観光?
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「これだけの面子が揃っているんだ、ちっとばかしダンジョンにいかねーか?」
デメトラから奢ってもらった翌日の朝飯の席で、一番に朝飯を食べ終わったエディが提案してきた。
俺の仲間達が俺を見てくる。
「ここのダンジョンはどんな魔物が出るの?」
「定番のアンデッドと蛇、蜘蛛、ネズミ辺りが出た覚えがあるな」
アンデッドは冒険者のなれの果てだったりするから定番なんだよね。
「ちょっと行ってみようか。この面子なら危険も少ないだろう。いいかな?」
俺は仲間達に向かって了承を求める。
わうー
「はーい」
「ええで」
「お宝がありますかね!?」
「面白そうじゃないか」
うちの仲間達から許可が出た。
「行きましょう」
「おう」
「かっちゃんとダンジョンなんて久しぶりやなぁ」
「おっちゃん、全体のリーダーを頼むで!」
「はいな」
うむ。かっちゃんの言う通り経験豊富なアッツさんにリーダーをして欲しい。
俺より強そうな奴を使うのも勘弁だ。
「お前らも食い物なんかはあるんだろ?水だけ補充すれば良いな」
「おう」
エディは俺達の返事も聞かずに話を進める。
まぁその通りなんだけどさ。
「ゴンタ、実戦で『念動力』を試せるな」
わう!
ゴンタの戦いに幅が出るはずだ。
対人戦であれば相手のマントを目の前に翻すだけで効果はある。
まだ重さも効果範囲も足りないがやれる事はあるだろう。
「朝飯を食った奴から準備を整えて待機な!」
エディは戦いたくて仕方ないって感じだ。
戦闘狂め。ゴンタとの模擬戦もしていたが木刀ながら良い勝負をしていた。
あれはエディが凄かったんだろう。
筋肉ムキムキの癖に俺と良い勝負の速さもあった。
その速さでもゴンタの速さに追いついていなかったが、推測だけで相手が出来ていたもの。
何かギフトでもあるんじゃないかと思わせられる動きだった。
全員の準備が整った所でダンジョンヘ向かった。
向かったと言っても町を出て数分でダンジョンの入口へ着いた。
地下へ降りる階段と階段の入口を保護する小屋、そして兵士の詰所がひと塊になっていた。
店を構えていない行商人らしき人が薬を売ってたりして面白い。
地図も売っている様だが、今回の俺達には必要ない。
本格的なダンジョンアタックではないからね。
ダンジョンでは入場料として一人銀貨一枚を取られた。
遊び半分で潜られても困るのと、兵士の派遣料や小屋の維持費なんかに使われるのだという。
アッツさんが代表して払ってくれた。
ゴンタ達の分は取られなかったので嬉しい。
セコイ俺であった。
「ゴンタ達に斥候を頼むで。それから罠対応でガストン、前衛の守りマルク、主戦力エディ、オディロン。後衛がわし、サム、クァンタンで行くでー」
「うちらはどうするん?」
アッツさんの陣形に俺達は入っていなかったのでかっちゃんが聞く。
「大部屋辺りで交戦するまでお客さんやな。後方の警戒は任せたで」
「はいな」
「後衛が前で俺とアリーナが最後方ね」
うちの陣形は決まっている。
いつもの陣形をひっくり返すだけだ。
「はーい」
「解りました」
エディ達が体を解しているのを見て、俺達も軽く体操をする。
昔ぎっくり腰をやったことがあるので腰回りの運動を中心にする。
ぎっくり腰は名前で損をしていると思う。名前以上に厳しい。
俺なんてボーリングをしていてなったんだよ……ボールが手を離れた瞬間に腰に痛みが走ったのだ。
タクシーで家の近くまで行ったが家の前ではいけなかった。
百mくらい歩いたのだが三十分ほど掛ったよ……体の中心部が壊れるとこんなにきついのかと思ったね。
寝がえりは打てないしトイレに行くのも一苦労だった。
みんなも腰は大事にしろよ!うん、嫌な思い出を思い出したから混乱気味だ。
「行くで!」
「「「おう」」」
久しぶりのダンジョンだ。
カビーノ達は元気にしているだろうか?前回のダンジョンで同じ苦労をした友人たちの顔が思い出された。
遺跡と違い階段から既に暗い。
かっちゃんが光のマジックアイテムを出している。
あ!アッツさんが光の玉を空中に出してくれた。
そうだ、アッツさんは光の魔法の使い手だった。
精神状態の浄化をしてくれる力としか認識していなかった。
俺はカンテラを出そうとした手を戻した。
これは良い。
光の玉のおかげで天井に張り付いている蜘蛛の魔物も簡単に見つけられた。
天井にいる魔物は気配が解っていても見つけにくかったから助かる。
クァンタンの矢でボトボトと射落とされていく。
スパイクスパイダーと言う名前らしい。
ハリネズミの様に棘を背中に何本も持っている蜘蛛で靴ほどの大きさだ。
天井からの棘による体当たりで奇襲してくるそうだ。
天井に糸を付けて振り子みたいに攻撃してくる事もあるので注意だってさ。
俺達の出番はありませんでした。
クァンタンが射落としても生きている奴はマルクが盾でぶっ叩いていた。
エディはメインウェポンがハルバードなのだが通路では使い難いのか片手剣と盾を使っている。
オディロンはバスターソードだね。片手でも十分威力が出ている。
ガストンはバックラーとショートソードだね。回避と速度で勝負って感じだ。
ゴンタの声は時々聞こえてくるので戦ってはいるのだろう。
前の方なので良く判らない。
一時間ほど歩いて降りる階段へと着いた。
ここまでスパイクスパイダーとしか戦っていない。
駆け出し冒険者でもここまで来れるだろう。
ゴンタを先頭に階段を降りる。
「次の階からは魔物部屋があったはずだ」
エディが言う。
遺跡のアンデッドが籠っていた部屋みたいなもんかね。
「そんな部屋でどうやって生きているんだか……」
「わしはダンジョンを巨大な魔物やと考えとる」
「ふーん……って今大切な事をサラッといったね!?」
アッツさんの口調が普通だったのでスルーしそうになった。
俺も前回のダンジョンで色々と考えてダンジョンは生き物なのではないかと思ってたんだ。
俺の『錬成』もダンジョンの壁には効かなかったしさ。
「出てくる魔物は全てダンジョンの支配下やと思う。普通別種の魔物がいたら争いになるからなぁ」
そう、山や森だと魔物同士でも争うのだ。
しかしダンジョンでは連携こそ取らないが魔物同士が一緒にいたりする。
「そんでダンジョンに出てくる魔物はダンジョンに一度でも喰われた魔物が出てくるんやと思う。基本的にダンジョンの周りにいる魔物とその上位種しか出て来ん」
ほー、それは気づかなかった。
「人も喰われていると思うんだけど、どうなんだろう?」
人が敵として出てきた覚えがないので聞いてみる。
「おそらくアンデッドとして出て来てるんやないかなぁ。もしくはある場所に纏められているかやな。これに関しては自信がないで」
もっとダンジョンについての考察を聞きたかったが階段を降りてしまったので終わりになった。
つまりアッツさんの言う通りなら、俺達は今も魔物の腹にいるも同然か。
気功術による気配読みで小さい気配が読み難くなる時があるのはダンジョン自体が魔物のせいかも知れない。
色々と納得できる部分がある。
マジックアイテムの複製が出来たりはしないんだろうか?魔物を生み出すのと大差ない気がする。
固有名持ちのマジックアイテムが複数見つかっていないから、やはり無理か。
戦いに出番がないので、つい考えこんでしまう。
「誰も魔物部屋には手を出していないみたいだぜ」
しばらく歩いたところでエディが嬉しそうな口調で言う。
顔は見えないが獰猛な笑顔に違いない。
エディが見ている先にはかなりの数の気配が感じられる。
扉の向こうだな。
しかも強い奴もいる。床から離れているのでおそらく蜘蛛の魔物の上位種と思われる。
「蜘蛛の魔物の上位種なんじゃないか?」
「ええ読みや。トシの読みは当たっとるやろ」
アッツさんが褒めてくれる。嬉しい。
「お前らも油断するなよ」
エディが戦っていない俺達に注意を促す。
「おう」
「俺達が先に行くから、着いて来いよ」
「おう」
おうおう言っている俺が変みたいだ。
エディは意外と面倒見が良いな。
これはアレだ、学校に行く前にお母さんが子供にハンカチを持った?とか言ってる感じだ。
そう思い当たったら吹き出しそうになった。
いかんいかん!気を引き締めねば。
そして部屋に突入した。
アッツさんが光の玉を大きくしてくれたおかげで部屋の中が良く見える。
何だろう、ダンジョンの腹の中なんて思っていたせいか、色こそ灰色だが胃の中の様な部屋だ。
石の突起がいくつもある。そして突起や壁に蜘蛛の巣が縦横無尽に張られていた。
うは……天井や壁に蜘蛛が沢山引っ付いている。キモイ。
あ、ゴンタを先頭にミナモ、ヤマト、ミズホが壁に向かっていった。
スパイクスパイダー相手に良く突っ込んでいくなぁ。
ヤマトとミズホは火の魔法で蜘蛛を焼いている。
物理攻撃をしているのはゴンタとミナモだ。
棘に刺さらないようにゴンタがひっくり返して腹を攻撃している……って自分でジャンプして距離を縮める事によって『念動力』を使っているのか!適応力があるな。
確かに蜘蛛は重くなさそうだが上手く使うもんだ。俺は感心してしまう。
火を脅威と思ったのか蜘蛛の集団がヤマト、ミズホへ向かって殺到していく。
しかしマルクが盾を持って割り込む。エディもハルバードに換装して豪快に振り回している。
オディロンはマルクの援護に回って死角を潰している。
アッツさん、サム、クァンタンは扉の側から攻撃を始めた。
俺はゴンタ達の反対側の壁へ動く。
アリーナは俺の後ろで盾を構えている。
かっちゃんは石礫の魔法、なっちゃんが氷礫の魔法で攻撃しだした。
アンドロメダは矢を射始めた。
蜘蛛は棘があるものの外殻はそれほどの固さがない様で一撃で倒れていく。
俺、アリーナは盾で蜘蛛の棘突進を防ぎつつ、剣で突き刺していった。
「奥の大物が動いたで!」
アッツさんが大声で教えてくれる。
スパイクスパイダーが靴くらいの大きさなのに対してバイクほどの大物だ……いや、もっと奥にあった岩が動いた!軽トラくらいあるぞ!
それこそがアッツさんの言う大物らしい。
バイクほどの大きさの蜘蛛は棘がなく赤と黒の斑模様でいかにも毒持ちって感じだ。
軽トラくらいの蜘蛛の方は白っぽい灰色でロボットみたいに見える。固そうだ。
大きい蜘蛛ってのは気味が悪い。
何を考えているか読めないのが一番怖いね。
スパイクスパイダーを仕留めながら大物を観察する俺であった。
蜘蛛の糸と毒には気を付けないとな。
そして蜘蛛の巣にヤマトとミズホが放った火の玉から引火した。
それが引き金になったかの様に大型蜘蛛との戦いの火蓋が切って落とされた。