ドヤ顔
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シーダに見送られてラミアの里を出た。
アッツさんと一緒に遺跡へ潜るための移動だ。
ここの所良い天気が続いていたが、今日は曇り空です。
未だシーダの件で心中を曇らせている俺達に合わせているかの様です。
「トシ、アリーナに聞いたんやけど、なっちゃんに説教したんやて?」
「説教……」
遺跡の村への道中でかっちゃんが俺に言ってきた。
「あんなー、なっちゃんは賢い子や。ちゃんと自分で解決出来るで?」
かっちゃんは俺が昨日なっちゃんに話した内容が気に食わないようだ。
「でもさ……」
「でもやない!うちらが先にいなくなることは前にも伝えたんや、何度も言う必要はあらへん」
「……ごめんなさい」
シーダとの別れをなっちゃんが気にしていた様なので、今回と今後のためと思ってなっちゃんに話をした。
確かに俺達がいなくなるは余計な話だったかもしれない。
記憶に残して、時々思い出してほしいって伝えるだけで良かったね……すまん。
「なっちゃんが自分から相談に乗ってくれ言うまで手を貸したらアカン」
「それは厳しくないか?」
「可愛がるだけが愛情やないやろ」
「……」
「なっちゃんが落ち込んでいる時に慰めるのは構わんけど、考えさせるのを止めたらアカンでぇ」
俺がかっちゃんから説教されました。
そのなっちゃんは、ヤマトとミズホを両側に侍らせて俺達の前方を歩いています。
俯いていないので昨日よりは元気が出ている模様。
俺は反省と今後のなっちゃんへの対応を考えながら歩いた。
道中は魔物が出なかったので問題なく遺跡の村へ到着です。
ラミアの里を朝に出て夕方に遺跡の村に着くので、丁度良い場所ですね。
俺達の歩くのが速いってのはありますけども。
ギルスア王国の首都からラミアの里へ行くのに良い宿場町と言えるでしょう。
ラミアの里にも商会や行商人がいましたからね。
「明日は朝から潜るでー」
夕飯の席でアッツさんがみんなに向けて言います。
みんなというのは、俺達のパーティとアッツさんのパーティで合わせて十二人です。
うちの四頭は厩舎で休んでいます。ヤマトとミズホは未だによく寝ます。子供だから仕方ないでしょう。
「女の子が一杯で嬉しいねぇ」そう言ったのは陽気な弓士のクァンタン。
「華やかだよね」同意を示したのがイケメン剣士のオディロン。
「ひっひっひ」良く判らないが笑いを漏らす悪人面の斥候ガストン。
「がっはっは」遺跡に潜れると聞いて嬉しそうなのはエディ。おそらく一番強い人だ、熊の獣人であるカビーノを彷彿とさせる豪快さを感じる。
「ああ……」と一言だけ返したのが寡黙な盾戦士のマルク。
斥候のガストン以外はみな強い。カビーノ級の気配を持っている。ランク1に相当するのではないかと推測出来る。
その斥候のガストンですらアリーナより強そうだ。アリーナも強くなって騎士団員を倒せるくらいにはなっているのにな。
それにケットシーの親子、アッツさんと、サムだ。はっきりいってランク0のアドルフ、アンドレが率いていた《日輪》《月光》のメンバー並だ。
強い。
「おっちゃん、今はどこまで探索が進んどるん?」
「地下十階に降りた先の部屋で止まっとる。そこに例のゴーレム集団がいてなぁ……」
かっちゃんの質問に、アッツさんが答える。
アッツさんからは、ほとほと困っているという様子が伺える。
「ケットシーの力で進めるのでは?」
俺はアッツさんに聞いてみたくなった。
「扉までは行けるんよ。わしは肉球のせいで細かい作業が苦手でなぁ、鍵なんてとてもやないけど開けられんのよ」
そう言ってアッツさんは肉球をプニプニ突いている。あぁ、俺も突きたいですぞ。
しかし納得は出来た。鍵を開けられるガストンをそこまで連れて行かないと先へは進めないんだね。
問題はゴーレムだ。
「どんなゴーレムでした?」
「地下六階のゴーレムは知っとるんやろ?」
アッツさんは質問で返してきた。
「はい。亀の様な体と二本の蛇の様な首を持つゴーレムですよね?」
俺はヘビカメの姿を思い出す。
「それそれ。あれが三体に人型が六体もおった」
それは正面からでは無理だ。
俺が知っている人間最強の鍛冶神の使徒ヴァルでも無理だろう。
「アレは俺達でも倒せなかったよ」
クァンタンさんが軽い調子で言う。
「アレはなぁ……」
オディロンさんが整った顔を歪ませている。
一応交戦はしたらしい。
痛い目にあったのかな。
「傷つけられない訳じゃなかったんやがなぁ。でも一体に集中出来なかったし、放っておくと傷も塞がりおったで」
サムが苦々しい顔で言う。再生能力もあったのか……俺は倒す気がなかったので気が付かなかった。
「それを何とか出来るんだってな?」
エディがジロリと俺を見てくる。睨まないでー!怖いです。
「アッツさんのお仲間だから話しますけど、地下六階のゴーレムが守っている扉の先へは行ったんですよ」
「なにぃ!?」
「マジか……」
「……」
「ウソだろ!」
「凄いねー」
「ホンマか!?」
「聞いてないでー」
「声が大きいですよ。お静かに」
「「お、おう」」
アッツさんのパーティの面々が驚いている。
「俺があのゴーレム……ヘビカメって呼んでいます。アレを無力化してアリーナが扉の鍵を開けて先へ進みました」
「あの先に何があったんや!?」
アッツさんが身を乗り出して聞いてくる。
好奇心旺盛なのは、かっちゃんと同じだね。
あの山の先、海の向こう、扉の先に何があるのだろう?これがケットシーの行動の基礎みたいだ。
「かっちゃん説明してあげて?俺にはアレの価値が良く解っていないからさ」
「はいな」
解説の選手交代だ。魔導炉を知っていたのは、かっちゃんだけだからな。
「あの先は結構広い部屋やった。どうも武器庫だったようでな、数千の武器防具があったで」
「ほう」
エディが相槌を打つ。
ドシっとして雰囲気のある豪傑っぽい。
「その先には鍛冶場と、お宝があったで」
「かっちゃん焦らさんとスパっと言ってやー」
サムが焦れている。
「結果から言うと魔導炉があったんや」
「「「何っ!!」」」
あぁ、また酒場の注目を集めてしまった。
ただでさえアッツさんのパーティと俺達のパーティは目立つのに……アッツさんの所は遺跡の攻略組、強さで有名らしい。俺達は美女が多いしゴンタ一家がいるからな。
「しーずーかーにー」
俺は再び窘める。
「「お、おう」」
「ホンマか?かっちゃん」
アッツさんが小声でかっちゃんに聞いている。
「ホンマやで。実働する三つめの魔導炉や」
「偉いお宝やなぁ」
サムも驚きを隠せない様だ。
「まぁ、うちらは鍛冶が出来るもんがおらんから、宝の持ち腐れなんやけどな」
かっちゃんが残念そうに言う。
「いくらの値がつくのやら……」
イケメン剣士のオディロンが呟く。
「本当だよねー。遺跡の探索に力が入るね」
クァンタンも軽い口調ながら、お宝があると判った遺跡の攻略を更に進める気になったようだ。
「ひっひっひ」
悪人面の斥候であるガストンが、またもや怪しげな笑いを漏らしている。
お宝を想っているのだろうか?ちょっと怖い。
「……」
マルクさんは黙ってワインを呑んでいる。ヨゼフの所のフリストに似ている。盾職はみんなこうなるのかね?謎だ。
「俺はトシの方に興味があるぜ?」
そう言ってエディはニヤリとして俺を見てくる。
お、俺にソッチの趣味は……冗談は置いておいて、戦闘狂っぽいエディが怖い。
戦えとか言われたら困る。
「変わった力を持っているだけですよ。あんなゴーレムと正面から戦えませんって」
「それでもだ。戦わなくともアレに近づいたんだろ?十分強いぜ」
「何度か痛い目にも合いましたけど……」
「今、生きているんだから負けじゃねぇ!」
エディは悪戯っぽく笑いながら言う。
「それはそうですね」
「今回は期待しているぜ!」
「それは全力でやります」
「おう」
かっちゃんには魔導炉やヘビカメの奥の部屋に興味が有る人達、アッツさん、サム、ガストン、オディロンが側で話を聞いている。
クァンタンはなっちゃん、アリーナ、アンドロメダに話しかけている。ラミアでも怖くないようだ。
マルクは黙々とカップを傾けている。
エディは裏表のなさそうな、気持ちの良い奴っぽい。
歳の頃は三十ちょいって所か。
彼らの中で一番若そうなのがオディロンとクァンタンかな。二十半ばって所だろう。
マルクは年齢不詳だが落ち着いた雰囲気なのでエディより歳は上かも知れない。
ガストンは……悪人面なので判りずらい。この世界では珍しい系統の顔だね。ちょっとクシャッとしていて猿っぽくもある。
身長でいえば、マルク、エディ、クァンタン、オディロン、俺、ガストンの順だろうか。
マルク、エディは筋肉ムキムキです。
クァンタン、オディロンはスマートですね。
ガストンはちょっと猫背なのでこれも猿っぽく見える要因だな。
夕飯の席は、地下六階の話で盛り上がった。
アッツさん達もあそこは放置したらしい。
特殊能力がなければ無理もない。
俺は、強くて頼りになりそうな彼らでも無理だったゴーレムを何とか出来るというのが自信になった。
ちょっと鼻高々です。
ヘビカメは魔鉄っぽい金属で出来ていたな。
ミスリルほどではないが魔法、魔力との親和性が高い。
硬度は鉄より少し上って所だが十分価値のある金属であろう。
沢山の金属を取るチャンスだ。
俺は思わずニヤついてしまう。
あ、マジックバッグが足りない!俺はみんなに一声掛けてから魔法屋へ走った。
結構大きいマジックバッグが一つだけあったので購入した。最後の一つだったのが残念だ。オークションからこっち大金が出て行っているな……借金もあるし稼がねば!
しかし、このマジックバッグを追加しても足りるかどうか……取らぬ狸の何とやらですね。
明日からの遺跡が楽しみだ。
ゴンタと一緒に潜れるのも嬉しい。
ヤマト、ミズホも楽しんでくれるだろうか?自由に走れ回れないからストレスがたまるかも知れないな。
俺は遺跡に想いを馳せる。