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高名

181


 俺は何とか体を起こせるほどには回復した。

それでも壁に寄りかからないと辛い。

灰白蜘蛛と赤黒蜘蛛が床に転がっているのが見えた。

こうやって自分の目で確認出来ると安心出来る。


「トシちゃん、大丈夫?」


 俺の横に座り込んだなっちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。


「かなり良くなって来たよ。心配かけてごめんね?」


「うん……トシちゃんは倒れちゃダメなの!」


「ああ、もうこんな姿は見せないよ」


 なっちゃんが無茶を言って来るが返事をする。こんな姿は見せないってのは、今度同じような場面があったら、きっちり逃げるって意味です。


「本当だろうな?絶対だぞ?」


 アンドロメダも怒ってますといった口調で確認してくる。


「本当だ。今度は逃げるからね」


「強くなりましょうよ……」


 アリーナがツッコミを入れてくる。

成長したな!アリーナ。

まぁ冗談はさて置き、強くならないとな。

俺は仲間全員を死なせるわけにはいかない。もちろん自分の命もだ。

俺の胴防具であるアーマーリザードの鎧の胸部分がひしゃげているのを見て、また反省する。

一応リーダーとして仲間を率いている以上、全員が生き残る方法を選び続けなくてはなるまい。


わぅ


 ゴンタも心配そうに俺を見てくる。

尻尾がダランと垂れていて元気がない。

すまん。


「ゴンタ、心配を掛けたね。俺も強くなるから今回は許してよ」


わう


 ゴンタは鼻面を俺の手に摺り寄せてから隣に伏せた。

ミナモ、ヤマト、ミズホもゴンタの側に来て伏せた。


「アリーナ、みんなに水を出してやって」


「はい」


 俺はアリーナへ頼んだ。


 部屋を見回すとアッツさん達はマルクの倒れている所へ集まっている。

どうやらマルクも俺と似たような状態らしく、やっと体を起こしているといった感じだ。


「トシ、灰白蜘蛛に剣が刺さってたぞ」


 エディが俺の魔剣を持ってきた。


「ありがとう」


 俺は剣を受け取りエディに礼を言う。


「それ魔剣か?それが刺さってる間にかなり弱体化したぞ。アッツの魔法が有効になったからな」


 俺が思っていたより魔剣は仕事をしてくれていた様だ。

無茶をした甲斐があったのかな?落札して良かった。


「ああ、遺跡の村のオークションで手に入れたばっかりの魔剣だ」


「トシが無茶しやがったんで、俺達にもお前の熱さが移っちまった。おかげで無茶しちまったぜ」


「エディも良い所があるな」


「バーカ。でもまぁそういう馬鹿は嫌いじゃないぜ?」


「おう、今度は逃げるけどな!」


 仲間達の手前死なない程度に頑張るさ、とは返せなかった。


「がっはっは!それが良い」


 エディは俺の物言いが気に入ったのか笑ってアッツさん達の元へ戻っていった。


「俺はまだ治療に時間が掛りそうだから、みんなも休憩してよ」


「うん」


「そうだな」


 なっちゃんと、アンドロメダも座り込んだ。

かっちゃんはアッツさん達と何か話している。

今後の予定の話かな?


「トシちゃん、膝枕しようかー?」


「な、なっちゃんばかりずるいぞ?」


「でもでもー、なっちゃんの仕事だよー」


「今度は譲れんぞ」


 俺が言葉を返す暇もなく何やら争っている二人。

嬉しいやら恥ずかしいやら、とにかく照れくさい。


「あっ!」


「あぅ……」


 ゴンタの背中を枕にさせてもらった。

そういや落ちて来た頃は、こうやって寝てたな。

ゴンタは何も言わず尻尾で俺の顔をポフポフしてくる。

ゴンタもその時の事を思い出しているのかも知れないね。

俺とゴンタの様子を見て静かになった、なっちゃんとアンドロメダ。

何か言いたそうにも見えるし、微笑ましそうな物を見ている様にも見える。

ミナモが俺を睨んでいる気がしないでもないが、今は許してくれ。


「魔物の死体がダンジョンへ吸収される前に回収するでー」


 アッツさんの所から戻ってきたかっちゃんがポンポン手を叩きながら言う。


「はーい」


「そういえばそうだったな」


「トシは寝とれ」


「あいよ」


 かっちゃんが、なっちゃん、アリーナ、アンドロメダを連れて回収へ向かった。

俺の枕は連れていかれなかった。回収では出番がないもんな。

そのゴンタがスパイクスパイダーの死体を浮かせている。

『念動力』の練習かな?よほど空を飛べるかもって言葉が効いたらしい。

俺は魔鉄の玉を出してやった。

腕くらいは動かしても問題ない。


わう


 ゴンタは魔鉄の玉を見て一吠えした。ありがとーかな。

魔鉄の玉が空中へ浮いた。掌に収まる程度の大きさなので、それほど重い物ではない。

ヤマトとミズホが空中に浮いた球を目で追っている。

体は大きくなってきたが、まだ子供には違いないからな。何にでも興味があるのだろう。


 俺とマルクが移動出来る様になるまで、結構時間が掛った。

みんなも飯を食べたり昼寝をしたりしていた。

灰白蜘蛛は赤色魔石、赤黒蜘蛛は橙色魔石、小さい毒蜘蛛、スパイクスパイダーは青色魔石を持っていた。

魔石の総数は五十ちょいって所らしい。青色魔石は下から二番目なので大して儲からないけどね。

灰白蜘蛛の赤色魔石はヴァンパイアと同じくらいでピンポン玉程度の大きさだった。あれなら天光貨二枚にはなる。外殻なども防具に仕えそうだと言ってアッツさん達が回収していた。

俺もヴァンパイア戦から、かなり強くなったのに……まだヴァンパイアと戦えるほどの力はないって事かな。

敵との相性もあるか、と考え直す。

魔剣もあるし、今あのヴァンパイアと戦っても同じ結果にはなるまい。

あいつらの再生能力も魔剣フォーリンマンによる傷を防げないだろう。


「ダンジョンを出てゆっくり休もうや」


「「おう」」


「はいな」


 アッツさんの号令で蜘蛛部屋を出る俺達。

地下深くないので助かったね。

しかし見習い冒険者でも来れる様な所に、あんな蜘蛛がいたなんてな。

それとも詰所の兵士辺りが蜘蛛の情報を教えてくれていたのだろうか?アッツさん任せで聞いていなかった可能性はある。

ちょっと気功術が使えれば、あの部屋を避ける事は出来るんだろうけどな。

灰白蜘蛛は、あからさまに強い気配を持っていたからね。


 俺はダンジョンに向いていないのかも知れない。

ダンジョンへ入ると毎回こんな有り様だ。

閉塞感も苦手だ。

森や山の方が好きなのは間違いない。


 俺とマルクは集団の中ほどでゆっくり歩かせてもらった。

そのせいでダンジョンを出るのに時間が掛ってしまった。

外へ出た頃には完全に日が落ちていて暗い。

だが空気が美味い!生きているって素晴らしい!!

マルクも同じ様な事を思っていたようで、俺と顔を見合わせて笑いあった。

みんなからは不思議そうな目で見られたが、これで良いのだ。


「こんな時間にダンジョンを出てくるなんて珍しいな」


 ダンジョンの出入り口にいた兵士から声が掛った。


「地下二階の蜘蛛部屋を潰してきたでー」


「何っ!?」

「そりゃー凄い!」

「あの白っぽいのも倒したのか!」


 アッツさんが報告をすると、ざわめく兵士達。

やはり蜘蛛部屋は有名らしい。


「灰白蜘蛛も、赤黒蜘蛛も倒したで!」


「「おぉ!」」


 アッツさんが赤色魔石を自慢げに見せた。

まぁ誰かが赤色魔石を狙って来ても返り討ちだろうから良いか。


「赤色魔石か……」

「初めて見たっす」

「そこまでの大物だったか」


 再びざわめく兵士達。

俺もちょっと気分が良いぞ。

痛い目にあった分、気分くらいは良くしないとな。


「君達の名前を聞いておきたいんだが、良いだろうか?」


 一番年嵩の兵士が聞いてきた。

口調が砕けたものでなくなっているのは、俺達が実力者だと解ったからであろう。それもどうかと思うが黙っておく。


「わしらは臨時に手を組んだ二つのパーティや。わしが代表のアッツやでー」


「アッツ……」

「あの……」

「遺跡の踏破者か」


 ここの兵士達はざわめくのが好きだね。

当人を目の前にして良くやる。


「そうでしたか、ご高名はかねがね伺っております!」


 アッツさん達のパーティは有名なんだな。

実力を知った今では、当然だと思えるけどな。


「ダンジョンを踏破しに来られたのですか!?」


 一番若そうな少年といってもよさそうな兵士がキラキラとした尊敬の眼差しでアッツさんに問いかける。


「ちょっと寄っただけなんよ」


 アッツさんはキラキラした目に押されたのか、申し訳なさそうに返事をする。


「そうでしたか……」


 あからさまにがっかりした様子の若い兵士。


「さすがに怪我人が出たんで、休ませてもらうわ」


 アッツさんが話はここまでと言った風に言う。


「はい。お疲れ様でした!」


 兵士達が揃って敬礼している。

ノリが良いのか判らないが、ちょっと面白い兵士達だ。

町へも近いのが、ここのダンジョンの良い所だな。

まだ重い体を何とか動かす。


 宿は取ったままだったので部屋はある。

俺達は宴で騒いだりせずに、そのまま部屋へ戻った。

アリーナへゴンタ達の食事だけ頼んで、俺は床へ就いた。


 そして俺は何か考える間もなく眠った。

俺の両脇に温もりを感じた気がした。


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