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それぞれの理由

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「出発やでー」


「はいな」


わうー


 アッツさんは遺跡から出た翌日にラミアの里への同行を申し出てくれた。

戻ってきたばかりだから休んでいていいと言ったのだが、問題ないとの事でした。まったくタフな人だ。

かっちゃんに甘いだけかも知れないが……きっと娘も欲しかったのだろうね。子供はサムだけって言ってたし。

そしてゴンタとアッツさんは意気投合していた。きっと強者同士、親同士で通じるものがあったのだろう。

話が出来るってのは良いねぇ。

ミナモ、ヤマト、ミズホもアッツさんと仲が良くなっていた。

今、ヤマト、ミズホはサムと話をしている。

がうばう言っているのが聞こえる。

いいなぁ、楽しそうだな。

それとは対照的なのが、なっちゃん、アリーナ、ラミアの二人だ。

天気は良いが表情が曇っている。

特になっちゃんの元気がない。

今も村の端まで見送りに来ているダンテとフリオに、なっちゃんが心配されている。


 ヨゼフ達に見送られて、俺達のパーティとアッツさん親子が遺跡の村を出た。

朝飯は食べたし天気も良い。

夕方くらいにはラミアの里へ着くだろう。


「なっちゃん、悲しそうな顔をしているとシーダがなっちゃんの悲しげな顔しか思い出せなくなっちゃうよ?笑った顔を覚えてもらいたいと思わないか?」


 俺はトボトボと歩くなっちゃんの隣を歩きながら言う。

俺の言葉を聞いて顔をあげるなっちゃん。


「トシちゃん……」


「花ちゃんの顔を思い出せるかい?」


「うん」


「花ちゃんは笑顔だろ?」


「うん」


「そういう顔をシーダにも覚えておいてもらおうよ」


「うん」


 なっちゃんは目に溜まった涙を袖で拭った。

俺はハンカチで目元を抑えてやる。

空いた手を握る。


「俺も悲しい。でもこれが最後の別れじゃないんだ。次に会う時はもっと良い男になっておくさ」


「……」


 なっちゃんは無言で俺の手を握り返してくる。


 アンドロメダ、シーダ、アリーナは三人で何やら話しているようだが聞こえない。

上手く折り合いを付けたいものだ。


わうー


 ゴンタが警戒の声を上げた。

森の奥からゴブリン……にしては肌が赤いぞ。緑色じゃないなんて珍しい。

ギャッ!赤い肌をしたゴブリンが叫びながら槍で襲い掛かって来た。

二十ほどの集団だ。

しかしゴンタでも、かなり近くまで反応しなかったな。

普通のゴブリンではないらしい。


「ゴンタの索敵を潜ってくる奴らだ!何か有るかも知れん油断するなよ!」


わうー


「見たまんまのレッドゴブリンや。気功術を使うで」


 アッツさんが教えてくれた。俺達が使えるんだから魔物が気功術を使えてもおかしくないのかも知れない。

しかも気の縮小まで出来るなんて……使いこなしてるな。


「アリーナ!俺と盾を並べるぞ。かっちゃん、後衛の指揮をよろしく」


「はい!」


「はいな。おっちゃんとサムは好きにやってやー」


「ええでー」


 かっちゃんとアッツさんの口調が軽い。

俺とアリーナは盾を構えて後衛の前に立つ。

うちの後衛から攻撃が飛ぶ。

かっちゃんの石礫魔法とアンドロメダの矢が命中したが、他のメンバーの攻撃は躱されたようだ。

ゴブリンと侮れない相手らしい。

しかも木を上手く使って近づいてくる。

リーダーらしき奴の指示も出ている様で、バラバラに突っ込んで来なかった。

こんな奴らもいるんだな……ちょっと感心した。

武器を使って来るし気も込められているので一撃一撃が重い。

それでも俺は感心したり感想を言えるくらいの余裕がある。

アリーナは二体のレッドゴブリンが相手だと余裕がなくなっている。

そういう敵でした。


 アッツさんとサムが参戦してからは一方的な展開に変わりました。

さすがかっちゃんの叔父さんと従兄です。

俺とアリーナが壁になっている間にレッドゴブリンを石礫の魔法で沈めていきます。

アッツさんとサムも土の魔法が得意の様です。

半分ほどのレッドゴブリンが倒れた所で退却していきました。

レ武器を使う事や指揮系統がある事、真っ直ぐ突っ込んでくるだけではないので、レッドゴブリンからは、ある程度の知性を感じた。

そういえば……逃げる相手というのも初めてなのではないだろうか?魔物ってのは本能で戦うと言われている。ある程度の知性があれば退却という道も選べるんだな。


 そんなレッドゴブリンでもゴブリンの一段階上の魔石しか出なかった。

強さ的にはもう一段上でもおかしくないんだがな。


 それからは魔物との戦いもなくラミアの里へ着きました。

なっちゃんも笑顔とはいきませんが俯いたりはしていませんでした。

俺には少し大人っぽい顔付きに見えましたよ。


「里長の屋敷へ行こう」


 アンドロメダが言う。


「そうね」


 シーダが答える。

俺達はアンドロメダとシーダの後について里長の屋敷へ向かう。

夕方なので通りにいる人は少なめだ。

ここの人達は相変わらず俺を見ると手を振ってくれたりするね。

男相手なら誰でもこうなんだろうけど、嬉しいもんだ。


「里長に挨拶してくる。ちょっと待っててくれ」


 アンドロメダはそう言うと里長の屋敷へ入っていった。

シーダもアンドロメダに着いていった。


「ラミアの里なんて初めてや」


「小さいラミアの子がチョロチョロ動いてとって可愛らしかったなぁ」


 サムとアッツさんもラミアの里は初めてらしい。

興味深そうに辺りを見回している。


「ウネウネ可愛いですよね」


「やなぁ」


 アッツさんはあの可愛らしさが解る人の様だ。


「噂には聞いとったけど、男は人気あるんやね」


「毒さえなければねぇ……」


 俺はサムに言葉を返す。

毒さえなければラミアを相手にする人も多かろうに。

普通に美女ばかりだし、スタイルも良い。

下半身はスベスベでヒンヤリしている。夏なんて最高だろう。


「みんな、入ってくれ」


 そんな話をしているとアンドロメダが俺達を呼びに来た。

俺達はアンドロメダの後に着いていく。


「久しぶりだな。やっと来てくれたか」


「お久しぶりです。里長」


 俺が代表して挨拶をする。


「こちらが、かっちゃんの叔父さんであるアッツさんと息子さんのサムです。アッツさんはアリーナの精神汚染の解除をしてくれた方です」


「初めましてやな。アッツや」


「息子のサムや」


「この度はご足労願い申し訳ない。わしがラミアの里長のベイローレルじゃ」


 俺の紹介の後で挨拶と握手をするアッツさん、サム、里長であった。


「話は聞いとる。早速処置に掛った方がええか?」


「うむ。頼むぞ」


「アリーナの時もそうやったが必ず解除出来る言うもんやないで?」


「解っておる。それでも頼む」


 里長がアッツさんに頭を下げて頼んでいる。

里長は厳しい人だが同朋の命のために頭を下げられる人だ。

今のヒッコリーは生きているが死んでもいる。

自我が無いなんてのは死んでいると言っても良いと思う。


「おっちゃん、見ててもええ?」


 かっちゃんがアッツさんにお願いをしている。


「ええで。他のもんも自己責任でなら見ててもええで?」


 アッツさんの言葉から解除には周りに影響が出る事が伺える。

俺やゴンタは魔法抵抗がないから危ない。見たいけど無理だ。

俺、ゴンタ、アリーナ以外全員がアッツさんの解除を見に行った。

光の魔法の使い手自体が少ないから、魔法に興味のある者としては当然見たいだろう。


「解除出来ると良いな」


わう


「そうですね……アンドロメダから聞いたのですけど、シーダの親はシーダが小さい頃に亡くなったそうです。そしてアンドロメダとヒッコリーさんの家で面倒を見ていたのだとか。そのせいかシーダは一歩引いてアンドロメダの補助ばかりする様になったそうです」


「ほぅ」


 本人の口から聞くべき話がアリーナの口から出て来た。


「俺に言っても良いのか?」


「アンドロメダが仲間内には話しても良いと言っていました」


「そうか」


「ヒッコリーの親も既に亡くなっているそうです。シーダはヒッコリーの親から娘をよろしくと言われていたそうです。アンドロメダ曰く仲良くしてくれと言う意味合いだったらしいのですが、シーダは面倒を見なければいけないと思い込んでいると言っていました」


「……」


わぅ……


 確かにアンドロメダとシーダはどちらもヒッコリーを気に掛けていたが微妙に対応が違った。

アンドロメダは種族として、幼馴染としてだった気がする。

シーダは身内の事、自分の事の様な感じがした。


「それで精神操作の解除が成功したならば、ずっと世話をしたいと考えているのでしょう」


「里長は殺しはしないが、檻や部屋に閉じ込めるくらいの処置は取りそうだ」


「ええ、アンドロメダもそう言っていました。シーダも解っていると思います」


「今は、本人のやりたいようにさせてやるしかないかな……」


「そうですね……」


わぅ


 俺には何が正解かなんて解らない。

少なくともシーダを無理やりラミアの里から連れ出してもダメだとは思う。

自分で納得するまでやるしかないだろう。

シーダがいつか花ちゃんの屋敷を訪ねてくれるのを待とう。俺はそう思った。


 そろそろ寝る時間だというのに、だれも戻ってこない。

アッツさんでも苦戦しているのだろうか?人を操るなんて確かに異常だ。

元の精神が取り戻せなくて廃人と化したのではないだろうな?俺の頭を嫌な考えが過る。


 俺はいつの間にか眠ってしまった。

そして、この夜の結果を知るのは日が昇ってからだった。


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