表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/387

回想

148


 俺が起きた時には日が高くなっていた。

みんな俺を起こさずに寝かせてくれたんだなぁ。ちょっと嬉しい。

そう、例え俺が寝ている間に蛇の肉で焼肉パーティをしていたとしてもだ。

かっちゃんがお腹をポッコリさせていたり、アリーナがゲフーとか言っている。


 俺は湖で顔を洗い水を作って飲んだ。

激戦の後が残っていた。血が土に沁みこみ黒い染みを作っている。


「トシが寝ている間に風の魔法を使ってくるイタチに襲われたで」


「魔法の使えないトシちゃんが寝ていて良かったのー」


 なっちゃんの言葉が胸に刺さる。どうせ魔法を使えませんよーだ。


「うむ。血の匂いに誘われてきたようだ」


「動きが速かったわねぇ」


「私も防ぐので手いっぱいでした」


 アリーナも速く動けるのに余裕がなかったのか。それで風の魔法を飛ばされたらきついな。

かっちゃんが良い毛並をしたイタチを見せてくれた。

大きくはない。片手でも持てる。

かっちゃんが魔物の名前を言わないって事は大蛇に続いて知らない魔物って事か。

花ちゃんの屋敷から一日の距離なのになぁ。前回は会わなかった。今回は旅の人数が多いからか?この湖に何か秘密が有るのかも知れないな。


 俺も大蛇の焼肉を食べた。

この肉を町で売ったら人気が出そう。

既に俺が解体してジャーキーにした物がソリへ積み込まれている。

生肉も凍らせてあるね……かっちゃんがやったのかな?これで肉を痛めないで持ち運べる。


「出発しようか」


「はいな」


「はーい」


 俺はソリを引っ張る。


 ミズホは昨日の後遺症もなく元気に走り回っている。

俺と同じように弾き飛ばされていた。

ミズホもゴンタと同じく速度で回避するタイプだから、それほどの頑丈さはないのかと思ったが十分頑丈だ。

そうかゴンタは攻撃を喰らわないだけで頑丈さを見る機会がないだけだな。

ヤマトも元気だ。楽しそうにミズホと走っている。

今日はゴンタではなくミナモが子供達を追っている。

昨日の大蛇はアリーナとミナモでは厳しい相手だった。

ゴンタも正しく力量を読んでミナモを攻撃に参加させていなかった。

ヤマトとミズホをミナモに追わせて走らせる事によってストレスを発散させているのかな?長い旅でストレスを溜めるのは良くない。

アリーナは赤色魔石を見てストレスが無くなったようだがな。

彼女は扱いやすくて助かる。


 ヤマトとミズホ、ミナモが先行し魔物を倒している様で俺達が戦う事はなかった。

ゴンタは俺達と一緒に歩いている。

ゴンタとかっちゃんがいると心強い。

俺だけだったら大蛇に立ち向かうことはなかったろう。きっと逃げる事を選んだ。

俺もいるだけで、みんなから心強く思われたいものだ。

そのためには強くならないとな。

『錬成』も上がって欲しい。

遺跡でも変わった素材を扱ったし数もこなしている。そろそろ上がっても良さそうなものだ。

生物も『錬成』の対象になれば、最強とは言わないまでも今より格段に強くなれるはずだ。

人間を辞める覚悟があれば大蛇の鱗とかを身に纏ったり腕も増やせたりするかも。

想像するだけでワクワクするな。


がうー

ばうー


 ヤマトとミズホが吠えている。


「楽しい!やってさ」


わう


「ゴンタと違って解りにくいな」


わうー


「ゴンタの事は何となく解るんだよね」


 俺はゴンタの頭を撫でる。ゴンタは目を細めて気持ちよさそうにしている。

こういう姿を見せてもらえると俺も嬉しい。

付き合いの長さだろうかね?いつかヤマトとミズホの事も解るようになるかな?楽しみにしておこう。



 それから十日は似たような毎日であった。

ヤマトとミズホがご機嫌だ。

それを見ている俺達も楽しかった。

ゴンタ一家以外は大蛇以来戦うことはなかった。露払いは完璧でしたとも。ヤマトとミズホがあまりにも楽しそうなので少しは俺達にも獲物を回せとは言えなかった。


がうー

ばうー


 ヤマトとミズホが吠える。尻尾がブンブン振られている。アリーナが尻尾に誘われて右へ左へ揺れている。


「そうや、これが海やでー」


 ヤマトとミズホが興奮しているのは、初めて見た海のせいだ。


「やっと海だ」


「海ー」


「うちらは歩いていただけやん」


「そうなんだけどさ。逆に緊張感がなくてやばかった」


「それは解るで」


「私は楽なのは大歓迎です」


 うんうん。アリーナはそうだろうね。

人間っぽくてよろしい。

アンドロメダとシーダはラミアの里へ近づけば近づくほど静かになって来ている。

話題を振れば返してくれるが、様子がおかしい。

ヒッコリーの事なんだろうなぁ。ラミア一族の事となると俺達に出来る事は少ない。

アッツさんにヒッコリーの精神操作の解除はしてもらうけどさ。

アッツさんには報酬は前払いで俺の話をしたから会うことが出来れば解除はしてもらえる。


「このまま船の旅ってのも何だから海で遊ぼう。ゴンタ、子供達に泳ぎを教えてあげなよ」


 アンドロメダとシーダの気分転換にもなれば良いな。


わう!


 ゴンタは俺の提案に乗った。早速ヤマトとミズホを海へ連れて行った。


ギャンッ!


 あーあー、ヤマトが海水を飲んだみたいだ。

匂いは嗅いでいたんだから警戒しろよー。

ミズホも同じように飲もうとしていたがヤマトの悲鳴を聞いて飛び退いた。

子供達は海水の塩辛さや匂い、砂浜の熱さや海からの風を経験している。

そして海での泳ぎだな。

ミナモも参加している。ゴンタ先生の出番だ。

でもヤマトとミズホは波を追いかけては逃げている。

みんなで子供達の様子を伺う。日記を書いていたなら初めての海とタイトルが付いたに違いない。


 かっちゃんは暑いのは好きではないようで氷を出して木陰で涼んでいる。

昔は氷なんて出せなかったもんな。かっちゃんが氷の魔法を直ぐに覚えたのにはこういう暑さ対策っていう必死さがあったのかも。そういやアイスキャンディーも大喜びだったね。

なっちゃんもかっちゃんの側でニコニコしている。そろそろ狼の被り物が暑そうだ。あ、氷の魔法で対策してあるっぽい。ずるいぞ。

アリーナはヤマトとミズホの動きに夢中だ。記憶媒体があったら撮りまくりだったろうな。ストーカーになっていたかも。


 あ、アンドロメダとシーダも海へ行った。

装備を全部外して海へ飛び込んだ!すっぽんぽんですよっ!?あわわわ。

ガン見してしまったね。そして拝んでみたり。

人間の上半身と蛇の下半身の境がどうなっているのか知りたいが、遠くて良く判らない。

とても気になります。

ラミアは水と一緒に暮らす種族だけど海水でも良いのかなぁ。

俺は楽しそうにウネウネと蛇の足で泳ぐ二人を遠くから見る。

ヒッコリーは木陰で氷も付けてある。


 もう夏の暑さだ。

また夏が来たんだ。実感する。


 俺とゴンタが落ちて来てから一年ってとこか。多くの出会いをしたし、多くの経験もした。

俺は木陰で体育座りをして海を見ながら思い出す。

ゴンタもちゃんと大きくなっている。頭の後ろに乗せて海を泳いだ日が懐かしい。

初めて会った人がかっちゃんで良かった。お世話になりっぱなしだ。

カビーノ達は元気にしているだろうか?

ケイトさんには救われたな。ドラゴンの巣へは行けたのだろうか?

なっちゃんのお爺さんの墓も作ったから一緒に墓参りに行くべきかな。

イチルア王国には借りを返さないとな。騎士団め。

ダンテとフリオには色々と驚かされた。

ヒミコとヤマは同胞と言ってもいいな。表立っては馴れ馴れしく出来ないけどさ。

ビアンカとデイジーの姉妹は頑張ってくれている。犬耳と尻尾が気に入ったから契約したなんて今更言えない。

世界樹は大きかったな。また行くことになるだろう。

花ちゃんの存在が消える前に会えて良かった。帰る場所ってのは大切だ。

転移野郎に会うことはもうないかもな。

ドワーフはバシバシ叩いてくるから苦手だ。

アリーナにはいきなり一撃入れたんだっけ。

山の民は塩も買いに来ていないらしい。

アンドロメダとシーダの子作り宣言には驚かされた。俺には縁のない話だと思っていたからな。

サムとアッツさんは面白い親子だ。

遺跡では王子様とも一緒に戦ったっけ。


 こうして思い返すと良い人達と出会えている。

今ではやりたいこともやれているし、居場所も出来た。

ゴンタの子供達も見れた。


 なんだか最終回っぽい。


 まだ終わらないけどなっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ