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回顧

144


「ゴンタ、ミナモは子供達を旅に出しても良いって言った?」


わう


「そっか。一緒に行けるかー」


わうー


 ドーツ王国の鉱山から花ちゃんの屋敷に戻って三日目の朝飯後に俺はゴンタに聞いた。

ヒッコリーを檻の中のままにして置く訳にもいくまい。

俺は土間の檻で横になって拘束されているヒッコリーを見て思う。

休息も取れたし、そろそろ動くべきだろうな。

なっちゃんと花ちゃんの仲睦まじさと、アリーナのヤマト、ミズホへの視線を見ると、もう少し花ちゃんの屋敷に居ようかなとも思ってしまうけどな。

俺達が帰って来た初日以外はミナモに言われたのかヤマトとミズホも必要以上に近寄ってこない。

ゴンタ一家は寝るとき以外は屋外にいるのも俺達が子供達と触れ合っていない理由でもある。

俺達も訓練と称してゴンタ一家に着いて行ったりもして子供達を見守っていたけどな。

ゴンタが全力で走ったらとても着いていけないが、ユルユル進んでくれたので着いていけた。


「トシ、おっちゃんとこ行くんか?」


 俺とゴンタのやり取りを見てかっちゃんが俺に問う。


「うん。さすがにあのままって訳にもいかないだろう?」


 俺はチラリと土間を見る。


「ありがとう、トシ」


「なんとかしたいわねぇ」


 アンドロメダが俺に礼を言い、シーダも俺に同意する。

直ぐに行こうと言わないのは、アンドロメダとシーダもみんなの様子を見て言えないのだろう。

花ちゃんの屋敷ではみんな穏やかに暮らせているからな。


「ゴンタとの旅も久しぶりやなぁ」


わうー


 ゴンタも嬉しそうにかっちゃんを見て尻尾を振る。

ゴンタが尻尾を振るのは俺とかっちゃんくらいだ。やはりこっちに落ちてきてから一緒にいた時間が長いからな。

一緒に飯を食べて寝て、一緒に魔物と戦った時間といっても良い。

俺はゴンタに助けてもらってばかりだけどな。

ゴンタは森や山でなら一人で生きていける力がある。

ゴンタが俺と一緒にいてくれるのは、ゴンタの好意以外の何物でもないはずだ。

人も好きなゴンタは優しい子だ。敵には容赦しないので優しいだけではない。

たぶん二、三歳のはずだが、さすが神使い見習いというべきか。


わふ


「ん?そうやな確かにヤマトとミズホは魔力があるな。ミナモよりも多いで」


わふー


 かっちゃんとミナモが話している。どうやら子供達には魔力があるようだ。

ゴンタの子供だからなくてもおかしくなかった。

魔力がある分ゴンタより強くなるかもなぁ。


「トシ、ミナモがヤマトとミズホの魔法関係を見て欲しいと、うちに言うとる。ちょっと時間もろてええか?」


「アンドロメダ、シーダ、もう少し旅を後にしても良いか?」


 俺はもちろん良いと言いたいが、ヒッコリーの事もあるから聞いておかねば。


「ああ。ヒッコリーも記憶がないとはいえ閉じ込められるだけの事をしたしな」


「……ヤマトちゃんとミズホちゃんのためになるのでしたら」


 アンドロメダは仕方ないといった感じだ。

シーダは無理やり理由をつけている気もする。

そういえばヒッコリーはアッツさんに精神操作を解除してもらったとしてもラミアの里で処分は免れまい。

アンドロメダは現状のままの方が良いと思っているのかも知れない。

どんな処分が待っている事やら……あの里長は厳しそうだったしな。

自分の意思ではなかったとしてもラミア種族全体に関わる大問題だったろう。


「ミナモ、子供達を見てやれるで」


わふー


 ミナモが一声吠えて屋敷の外へ出て行った。

外で遊んでいる子供達を連れ戻しに行ったのかな?アリーナも戻ってくるな。


「かっちゃん、ヤマトとミズホは魔法を使えるのかな?」


 俺は気になっている事をかっちゃんに尋ねる。

高速移動をしながら魔法攻撃とか……ロマンがあるよな。


「それはどうやろな。なっちゃーん!」


 かっちゃんにも他人が魔法を使えるかどうかまでは判らないようだ。

魔力量までしか判らないのか。

そしてかっちゃんが、なっちゃんを呼んだ。


「なぁに?」


 畳の部屋で花ちゃんとお話をしていたなっちゃんがテテテッと小走りに囲炉裏端へ来た。

後ろには花ちゃんも来ている。

うん。仲良しだね。


「ミナモがなヤマトとミズホの魔法を見て欲しいんやと。なっちゃんは精霊が見えるやろ?子供達の魔法適正を見てもらおうと思てな」


「ヤマトちゃんと、ミズホちゃん?二人とも火と風の精霊さんがフヨフヨしてるよー」


 良く判らないがヤマトたちの周りを精霊が漂っているらしい。

それにしても二属性持ちか……ミナモは魔力はあるが魔法は使えない。ゴンタの影響だろうなぁ。


「二属性持ちかいな!魔力はアンドロメダ達より少ないが、人族の一流魔法使い並にあるで」


「火と風か!凄いな」


「近接も出来て魔法まで使えるとなると末恐ろしいですわねぇ」


 かっちゃん、アンドロメダ、シーダと魔法使い達からの賛辞が飛ぶ。


わぅ


「ゴンタは近接がずば抜けとるからええやん」


わぅ


「まぁな。戦術に広がりは出るわな」


 ゴンタが何やらかっちゃんに愚痴を言っているようだ。

ゴンタも俺と同じで魔法を使いたかったんだろうなぁ。解る解るぞ!面白そうだもんな。


「うちらに足りなかった火の魔法が使えるのは、ありがたいなぁ」


「うむ」


「火の魔法は攻撃力も高いですしねぇ」


「凄いねー」


 確かに全ての属性が揃ったことになるな。

火の攻撃魔法なら倒せないまでも火傷だけで戦闘能力は下がる。

何度も火傷を負った俺には解る。味方なら頼もしい。


わふ

がうー

ばうー


 ミナモ母子が戻って来た。

子供達は尻尾をブンブン振って嬉しそうだ。魔法についての事も聞いているのだな。

嬉しさのまま土間から板間に飛び上がったヤマトとミズホがゴンタに怒られている。

花ちゃんがまぁまぁといった感じで取り成している。

子供達は、しょんぼりしながら上がり框に置いてある足ふきへ向かった。

そして足を綺麗に拭ってきた子供達。


「ヤマト、ミズホはそれぞれ火と風の魔法が使える様や」


 しょんぼりしていた子供達が嬉しそうな顔を俺達に見せて尻尾も千切れんばかりに振られている。

子供だからか感情の起伏が激しいな。

まぁ俺でも火と風の魔法が使えるなんて聞いたらテンションが上がるだろうけどさ。


「風の魔法なら私が教えられるよー。先生になるー」


 なっちゃんは嬉しそうだ。いつも生徒の側だったからね。


「なっちゃん先生ですねー」


 花ちゃんもなっちゃんが喜んでいるのが嬉しいらしく、話に乗っかった。


「えへへー。なっちゃん先生なのー」


 なっちゃんは満面の笑みだ。これは破壊力があるぜ!良い物を見た。


「我らは魔力操作なら教えられるぞ!」


「そうそう。お任せください!」


 アンドロメダとシーダも乗り気だ。

彼女らもヤマトとミズホを可愛がっているからな。

なっちゃんに対抗しているって線もあるか。

最近なっちゃんに対して張り合ってる気がするぞ。大人げないぞアンドロメダ、シーダ。


「ええやろ。うちは理論や立ち回りを教えたるわ」


がうー

ばうー


 そして魔法使い一同とミナモ、ヤマト、ミズホ、アリーナが外へ行った。

早速魔法講習会を開くらしい。

屋敷の入口周辺で開催している。

花ちゃんも聞きに行った。


「ゴンタ、俺達は山に遊びに行こうか?」


わうー


 ゴンタがちょっと寂しそうだったので遊びに誘う。

俺達は花ちゃんに山へ行く旨を伝えて外へ出た。


 最近気温が上がって来た。

ギラギラした日差しも合わせて、もう夏と言ってもいいかも知れない。

でも風は涼しいので過ごしやすい。


 久しぶりにゴンタと二人だけの行動だ。

なんだか懐かしい。

落ちて来た当初は何をするにも俺はビクビクしてたな。

ゴンタの存在がどれだけ俺を救ってくれていたか……強さではない部分も助けられていた。

一人だったら耐えられなかったかも知れない。


 木苺や琵琶っぽい果物を採取したり、ゴブリン部隊と戦闘したりした。

ゴブリンは武器を持っていても楽勝だ。

複数の敵との立ち回りを確認するのにはちょどいい。

空間把握の訓練にもなるし儲けはないに等しいが無駄ではない。


 俺とゴンタがジャーキーと果物を食べていると、ゴンタ配下の狼達が遊びに来たので食べ物を分けてやってから一緒に山で遊んだ。

彼らを山の中で追いかけるのは大変でしたとも。

良い汗も掻いて山を駆けずり回って楽しかった。

頭を空っぽにして動き回るってのはスッキリするもんだ。


 俺達は夕方になるまで遊んだ。

花ちゃんの屋敷に帰ると、魔法使い組もまだやっていた。和気藹々と楽しそうに見えるので何よりだ。

まだ続きそうだったので、俺とゴンタは先に風呂に入った。

ゴンタは泥塗れだったが石鹸で洗うとミナモが怒るのでお湯を掛けて手で梳くだけにした。

ああ、久しぶりにゴンタのブルブル水飛ばしを喰らった。

こんな事ですら嬉しいとはな。

湯船ではゴンタの犬かきを見た。

落ちて来た時の海では泳げなかったもんな。

やはり悔しかったのだろうか、ちゃんと泳げている。


 夕飯の時も魔法使い組で盛り上がっていた。

若干の疎外感を感じたが俺とゴンタも遊びまくってスッキリしたので問題はない。


 良い一日だったなぁ。またゴンタと二人だけで遊びに行こう!


誤字修正。

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