大森林へ-1
16
ぐいぐい
「起きぃなトシ」
ん……。
「今日はオーク調査に出るんやでー」
あ!がばっ
「寝坊したっ!?」
「いや、大丈夫やけど体術と気の訓練をするんやろ」
ほっ
「そっか。起こしてくれてありがとう」
「ええんよ」
軽く手を振りながら荷物を纏めるカッツォ。
まだ5時を回ったところか。
俺は顔を洗ってからゴンタと訓練を始める。
ぐぐぐっ
そんなに柔らかくないんだよね。屈伸運動でも手がべったり床に付くほどじゃない。
さて次は気の訓練。
む、階上で人の動く気配が2つ……。
2人っていうとオルタンシアとホルフィーナかな。上の部屋だったのか、妄想が捗りそう。
……。
「最近ゴンタとトシの気配が大きくなってるように感じるで」
「そうだね。俺のはともかく、ゴンタは明らかに大きくなってる」
わうー
「大人になったら、気功術を会得してもそんなに変わらんもんなんやけどなぁ」
カッツォが呆れたように言う。
俺達は魔力無しだから、数少ない武器が強化されるのは嬉しい。
コンコン
「朝食をお持ちしましたー」
ダニエラが朝飯を持ってきてくれたようだ。
今朝は少し早く朝飯を持ってきてくれるよう頼んでいたっけ。
配膳してもらい食べる。
もぐもぐ
「卵って貴重品なのかな?」
「ここも第3城壁が出来れば増産できるようになるんと違うかな」
「食材屋さんでも見かけなかったけど、あるんだ?」
「あるなぁ。都市の富裕層が卵好きで買い占めとるらしいで」
「ぬぅ。俺も食べたいのに!いずれ俺が大量生産してやるぅ」
「にひひ、期待せんで待っとるわ」
わう
卵を産んでくれる鶏はいるようだ。話を聞く限り地球の鶏のまんまっぽい。
卵があれば食生活に幅が出る。
待ってろよー。
食後、ダニエラに食器を下げてもらう。
今日からは部屋に荷物を置いておけなくなるから荷物を纏めないとね。
バックパックに骸骨ハンマー、毛皮の風呂敷に30kgのジャーキーと中華鍋だな。
ジャーキーは邪魔だが今回の調査の間になくなるだろう。補充もされそうだが……。
恰好としては、体は胴体腕部脚部全てナイトバイパーの蛇皮鎧、安全靴、手袋は蛇皮以外にもオーガの骨で補強してありナックルバスターって感じに仕上がっている。お気に入りだ。
頭部はというと、狼頭部分で作ったヘッドギアで、内部をナイトバイパーの皮で補強した物。
さすがに蛮族すぎるかもしれぬ。
最後に水の補充をしてっと。
「荷物減らないなぁ」
「トシって言ったら、その風呂敷付って感じやな。にひひ」
「恰好より食べ物が大事だからな。とは言え減らしたいもんだね」
「マジックバッグ買うたらええ」
「なにそれ!いっぱい入るやつ!?」
「よー知っとるな。巾着袋からトシのバッグより大きいものまであるで。容量はおよそ10倍程度入るなぁ」
「カッツォのそれももしかしてっ?」
「うちのは普通のバッグや。うちは着替えと非常食、薬以外持ってへん。必要を感じんかったからマジックバッグは持ってへん」
「そっか。マジックバッグってお高いの?」
「安いので白金貨1枚くらいからやろ。大きいのだと天光貨1枚するんやったかな」
安くて百万円か……俺らの資金の3分の1飛ぶな。
それでも欲しいな。
「入る量に対して高くないか?」
「今はだれも作れないもんらしいからのぅ」
「そうなのか」
「遺跡から出てきた分しか出回ってないんちゃうかな」
「遺跡かぁ。夢が詰まってそう」
「危険もてんこ盛りやけどな。っとそろそろ下降りとこうや」
「あいよ」
わう
荷物を持ってエントランスへ行く。
《赤い旋風》の男衆は揃っていた。
「おはよーさん」
「おはようございます」
わう
「おう、おはよう」
「おはよう」
「おはようっす」
朝の挨拶を交わす。
うっ、俺ほどの荷物を持っている人はいないね。
お、俺のは3人分だもんネ。
「なんだぁトシ大荷物だな。行商いくみてぇだぞ?がははは」
「そうっすね」
「3人分なんですよ。帰ってくる頃にはすっからかんですよ。きっと……」
みんなで荷物や装備の話をした。
カビーノさんの大剣は魔力剣だった。
魔力を込めると重量が倍になるそうな、重さは強さだね。
残念ながら火や雷を纏ったりではないようだ。
あとカッツォの皮小手は魔法の品であり、杖代わりになるものでした。
手の甲に棒が組み込まれており、小さな杖としての機能を持っているそうだ。
手を塞ぎたくないという理由でそうなったらしい。
どんな意味があるのだろうか?聞いてもいいものか。
「おはよー。お待たせー」
「おはよ……」
ホルフィーナは元気に挨拶。
オルタンシアがコシコシと目を擦りながら挨拶する。
先に来ていたメンバーも挨拶を返した。
「さて行くか」
「はいな」
席を立ち荷物を背負う。
「支配人、俺達は10日ばかり合同で調査に出るから、宿の延長は無しだ」
「さようですか。行ってらっしゃいませ」
「はいな」
宿を出て南門からすぐ出る。
今日も暑くなりそうだ。
リーダーはカビーノ。サブリーダーはカッツォがやることになった。
妥当だろうね。
「出発だ」
カビーノの号令のもと歩き出す。
朝も早いが農民はすでに働いているね、横目に見ながら歩く。
大森林といっても広い。
オークと戦った場所は、俺達が出てきた大森林より東のほうだ。
薬草を取りに行っていた東のほうとの間くらいだろうか、都市から見て南東かな。
2時間くらいで大森林の入口まで来た。
「よし、隊形を決めるぞ。先行する斥候としてゴンタ、俺達の先頭にホル、次いでオクタ、中衛に俺、オル、カッツォ、トシだ。最後尾をキニートがやれ」
「はいな」
みなも異論は無いようで頷く。
ハルさんが斥候だったのか。弓を持っているしレンジャーかな。
「いくぞ」
大森林へ踏み込む。
ひさびさの冒険って感じだな。やるぞ!