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距離感

134


「ただいまー」


「帰ったでー」


わう!

わふ!


わうー


 俺とかっちゃんは無事に花ちゃんの屋敷へ帰って来ることが出来た。

《闘族》の襲撃もなかった。

そんな俺達を出迎えてくれたのはヤマト、ミズホ、そしてゴンタだった。

厳密に言うとまだ花ちゃんの屋敷はまだ先なのだが、もう危険はないゴンタのテリトリーなのでいいだろう。


わうー!

わふー!


 ヤマトとが俺の足元に、ミズホがかっちゃんに飛びかかる。

ちょっと大きくなっているな。

それにしても俺達の帰りを喜んでいる様に見えるぞ。可愛がってはいたが、出迎えてもらえるとは思っていなかったぞ。

俺は座り込んでヤマトを撫でる。

短くて太い前足が好きだ。

つい手を取ってしまう。

毛の色も濃くなっている気がする。黒さが増している。ゴンタと違って足の四隅が白くなく真っ黒だ。


「ゴンタ、ただいま」


わうー


 ゴンタも俺の側に来たのでワシワシと撫でる。

かっちゃんの方を見ると、かっちゃんも座り込んでミズホを撫でている。側にはミナモもいる。

何やらかっちゃんとミナモが話している。


「お帰りなさーい」


「トシ、お帰り」


「ヤマトちゃん、ミズホちゃん速いわねぇ」


「ハァ、ハァッ、皆さん、速いです……」


 ヤマトとミズホを追いかけて来たらしいみんなも追いついて来た。


「ただいま」


「戻ったで」


 なっちゃんはかっちゃんの所で一緒にミズホを撫でている。

アリーナ、アンドロメダ、シーダは俺の所でヤマトをだらしなく緩んだ顔で見ている。

イカンな。これは子供達を可愛がりすぎか?ヤマト、ミズホと二週間近く離れて客観的に見る事が出来た。

ゴンタは普通だが、ミナモが不機嫌そうだ。


「かっちゃん、俺達はヤマトとミズホを構いすぎかな?可愛がりすぎて良くない気がして来た」


 俺はヤマトを撫でる手を放して、かっちゃんに相談する。

魔物の生態までは知らないだろうが、かっちゃんは経験豊かだから助言してもらえるだろう。

俺とかっちゃん以外の人が何を言ってるんだという顔になった。


「……うちも離れてみて解ったけど、子供達に良くないんちゃうかな。ミナモも子供達が人に慣れすぎるのを気にしとる」


 かっちゃんは少し考えた後で俺に同意してくれる。そう言ったかっちゃんの顔は複雑そうに見える。

ヤマトとミズホを可愛がりたい気持ちと構いすぎてはいけないかもという気持ちの間で葛藤があるようだ。

気持ちは解る。コロッした毛玉は可愛いもんな。ポテポテ歩く姿も堪らん。

ミナモはゴンタには強く出ているところは見たことが無いから、相談相手としてはかっちゃんが最適だったのだろう。

かっちゃんとミナモは仲が良いしな。


「「!!」」


 俺達のいる空間に緊張が走った。

かっちゃんが俺に同意するとは思っていなかったのだろう。

そして今後のヤマトとミズホとの触れ合いに関わってくるからな。


「今後は、ゴンタとミナモの許可を取ってから触れ合う事!」


 俺は宣言する。


「そ、そんなっ!!」この世の終わりの様な顔で言うのはアリーナ。


「えーっ!?」何で俺達がそんな事を言うのか理解できないといった感じのなっちゃん。


「むぅ」触れ合えないのは困るが俺とかっちゃんの言う事も一理あると思っているのか唸るアンドロメダ。


「うぅ……そんなぁ」悲しげに呟くシーダ。


わう

わふ


「そうや。これからはヤマトとミズホがうちらに近寄りすぎないようにせぇ」


わぅ

わふー


 かっちゃんとゴンタ、ミナモが話をしている。

ゴンタは子供達が俺達に可愛がられているのを喜んでいたようで残念そうだ。

ミナモはゴンタとは対照的に嬉しそうに尻尾を振っている。


わふー


わぅぅ……

わふぅ……


 ミナモが子供達に何やら言い聞かせている。

ヤマトとミズホはゴンタや俺達を見回して悲しげに吠える。

体全体から悲しさが伝わってくるようだ……思わず目を逸らしてしまう。

きっとミナモが子供達に俺達と遊びすぎるなとでも言ったのだろう。

アリーナはリアルOrzを見せてくれている。

なっちゃんは、かっちゃんにヤマトとミズホと仲良くしすぎてはいけない理由を説明されている。

アンドロメダとシーダは悲しげに子供達を見ている。


 ゴンタは賢すぎた。そしてこの世界への順応も早かった。

俺はそんなゴンタと同じ様に子供達を扱ってしまった。

ミナモは俺とは距離を取って過ごしていた……俺が嫌われていただけではないと思いたい。

町で過ごすならいざ知らず、山や森ではいつも何かを警戒しながら生きなくてはならない。そんな所で俺達がいない時に他の冒険者なんかに会ったら……嫌な事しか想像できない。そうヤマトとミナモが俺達へと同じ態度で他の冒険者に近寄り、討伐されたり誘拐されたりだ。

ミナモの方がこの世界で生きていくためには正しい姿勢だと思う。


「ゴンタ、ミナモと子供達の育て方を相談しろよ?ゴンタは特殊なんだから自分を基準に考えるな」


わぅ


 ゴンタは俺にそう言われて悲しげだ。尻尾に元気がなくなった。


「ゴンタ、うちらは子供達を嫌いで言うてる訳やないんや。人に慣れすぎて子供達から危機感が薄れるのが怖いんよ」


「俺達みたいな人ばかりじゃないんだ。ゴンタだって色々な人を見て来ただろう?」


 イチルア王国での賊の襲撃、《闘族》との戦闘も一緒に経験して来たもんな。


わぅ


「そうだ。俺達だって悲しいんだぞ」


 これは本当の事だ。


わう


 ゴンタとミナモが何か話し出した。


「俺達はヤマトとミズホの成長を近くで見る事は出来るんだから、元気だせよ」


 俺は自分に言い聞かせる様にみんなに言う。


「……」


 アリーナは恨めしそうに俺を見てくる。


「うん。仲良しすぎるのもいけないんだね……」


 なっちゃんは何とか理解してくれたようだ。かっちゃんに感謝だね。


「そうだな」


「頭では解っているんだけど……」


 ラミアの二人は渋々ながら納得してくれた。


「花ちゃんにも言わんとな。みんな移動するで」


「はぁい」


 かっちゃんの号令の元、花ちゃんの屋敷へ戻る俺達。

空気が重い……荷馬車で運ばれる仔牛の気分だな。

先頭を行くヤマトとミズホが時折振り返って俺達を悲しげに見てくるので、俺達も悲しさが倍増する。



「そうでしたか……仕方のない事かも知れませんね」


 花ちゃんの屋敷に帰ってヤマトとミズホの件を話した。その返事だ。


「ヤマトとミズホがうちらと同じ様に他のモンに近寄っていったら誘拐されかねん。この仔らは可愛いからなぁ」


「そうですね。ヤマトちゃんとミズホちゃんは可愛らしいですもの」


 そう言って花ちゃんが囲炉裏端から土間で寝ているヤマトとミズホを優しげな表情で見る。

花ちゃんは他の人よりも反応が穏やかだ。

彼女もかっちゃんと同じように長生きしているから経験豊富なのだろう。

花ちゃんは切り替えが上手いというか人生観が違うと感じる時もある。って花ちゃんは人間じゃなかったな。つい忘れてしまう。


「子供達は寝ている時間も多いよね?」


「はい。トシさんのおっしゃる様に昼寝もしますし寝ている時間は長いですね」


 ゴンタ、ミナモに次いで子供達の世話をしている花ちゃんが教えてくれる。


「寝ている間は元々近寄らなかったんだから、我慢出来ないことはないよな」


「まぁ、そうなんやけど……今迄出来ていた事が出来なくなるんはなぁ」


 かっちゃんは撫でる手つきをして悲しげに言う。

かっちゃんは、みんなの前では年長者として振る舞っているから個人的な事を言うのは控えている。


「ゴンタちゃんとミナモちゃんの許可を貰って撫でましょうね」


「はいな」


 花ちゃんがかっちゃんを慰める。

俺とかっちゃん、花ちゃん以外の人達は囲炉裏端の板に座布団敷いてうつ伏せになって土間で寝ている子供達を見ている。

川の字にしては一本多い。

もう少し経ったら落ち着くだろう……アリーナは無理かもしれんが。



 花ちゃんの屋敷は安心して眠れる。

花ちゃんによりセキュリティーがばっちりだし、仲間が揃っていて心強い。

畳の上の蒲団も最高だ。

あ、ラミアの賊の事をアンドロメダとシーダに話損ねた。

明日にでも話そう。


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