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「先生、お久しぶりです」


 店内へ入ると、アッツさんへ女性が駆け寄ってきた。


「デメトラ、先生はやめい」


「先生は先生ですわ」


 アッツさんを先生と呼ぶ女性は、白衣を着ている。

明るい茶髪をアップにしている。

大人の女性といった感じだ。

確かに美女だ。目、鼻、口のバランスが良い。

特に、ちょっとタレ目なので優しげな感じがする。眉毛もシュッと水平に伸びて知的に見える。

身長は俺と同じくらいかな。アッツさんと並ぶと大人と子供に見えるね。


「この子がこの店の店主でデメトラや。この子の父親がわしの弟子でな、何度か魔法の講義をしたせいか、わしを先生呼ばわりすんねん」


「初めまして、バッキンの冒険者のトシです」


「おっちゃんの姪のカッツォや、かっちゃんでええで」


「なっちゃんだよー」


「初めましてアリーナです」


「アンドロメダだ」


わう

わふ


がう

ばう


「あらあら、初めまして。デメトラです」


 俺達はそれぞれ挨拶をしていく。

デメトラさんはゴンタ達を見て笑顔を見せている。


「世話になるでー」


「デメトラ、久しぶり」


「やぁ、デメトラ」


 サム、オディロン、クァンタンも俺達に続いて挨拶している。

マルク、ガストンはその様子を見ている。

エディは……明後日の方向を見ている。やはりデメトラさんと何かあったらしい。


「オディロン、クァンタン、お久しぶりね」


 デメトラは彼らに笑顔を向けて挨拶を返している。

エディの事は何も言わないな。


「デメトラの力を借りに来たで」


「とりあえず、中へどうぞ」


 デメトラさんはアッツさんを店の奥の部屋へ連れて行く。

俺達もその後ろを着いて行く。

店の中は雑貨しか置いていない。

低級魔石を使った日用品のマジックアイテムと、安物の薬関係しか見当たらない。

店先に高価なマジックアイテムを置かないのは当然か。


 部屋の奥からデメトラさんではない女性が店へ出てきた。

デメトラさんが奥へ引っ込むので店番だろうか?腕の筋肉の付き方からして戦士っぽい。

女戦士なんて珍しい。

俺より少しだけ身長が高い。

肩まで届かない程度の濃いめの茶髪だ。

鎧を着けていないので何とか女性だと解った……普段着でいてくれて良かったよ。あやうく失礼な事を言う所だった。

彼女は俺達に会釈をして店先の椅子に腰かけた。

俺も会釈を返しておいた。


 部屋の奥といっても居間は広くなかった。

十人も入ったら狭苦しく感じる部屋です。

テーブルと椅子も四人分しかありません。

椅子が足らないので困った様子のデメトラさんにアッツさんが構わない旨を伝えている。

椅子には、デメトラさん、アッツさん、サム、かっちゃんが座った。

俺達は壁際で立っている。

ゴンタ達は俺の側で伏せている。


「すみません。お客様を立たせてしまって……」


「ええんや。わしらが押し掛けたんやからな」


「そうやで」


 デメトラさんが申し訳なさそうに言うのを、アッツさんとサムが遮るように言う。


「でな、今回お邪魔したんは、デメトラに鑑定をお願いしたいモンがあるからなんや」


「鑑定ですか」


「これや」


 アッツさんが代表して話を進め、マジックバッグから取り出した宝珠をテーブルの上へ置いた。


「これは……宝珠ですね!初めて見ましたわ」


 鑑定というのは簡単に出来る物らしい。

デメトラさんは既に鑑定を終わらせている様で、目を丸くして口に手を当てて宝珠を見ている。


「最新の遺跡で見つけたモンや」


「凄いです!」


「そこにいるトシのおかげってのが大きいけどな」


 アッツさんが俺を持ち上げてくれる。こういうのは嬉しいものだ。

デメトラさんの視線がこそばゆい。


「トシさんは先生のパーティの方ではないんですよね?」


「今回は臨時で手を組んどるんよ。わしの姪っ子がいるパーティやから安心やしな」


 アッツさんが優しげな目でかっちゃんを見る。


「そうでしたのね」


 デメトラさんもかっちゃんを優しげな目で見る。


「アッツさん、俺達は外へ出ていた方が良くないか?」


 俺は話が姪っ子自慢になりそうなので話を進める。


「……そうしよか。すまんな」


 俺達は部屋を出る事にした。

かっちゃんは残ったままだったけどね。

アッツさんはかっちゃんなら鑑定結果を知られても問題ないと思っている様だ。

確かにかっちゃんなら余計なことは言わないだろう。

俺達は店へ戻った。


「初めまして。俺はバッキンの冒険者のトシです。デメトラさんに鑑定の依頼に来た者です」


 俺は店番をしている女戦士に挨拶をした。

ちょっと気になる人だったからね。


「……フェドラです」


 可愛らしい声だった。子供の様な高音の声です。

本人も自分の声を気にしているのか、一言だけでした。

俺は女戦士の思わぬギャップにやられそうです。

アリーナと似たような凛々しい系の顔立ちでもあるので尚更です。

残念ながらそれ以上の話は出来なかった……彼女から話しかけるなというプレッシャーがヒシヒシと感じられる。


「これをくださいなっ!」


 店の中を見ていたなっちゃんが何かをフェドラに差し出している。

なっちゃんが持っていた物は髪留めだった。

以前かっちゃんがなっちゃんにあげていた髪留めに似ている。


「銀貨一枚よ」


 なっちゃんには笑顔で対応するんだな。お客さんだからという理由なら良いけど……俺への対応との差を感じてしまう。


「はーい」


 なっちゃんは腰に着けた革袋から銀貨を一枚取り出した。

なっちゃんには大金はもたせていないが、お小遣いはあげている。

必要な物があればそのたびに買ってあげているしね。

なっちゃんは買った髪留めを嬉しそうに眺めた後で、いそいそとマジックバッグへ仕舞った。


「花ちゃん?かっちゃん?」


「花ちゃんにあげるのー」


 俺の名前だけの問いかけに答えるなっちゃん。ちゃんと理解してくれたか。


「なっちゃんの髪留めと似ているから、お揃いだね」


「うん!」


 店内は和やかな雰囲気に包まれた。

なっちゃんから癒しパワーが放出されているかの様だ。

なっちゃんの事を良く知らないフェドラまで、にこやかな顔をしている。


「トシ、交代だ」


 エディの野太い声により癒し空間が終わった。


「おう」


 どうやらアッツさん達が持っている宝珠の鑑定が終わったようだ。

俺達はエディ達と入れ替わって奥の部屋へ行く。

相変わらずアッツさん、サム、かっちゃんが椅子に座っている。

アッツさんとサムには俺達の宝珠の情報を聞かれても問題ないというかっちゃんの判断だな。


「トシ、宝珠をテーブルに置いてや」


 かっちゃんから声が掛る。


「あいよ」


 俺はマジックバッグから宝珠を二つ取り出してテーブルへ置く。

木の台座に布をしいてあるので転がったり傷は付かないはず。


「デメトラ、頼むで」


「はい」


 アッツさんからデメトラへ鑑定依頼が行く。


「……こちらが念動力で、こちらが毒抗体です」


 デメトラは瞬時に鑑定を終わらせた。

念動力って離れた所の物を動かす奴だよな。

毒抗体って読んで字の如くかな。


「詳しく教えてや」


 かっちゃんがデメトラに言う。


「はい。念動力は離れた所にある物を手を使わずに動かせる力ですね。初期は精々手の届く範囲で軽い物しか動かせない様です」


「ほー」


「毒抗体は……体内に入った毒に対応する体にしてくれる力です。同じ毒は二度と効かなくなるらしいです」


「ほほー」


 かっちゃんが相槌を打つ。

毒抗体も思った通りの力だな。毒無効化に近いのかな?一度は喰らうって事なんだろうけどさ。

王族辺りに需要が高そうな力だ。

毒殺の恐怖におびえていそうだもんな。


「どっちも便利そうやが、地味やな」


「そうやね」


 アッツさんとサムが言う。

確かに戦局を一気にひっくり返せる様な力ではないな。

地味っちゃ地味だが便利には違いない。少なくともデメリットはなさそうだ。


「アッツさん達はもう宝珠を使ったの?」


「今夜会議やな」


 俺の問いに答えてくれるアッツさん。

アッツさん達は今夜、宝珠会議か。売るにしても使うにしても話し合いで決定か。


「俺達はどうしようか?」


「売るつもりはないんやろ?」


「おう」


「なっちゃんに集中するんがええんとちゃうか?」


 かっちゃんは宝珠をなっちゃんに全部使わせようってのか……長生きするし、魔力も高く学習能力も高いのでただでさえ強いのに彼女の成長はとどまる所を知らない。

なっちゃん超人計画って所か。悪くない。

でも……。


「念動力の方はゴンタに使わせたいんだけど、どうだろうか?」


 一番強いゴンタだが魔法がなく接近戦しかできないので、念動力はゴンタにこそ相応しいと思う。


わう?


 ボク?って所だな。


「ふむ……」


「私も念動力はゴンタさんが良いと思います!」


 アリーナが俺の意見に賛成してくれる。


「最強戦力の強化はありだな」


 アンドロメダも賛成してくれる。


「そうやな。ゴンタは遠隔攻撃がないから弱点の補強になるな」


 かっちゃんもゴンタが念動力を持つ利点が解ってくれた。


「ゴンタは毒に抵抗出来るから、毒抗体の効果は半減だろう。なっちゃんに使って欲しい」


「私で良いのー?」


「それが良いと思います」


「一番有用だろう」


 アリーナとアンドロメダが了承する。

うちの仲間達は良い奴らだ。

俺が俺がーって言われないので助かる。

なんせギフトだ。だれでも欲しいに決まっている。

俺は誇らしくなった。


わうー


「そうやね。毒抗体はなっちゃん、念動力はゴンタに使ってもらうで」


わう!

わふ


 ゴンタの尻尾が過去最大の振りを見せている。

今にも走り出しそうな感じです。

よっぽど嬉しいんだろう。

自分の弱点をよほど苦々しく思っていたに違いない。

いや、みんなの気持ちが嬉しいのかな?どちらにしても喜んで貰えて嬉しい。


わう


 ゴンタ、なっちゃんが早速宝珠を使った。

宝珠が辺りを明るく照らす光を放ったと思ったら、宝珠が粉々になった。更に空気中へ消えていった。

宝珠の欠片すら残っていない。


わうー


「ステータスに追加されたよー」


 無事宝珠からギフトの継承が終わったようだ。


「今夜はお祝いだね」


「呑むでー」


「呑みましょう!」


「楽しみだな」


わふ


がうー

ばうー


 俺は良い仲間に恵まれた。

そんな俺達をアッツさん、サム、デメトラは優しげな目で見守ってくれていた。


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