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「行ってくる。馬達をよろしく」


「はい。お任せを」


「花ちゃん、行ってくるねー」


「行ってらっしゃい」


 なっちゃんが花ちゃんに抱き付いている。

花ちゃんはヨシヨシと言わんばかりになっちゃんの背中を軽く撫でている。

今回はゴンタ一家も一緒に旅に出るので留守番は馬達だけだ。


わう


 ゴンタが花ちゃんに挨拶をしている。

後ろに一家が並んでいるので代表しての挨拶かな。


 そして俺達はヒッコリーを入れた檻付きのソリを引っ張って出発した。

見えなくなるまで屋敷の入口で手を小さく振っている花ちゃんが印象に残る。


 今回の旅の目的はヒッコリーの精神操作の解除と里長への引き渡し。

そしてヤマト、ミズホに外の世界を見せるという事だ。

狩りも自分達だけで出来る様になったヤマトとミズホだが、知らない場所での行動の仕方や俺達以外の人への接し方を学ぶためだ。

ミナモは山や森だけで生きて行けば良いと言っているらしいけどさ……ゴンタは俺達と行動するのに賛成しているようでミナモも従っている。

何が正しいって事もないだろうが危険な事も教えておいた方が良い。

そう、今なら俺達が教えてやれるしね。


 ゴンタ一家がいるので索敵は最高レベルなのではないだろうか?ミナモと子供達は魔力感知も出来る。

ゴンタ一家が俺達を先導する様に前を歩いている。

子供達がはしゃいで走って行ってしまったゴンタが追いかけて行った。

少ししてからしょんぼりした子供達とゴンタが戻って来た。

子供達は初めての旅でテンションが上がっているようだ。

ミナモにも怒られているっぽい。

既にミナモより子供達の方が強いけど、大人しく怒られている。

母は強しだろうか。

子供達の中で序列が決まっているのかも知れない。

俺はそんな事を思った。


 ヒッコリーの移送に力を裂かれる俺達にとってゴンタ一家の索敵はありがたい。

基本、俺一人で引っ張れるけど、場所によってはアンドロメダとシーダの協力も必要だった。

アリーナやなっちゃんでも良かったのだが、やはりラミアの事はラミアに任せたい。

一度通った場所は、かっちゃんに任せれば道案内に問題はない。

似たような森や山だが、かっちゃんには解るらしい。

かっちゃんの側にはなっちゃんが侍っている。

何か魔法関係の話をしているっぽい。俺の知らない単語が結構出てくる。

こういう時は寂しいもんだ。


 時々ゴンタが戻って来てはかっちゃん、なっちゃんを連れて行く。

そして戻ってくるかっちゃん、なっちゃんは果物やら山菜やらを持っていた。

さすがゴンタだ。

食料も花ちゃんの屋敷から持ってきているとはいえ日持ちするジャーキーや干し魚といったものばかりなので、こういう果物とかは嬉しい。

あとは倒した魔物の肉になるからね。

先行しているゴンタ一家は魔石を持ってきてくれるので魔物も倒しているはずだ。

何だか荷物はあるけどハイキング気分だな。


「トシちゃん、ゴンタちゃんが持ってきた魔石に黄色魔石もあったのー」


 なっちゃんが黄色魔石を見せてくる。

ゴンタ……何を倒しているんだ君達は……しかも三個もあった。オーガの上の色だぞ!

俺だって一体づつなら一人で倒せると思うけど、恐ろしい一家になりつつあるな。

これ一個で三人家族なら一年近く生活出来るらしい。

それを散歩のついでみたいに持ってこられてもな。


「俺達の前に出てくる魔物が可哀想になってくるな」


「うちらの出番はないもんなぁ」


「ゴンタも子供達も張り切りすぎだな」


「気持ちは解らんでもないけどなぁ」


「まぁね」


「ミナモが顔を引き攣らせてそうやな」


「目に浮かぶようだ」


 ミナモだけなら逃げる相手だろうからね。

きっとゴンタ一人で戦わずに子供達も参戦させている。

今回はゴンタも子供達に色々経験させるつもりらしいからな。


 その日の野営は前回も一日目で泊まった湖の側だ。

ヒッコリーがいるので前回よりも到着が遅れた。日が長くなってきているのでまだ明るいけどね。

かっちゃんは土の魔法で湖に生簀を作り、魚を追い込んでから俺が作った網で魚を取っている。

なっちゃんも楽しそうにかっちゃんを手伝っている。

なっちゃんの場合は魚が食べられるという喜びより作業が楽しいって感じだな。

俺は火を熾しておく。

串も作っておいた。

塩焼き一択だからね。

ヤマトとミズホも楽しそうにかっちゃんの近くでがうばう言っている。

子供達には知らないことばかりだから、何でも経験になる。

網を持っている人がいたら被せられて捕まるという事も学んでくれ。

罠って事もあるしな。

かっちゃんから聞いた話によるとヤマトとミズホは賢いらしい。

説明すればちゃんと理解出来るし、質問も的確らしい。

正しい質問が出来るってのは、それだけで利口だと思う。


 かっちゃんがホクホク顔で魚を二十匹ほど捕まえて来た。

今は全員で内臓を取り出して串に刺している。

内臓は子供達が食べていた。気に入った様子はなかったので、たいして美味しくなかったのだろう。

串に刺した魚に塩を振って火の周りに立てて行った。

かっちゃんはフンフン鼻歌を歌ってご機嫌だ。

つられてなっちゃんもご機嫌だ。

微笑ましいねぇ。


 魚は塩焼きにすると間違いはない。

単純ながら美味しい。

ヤマトとミズホも尻尾を振って食べていたから今度は気に入ったのだろう。

そして野営では早寝早起きになる。

ゴンタ達がいれば寝ずの番も必要がない。とてもありがたい。


わうー!


がう!

ばう!


わふ


 ゴンタ一家が吠えた事によって俺は起きた。


「何か湖から来るんやと」


「湖から?」


「そうや」


 そう言っている間に俺の索敵にも引っかかった。

強い!一体だけだが強いぞこいつ。


「警戒!強いぞ」


 俺は大声で全員に警戒を促す。

そして同時にアダマンタイトの盾とミスリルソードを鞘から引き抜く。


「アンドロメダ、シーダはヒッコリーをここから離した後で守ってやれ」


「「はい」」


「ゴンタ一家は無理せず好きに戦え!」


わう!


「敵を確認後、かっちゃんとなっちゃんは魔法攻撃!」


「はいな」


「はーい」


「俺とアリーナは遊撃だ。相手は強いから無理をするなよ」


「はい」


 俺が全員に指示を出した直後にザパァッっという水音とともに大きな何かが湖から出て来た。

かっちゃんが光のマジックアイテムを出してくれた。

こいつは!?

蛇?大蛇だな。


 口を開けただけで人の身長ほどもありそうだ。

胴回りも人の身長に近い。

全長は判らない。

そして速い!地を滑るように俺達へ向かってくる。

かっちゃんがこいつの正体に言及しない所を見ると知らない相手の様だ。

情報がないから慎重に動かねば。毒があってもおかしくない。


 ゴンタが俺達へ向かってくる大蛇の横っ腹に体当たりをした。

ゴスッっと大きな衝突音がして大蛇の巨体がずれる。

ゴンタは体が小さいのに凄い威力だな。

音からして鱗は固そうだ。

剣が効くかどうか……それ以外の攻撃となると『浸透撃』か。

蛇の心臓部はどこか判らない。『浸透撃』も頭以外どこに使ってよいか判断がつかない。


 後衛から氷の魔法と土の魔法が飛ぶ。

ガッ!ドゴッ!連続して命中した。的が大きいので外れなそうだ。

それでも平然と動く大蛇。

魔法が当たった時に大蛇が飛んできた方向を睨んだようなので、効いていない訳ではないな。

ドシュッ!ドスッ!連続して音と共に大蛇の胴体の半ばに矢が突き刺さった。

アンドロメダとシーダだな。固そうな鱗なのに良く刺さるな。

蛇つながりで対処法でも知っているのだろうか?きっと特別な鏃を使ったんだろう。

矢が刺さったところから体液が流れ出している。

そして大暴れする大蛇。

ウネウネと無軌道に動き回る。

ゴンタ達もうかつに近寄れなくなった。

近接より遠距離攻撃だな。

かっちゃんとなっちゃんからは引っ切り無しに魔法が飛び、アンドロメダとシーダからも矢が飛ぶ。

矢は外れることなく大蛇を襲う。

彼女らはヒッコリーの守りをアリーナに任せて違う所から射っている。

自分達が狙われればヒッコリーを巻き込むからだな。


 ゴンタ一家もミナモは下がっている。

ゴンタの判断だろう。

ヤマトとミズホも闘志を漲らせているが、ゴンタが上手く抑えているようだ。

時折三連で体当たりを喰らわせている。

某JSAを彷彿とさせるアタックだ。名前はガイア、オルテガ、マッシュではないけどな!

ミズホの毛色も黒だったら良かったな。

俺は出番がなさそうなので警戒しつつも見学中だ。

大蛇は体液を流しながらも有り余る体力で暴れている。

ゴンタの気を乗せた爪による攻撃でも大蛇に傷がついているか判らない。

ゴンタ一家が大蛇のタゲを取ってくれているので、俺も投石をする。

大きな石を探しては投げつけた。

的が大きいので俺の投石でも外れない。

石が当たるたびにゴスッっと音がしている。頭を狙っているので脳震盪くらいは起こせるかも。

俺の投石、かっちゃん、なっちゃんの魔法攻撃、アンドロメダ、シーダの弓矢、三方向からの遠距離攻撃は続く。

いずれ大蛇が痺れを切らして遠距離攻撃チームを狙って来るかもだが、こちらはばらけているので攻撃は止まらないだろう。

しかし大蛇のタフさには呆れる。

体液を垂れ流しにしているのにあの動きとは恐れ入る。

こちらの攻撃がまったく効いていないのではと疑いたくなる。

こんなのがうじゃうじゃいたら堪らんな。

この湖の主であることを祈る。


 アンドロメダとシーダからの矢による攻撃が止まった。

矢が尽きたか!?

既にハリネズミの様に矢が刺さっている大蛇だが止まらない。

ギャインッ!!叫び声とともに白い物が大蛇の尻尾に弾き飛ばされた。

ミズホか!

俺は頭に血が昇った。

よくもうちの子を泣かせたな……俺は接近戦をする決心がついた。

無尽蔵な大蛇の体力にだ。このままでは埒が明かない。やってやる。

自分に言い聞かせて奮い立たせる。

ゴンタを見るとゴンタも怒っている。


「行くぞゴンタ!」


わうー!


 俺は大声で叫んだ後で大蛇に向かって走る。

背後から近寄った俺に尻尾が振られた。何っ!?気配も消して走り寄ったのに何故判った!?

腕をクロスさせて尻尾を受けるが、鈍い音とともに体の芯まで響く打撃だった。グハッ!内臓の損傷は無い様だが効いた。

数m弾き飛ばされた俺に代わりにゴンタが大蛇の左目を潰してくれた。

更に暴れる大蛇。

俺は気配を消すのを止めて逆に全身に気を巡らせた。

攻防一体だ。回復もしつつ動く。

必ず大蛇からの攻撃が来るつもりで戦う。

盾は受け止めても衝撃が殺せないので捨てた。


「うぉぉぉっ!」


 『気功斬』とバーサーカーの制限解除による攻撃だ。

ザシュッ!!傷ついている左目付近を切った。

他の所より攻撃が通った。

一撃離脱……と思って下がろうとした俺にまた尻尾が振られた。

速いっ!


「はぁっ!」


 剣を捨てて気を集中させた両手で受け止めた。

ある程度の衝撃は殺せたようだが数m転がされる結果は変わらなかった。

俺が大蛇から離れると後衛から纏めて攻撃魔法が飛ぶ。

俺が邪魔かなとも思わないでもなかったが、有効な攻撃が判明していない以上足掻くしかない。


わう!


 ゴンタ、ヤマトが連続で体当たりをしている。

ミズホはミナモの所まで下がっている。


 体当たり後に大蛇から離れようとしたゴンタ、ヤマトに大蛇の口から何かが飛んだ。


わう

がう


 さすがゴンタ、判断も動きも速い!きっちり躱した。


わうー!


 ゴンタが一際大きな声で吠える。


「トシ!ゴンタが毒に注意やと」


 離れているかっちゃんから報告が来た。

毒を吐いたのか……やはり持っていたか。

背後の尻尾の方がマシだな。

俺は尻尾でもいいから『浸透撃』で大蛇の体内に衝撃を入れようと考える。

主要臓器がないだろうから大した威力にはなるまい。

俺にタゲがくれば良い。

ゴンタ達が大蛇を削ってくれるはずだ。


 俺は何度も弾き飛ばされた。

俺も頑丈な体になったもんだ。内臓は無事だし動けるもんな。

それにしても俺も速度は遅くないのに的確に尻尾を振るってきやがる。

どうなってんだ……むかつく。

まぁ毒さえ喰らわなければ続けられそうだ。

顔を流れる汗を小手で拭いながら大蛇へ向かう。

大蛇もゴンタとヤマトの攻撃で胴体の肉を晒していた。

矢の刺さった場所を上手く爪で裂いたのだろう。

これで動き回る大蛇が怪物なだけだ。

戦意の衰えも見せない。


ばう!


 ミズホも復帰してきた。

そうだ。負けっぱなしで終わるな。死ななきゃいいんだ。


 後衛から水の魔法が連発された。

水の魔法は攻撃に向いていない。ちょっとした打撃力しかない。近距離なら水圧を上げて切る事も出来るらしいが、こいつには効きそうもない。

それでも続く水の魔法。アンドロメダとシーダも参加しているようだ。


「トシ!ゴンタ!どいてんか」


 かっちゃんの大声が辺りに響く。

俺はバックステップで大蛇から距離をとる。

ゴンタ一家も退いたようだ。


 かっちゃん、なっちゃんから氷の魔法らしきものが放たれた。

そして動きが緩やかになる大蛇。

さっきの暴れようが嘘のような動きだ。

更にかっちゃん、なっちゃんが魔法を放つ。

あぁ……解った。

水で大蛇と地面を濡らし、低温で蛇の活動を抑えたんだ。

それどころか凍っている部分もある。

もう俺の出番はなかった。

ありあまる魔力に物を言わせて魔法を放ち続けるかっちゃんとなっちゃん。


 そして大蛇の動きが完全に止まった。

まだ知らない魔物が沢山いるのだろうな……激戦を終えた俺はぼんやりとした意識の中で思った。


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