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悪戯

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 ラミアの里を朝に出発して遺跡の村へは夕方に着いた。

俺達はヒッコリーの精神操作状態の解除をしてくれるアッツさんに会うために遺跡の村を訪れていた。

しかしアッツさんが泊まっている宿の主人が言うには、アッツさんは補給を追え今朝遺跡へ行ったばかりとの事だった。

むぅ、タイミングが悪いな。

今回は俺達もアッツさん達と同じ宿に泊まることにした。

夕飯を宿の一階にある酒場で済ませ、そのまま呑み会兼打ち合わせに入った。


「おっちゃんは遺跡の地下十階を攻略しとるそうや」


「今から追いかけても追いつけないよな」


「そうやね。おっちゃんが戻ってくるのを待つ方がええやろ」


「大体一週間で戻ってくるんだっけ?」


「地下九階を探索しとった時はそのくらいやと言っとったな」


「どうしたもんかなぁ……俺達も遺跡に潜るか、この周辺で遊んでいるか、それともどこかに行くかね?」


「遺跡なら前回の様にお宝があるかも知れんな」


 いつもならお宝に反応するアリーナがいるのだろうが、今は厩舎にいるゴンタ一家にご飯を持って行っている。


「我らは戦っている方が気が紛れて良いな」


「そうねぇ」


 アンドロメダが戦いたいと言い、シーダがそれに同意する。

気が紛れるか……ヒッコリーの事で頭を悩ましているのだろう。

シーダは好きな酒を呑んでいても余り嬉しそうではない。


「なっちゃんは何をしたい?」


 俺はなっちゃんに尋ねる。


「んー。遺跡っていうのにも興味はあるけど、森や山の方が良いかなー」


「ふむ」


「ゴンタ一家の事もあるから魔物討伐クエストでも受けて過ごそうや」


「そうしよう」


「異論はない」


「ええ」


 アッツさんが遺跡から戻ってくるまでの過ごし方が決まった。

俺達は追加のワインを注文して呑み続けた。

久しぶりに冒険者らしい生活になりそうだ。


「なっちゃん!なっちゃんじゃねぇか!!」


「おぉ!久しぶりだな!」


 新たに酒場へ入って来た大男達がなっちゃんの名前を呼んで近づいて来た。


「だんちゃん!ふっちゃん!」


 なっちゃんは立ち上がりダンテとフリオへ近づいた。

そしてなっちゃん、ダンテ、フリオが握手をしている。

良かった……抱き合ったりしたらどうしようかと思ったぜ。流血沙汰はごめんだ。

ダンテ達の後ろにはヨゼフ、カミッラ、フリストもいる。

そう、《殲滅の剣》のメンバーが揃っていた。

隣のテーブルの人達に場所を譲ってもらった。アンドロメダとシーダの二人はギルスア王国では交渉に向いている。

ラミアに話しかけられた人達は若干顔を引き攣らせて快く席を譲ってくれたのだ。

これでダンテ達と一緒に呑めるな。


「こんなところで会うとはな」


 ヨゼフが俺に言う。


「まったくだ。俺達は人に会いに来たんだ。ヨゼフ達は遺跡の探索に来たのか?」


「外れ。ギルスア王国へは商隊の護衛クエストで来たのよ」


 俺の質問に答えたのはカミッラだった。


「もう仕事は終わったのか?」


「ええ、もうラマへ帰るだけよ」


「って事は遺跡の見学に来たのか?」


「まぁそんなとこだ」


「せっかく他国へ来たから見物も兼ねているのよ」


 冒険者らしい答えだ。


「俺達はここへさっき着いたばかりだ。待ち人は一週間は戻って来そうになくてなー」


 俺はヨゼフとカミッラに説明する。

かっちゃんはなっちゃんと一緒にダンテとフリオと話をしている。

フリストは……一人で呑んでいるな。こいつに花ちゃんを見せたらどんな反応をするか興味がある。

たしかこいつは幼女に反応してたからな。

そんなフリストは考えが読みづらく若干苦手だ。


「私達も着いたばかりよ」


「トシ、そちらの美女の紹介くらいしろよ。新しい仲間か?」


 ヨゼフがアンドロメダとシーダから視線を外さずに俺に言う。

あー、アンドロメダとシーダの足はテーブルに隠れて見えないのか。

いやラミア自体知らない可能性もある。


「この子がアンドロメダ、それからシーダ。二人とも俺の仲間だ。」


「お初にお目にかかる。アンドロメダだ」


「シーダです」


「これはご丁寧に。トシとは行動を共にした事があるイチルア王国の冒険者で、ヨゼフという」


「私はカミッラよ。二人とも魔力が多いわね」


「ああ、かっちゃんとなっちゃんほどではないがな」


「あなたも人間にしては多い方ね」


 アンドロメダとシーダはやはり魔力が多いらしい。カミッラも魔法使いだから解るんだな。


「ヨゼフ達はギルスア王国に詳しいのか?」


「護衛で何回か来ているから、そこそこな」


「こっちの食べ物は美味しいわよね」


 カミッラが羊肉の串焼きを頬張って嬉しそうに言う。


「だよな」


 同じものを食べて同じ様な評価が出ると安心する。


「ラミアという種族を知っているか?」


 俺は続けて言う。ちょっとした悪戯を仕掛けよう。


「ああ、恐ろしい種族らしいな」


「泣く子も黙ると聞いたわ」


 世間の評判は、そんなもんか。


「我らはそんなに怖くないだろう?」


「そうよね。泣く子は慰めるわよぉ」


 アンドロメダとシーダがヨゼフ達に言う。

シーダの表情も少し柔らかくなっている。

ヒッコリーの事で悩みすぎないで欲しい。


「「……」」


 ヨゼフとカミッラは言葉もなくテーブルの下を覗き込んだ。

そして顔を上げたヨゼフとカミッラは顔を引き攣らせていた。若干青ざめてもいる。


「すんませんでしたぁ!」


 おぉ、土下座ではないがテーブルに頭をつけて謝るヨゼフが見れた。


「悪気はなかったのよ?本当よ?」


 カミッラもオロオロしている。

俺はプッっと笑いをもらしてしまった。


「トシ!てめー」


「あんたねぇ!」


 ヨゼフとカミッラが怒った所で俺、アンドロメダ、シーダが大笑いをした。

それを聞いたヨゼフとカミッラはお互いに顔を見合わせてからかわれたと理解したようだ。

ヨゼフとカミッラも笑った。


「悪い悪い。ちょっとからかいたくなってさ」


「あせったぜ。よもやラミアだったとはな」


「本当よ。走って逃げる所だったわ」


 口調は軽い。そんなに怒っていないようだ。


「ここの酒代は持つから許してくれよ」


「おう。それなら許してやろう」


「しょーがないわねぇ」


 ヨゼフとカミッラが上等な白ワインを注文しだした……ちゃっかりしてるな。

アンドロメダとシーダも同じものを頼んでいる。

シーダも調子が戻ってきたな。やはり宴会は楽しくしたいものだ。


「えっ!ゴンタちゃんに子供が生まれたの!?見せてー」


 ヤマトとミズホの話をしたら、カミッラが喰いついて来た。

女性や子供にゴンタは人気があるからな。

そのゴンタの子供なら会いたいと思うのは当然だ。


「今は厩舎で夕飯を食べている。明日はここら辺の討伐クエストでも受けるつもりだから、その時なら会わせてやれるぞ」


「ヨゼフー、私達もしばらくこの村にいましょうよー」


「ふむ……護衛で懐も温かいしそれもいいか」


「やったー!」


 カミッラは妙にテンションが高いな。こんな奴だったかなぁ?まぁ嬉しそうだから良いか。


「ヨゼフ達は遺跡には潜らないのか?」


「軽く潜っても儲からないだろ?本格的に潜るつもりはないからな」


「それもそうか」


「ダンテー、フリオー、フリストー、しばらくこの村にいる事にしたわよー」


 カミッラが《殲滅の剣》の残りメンバーに声を掛ける。

ワインのせいか頬に赤みが差して可愛らしく見える。

こちらの世界は美人が多い。カミッラもその例から漏れない。

カミッラは頭が良さそうに見えて、実はおバカというのが俺の評価だった気がする。


「そうか!なっちゃん、しばらく一緒にいられるな」


「いいな!」


「……」


 ダンテとフリオの返事は良いとして、フリストは何か言えよ!相変わらず不気味な奴だ。


「一緒だねー」


「一緒にクエストってものアリやな」


 なっちゃんとかっちゃんも楽しそうだ。

かっちゃんは上等な白ワインをガッパガッパと呑んでいる。全部俺の小遣いで賄うのか……金には困っていないがな!店の売上で現金もある。

そういや最近は大きな支払いをした覚えがない。魔剣の購入が出来ていたなら大きな出費だったろうけどね。


 俺達はイチルア王国での騒動の顛末を聞いたり、逆にここの遺跡でのリッチロードとの戦いについて話したりした。

そうして思わぬ再会を楽しんだ。

アッツさんを待つ時間も楽しく過ごせそうで嬉しいぞ。

明日からが楽しみだ。


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