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攻勢

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「おっちゃん、またな」


「はいな。気ぃつけてな」


「かっちゃん、元気でな」


 俺達が遺跡の村から出発の挨拶をした後で、かっちゃん達ケットシーが別れの挨拶をしている。

リッチロードらアンデッドとの戦いから四日が過ぎていた。

連日アッツさん、サムと宴会をしては俺の話を聞かせた。

かっちゃんの氷魔法の話では、アッツさんがかっちゃんに詰め寄っていた。

ケットシーにとって魔法も探究すべきものなのであろう。

アッツさんの押しに負けて今日まで出発が遅れてしまった。

俺の話が報酬だったので断りづらかったというのもある。

その代りにギルスア王国の代表的な料理を食べつくせたのは良い事かな。

白ワインも小さな樽で買ったが花ちゃんの屋敷に帰るまでになくなるだろう。


「おっちゃんにはお願いの件があるから、再会も遠い事やないやろ」


「この遺跡にいるつもりやが、わしが他所へ行く時は宿へ伝言を残しとくで」


「ありがとなー」


 そして俺達は遺跡を後にしてラミアの里へ向かって出発した。

現金的には大して儲からなかったが、お宝はある。

今度この遺跡に来た時にはアッツさん達によって攻略されているかもな。


「結局アッツさんは氷魔法の習得は出来たの?」


「ダメやったな。おっちゃんならそのうち使えるようになるやろうけどな」


「我らも試したがまったく出来そうになかったぞ」


「そうねぇ。かっちゃんが言わなければ信じない話だったわよ」


「うむ。氷魔法が水の上位魔法で固有魔法でなかったとはな」


「凄い事を知ってしまったわねぇ」


 アンドロメダとシーダも水魔法の使い手なので氷魔法の話で興奮している。

アッツさんでも直ぐに習得出来なかった所を見ると、かっちゃんが優秀すぎるのであろう。

旅の間、かっちゃんに異世界の話をたくさんしたからな。そういう土台が有ったのも大きいのかも知れない。

なっちゃんも時間が掛ったが氷魔法を習得していた。水魔法の使い手であれば誰でも氷魔法の習得は可能かもしれない。

かっちゃん、なっちゃんが身近にいたので魔法使いというと彼女らが基準になる。

しかし彼女らは一般的な魔法使いの範疇からはずれていたようだ。

俺には違いが判りずらいがアンドロメダやシーダといった魔法使いからすると、かっちゃんはエルフを除けば魔法使いの世界でトップクラスらしい。

アンドロメダとシーダをなっちゃんに会わせたら驚いてくれそうだな。なんたってなっちゃんはエルフだもの。

魔力はかっちゃん以上、魔法の技術はかっちゃんに迫る物があるらしいからな。

アンドロメダとシーダはかっちゃんの弟子の様になっている。

それほど氷魔法には魅力があるのだろう。

かき氷も食べられるし、食材も冷やせる。シーダなら酒を冷やして喜ぶかも知れない。

俺の魔法のイメージは食べ物に関係してしまうのは仕様です。

平原を歩いていると狼型魔物が俺達を狙って来るが気配を増大させて追い払っている。

ミナモの同型を倒す気にはなれない。

逃げないで挑んで来たら倒すだろうけど。


 草原のモワッとした青臭い草の匂いが鼻に来ます。

空を飛んでいた魔物をアンドロメダが矢で仕留めたので夕飯に焼き鳥にしようと言うことになった。

アンドロメダの弓の腕前は相当な物がある。

空なんて遠近感が掴めないのに良く一撃で仕留められるもんだ。

隣でシーダも呆れていたのでアンドロメダがずば抜けた弓の腕前って事だろう。

俺達のパーティは後衛が強すぎる。ゴンタが居ればちょうど良いくらいだけど、盾役が出来るのが俺だけとか特殊なパーティには違いない。

野営も久しぶりだが暖かくなっているので苦にはならない。朝方寒い時はあるけれどね。


 翌日の昼過ぎにラミアの里へ着いた。

戦闘はアンドロメダの狩りしかありませんでたね。

アンドロメダとシーダが饒舌になっていったのは、ラミアの里が近づいて嬉しかったんだろうね。

やはりラミアは奇異の目で見られるので人の町は落ち着かなかったんだろう。

いつも平然としていたように見えたが、虚勢を張っていたのかも知れない。

そういう様子を俺達に見せてくれるのも打ち解けた証拠だと思う。

俺は嬉しくなる。


 俺達は早速里長の屋敷へ足を運ぶ。

アンドロメダとシーダは里へ入ってからラミア達に声を掛けられっぱなしだ。

ラミアの賊と外の様子が気になっている人達でした。

ラミア達が俺を熱い視線で見てくるのもセットだったけどな。

やはり男はラミアに歓迎されやすいようだ。

ラミア達の中にパームやホーリーといった顔見知りが居なかったのは残念だ。

パームやホーリーが居れば熱視線への防波堤になってくれただろうに。

微妙に居心地の悪い通りを急ぎ足で里長の屋敷へと向かう。



「なるほど……光魔法の使い手により精神汚染の解除が出来るというのじゃな?」


 里長の屋敷でアンドロメダとシーダが里長へラミアの賊の情報収集と精神汚染の解除の提案をした。

それを受けての里長の言葉だ。


「我らは実際この目で解除を見せてもらいました」


「ええ、初めて見ましたがあれは大量の魔力と精神力が必要そうですわ」


「それは貴重な経験をしたのぅ」


 里長も解除するところを見たかったようだ。


「確かに我らには光魔法、闇魔法ともに精神汚染の解除が出来るほどの使い手に伝手がない」


 里長が続けて話す。


「我らがトシ一向と行動を共にするならばアッツさんに解除をお願いしてくれるそうです」


「持ちつ持たれつや。お互い損はないと思うで」


 アンドロメダのフォローをするかっちゃん。

それを聞いた里長は考え込んでいる。

俺は交渉事は得意ではないなぁ。こういう緊張感のある場は苦手だ。

身内が関わっていれば何とか頑張れるけどさ。


「……良かろう。ただしお前達が精神汚染を掛けられるような事態になれば自らの命を断て」


 ラミアにとってそれほど大切な話のようだ。

ラミアの評判をこれ以上傷つけないためだろうが厳しい。


「判りました」


「はい」


 それにあっさりと答えるアンドロメダとシーダ。

悲壮な感じはない。

里長だけでなく彼女達も死を掛けてでもすべき事だと思っているのだろう。


「トシ、アンドロメダとシーダを頼むぞ」


「はい」


 俺は重い責任を背負ったようです。

軽口を叩く場面ではないので、単純に答える。


「襲われた村周辺の地図も作った」


 里長はそう言って地図を見せてくれた。

凄く大雑把な地図だ。

山脈と町、それ以外は大きな湖や大きな川しか書いていない。

かっちゃんが確認してくれている。

俺には地理が解らない。一応地図を見ているが出番はなさそうだ。

それからかっちゃん、アンドロメダ、シーダが里長に色々と聞いていた。

俺とアリーナは話を聞いてはいたが空気でした。

知らない町の名前やそこの南側にある山の事なんて知りませんがな。

かっちゃんが聞いてくれているからいいだろうなんて他人事っぽくなってしまった。

里長の手前、真面目な顔で聞いていたけどね。

かっちゃんがニヤリとしていたので、俺が適当に聞いていたのはバレている模様。

かっちゃんには敵わない。


 その後で里長主催の小規模な宴会が催された。

里長の娘や、孫と言った家族やアンドロメダの部隊だったパームやホーリーといったメンバーが集まって呑んで食べた。

俺の周囲にはラミアが所狭しと集まっていた。

モテ期か!?ラミアの種族特性と解っていても嬉しいものだ。

酒で潰されないようにだけ注意した。

だって、ラミア達は酒に強すぎる。

同じペースでなんて呑んでいられない。

アンドロメダとシーダも俺の側で守ってくれているが、他のラミア達の俺への攻勢は留まる所を知らなかった、

かっちゃんとアリーナは俺を放って呑んで食べていた。

人の恋路なんて興味がないのは仕方ないか……。


「トシ、私と良い子を作りましょうよ」

「私とよね?」

「ささっ、もう一杯どうぞ」

「私も着いていきたーい」

「いいなぁ、アンドロメダとシーダ……」

「うちの娘なんてどう?良い子よー」


 ラミアの子孫への想いは凄まじい。

圧倒されっぱなしの俺でした。


 ラミアに毒がなければなぁ……そしたら俺なんて声も掛けられないか。

そんな事を考えながら落ち着かない夜を過ごした。

最後はアンドロメダとシーダに守られて眠ったみたいです。

俺は酔ってしまったので覚えていません。


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