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天授

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 ミナモの出産をジリジリとした気持ちで待つ俺達。

既に花ちゃんの屋敷で過ごして十日が経っている。

ミナモはお腹が大きくなって、ミナモは花ちゃんの屋敷の土間に設置された藁と座布団で作られた寝床から動かなくなった。

ゴンタも隣に寄り添っている。

近くでアリーナが見る事も許されなくなっていた。

ゴンタ以外が近づくとミナモに威嚇されるからだ。唸り声が怖かった。

かっちゃん、なっちゃんですら近づけない。

何故か花ちゃんだけは大丈夫だった。

人外だからだろうか?良く解らない。

しかし花ちゃんはミナモに近づけるので、ミナモのご飯や水の世話や藁の交換をしてもらっている。とても助かる。


 みんなで囲炉裏端から土間の様子を伺う。


「花ちゃんはミナモの扱いが上手いね」


「昔、屋敷に犬が住んでいた事があったんです。出産にも立ち会いました」


「それはありがたい」


「ミナモの事はわたくしにお任せください」


「花ちゃん凄いねー」


「花ちゃんのおかげで安心出来るわ」


「皆様の分まで頑張りますよー」


 なっちゃんとかっちゃんが花ちゃんを褒める。

花ちゃんは幼女の様な外見なのに頼りになるぜ。

そういう意味ではかっちゃんと似ている。

かっちゃんと花ちゃんは同じくらいの背丈だしね。


「ゴンタさんとミナモさんのお子さんは男の子か女の子か気になりますね」


「ああ、気になるな」


「どちらでも強い子なのでしょうねぇ」


 アリーナもアンドロメダとシーダと生まれてくる子供達の話で盛り上がっている。

彼女達も遺跡、旅と一緒に過ごして来て仲良くなっている。

歳の頃も近いようでアリーナがゴンタの側にいない時は一緒にいる事が多い。


「花ちゃん、綺麗な布はもっとあった方が良くないか?」


「前に頂いた布で十分です。お湯も沸かしてあります」


 俺はミナモの様子を見ては落ち着かなく花ちゃんに足りない物がないか聞いている。

なっちゃんもオロオロして俺と似たようなものだ。

かっちゃんはドシッと座ってお茶を飲んでいる。確かに俺達に出来る事は少ないが、かっちゃんの様にはいかない。


 ゴンタも慌てている様子はない。ミナモの隣に伏せてミナモを見ている。

こうして見ているとゴンタはミナモの半分くらいの体長しかない。

夫婦というか親子に見えなくもない。

実際はゴンタが絶対的上位でミナモがゴンタに逆らっているところを見たことがない。



「たぶんもうすぐですね」


 花ちゃんがミナモの様子を見て言う。

昼飯も食べて既におやつの時間である。


「遂にですか!」


 アリーナが超反応で花ちゃんに詰め寄る。


「はい」


 そんなアリーナにもにこやかに対応する花ちゃん。

そして花ちゃんはミナモの側へお湯の入ったタライを持って行った。

綺麗な布はミナモの側に積んであった。


「どきどきするねー」


「そうやな。さすがに落ち着かんで」


「我らも早く生みたいな」


「そうねぇ」


「元気に生まれてくれよ……」


 アンドロメダとシーダが俺を見て何か話しているがスルーだ。

俺はミナモと生まれてくる子供達の無事を祈る。

ミナモの近くへ行けないが遠くから熱く見る俺達。

みんなの視線はミナモに釘づけだ。


 花ちゃんがもうすぐ生まれると言ってから三十分ほど経った。


わぅ


わふぅ


 小さい声が続けて聞こえた。

そして遠目だが濡れた毛並で小さい生き物が見えた。

花ちゃんが忙しそうに手を動かしている。

布の交換と、たらいで何かを洗っているのは見えたが良く解らない。


「生まれましたよ!!」と言ったのはアリーナ。


「生まれた!やった」と続いたのが俺。


「小さいねー」と嬉しそうに言うのがなっちゃん。


「でかしたで、ミナモ」ミナモの頑張りを褒めたのが、かっちゃん。


「お母さんだな」ミナモが生まれた子供達を舐めているのを見て言うのがアンドロメダ。


「母性を感じますねぇ」同じくミナモの様子を見て言ったのはシーダ。


「男の子と女の子です」俺達に教えてくれたのは、花ちゃんでした。


 男の子と女の子か!黒っぽい子と白っぽい子だ。

遠目ではっきりとは解らないが、俺の両手で持てそうなくらい小さく見える。

あんなに小さいのに気配が強いってのも変な話だ。

直ぐにミナモより強くなってしまいそうだ。


わう

わふ


 ゴンタがミナモを労っているようだ。

ゴンタもミナモも優しげな目で子供達を見ている。

俺も駆け寄りたいが我慢する。

見ているみんなもウズウズしているっぽい。


「アリーナ、近寄ったらダメだぞ?」


「うぅ……判ってますよぉ!ミナモさんに嫌われたらお子さん達に近寄らせてもらえなくなります」


 俺はイジリやすいアリーナを使ってみんなに警告する。


「みんなもミナモが許可するまで近づいたらダメだからな?」


「残念なのー」


「なっちゃん、我慢や」


「解っている」


「小さいですねぇ」


「ミナモは花ちゃんに任せて、お茶でも飲んで落ち着こうぜ」


「はいな」


 俺達は座りなおしてお茶を飲む。


「男の子と女の子か……ゴンタとミナモみたいになりそうだね」


「お父さんとお母さんやからな。楽しみやで」


「赤ちゃんって小さいんだねー」


「本当だな。小さいぞ」


「直ぐに大きくなりますよ。小さいうちに構いたいですねぇ」


 それぞれ小さい子供達を見て言う。

全員興奮が収まらない。

俺もそうだ。

出産なんて立ち会ったことがないからな。

お茶を飲んでも落ち着かないぞ。


「俺、落ち着かないから狩りに行ってくるよ。ミナモに献上しないとな」


「それなら我らも行こう」


「ミナモちゃんは鳥肉が好きですもんねぇ」


「私はお子さんを見ていたいです!」


「私も赤ちゃんを見てるー」


「うちも見てるわ」


「おう」


 花ちゃんに土間の入口以外の所に入口を作ってもらい外へ出た。

訳もなく走ってしまったが、少し落ち着いてきた。

俺が索敵をして鳥を探し、アンドロメダとシーダに射ってもらう。

彼女達も気持ちが浮ついていたようだが弓を構えた時にはいつも通りに見えた。

プロっぽい。

そして一射もはずさなかったのは、さすがだ。


 夕方には三羽の鳥を狩って帰ることが出来た。


「ただいま」


「お帰りー」


「ミナモの様子はどう?」


「落ち着いたみたいやで。うちらはしばらく近づけんやろけどな」


 囲炉裏まで行ってミナモを見ると花ちゃんが側で世話をしている。

かっちゃんが言う様にミナモは落ち着いていると思う。穏やかな表情だ。

小さい子供達はミナモのおっぱいをモムモム飲んでいる。

毛並も乾いて小さい毛玉だな。

そんな子供達を見るミナモはすっかりお母さんって感じだ。

お父さんのゴンタは横で寝ているみたいだ。

ずっと付きっ切りだったからな無理もない。たぶんまともに寝ていなかったんじゃないかな。子供達よ!お母さんだけじゃなく、お父さんも頑張ったぞ。


「小さくて可愛いなぁ」


「ホンマやなぁ」


「新しい家族なのー」


「うぅ……可愛すぎてつらいです」


「可愛いぞ」


「一生懸命飲んでいますねぇ」


 みんな子供達の可愛らしさにメロメロだ。

目じりが下がりっぱなしである。

花ちゃんがミナモの世話で忙しそうなので、夕飯は俺が作った。

外へ出て火を起こし焼き鳥と魚の干物を焼く。鍋には味噌仕立ての山菜うどんだ。

なっちゃんが俺の調理手伝いをしてくれた。

花ちゃんお手伝いもしていたようで、なっちゃんも危なげなく野菜と山菜を切っていた。

灰汁をトリトリ。

味噌をドサッ。

焼き鳥は串からはずして皿に盛り花ちゃんからゴンタとミナモに渡してもらった。

花ちゃんにも、お椀にうどんを盛って渡す。

ここのところ花ちゃんの料理になれていたせいで自分の料理の出来に不満が残る。

以前なら美味しく食べられる出来ではあるが慣れとは恐ろしい。

本格的な出産祝いの宴会は後日だな。

花ちゃんに料理を作ってもらって盛大にやりたい。


 早くゴンタとミナモの子供達と戯れたいぞ。

そんな事を考えてモンモンとした夜を過ごした。

たぶん俺だけじゃなかったであろう。


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