握手をした。

彼らはこれからダンジョンへ向かうと言うので、この場でお別れだ。

エディはゴンタとの再戦の約束をしていた。

ゴンタもエディは良い相手だったのか嬉しそうだ。

アリーナはガストンから学ぶことが多かったのか礼を言っていた。

ガストンからはまた笑い声が聞こえた……ちゃんとコミュニケーションが取れているか怪しい。

アンドロメダとクァンタンは弓でライバルになっていたらしい……にこやかでありながら妙に緊迫感のある握手だった。

オディロンがなっちゃんの手を中々離さなかったので、俺がオディロンの手をペチリと叩いて離させた。

オディロンから文句を言われたが知らぬ。

かっちゃんはアッツさん、サムと抱擁していた。

ぬいぐるみがくっついている様で微笑ましい。


「またな」


 俺達は別れた。

また会うこともあるだろう。

冒険者ってのは、そう言うもんだ。


 俺達は荷物を纏め、宿を引き払った。

向かうはデメトラの店だ。

世話になったから挨拶をしておかないとな。


「いらっしゃいませ……あら復活したのね」


 デメトラが俺を見て言う。


「何とかね。今日はお別れの挨拶に来ました」


「あらあら!フェドラー!」


 デメトラは部屋の奥へ向かってフェドラを呼んだ。


「どうした?」


「みんながお別れの挨拶に来てくれたの」


「そうか」


 奥から出てきたフェドラ。意識しているのか低くて聞き取りずらい。

なっちゃんがフェドラに駆け寄る。


「花ちゃんの所に帰るのー」


「花ちゃんによろしくな」


「うん!」


 なっちゃんはフェドラに花ちゃんの事を沢山話したらしい。


「もっと魔法の話をしたかったわ」


 デメトラはとても残念そうだ。


「後は自分で頑張りや」


「ええ!もちろんよ」


 デメトラは魔法馬鹿なのかも知れない。

魔法使いは皆そういう傾向にあるが、特に凄いかも。

風の魔法を進化させる気満々だ。


「氷の魔法が水の魔法の上位魔法ってんなら、風の魔法は既に上位の方だと思うよ?」


「えっ!?」


 俺はつい考えていた事を行ってしまった。

まぁ置き土産みたいなもんだ。


「水の状態変化が氷なら、大気の状態変化が風だからな」


「なるほどなぁ。そう言われれば風の魔法は上位魔法かもな」


 かっちゃんは直ぐに理解したらしい。ウンウン頷いて言う。


「私達が使っている魔法が上位魔法……?」


 デメトラが自分の世界に入ってしまった。


「考え方一つで概念ってのは変わるもんやね」


「でも実際の所は判らないし、神様の考え方にもよるんじゃない?」


「確かにそうやな。まぁ新しい魔法の習得への手掛かりにはなるかもなぁ」


 かっちゃんが何かブツブツ行っているデメトラを見て言う。


「それじゃ、またね」


 俺はデメトラの手を取り握手する。


「え、えぇー!これで帰っちゃうんですか!?」


「刺激になったろ?」


「うぅ……」


 ちょっと涙目になったデメトラでした。


「自分の力が試せるやん?」


「はい……」


 かっちゃんもデメトラと握手をしている。

何だかんだ言っても同じ魔法使い同士通じるものがあるんだろう。

名残惜しそうにしているデメトラだった。


 そしてデメトラ、フェドラと別れた俺達は島の北西を目指した。

船の手配はせずに俺達の船で海へ出るために人目のない所へ行く。


「しゅっぱーつ!」


わうー


 なっちゃんの楽しげな声にゴンタが返事をする。

『錬成』での船造りもなれたものだ。

風の魔法使い、水の魔法使いが複数いるので、うちの船は速い。

波も高くないので海面を滑るように進む。

日差しがきつい時期になってきたので屋根も付けてある。

風が気持ち良い。

かっちゃんのために網で魚の捕獲も狙う。

俺達だけだと好きに出来るから良いよね!


 順調な航海で昼飯の前に上陸出来た。


「凍らせるでー!」


 かっちゃんが魚の冷凍に掛った。

一人で食べきれないほどの魚が複数取れた。

ラミアの里へのお土産にもなるな。

ラミア達も魚が好きだし、川や湖の魚以外も喜ばれるに違いない。

俺はかっちゃん、なっちゃんが凍らせた魚を箱に詰めていく。

アンドロメダは、かっちゃん、なっちゃんを凝視している。

彼女は未だに氷の魔法には至っていないので見て技術の一端を学ぼうとしているのだろう。


「ラミアの里へ直行するんか?」


 かっちゃんが昼飯の魚の塩焼きを一本食べ終わって聞いてくる。

ヤマト、ミズホも魚は好きなようで既に三匹目に取り掛かっている。

アリーナが串から魚を外してはデレッとした顔で給仕している。

魚の塩焼きは美味いよね!


「ヨゼフ達に見送られて遺跡の村を出たけど、まだいるならちゃんと挨拶しておきたい」


「なら遺跡の村、ラミアの里の順やね」


「うん」


「ヨゼフ達もクエストをこなしつつ楽しんでいたみたいやから、まだおるやろ」


「オークションで儲かったしな」


 アンドロメダもかっちゃんと同じ意見らしい。

ヨゼフ達がラマへ帰ったならそれはそれで構わない。

俺の気持ちの問題だけだからな。

俺も二本目の串に手を伸ばす。


「ラミアの里でシーダに会ったら、世界樹に寄って帰るよー」


「世界樹?」


 アンドロメダが思わぬ名前を聞いたという風に言う。


「ああ、みんなも強くなったから変化がありそうじゃないか」


わう


「いこー」


「ええんちゃう?」


「そうもそうだな」


「良いと思います」


 みんなの了承を得た。

一番乗り気なのは俺だったりするけどな!

楽しみだぜ!!


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