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来客

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「おっちゃん帰ってこんなぁ」


「だね」


 オークションの翌日の昼飯を宿の食堂で食べている時の話です。

羊肉の串焼きを食べながらぼやいています。

アッツさんとは日時まで約束していた訳ではないので仕方ありません。


「昨夜の話を聞いたか?」


「あぁ、聞いたとも。それで商会が三つ潰されたらしいな」


「それだけの事をしたんだ。仕方あるまい」


「イシドロスさんを怒らせるなんてなぁ」


「まったくだ」


 隣のテーブルの商人風の男達の話が耳に入った。

俺とかっちゃんを含めみんなで顔を見合わせてしまう。

アリーナはゴンタ達の世話で厩舎に行っているのでいないけどな。

どうやら昨日のオークション後の騒動の話の続報らしい。

三つも商会が関係してたのか。

襲撃者の人数を考えると不思議ではないが……よく商会との繋がりを突き止めたな。

この場合はオークションを主催した商会を褒めるべきなんだろうか?たぶんイシドロスさんって人が、あのお爺さんなんだろうと思う。

ギルスア王国最大の商会って言ってたしな。王室とも関わりが深そうだ。

それなら一夜にして商会を潰せるのかも知れない。


「トシ、お客さんだ」


 ヨゼフは宿へ入ってくるなり俺に言った。


「こんにちは」


 ヨゼフ達と一緒に宿へ入って来た人は昨夜のお爺さんだった。

濃いグレーのズボンとベストが似合っている。

髭が似合いそうなんだけど生やしていない。

俺やヨゼフと同じくらいの身長だが背筋が伸びていて、きびきびと動く手足が所作を美しく見せている。

隣のテーブルにいた商人達が驚愕しているのが解った。やはり有名人らしい。


「こんにちは」


 俺は意外な客が来たなと思ったが表情を変えず平静な声で挨拶を返す。


「我らは席を外そう。後で話を聞かせてくれよ」


「後でねぇ」


 アンドロメダとシーダが席が空いていないのを見て席を開けてくれた。


「ありがとう。後でな」


「ありがとうございます」


 お爺さんもアンドロメダとシーダに礼を言う。


「お座りください」


 俺はお爺さんが何の用で来たか訝しく思いつつも座るように言う。


「失礼します」


 お爺さんとヨゼフが座った。

カミッラが昼飯を部屋に運ぶように店員に言って、四人で部屋へ戻っていった。

どんな話をするのか知っているっぽいね。


「私はオナシス商会の者でこちらの支部の支配人をしてます、グレゴリウスと申します」


「俺はバッキンの冒険者でトシと言います」


「同じくカッツォや。かっちゃんでええで」


「なっちゃんだよー」


 うちの子達は自由だな。

グレゴリウスさんは孫を見る様に目を細めている。

かっちゃん達の自己紹介を聞いても怒ってはいないようだ。


「グレゴリウスさんは昨夜の件で来たそうだ」


 ヨゼフが間を取り持ってくれる。

さっきまで冒険者ギルドへ行っていたのに、グレゴリウスさんと戻ってくるとは何があったのやら。


「そうですか」


「はい。まずはこれをお納めを」


 グレゴリウスさんが革の袋をテーブルの上に置いた。


「なんでしょう?」


 俺は袋に手を出さずに聞く。


「昨日の賊の中に賞金首がいましたので、その報奨金です」


 ほー。賞金首か……自分にも賞金が掛っていたのを思い出す。


「トシが倒した奴が一番の賞金首だとさ」


「冒険者っぽかったけどな」


「まぁ外見じゃ判らないだろう」


「そりゃそうか」


 ヨゼフが解説してくれる。

俺が倒したってんなら受け取ってもいいか。


「それなら受け取れますね」


 そうは言う物のテーブルに乗っている袋へ手は出さない。

直ぐに取ったら金に汚い奴だと思われそうだ。

このお爺さんには何となくそう思われたくないと思った。何でかは判らない。


「あなた方が倒した者達の装備品や所持品をどうするか聞きに来ました」


 お爺さんが言う。

何だ、迷惑を掛けたから謝りに来たのかと思ったよ。違ったようだ。

確かにグレゴリウスさんが俺達に謝る筋合いはないか。

店の中で襲われたならともかく、取引を終えて店を出た後の話だしな。

昨日の賊討伐は商会が舐められないための処置だったんだろうし、少なくとも俺達のために動いたわけではないだろう。


「ヨゼフ、どうする?」


 戦闘の続いていたあの場でゴソゴソ漁る気になれなかったので放置して戻って来たのだった。

ヨゼフ達が倒した者の方が多いし判断してもらおう。


「俺達は必要としない。売却後の金だけ貰えればいいさ」


「それなら俺達も同じで良いさ」


 俺もヨゼフに同意する。


「グレゴリウスさん、そちらで処分してください」


「判りました。それではこちらをお納めください」


 グレゴリウスさんが再び革の袋をテーブルへ乗せた。

既に用意してきていたのか……時間を無駄にしない有能ぶりだ。


「話が早いな」


 ヨゼフも感心している。


「こういう事もあろうかと思いまして」


「ありがたくいただくぜ」


「はい」


 そういやグレゴリウスさんは支配人なのに護衛も付けていないんだな。

ギルスア王国最大の商会の名前だけで身を守っている訳ではあるまい。

やはり強者のようだ。


「別件でお話もあります」


 グレゴリウスさんは話を続けた。


「別件ですか」


 俺は返事をするが用件については予想がつかない。


「あなた方の勧誘に来ました。あれだけの人数を怪我人も出さずに返り討ちですからね」


 俺達はグレゴリウスさんに力を認められているようだ。

こちらの怪我人の有無まで把握しているのか……諜報にも力を入れているのかも知れない。抜かりがないねぇ。


「俺達は自由な冒険者でいるよ」


「そうやな」


「うん!」


「条件くらい言わせてほしい物ですな……」


 グレゴリウスさんは、ぼやいているが嬉しそうな気がする。

グレゴリウスさんも元冒険者だったのかも知れない。


「ヨゼフ達はどうするんだ?」


「俺達も断ったよ」


「もう断っていたのか」


「おう」


 すでにヨゼフ達はグレゴリウスさんの勧誘を断っていたらしい。

名の有るクランに所属しているし基盤はギルスア王国じゃないしな。


「十五人の冒険者達は勧誘を受けるとの事だ」


「もう話が進んでいたのか」


「冒険者ギルドで一緒だったからな。分け前も渡した」


 なるほど。岩の魔物の売却額を人数で分割したからな。

一人当たり天光貨一枚以上になった。

一人だけで贅沢をしなければ一生過ごせるかも知れない金額だ。

安定した商会勤務もありだろう。

俺達と一緒で、彼らも金を持っているのが知れ渡っているし商会の保護下へ入るのは悪くない判断だ。


「そうか」


「あなた方はギルスア王国を去るそうですな?」


 グレゴリウスさんは色々調べてあるようだ。


「ええ。もう一仕事終えたらギルスア王国を出ます」


「そうですか。ギルスア王国でお困りの事がありましたらオナシス商会へお越しください。縁は大事にしたいですからな」


「ありがとうございます」


「ありがとー」


「いいええ」


 グレゴリウスさんは、なっちゃんに優しい顔を向けている。

美女は得だな。ってそれは俺か。

良く判らないけど良好な関係なら問題はない。


「それでは失礼します」


 グレゴリウスさんは昨夜の様に左手を腹に当てて礼をして去っていった。

うーん。恰好良い。


「あんたらグレゴリウスさんの知り合いだったのか!」

「勧誘されてたなぁ」

「いいなぁ……」

「名前しか知らなかったが何となく怖い人だな」


 グレゴリウスさんが去った後で隣の席の商人達が声を掛けて来た。

話を聞いていたな。

情報は商人にとっても大切だからな。

適当に話をした後で俺達はゴンタ達のいる厩舎へ行った。



「……という訳でお金を貰ったのと、勧誘されたって話さ」


 俺は話を聞いていなかった仲間達に詳細を話した。


「もちろん勧誘は断ったで」


「自由な冒険者なのー」


わうー

わふ


「そんな事が……」


「そうか」


「あの人がグレゴリウスさんなのねぇ」


 シーダはグレゴリウスさんの名前を知っていたようだ。


「シーダは知っていたのか?」


「ええ。ギルスア王国最大の商会、オナシス商会の大番頭よ」


「ラミアの里にも支部はあるぞ」


 アンドロメダも知っていたのか。


「元ランク1の冒険者なのよ」


「おぉ!そのくらいは強いと思っていたよ」


 シーダの言う通りランク1以上の力はあると感じていた。

体の動かし方、隙のなさである程度は判断できる。


「ト、トシさん、金額はいかほどになったんですか?」


 アリーナの興味はお金に向いている。


「俺が倒した賞金首が白金貨四枚。そしてかっちゃんが倒したと思われる魔法使いの賞金首が白金貨三枚だ」


「それから賊の持ち物の売却額が白金貨七枚や。ゴンタ達の倒した奴らの持ち物がほとんどやったでー」


「さすがゴンタちゃん達だねー」


 そうゴンタ達は大活躍だったのだ。俺達とヨゼフ達で倒した数より上だった。


わうー

わふー


がう

ばう


「ええ、そうなんですよ!私の出番なんてほとんどありませんでしたよ!恰好良かったです」


 アリーナはお金の話以上に反応する。解りやすい奴だ。


「夕飯は奮発するから期待しとけよー」


わうー


 夕飯の時間までゴンタ一家と過ごした。

俺はゴンタを撫でて話をした。

かっちゃんが通訳になってミナモ、ヤマト、ミズホとみんなが話をしていた。

かっちゃんの通訳を聞くと子供達の語彙や知識が増えているのが解った。

小型ゴンタだな。体はゴンタより大きいけどね……ゴンタが悲しむからその事には触れない。

ヤマトとミズホの毛並も色がはっきりして艶やかになっている。

子供っぽさが消えて来た。もうちょっと子供で良かったのにな……なんて我儘な事を考えてみたり。


 賞金首の報奨金で、かっちゃんへの借金を少し減らせた。こつこつ頑張ろう。


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