一人舞台
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「神像や祭具を盗られるんも嫌やな」
サムは祭壇にそのまま残っている、女性を模した神像を見て言う。
祭壇や祭具も元に戻されている。
「それじゃー封印しておく?」
サムに答える。
「トシに出来るんなら頼むわ」
地下六階の魔導炉の部屋と同じ様に扉を魔鉄で動かなくした。
俺以外だと頑張って壁を壊すかしないと中には入れまい。
これで静かな空間でいられるだろう。
ゴーレムから取った魔鉄を使ってしまったが、まだまだあるので構わない。
地下九階へは階段を上るだけだ。
わうー
「ゴンタが遠吠えを強化したいんやと」
わう
「アンデッドの籠っとる部屋へゴンタだけ放り込んで欲しいんやってさ」
「アッツさん良い?」
「今回はトシ達のおかげでええもんが手に入ったし、赤色魔石ももろたしなぁ。ええで」
アッツさんがゴンタの提案を受け入れてくれた。
エディ達も反対はしていない。
何が起こるのかを理解していないって方が正しいか。
「ゴンタ良いってさ」
わうー
「アンデッドが籠っとる部屋は十はあるで。うちが案内したるわ」
わう!
かっちゃんがアンデッド部屋への案内を請け負ってくれた。
ゴンタの遠吠えは下級アンデッドを一掃出来るらしいからな。
俺達がゴンタより弱いせいでゴンタの遠吠えで恐慌状態に陥るので実戦では使わせていなかった。
いままで上げる機会がなかったのは申し訳ない。
ここはゴンタの好きにさせてあげたい。
「ゴンタ、まずはここや!強い魔力を持ったアンデッドはおらんけど気ぃつけるんやで?」
わうー
かっちゃんの案内で一つの扉の前に着いた。
やはり俺にはアンデッドがいるのか判らない。
生命力のない魔物の感知が出来ないってのは問題だな。
かっちゃん、なっちゃん、アンドロメダに任せるしかないとは……魔力が欲しいぞ。
俺がゴンタが通れる隙間だけ壁に穴を空けた。
扉を開けるのはさすがにヤバイと思ったからだ。
アッツさん達もいるから戦えるだろうけどさ。
俺が壁に穴を空けたの見てアッツさん達が驚いている。
これは『錬成』についてかなりばれただろう。
ギフトの特定は無理だと思うがな。
わうー
ゴンタが俺に礼を言って穴を通って行った。たぶんね。
一応穴を盾で塞いでおく。
穴を通って来れる魔物がいないとも限らないしな。
わうー!!
ゴンタの遠吠えが壁の向こうから聞こえた。
俺は心臓をギュッと握られた様な感覚に襲われる。
一番近くにいた俺以外にも影響が出ていた。
「これをゴンタが……」
エディですら影響が出ている様だ。
オディロン、クァンタン、マルクも驚いている。
かっちゃんはゴンタの遠吠えに対して結界魔法を使っていたようだが、アッツさん、サムは結界魔法を使っていなかった様で影響を受けている。
「これは……かなりくるで……」
サムが膝を突きながら呟く。
「ゴンタはおっかない子やなぁ」
アッツさんもサムほどではないが影響が出ているらしい。
ゴンタの遠吠えは魔力量が多くても抵抗出来ないと推測できる。
肉体強度のみがゴンタの遠吠えに抵抗出来るのだろう。
ゴンタにとっての格下はそう言う意味らしい。
ガストン、アリーナは壁を背に座り込み息も絶え絶えになっている。
恐慌状態というか体にも影響が出ている様な……次の部屋からは離れていてもらわないとな。
アンドロメダも少し顔を顰めている。
ミナモ、ヤマト、ミズホは少し離れた所にいた。どうなるか解っていたに違いない。
きっと森や山で何度か使っていたのだね。
ヤマトやミズホも強いのに影響を免れないのか……俺が思っていたよりゴンタは強くなっている。
コンコンッっと盾が突かれた。
俺は穴を塞いでいた盾をどかす。
わう
「この部屋のアンデッドは全て始末したんやと」
わうー
「魔石が転がっとるから後はよろしくーやってさ」
「おう。なっちゃん、アリーナ、アンドロメダは部屋に入って魔石の回収を頼む」
「はーい」
「「はい」」
俺が扉を押し開けると少しの腐臭を含んだ空気が流れて来た。
かなりの数の魔石が床に転がっている。
「俺達は次の部屋に行ってるからね」
「はーい」
「俺達も手伝おう」
「うむ」
エディとオディロンが手伝いを申し出てくれた。
マルク、クァンタン、ガストンも部屋に入っていった。
心臓を握られるような感覚を味わうのは嫌だってのもありそうだ。
俺、ゴンタ一家、かっちゃん、アッツさん、サムで次の部屋へ向かい、同じようにアンデッドを始末していった。
ゴンタの遠吠えに抵抗出来る様なアンデッドがいないので、次々と部屋を移る。むしろ魔石回収の方が時間が掛っている。
ゴンタ、恐ろしい子。
白目と顔に斜線が入るレベルだ。
わうー
わう
「遠吠えで消えないアンデッドがいるんやと」
ゴンタの遠吠えの後でゴンタが言ってきたのか。
「それなら俺達も参戦しようか」
わふ!
がう!
ばう!
「けっこう魔力もあるで」
乗り気なミナモ、ヤマト、ミズホにアッツさんが注意している。
俺達が扉を開けて中に入ると……ゴンタが気を乗せた一撃で黒い骨を倒していた。
そして崩れ落ちる黒い骨。
「ゴンタは仕事が早いなぁ……」
俺は思わず呟いた。
ヤマト、ミズホが駆けだした。
あ、もう一体いたのか。
さっき倒れた黒い骨と似ているが腕が四本あり、それぞれに武器を持っている。
やたら強そうに見えるぞ。
ミナモも子供達の後を追った。
かっちゃん、アッツさん、サムから石礫の魔法が飛ぶ。
ゴス!ゴシャッ!あ……出遅れた。
ゴンタが俺の元へトトトッと駆け寄ってくる。
わう?
たぶん、やらないの?だな。
「一歩出遅れたら腕が二本消えてるんだもの。出番ないよ……」
そう、黒い骨の肋骨が数本吹っ飛び、腕も半分消えているのだ。
腕はヤマトとミズホが一本ずつ気を乗せた前足の一撃で折っていた。凄い連携だ。
その直後に後衛からの魔法が黒い骨へ命中していた。
ミナモが黒い骨の足に体当たりして転ばせているのが、今の状態だ。
あ、ヤマトとミズホが止めを刺しに行った。
頭蓋骨が体から千切れた。
背骨も折れている。
なんだか酷い物を見た。
ヤマトが咥えて来た黄色魔石を受け取る。
オーガより上の魔石じゃないか……やはり強い相手だった。うちのメンバーがおかしいのだ。
ゴンタが倒した黒い骨は緑色魔石だね。こちらはオーガと同等か。
アンデッドは魔力感知がないと見つけにくいが気功術が良く効くので相性は悪くない。
リッチのように魔法攻撃がなければね。
「みんなも十分おかしいよ」
俺の『錬成』をおかしいって言われたから言い返しておく。
「一体に対して大勢やったからな」
「そうそう」
アッツさんとサムが言う。
「ゴンタが倒したのはデスウォリアーやね。うちらが倒したのがデスナイトや」
かっちゃんは俺の言葉をスルーして淡々と解説する。
そして前の部屋の回収を終えたなっちゃん達も部屋に来たので回収を任せて次の部屋へ……。
結局十一の部屋のアンデッドを一掃した。
俺はゴンタの通路を作っただけでしたね……ゴンタの強さに追いつくどころか離されていましたよ。
「水色魔石以下が五百以上……緑色魔石が四つ、黄色魔石が二つも回収出来ました」
ゴンタの遠吠え大会が終わった所で魔石を数えて、みんなに報告しました。
最下級の紫色魔石が多い。銅貨一枚相当だから数はあっても大した儲けではない。と思うのは金銭感覚がおかしいんだろう。
銅貨一枚あれば食堂で食べられるもんな。デスナイトから出た黄色魔石にいたっては白金貨に一歩届かないくらいの儲けだ。
「ゴンタ、遺跡から出たら模擬戦をしようぜ!」
わう!
ゴンタはエディの申し出を嬉しそうに受けているっぽい。
「エディしかまともに戦えないんじゃないか?」
オディロンが言う。
「世の中は広いね」
そう言ったのはクァンタン。
「強いな……」
マルクが呟く。
「ひっひっひ」
ガストンが怪しい笑いを漏らす。
「かっちゃんも面白い仲間と旅をしとるんやなぁ」
「やろ?うちも気にいっとるんよ」
アッツさんに返事をするかっちゃん。
「えへへー」
かっちゃんの横で面白いと言われて嬉しそうにしているなっちゃん。いや、かっちゃんに気に入られていると言うのが嬉しいのか。
アリーナとアンドロメダ、サムはミナモ、ヤマト、ミズホにおやつのジャーキーと水をやっている。
和やかな雰囲気です。
後は遺跡を出るだけだな。
宝珠の鑑定はアッツさんの知り合いにお願いしないといけないので、まだ同行するつもりだ。
宝珠は特に祭儀に使う物ではなく、宝箱から出たりする物らしい。
宝珠の作成に関する書籍もなく、どうやって作られたのかも謎との事。
アッツさんはここの遺跡を踏破した事になるけど、今後どうするのかな?また違う遺跡へ向かうのだろう。
俺は今後の予定を考えた。
あぁ、花ちゃんに会いたいね。遠見の水晶も渡したい。
帰りにはラミアの里へも寄らないとな。シーダは元気にしてるだろうか?
バッキンの店もビアンカとデイジーに任せっぱなしだ。
ここにいない仲間達の顔が頭をよぎる。
俺とゴンタは、この世界の住人達と繋がりが出来ている。間違いない。
神像や祭具、宝珠に関する情報の追加。