元気
126
「ただいま!」
「帰ったで!」
「戻りました」
俺達が来た時と同じルートで花ちゃんの屋敷に戻ったのはラミアの里を出てから二週間後であった。
来た時ですら魔物との戦闘は楽勝だったのにアンドロメダとシーダという強いラミアが加わっていたので俺の出番はほとんどなかった。
うちの後衛が魔物との距離があるうちに倒してしまうからだ。
俺にも倒させてくれと後衛陣にお願いしてやっと戦えたくらいです。
俺達の気配を察知してゴンタ、なっちゃん、ミナモ、花ちゃん、馬達が俺達を出迎えてくれた。
良かった……みんな無事で過ごしていたようだ。
「お帰りー!!」
「お帰りなさいませ」
わうー
わふ
なっちゃんが飛び込んでくる……かっちゃん目掛けて……俺の開いた両手が空しい。
まぁそうだろうとは思ってましたよ。
代わりと言っては何だがブンブンと尻尾を振り俺に飛びかかって来た。
あまりの勢いに俺は尻もちを突いた。
倒れた俺の顔をペロペロと舐めるゴンタ。
激しいな。嬉しいけど。
アリーナが俺の横で羨ましそうな顔で見ている。
「ゴンタ、ちゃんとミナモやみんなを守っていたようだな」
わう
「ちょっと大きくなってるんじゃないか?」
わうー
ゴンタの尻尾が更に激しく振られる。俺の足をペシペシと尻尾が叩く。
ゴンタは体が大きくない。俺に体が大きくなったと言われて嬉しいのだろう。
「花ちゃん、ただいま。存在感が増してるね」
「そうでしょう!皆さんと暮らすようになって充実してます」
花ちゃんにも挨拶をする。
最初の希薄さが嘘のような気配だ。
何だか表情や言葉にも喜びが溢れている。良い傾向だ。
「ミナモも元気そうで良かった。お腹がポッコリしてきているな」
わう
わふ
「ミナモちゃんも元気にしてましたよ。毎日ごはんも良く食べます」
花ちゃんが教えてくれる。
ミナモのお腹がポッコリと大きくなっている。気配を読んでみると……ミナモも入れて三つの気配があるな。
ゴンタとミナモの子供は二匹のようだ。五匹くらい生まれると思ったのにな。
まだ生まれていないのに、既にミナモと同等の気配を持った二匹である。
末恐ろしい子達になりそうだ。
ギルスア王国へ出発する前はぼやけた気配しか解らなかったのに凄いね。
「ミナモのお腹にいる子供達は二匹だね。既にミナモくらいの気配の強さがあるよ」
俺は花ちゃんに教える。
「はい。ゴンタちゃんとなっちゃんから聞いています。きっと可愛い子ですよ」
既に知っていたようで、花ちゃんはニコニコして言う。
ふむ。ゴンタの呼び方がゴンタちゃんになっている。
前は確かゴンタさんだったと思う。
ゴンタと花ちゃんも随分仲良くなったようだ。
おっと、アンドロメダとシーダの紹介をしないとな。
「アンドロメダ、シーダおいで」
「うむ」
「遅いですよぉ」
「こちらが花ちゃん、この屋敷の主で俺達の仲間だ」
「初めまして花です。よろしくお願いしますね」
小さい花ちゃんがペコリと頭を下げて挨拶をする。
可愛らしい。
「この人がアンドロメダで、隣がシーダだ。見ての通り半人半蛇でラミアという種族だ。新しい仲間だよ」
「お初にお目に掛る。アンドロメダという。よろしく頼む」
アンドロメダが花ちゃんに挨拶をする。
アンドロメダは紹介する前からずっと花ちゃんを凝視している。
そういや可愛い物が好きだったな。花ちゃんの可愛らしさが解るとはやるじゃないか。
花ちゃんは着物姿だから見慣れないだろうな。それでも気に入ってもらえて俺も嬉しいぞ。
「花ちゃん、よろしくねぇ」
シーダは緩い挨拶だ。
まぁ花ちゃんもニコニコ、シーダもニコニコで波長が合いそうではある。
アンドロメダが花ちゃんに手を差し出して握手をした。
アンドロメダはキリッした表情が崩れつつある。
直ぐに表情がデレッに変わって来た。
可愛い物好きなアンドロメダの琴線に触れたらしい。
これは放っておいても仲良くしそうだな。
俺はひさしぶりにゴンタの毛並を堪能する。なでなで。
う……ミナモが睨んでいる気がする。
ゴンタをもっと撫でたいが我慢するか……ミナモが出産するまではお預けだ。
ミナモにストレスを与えては不味かろう。
「ゴンタ、アンドロメダとシーダとも仲良くね」
わう
「ゴンタちゃんね。初めましてシーダです」
わうー
シーダもゴンタを撫でたそうにしていたがミナモの様子を見て諦めたようだ。
なっちゃんはかっちゃんから離れそうになかったのでアンドロメダとシーダの紹介は後でだな。
俺は花ちゃんの屋敷に入り旅装を解く。
久しぶりの花ちゃんの屋敷だ。何か懐かしさすら感じる。
昔から住み着いていた訳でもないのに不思議なものだ。
畳の部屋へ行き寝っ転がる。
あぁ……これだよこれ!イグサの匂いと気楽に寝っ転がれる畳は素晴らしい。
俺に続いてゴンタとミナモも畳で横になる。
ミナモには専用の座布団があるようだ。
ちゃんとお腹の下に敷いている。
きっと花ちゃんが用意してくれたんだな。
「ゴンタ、ミナモ、お土産だ」
俺はマジックバッグから羊肉のジャーキーを出す。
癖のある肉だがゴンタ達は大丈夫かな?どんな肉でも問題なく食べそうだけどさ。
わう
わふ
ゴンタとミナモは皿に盛った羊肉のジャーキーの匂いを嗅いでから齧った。
味付けは薄目だったはず。どうだろうか?
わうー
わふー
一声吠えたゴンタとミナモは嬉しそうに齧っている。
噛みごたえもあるし気に入ってもらえたようだ。
水の皿も出して置く。
俺は横になりながら、ゴンタとミナモが仲良く食べているのを眺めた。
玄関口では花ちゃんとアンドロメダ、シーダが話し込んでいる。
囲炉裏端や椅子の有る所へ移動していないから、話が弾んでいるのだろう。
なっちゃんは外でかっちゃんに付きっ切りだ。
俺も話したいのになぁ。なっちゃんにとって既にかっちゃんは姉であり母親みたいなものだし仕方ないか。
まぁ急ぐ必要もないか。これからは一緒にいられるだろうしな。
俺はみんなの様子を伺っていたが、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。
起きた時には隣でなっちゃんが寝ていた。
囲炉裏端で話していたかっちゃん、花ちゃん、アンドロメダとシーダが俺が起きたのに気付いたが微笑ましそうに見た後で話に戻っていった。
ゴンタとミナモも俺の側で横になっていた。それを膝を抱えて嬉しそうに見ているアリーナもいた。
ずっと見てたのかよ。アリーナも変わり者だな。
なっちゃんが俺の上着の裾をギュッと掴んでいるので起きるに起きれない。
気持ちよさそうに寝ているなっちゃんを起こす気にもなれない。
まぁいいか。
俺はそれから再び眠ってしまったらしい。
気持ち良さそうに寝ている二人を起こせなかったと後でみんなに言われたよ。
「トシちゃん、お帰りー」
なっちゃんが目を覚まして俺も起きているのに気付くとそう言って抱き付いてきた。
「ただいま、なっちゃん」
俺は返事をして、なっちゃんの頭を撫でる。
撫でられているなっちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしてくれるので、俺も嬉しくなる。
「あのねあのねー、ちゃんとみんなを守ったのー」
「良く頑張ったね」
「うん!大きなトカゲも退治したのー」
「そうか!よくやったぞー」
なっちゃんの口からは次々と俺達が留守の間の出来事が話される。
そんななっちゃんは幼稚園から帰って来た子供のようだ。
美女なのに可愛らしい。
なっちゃんは身振り手振りも交えて一生懸命に話す。
「なっちゃん、トシそろそろ夕飯やでー」
「あいよ」
「はーい」
かっちゃんの呼びかけでなっちゃんの話も一区切りついた。
俺、なっちゃん、ゴンタにミナモ、アリーナとゾロゾロ連れ立って囲炉裏端へ行く。
囲炉裏の周りには既に大小様々な更に盛り付けられた料理が所狭しと並んでいた。
花ちゃんが張り切って作ってくれているようだ。
アンドロメダの姿も見えないでの花ちゃんを手伝っているんだろう。
アンドロメダは花ちゃんを気に入りすぎだな。違う意味で心配になるぞ。
かっちゃんとシーダは既に酒を呑んでいる。
かっちゃんも寛いだ様子です。
やはり家ってのは大事だ。
「ミナモのお腹には二つの気配があるな。しかも既に強そうやで」
「うん。俺も確認したよ。さすがゴンタの子供だ只者ではないね」
「将来が楽しみやなぁ」
「お話には伺っていましたが、ゴンタちゃんは強そうですね……こんなに可愛いのに」
シーダがゴンタとミナモを見て言う。
たぶん俺でもゴンタには勝てないぞ。
「うちの子は可愛いだろう」
「トシが威張ってどうするねん」
「可愛いは正義らしいよ?」
「なんのこっちゃ」
「細けぇこたぁいいんだよ」
「さよか……」
かっちゃんはまともに相手にしてられないといった感じで呆れている。
「お待たせしました」
「これで最後だ」
花ちゃんとアンドロメダが大きな鍋を持って来た。
俺も手伝って囲炉裏に掛ける。
「トシ、乾杯の音頭や」
「おう。それでは皆様の無事と、ミナモとその子供達の健康を祈って……乾杯!」
「「「「「乾杯」」」」」
俺達は宴会を始めた。
それぞれ紹介は終わっているようで、和やかな雰囲気です。
赤、白のワインにドワーフ特製エール、ソルティードッグといった酒が並ぶ。
料理はメインに味噌仕立ての猪と山菜の鍋だ。
燻製魚のパスタと肉団子入りトマトパスタも主食だね。
何かの肉の煮込みもある。
かっちゃんが花ちゃんに旅で食べた料理を話したんだな。
食べてみると美味い。よく話を聞いただけでここまで作れるものだ。
燻製魚とチーズを散らしたサラダに、焼き鳥もある。
酒の肴にチーズと焼しめたパン……クラッカーみたいだ。それらを合わせた物もあった。
前にチーズの食べ方の一つとして教えたっけ。
花ちゃんがゴンタとミナモに焼き鳥を串から外してあげている。
小さい子供みたいなのに気の利く事だ。
「味噌仕立ての猪鍋は最高だな!」
「お口に合いましたか」
「うん。美味しいよ」
「良かったです」
俺の賛辞に喜ぶ花ちゃん。
みんなも鍋を食べているが、味噌も問題なく食べられるようだ。
発酵食品は好き嫌いが出るからなぁ。
「なっちゃんは凄い魔力を持っているわねぇ」
「かっちゃんでも凄いと思ったが上を行くな」
シーダとアンドロメダがなっちゃんに話しかけている。
旅の間に花ちゃんの屋敷に残っている仲間たちの話はしてある。
なっちゃんは外見と違い中身が幼いってのも伝えてあるので、自分達から積極的に話しかけているのだろう。
「えへへ。そうかなー」
「うむ。大した物だ」
「それに水と風の魔法に氷魔法まで使えるって聞いたわ」
「頑張ったのー」
「偉いな」
「なっちゃんは頑張り屋さんやからね」
「かっちゃーん!」
アンドロメダとシーダに続いてかっちゃんもなっちゃんを褒める。
嬉しくなったなっちゃんがかっちゃんに抱き付いた。
その横でアリーナがゴンタとミナモのために焼き鳥を串から外しては献上している。
アリーナはゴンタの下僕の様だ……本人が嬉しそうなのでいいか。
久しぶりに仲間が集まったので呑みすぎたが、とても楽しい宴会だった。
アンドロメダとシーダも受け入れられたようでほっとしたよ。
そのアンドロメダとシーダはソルティードッグを気に入った様で作り方を聞かれた。俺達と俺達の店でしか呑めないと教えると、広めない方が良い、私の呑む分が減っちゃうーって言っていたのはシーダだったね。
やはりココは良い家だ。




