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小さな幸せ

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 なっちゃんという先生がいるおかげか、ヤマトとミズホの風の魔法は実戦レベルになっていた。

それはゴブリンとの戦闘で風の刃を飛ばし切り刻んでいたのを見れば一目瞭然だった。

オーバーキルだな……ゴブリンの残骸は酷い有様だった。

辺りには血の匂いが満ちている。


 今日はヤマトとミズホの一週間の魔法訓練の成果を試すためにみんなで山へ来ているのだ。

俺は一週間ずっとゴンタと二人で山や森で遊んでいた。

俺は楽しかった。

ゴンタは家族が出来てからお父さんに徹していたから、やりたいことを出来ていなかったのだろう。

ゴンタもはしゃいでいたと思う。


「ヤマトちゃん、ミズホちゃん、風の魔法は合格ー」


がうー

ばうー


 なっちゃんからお褒めの言葉を貰ってご機嫌な子供達。


「魔法を放つ時に立ち止まらなければ最高だったで」


がぅ

ばぅ


 かっちゃん先生が注意点を告げる。

ヤマトとミズホも自覚があったのか、シュンッとなった。


「そうだな。せっかくの速度のある動きがもったいないぞ」


「最初はそんなもんよぉ」


 アンドロメダは厳しい。

そしてシーダが子供達を慰める。


 火の魔法が使える者がいなかったのでヤマトとミズホに教える事が出来なかったらしく、実戦では出番がなかった。

それでも火種を作ったり手元で火球を作ったりは出来ているのは見た。

俺は魔法の素養がないので、ヤマトとミズホの才能は判らないが、みんなの反応からするに悪くはなさそうだ。

そのみんなが普通ではない気もするけどな。彼女達の要求レベルは高いのではないだろうか?頑張れヤマト、ミズホ。


「後は訓練あるのみや!頑張るんやでヤマト、ミズホ」


がう!

ばう!


「かっちゃん、魔法の講習会は終わり?」


「基本は終わりやな。あとは自分でやっていかんとな」


「そっか」


「そろそろギルスア王国へいこか」


 かっちゃんが俺の思っていた事を先取りする。

さすが、かっちゃん。


「うん」


「そうだな!行こう」


「今日出ますか?明日ですか?」


 俺の肯定に続いて、アンドロメダとシーダが畳みかける様に言う。


「今日はゆっくりしようや。ええやろトシ」


「おう。明日の朝に出発しよう」


「「はい!」」


 アンドロメダとシーダが嬉しそうに返事をする。声からするに待ってましたと言う感じだな。


「ゴンタ、久しぶりの旅だな」


 俺の隣で子供達を見ていたゴンタに声を掛ける。


わうー


「嬉しいやってさ」


 かっちゃんが通訳してくれる。


「そっか。あっちも美味しい食べ物が一杯あったぞ」


わう


 ゴンタは俺に似て美味しい食べ物が好きだからな。


「家に戻ろう。旅の準備をするぞ」


 俺達は花ちゃんの屋敷への道を戻る。

ヤマトが先行してミズホが続く。

ヤマトとミズホはお互いとても似ている。毛の色が黒と白なので区別はつくが行動もそっくりだ。

それでも最近性質に違いが見られる様になって来た。

ヤマトは好奇心旺盛で率先して向かっていく。そして匂いを嗅ぐのが好きだ。

ミズホも好奇心は強いがヤマトより警戒心がある。臆病って事はないが慎重だ。

ミズホがヤマトの後を着いていくことが多い。

そして子供達は強くなっている。山を駆け回ってはゴンタとミナモを手本として狩りをしている成果だな。

立ち回りが上手くなり危険行動が、なりを潜めて来た。無駄に飛び跳ねたりしなくなったし、直ぐに魔物へ突っ込んで行く事もなくなった。

子供の成長は早いとつくづく思う。


 楽しそうに駆けまわる子供達の後姿を見てニヤニヤする俺達。

それぞれ思っている事は違うだろうが、愛されているな。


「花ちゃん、ただいまー」


「なっちゃん、お帰りー」


 ときどき花ちゃんにも、なっちゃんの口調が移るな。


「花ちゃん、明日ヒッコリーを連れてギルスア王国へ行くよ」


「皆さんでですか?」


「うん」


「……解りました。今日の夕食は豪勢に行きますね」


「おぉ!楽しみだな」


「楽しみー」


 花ちゃんの料理は美味しいからな。俺の適当な料理知識からでも作ってくれるし、どんどんレパートリーが増えている。

楽しみだ。どうせなら酒も奮発するかな。


「ドワーフ特製のエールはなくなったけど、とっておきのワインを出そう」


 ギルスア王国の遺跡の村で買った白ワインだ。残り少ないが今回の旅でまた買えば良いからな。


「ホンマか!」


「トシ!素晴らしいです!」


 呑兵衛の反応が良い。

かっちゃんとシーダがとても嬉しそうだ。


「あの白ワインですね。それなら魚系の料理も考えてみます」


「花ちゃん!」


 花ちゃんの手をがっしりと握るかっちゃん。

魚が好きなかっちゃんらしい反応だ。感激しすぎな気もするけどさ。

花ちゃんの気遣いが嬉しいのかも。


「花ちゃん、私も手伝うよー」


「我らも手伝おう」


「えっと私は忙しいので……」


 なっちゃんが料理の手伝いを申し出た。

それにアンドロメダも続くが、シーダは気乗りしないようだ。

そういやシーダが料理している所を見たことが無いな……へたなのかな?いや酒が呑みたいだけかも知れない。

だがシーダはアンドロメダに引きずられるように台所へ連れていかれた。

夕飯が楽しみだ。

砂糖が安ければお菓子でも作ってやりたい。どこの町や村へ行っても見かけないから国や貴族が買い占めているのだろう。

サトウキビか甜菜が見つかればなぁ……果物から果糖を取れるけどたかが知れている。

あとは蜂蜜くらいしか甘いものはない。

魔物の蜂もいるらしいが、この辺りでは見かけたことがない。

卵も欲しいし、未だに足りない物が多い。

俺が地球の食べ物を知らなければ良かったね。なまじっか知っているから食べたくなる。

みんなの喜ぶ顔も見たいしな。


 いつもよりずっと豪勢な夕飯だった。

熊肉のワイン煮込み、焼き鳥、燻製肉と山菜のトマトソースのピザ、魚の一夜干し、干し魚から出汁をとったスープ、肉団子入りのトマトソースパスタ。

二品は多い。

ピザ、パスタで俺が町で買ってきておいた小麦を使い切ったらしい。

また買ってこないとな。

熊肉は臭みが強いのだが、花ちゃんがじっくり煮込んだ物はどんな工夫があるのか判らないが臭みがほとんどなかった。

肉も柔らかいし癖になる美味さだ。

今の時期は山菜もけっこうあるので、サラダなんかにも入っていた。

ワインの肴としてチーズもあった。俺が町で買ったお高いチーズだ。

今回は新鮮な魚がなかったが魚の出汁が良く出たスープも美味しかった。具は味の邪魔をしない根菜が中心だった。

大根というか蕪というかそういう野菜が魚の出汁を良く吸っていた。

かっちゃんのお気に入りになったようだ。俺もこれとどんぶり飯を食べたい。

焼き鳥はゴンタ達の好物だし、肉団子のトマトソースパスタはアリーナの好物だったな。

白ワインも料理に合っていて美味しかった。いや花ちゃんが白ワインに合わせて料理してくれたんだろうな。

ヒッコリーにもかっちゃんが食べ物を持って行った。

食べるなどの行動はするが敵対したままだ。

食べるときは当然猿轡をはずしているがヒッコリーが俺達に話しかけて来た事はない。

花ちゃんの料理を食べても反応がない。何となく悔しい。

なんとも厄介な状態だ。


「花ちゃん一緒に寝ようー」


「はい」


 なっちゃんは花ちゃんと同じ布団に入った。

花ちゃんは寝る時は肌襦袢姿だ。何となく色っぽい。見た目幼女なのに不思議なもんだ。

なっちゃんも花ちゃんに同じ物を作ってもらって寝間着にしている。

とても色っぽい。

あ、明かりを消された。

突然消されたので、誰かの小さな悲鳴も聞こえた。

どうやらアンドロメダが消したようだ。

早く寝ようって事かな?


 明日は山での野営になるんだろうな……そう思うと布団が愛おしい。

畳の匂いともしばらくさよならだ。

でも考え方ひとつで変わるよな、生活のランクを下げると上げた時により喜びが大きい。

旅から帰って来て、またこの布団で寝よう。

必ずだ。


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