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余裕

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「生きとるなぁ……」


「生きてるねぇ……」


 俺とかっちゃんは朝の挨拶を交わした後でお互いにボヤく。

崖の下の海には大きな気配が残ったままだ。

岩の魔物は死んでいなかった。

落ちた場所から動いていないのが救いです。


「こりゃダメかもなぁ」


「だな」


「おはよう。ダンテ、フリオ」


 斜めに削り取られた崖の近くに居た俺とかっちゃんの背後から声を掛けて来たのはダンテとフリオだった。

こいつらは寝坊助っぽいキャラなのに早起きなんだな。


「おう」


「おはよう」


「確かに死にそうにないな」


「ずっと待っとる訳にもいかんしなぁ」


 俺とかっちゃんも岩の魔物について話す。


「そりゃそうだ」


「だけどアレの魔石を諦めるのはもったいないぜ?」


 うむ、そうなんだよなぁ。諦めるには惜しい代物だ。


「ドラゴン並の魔石やろうしなぁ」


「こんな機会はもうないかも知れん」


「ぬぅ」


 やっぱりそういう反応だよな。俺だけじゃなくて良かったよ。


「おはよう。って凄いな!」


「魔法でこんな事が出来るなんてねぇ……」


 ヨゼフ、カミッラ、フリストも起きて来た。

フリスト、しゃべれよ。

起きて来た彼らは、見通しの良い崖の様子を見て驚いている。

ちょっと踏み出したらそのまま海へ滑り落ちそうだ。


「おはよう」


「あんたらも早いなぁ」


「お酒のおかげで早く寝ちゃったもの」


「俺はいつも通りだな」


 カミッラに続いてヨゼフが言う。


「今、岩の魔物について話してたんだ」


「下から動いちゃいないが、死んでもいない」


 ダンテとフリオが説明している。

《殲滅の剣》のメンバーでダンテとフリオ以上に気功術が使える者はいないようだ。

ヨゼフやフリストは、気功術をまったく使えない訳ではなさそうだが、うちのアリーナくらいだろう。


「それでな、アレの魔石を見逃す手はないって話してたんよ」


「それはそうだが……」


 かっちゃんの話にヨゼフが反応する。なんだか否定的な反応だ。


「間違いなくお宝になるでしょう!?」


 カミッラがヨゼフの反応に喰いつく。


「それは判っている。でもなぁ時間が掛っても死ぬかどうかすら判らんじゃないか」


「う……それはそうだけど」


「直接倒せたら苦労はないしな」


「そりゃそうだ」


 ヨゼフの言うことも一理ある。

カミッラ、ダンテ、フリオも同意している。


「うちらの待ち人はあと数日で来るやろうから、待つとしてもそれくらいやな」


 アッツさんは一週間ほどで遺跡から帰ってくると宿の主人が言っていたからな。


「俺達は魔石が確実に取れるなら待つのも吝かではない」


「そうね」


「やらなきゃいかん仕事もないしな」


「おうとも」


「だが長期間ってのはなぁ」


 ヨゼフは魔石が取れるまで待っても良いとは言うものの待つ期間が不透明なのを気にしている。

パーティを率いる者としては当然か。


「遺跡に潜ったり、クエストを受けて待てば良いじゃないか」


「ああ、ラマへ戻るのが少し遅れるだけだ」


 ダンテとフリオは待つ気満々だ。

カミッラも頷いているから同意見なのだろう。


「分け前も考えておかないとな!」


「それもそうか」


 ダンテとフリオも取らぬ狸の何とやらだ。


「作戦参加者の人数で分割でしょ?」


 カミッラよ、お前もか。


 そんな話をしていたら、うちの子達や他の冒険者達も集まって来た。

そして崖の様子を見ては驚いている。

いくら土の魔法が使えても同じことが出来る魔法使いは多くないんじゃないかな?アンドロメダやシーダも驚いていたからね。

そしてヨゼフがみんなに岩の魔物について説明している。


「……という訳でお前らもどうしたいか考えてみてくれ」


 ヨゼフの説明を聞いて冒険者達がザワザワと騒いでいる。

隣の者や仲間と今後の予定について話し合っている様だ。


「俺達はクエスト報告も兼ねて一度遺跡の村へ戻ろうか?」


 俺は仲間達に提案する。


わう


「ん?何でや?」


 ゴンタがかっちゃんに何か言っている。


わうー

わふ


がうー

ばうー


「ゴンタ達は、ここで待ちたいんやと、森や海で遊ぶ言うとるで」


「わ、私も遊びたいです!」


 アリーナは欲望に忠実だな。

なっちゃんは俺、かっちゃん、ゴンタ達の顔をキョロキョロと見回している。

遊びたいけど、かっちゃんと離れるのが嫌だって所か。


「そうか。なら俺だけで遺跡の村へ行ってくるよ。みんなは岩の魔物の監視がてら遊んでいなよ」


「はい!」


「はーい」


「判った」


「天気も良いし楽しそうねぇ」


わうー


 どうやら異論はないようだ。


「うちもトシと一緒に村へ行くわ」


 およ。かっちゃんは遊ばないのか。


「ヨゼフ達もクエスト報告に行くだろうから、俺だけで良いよ?」


「おっちゃんが帰ってきていないとも限らんしな」


「なら一緒に行こうか」


「はいな」


 俺達のパーティの予定は決まった。


「ゴンタ、みんなを守ってね」


わうー


 ボクに任せて!って所かな。ブンブン振られている尻尾から嬉しさが伝わってくる。


「ヨゼフ、俺とかっちゃんは一度遺跡の村に戻るよ」


「おう。俺達も一度戻るぜ」


 そして俺達は朝飯を食べた後で遺跡の村へ向かって出発した。

結局、俺の仲間以外は戻る事にしたようだ。

うちの様に、いつでも野営が出来るほどの準備をしている者はいないか。

食べ物も水も大量に持っているし、現地調達にも苦労しない。

せいぜい風呂がないので困るくらいだ。



 ゴブリンの残党と遭遇したものの無事に遺跡の村へ着いた。

俺は戦わずに冒険者達に任せたけどね。

彼らは岩の魔物との戦闘で思う様に戦えなかった鬱憤を晴らしていた。それはもう嬉々としてゴブリンを襲っていたとも。


「かっちゃん、クエスト終了報告へ行こうぜ」


 ヨゼフがかっちゃん、他の冒険者と一緒に冒険者ギルドへ入っていった。

俺は別行動で宿へ向かった。


 宿の主人にアッツさんが戻って来たか聞いたが、まだ戻っていないとの返事。

クエスト終了報告をしたかっちゃんと合流して、野菜や果物、酒の補充をして回った。


「かっちゃん?」


 かっちゃんが通りの端にいた露店に吸い寄せられるように歩いて行った。

俺が後を追って声を掛けても反応がない。

しゃがみ込んで地面に並べてある商品を見ている。

ふむ。雑貨だ。櫛やら箱やら、用途の判らない棒やら色々ある。

店主は白髪の爺さんだ。


「おっちゃん、これはいくらや?」


「それは銀貨二枚だ」


「高いでぇ」


「わしの趣味の品ばかりだ。安くはならんぞ」


 かっちゃんは糸を巻いてある棒を買うつもりの様だ。

結局安くはならなかったが糸と髪留めを買っていた。


「それに何かあるの?」


「どっちも魔力を帯びていたんよ。糸はマジックアイテムとは言えんが蜘蛛の魔物の糸やな。魔法抵抗が高そうやからトシの防具に使えるやろ」


「おぉ!ありがとう!」


 俺のためだったか。アーマーリザードの鎧の下に着るシャツにでもするかな。

綺麗な銀糸だから見た目の良さそうなシャツが作れるだろう。


「まぁ本命はこっちの髪留めやけどな!」


 最初に糸の交渉をしていたから糸が本命で髪留めがついでかと思っていたぜ。

どんな代物なのか気になります。


「どんな効果がありそう?」


「魔法屋へ持ち込まんとはっきりせぇへんけど、おそらくマジックアイテムや」


「おー!」


「女性用やろうから魔法使い向けのマジックアイテムやと思うで」


「うちの子達なら有効に使えそうだね」


「ええお土産が出来たで」


 かっちゃんはご機嫌だ。

掘り出し物を見つける事が出来たのが嬉しいのだろう。

二つの品合わせて銀貨四枚だもんな。マジックアイテムならぼろ儲けだ。

その足で魔法屋へ行った。


「これは素晴らしい!固有名こそありませんが、魔法の一部を自分の魔力へ変換し吸収できる物です」


「そら凄いな!」


「ええ、良い物を見せてもらいました」


 魔法屋の若い男の主人が感慨深そうに言う。

攻撃魔法を喰らっても威力を軽減して尚且つ自分の魔力が回復するって感じかね。

俺には有用ではないが魔法使いには良い装備だろう。

髪留めだから邪魔にならないし便利そうだ。

鑑定代を支払って店を出た。


「良い物だったみたいだね」


「これが銀二枚とはなぁ。魔法使いなら誰でも欲しがるで!」


「良かったねぇ」


「ホンマやで」


「かっちゃんが使うの?」


「うちは毛並が短いからなぁ……」


 かっちゃんが呟くように言った。

さっきのテンションから一転して元気がなくなった。とても残念そうだ。

髪留めで留めるには毛の長さが少し足りなそうだ。別に髪でなくても効果は出そうだけどなぁ。持ってるだけじゃダメなのかな?


「持ってるだけじゃ効果はないのかな?」


「あるで。でも綺麗な髪留めやろ?ちゃんと使ってやりたいやんか」


 確かに木の枠と何かの金属に装飾が施された逸品だ。マジックアイテムでなくても価値がありそうに見える。

本来の用途で使ってやりたいなんて、かっちゃんは粋だなぁ。


「なっちゃんにお土産やな」


 かっちゃんはなっちゃんに髪留めをあげる様だ。

かっちゃんは、なっちゃんを可愛がっているからな。

なっちゃんは魔力不足になった事がないから有効的に使えるかは疑問だがね。

魔力の高いなっちゃんは魔法抵抗も高い。


「かっちゃん、これからどうしようか?」


「おっちゃんはまだみたいやし、海へ行こうや」


「あいよ。ヨゼフ達に一声掛けてから行こう」


「はいな」


 俺とかっちゃんは宿にいたヨゼフ達に海へ戻る旨を伝えて遺跡の村を出た。

食材の補充も出来たし暑くなった今なら海での滞在も問題はない。


 時間に余裕があるってのは良いね。心にも余裕が出来る。

海水浴ってのも楽しそうだ。俺も夏の海で泳ぐかな!

かっちゃんと散歩気分で海へ歩きながら海へ想いを馳せる。


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