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風雨

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「昨日の頬肉のワイン煮込みは美味しかったですねぇ」


 曇り空の下、海上を進む船の上でシーダが思い出したかの様に言う。

昨日はザヂルの町で泊まった。

ザヂルの名物料理である牛の頬肉のワイン煮込みをみんなに薦めたんだよね。

みんなにも好評だったが、シーダの好みにピッタリだったようだ。

たぶんワインの風味が気に入ったんだろうな。


「だろ?俺も大好きなんだよ」


「お肉をワインで煮ただけじゃ、ああはならないんでしょう?」


「うーん、何か香辛料も使ってるとは思うんだけど……」


 確かに肉をワインで煮込んでも同じにはなりそうもない。


「あー!見つけたわよっ!」


 俺とシーダが話をしていた時に聞き覚えのある声が船の後方から聞こえて来た。

うん。人魚だね。

しかし気配が読みづらい……海だと妙に気配が読めなくなる。特に気配の弱い奴は読みづらい。

ディンギーは気配が弱い。


「どうしたのー?」


「なっちゃん、聞いてよー」


「うん」


 二人は一回会っただけなのに仲良いな。

船を動かしていたメンバーも船を止めて集まった。

かっちゃんは再び人魚に会えて嬉しそうだ。

また質問攻めにしそうな予感。


「群れの子供が毒に当たっちゃったのよ。私達の使っている毒消しじゃ毒が消せなかったのー」


「むー。私持ってるよー」


 なっちゃんがマジックバッグをゴソゴソして毒消しを取り出してディンギーに渡した。

まぁ俺達は補充できるからいいか。


「貰っていいの!?」


「あ、いいかなー?」


 なっちゃんが俺達を見て聞く。

良く考えないで毒消しを渡したのか。


「ええよ」


 かっちゃんがなっちゃんに答えた。俺はかっちゃんが答えてくれたので何も言わない。


「いいってー」


「ありがとう!」


 ディンギーが嬉しそうな表情でなっちゃんに礼を言う。


「良くうちらの船の位置が判ったなぁ」


 お、かっちゃんの質問が始まった。

質問を答えさせるための餌が毒消しかな……抜け目ないね。

いや俺の心が汚れているだけか……純粋な行為かも知れないもんな。

真実は闇の中だ。


「教えてくれる魚がいたもの」


「ほほー、魚と意志疎通が出来るんかぁ」


 かっちゃんの目がキラキラしている気がする。

好奇心がくすぐられたか。

ケットシーが動物と話せるようなもんか?面白い。


「当然よー」


「凄いねー」


「そぉ?」


「うん!」


 なっちゃんが妙にディンギーに懐いている……何かあるのかな?

それをディンギーも感じ取っているのか、親しげで柔らかい口調だ。俺の時とは明らかに違う。べ、別に悲しくなんてないんだからネ。


「人魚は魔力の偽装が出来るんか?」


 前回の時の魔力の高まりの話か。ズバッと直球で聞いている。


「さすがに魔力の高い者が揃っているだけの事はあるわね。人魚の秘密だから教えられないけど魔力量は変わって見えるでしょうね」


 ディンギーも魔力感知が出来る様だ。俺の仲間たちの魔力が高い事に気付いている。


「むぅ」


 かっちゃんは欲しい答えを貰えなくて悔しそうだ。

こういう情報は教えてもらえなくてもしょうがないと思うけどな。

かっちゃんも解っているだろうに。

まぁ、それ以上に興味が有ったって事か。

何だか抜けている印象のあるディンギーだが、しっかりしている。


「風と水の魔法が使えるんだね!私と同じー」


 なっちゃんがニコニコとして言うが、ディンギーはギョッとしている。どうやら図星の様だね。

なっちゃんは精霊視が出来る。それで判ったんだろう。

なっちゃんがディンギーに懐いているのは同じ精霊と契約しているからだろうか?何かあるのかも知れない。


「なっちゃん!何で判るの!?」


 ディンギーがなっちゃんを問い詰めている。

なっちゃんの隣にいたら肩を掴んで激しく揺らしそうな感じだね。


「私は精霊さんが見えるのー」


 あぁ……あっさり自分の情報を渡している。

かっちゃんの教育で、そういう事は言わないように指導されているのにな。

やっぱり、かっちゃんがなっちゃんを黙ってジィッと見てる。

ちょっと怖いぞ。


「凄いわね!ってそういう事を良く知らない人に言っちゃダメよ!」


 ディンギーは良い奴だ。

答えて貰えるとは思っていなかったのか、逆に動揺している。

キョロキョロと辺りを見回している姿が善良さを感じさせる。


「だってディンちゃんは良い人だものー」


 かっちゃんは俺とは見ている所が違う気がするが、意見は一致していた。


「ディ、ディンちゃん!?」


「うん。ディンちゃん」


「そ、そうなのね」


 ディンギーは頬を紅潮させている。照れているのだろうか?そして言葉の端々から動揺が伝わってくる。


「あ、毒消し持って行かなくっちゃ!ありがとうね!!」


 またもや、俺達の返事を聞かずに海へ潜っていった。

今回は理由が解っている。仕方ないか。


「慌ただしい奴っちゃなー」


「本当ねぇ」


「まったくだ」


 みんな呆然として海面を見つめていた。

かっちゃんがなっちゃんをさっきの事で怒るかと思ったが黙ったままだ。

一度教えたから後は自己責任だと思っているのか、なっちゃんなりの理由があると思ったからかは定かではない。


「二属性持ちだったとはな」


「人魚すべてが二属性持ちなのかしら?」


「だとしたら脅威だな」


 アンドロメダとシーダも魔法に関しては無視出来ないようだ。


「脅威と言えば、魔力の最大値はうちくらいあったで」


「そこまであったのか」


「一瞬だったものねぇ」


 人魚の魔力はケットシー並なのか……二属性持ちだし海では相当強そうだ。泳ぎも達者らしいし。

種族魔法があってもおかしくないな。

いや魔力の高いかっちゃん達の前に単独で現れるくらいだ、何か自信の元になる力があるに違いない。


 かっちゃんとアンドロメダ、シーダが人魚の魔力についての話をしている間に、なっちゃんはヤマトとミズホと一緒に海の中を覗き込んでいる。

それを羨ましそうに見るアリーナ。


わうー

わふー


「ん?どうした?」


「雨になりそうやと」


「雨か」


 俺は空を見上げる。

確かにさっきより雲が増えている。それに空気も重いな。


「陸へ上がろう!」


「はいな」


 かっちゃんは操船組を集めて指示をしている。

陸地へ向けて船が進みだす。


 ポツン……雨が降ってきた

陸地沿いに船を動かしているので陸までは遠くない。

しかし直ぐに着くわけではない。

俺は予備の材木を使い『錬成』で屋根を作る。

屋形船の様な船になった。

うちの魔法使いが吹かせている風ではないものが船の横から吹いて来た。

うわ、空が暗くなって来た!急激に空模様ってのは変わる物だな。


「台風かも知れない!急いで陸地へ!」


「急ぐでー」


「はーい」


 操船組が頑張ってくれたおかげで本格的に雨が降る前に上陸出来た。

屋根付きの小屋を作ろうかと思ったが、この船をそのまま陸へ引っ張り上げる事にした。

ゴンタ一家が綱を使い船を張ってくれたおかげで砂浜を超えて、森の中へ船を持ち込めた。

一応辺りの木々と船を綱で結びつけた。

みんなに船の中へ入って雨を凌いでもらう。

俺は風を防げるように船の改良を進める。


 ゴウッ!風がかなり強くなって来た。

なっちゃんがキャーキャーいって楽しそうだ。

ヤマトとミズホも、がうばう言っている。

俺も小さい頃に台風により停電した家で妙にワクワクした覚えがある。

世界が違っても通じるものがあるんだな。と嬉しくなった。


 チラッと外を見ると波が高く横殴りの雨が叩き付けて来た。

これは本格的な台風かも……直ぐに上陸して良かった。

ディンギーは無事に群れに帰れただろうか?二度しか会っていない人魚の事が気に掛った。

妙な奴だったな。


 狭い船の中でくっついて眠る。

なっちゃんが嬉しそうだったのが印象的だった。


 明日は晴天になるかもな。

未だにゴウゴウ吹く風の音を聞きながら眠りに着いた。


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