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伝手

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 朝食を食べてお茶を飲んでいると店に客が来た。


「トシさん、あの人達が例の商人です」


 ビアンカが教えてくれた。


「ここに案内して」


「はい。解りました」


 俺はビアンカに客人を居間へ通すように言う。


「どうぞお座りください」


 俺はビアンカに案内されて来た人物達に席に着く様に言う。

四人の客人だ。

最初に座ったのが一番上等そうな服を着て、くすんだ金髪を綺麗に撫でつけてオールバックにしている青年。

次に座ったのが腹の出たちょび髭のおっさん。

後の二人は座らないで横に立っている。護衛らしい。


「この店の店主のトシと申します」


「うちはカッツォや。副店主をやっとる」


「ようやく会えましたね。私はラマのカルロ商会の会長で、カルロと言います」


 どうやら青年が一番偉いようだ。


「私は番頭のエンリコです」


 ちょび髭が言う。

横の二人は黙って立っている。

ビアンカがお茶を入れて来てくれたが座っていない人達を見て困っている。


「ビアンカ、座っている人達の分だけで良いよ」


 紹介もしないなら客ではない。

ビアンカはお茶をそれぞれの前に置いてから一礼して下がった。


「よろしければお茶をどうぞ」


 俺はそう言ってお茶を一口飲む。紅茶だ。


「どうも」


 カルロが返事をする。


「塩の話でよろしいですか?」


 俺が話を切り出す。


「そうです。塩を売ってもらいたい」


「大量に必要なのですか?」


「うむ。多ければ多いほど良い」


「うちはフリナス王国の方と行き来しているんです。見ての通り商売っ気がないものですから儲けもあまり出ません」


 まぁ方向としては嘘じゃないかな。花ちゃんの屋敷はあっちの方だ。


「フリナス王国からか……」


「私の道楽みたいな店ですから、今回のように塩を持ってくるのに数か月掛ります」


「そんなにか!」


「塩の量もマジックバッグ二つ分程度しか在庫はありません」


「むぅ……」


 カルロは出来そうな人っぽいのに、返答を聞くと微妙だな。


「会長、これは困りましたな」


 エンリコが口を出す。

如何にも理由を聞けと言わんばかりだ。


「何か塩が必要な理由が有りそうですね」


「そうなのだ!私は王家と騎士団の依頼で来ているのだ。こちらで扱っている塩を箱で三十箱欲しい、何とかならないか?一箱当たり金貨三枚を払おうじゃないか」


 カルロが塩の用途について話す。ちゃんと値段の話もするし、まともな商人のようだ。


「王家ですか!イチルア王国の王家と騎士団という事ですね?」


「うむ。私の商会では王家との取引があるのだ」


 ちょっと自慢げに言うカルロ。

俺は売っても良いかなと思っていたが、イチルア王国の王家と騎士団と聞いては売りたくないなぁ。

カルロの自慢は逆効果だったな。


「半年後であれば用意出来ます」


 俺とイチルア王国の関係……賞金首ってのがばれない方が良いだろうから一応友好的に言う。

実際塩の補充に来るとしたら、今度は半年後になるだろうからな。


「半年だと!?もっと早く何とかならないのか?」


 カルロが焦ったように言う。


「それでしたらご自分で買い付けに行かれた方が良いのでは?」


「今回は時間がないのだ」


 カルロは内情を話しすぎだなと思ったが、どうやら余裕が無いからのようだ。

なりふり構わずといった所だね。

さて、どうしたものか。

イチルア王国の騎士団には嫌な思いをさせられたが、今回の話を上手く使えば復讐も出来るかもしれない。

直ぐに何かするという訳ではないが、イチルア王国への伝手として使うのは悪くない相手ではないだろうか?ふむ。

まともな商会のようだし、イチルア王家へも顔が効くのなら利用価値はある。

最初はまともな塩を売って、最後に下剤入りの塩を売るとか……俺も悪だなぁ。小物っぽいけど。

少なくともイチルア王国の情報は入るかも。


 カルロは俺が考え込んだのを見て、希望があるかもしれないと思ったようだ。

少し落ち着いて様子を伺っている。


「トシ、今度の補充を早めれば何とかなるんとちゃう?」


 かっちゃんは塩を売っても良いのではないかと言っている。

かっちゃんは俺とともにイチルア王国で嫌な思いをした。だから本来なら断るだけの話なのに、俺が考える余地があるといった風なので何かを察したのであろう。

何だか俺とかっちゃんが解り合えているようで嬉しい。


「だけど店で売るのに支障が出てしまうぞ」


「それはそうやけど……」


 まるでかっちゃんがカルロ側の人のように振る舞っている。

お互い演技だと解っているので笑ってしまいそうだ。


「そこを何とか頼む!」


 かっちゃんが味方してくれていると思ったであろうカルロが追撃してくる。

妙に上から目線な気がする。やはり王家という後ろ盾があるから俺達の様な小さい店には態度を隠し切れないのかね。


 エンリコがカルロに耳打ちをしている。


「塩一箱当たり金貨四枚でどうだろうか?」


 カルロは買取の金額を上げて来た。

うちでは食堂に塩一箱当たり金貨二枚で売っているので倍だな。

三十箱で金貨百二十枚か……半年分くらいの売り上げになるな。

昨日作って来た塩の在庫も合わせて八十箱くらいの在庫があるので売れなくはないな。


「今回は何とかしたろうや」


「かっちゃんがそう言うのなら……解りました、売りましょう」


 恩が売れるかは解らないが勿体付けて見せる。


「売ってくれるか!助かる」


「塩の引き渡しはどの様にしましょうか?」


「私がマジックバッグを持ってきている。塩の品質確認をして持って行く」


 カルロはそう言ってからエンリコを見る。


「白金貨と金貨二十枚です。お確かめください」


 エンリコがお金を出してくる。

俺は金額を確認した。


「はい。問題ありません。では一箱づつ店先へ出していきますので、中身を確認していってください」


「解った」


 カルロは安堵の表情で席を立った。

そしてエンリコ、護衛達も続いて店先へ行った。

俺は地下の倉庫へ行き、マジックバッグへ塩の入った箱を三十箱入れていく。


「ご確認を」


 マジックバッグから一箱づつ出して確認していってもらった。

そして塩の品質には問題が無かったようで最後の箱まで何も言われなかった。


「確かに受け取った。何か困ったことがあったらラマのカルロ商会を訪ねてくれ」


「はい。その時はよろしくお願いします」


 全ての箱をマジックバッグへ納めたカルロが上機嫌で俺達の力になると言って来た。

そして店から去っていった。


「トシさんが売るとは思っていませんでした」


 カルロが去っていたのを見てビアンカが言う。


「ああ、今回は特別だな。今後も食堂と量り売り以外はしないでくれ」


「はい」


 俺とかっちゃんは居間へ戻る。


「今度は何を思いついたんや?」


 かっちゃんが席に着くなり言う。


「んー、また買いに来たら塩に下剤でも盛ろうかと思ってさ」


「ブフッ!くだらん!くだらんでぇ」


 かっちゃんは吹き出した後で笑い転げている。

何やらツボに入ったようだ。

想定外過ぎたのかな。

イチルア王国の騎士団には、いずれ復讐はするけど予定は未定だ。

伝手だけでも作っておけば役に立つこともあるだろう。


 臨時収入があったので、ビアンカとデイジーに金貨一枚づつをボーナスとして渡した。自分達は何もしていないと言って受け取らなかったが、俺達の留守を守ってくれている分も入れてあると言ったら受け取ってくれた。

犬族はこういう律儀な種族なのかもしれない。良い子達だ。

手伝いに来ている子供達二人にはアイスキャンディーを配った。

それを見たデイジーが羨ましそうにしていたので、ビアンカとデイジーにもあげました。

かっちゃんの提案で葡萄ジュースに葡萄の粒も入れてある新作だ。

果肉部分も違った食感があり美味しい。砂糖を加えたら更に美味しくなるだろう。

子供達も美味しそうに齧っている。

本格的に暑くなったら、もっと美味しく感じるに違いない。

あとひと月もすれば暑くなると、かっちゃんが教えてくれた。

その時は孤児院の子供達へ差し入れとしてアイスキャンディーを持って行ってやろう。


 二度目の夏も近い。


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