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交渉材料

123


「さて、今日はどうしようか?」


 俺は朝飯を食べ終わり、みんなで茶を注文した所で言う。


「駆け足やったけど、ギルスア王国でやりたい事は一応やったしなぁ」


「私は皆さんに付いていくだけです」


 かっちゃんに続いてアリーナが言う。

幾分すっきりした顔をしているので、精神汚染を受けていたというショックから立ち直りつつあるようだ。

昨日の宴会前まではどんよりしていたからな。

美味い酒と美味い飯は偉大だ。

宴会での飲み食いが良い意味で緩衝材になったのだろう。

それで気持ちの切り替えと自分の中での落としどころを見つけたに違いない。

それが解るくらいには表情が変わっている。

後はアリーナの問題だからな、うまく折り合いを付けてもらいたいものだ。


「我らは賊らしき同朋について調べようと思う」


「そうねぇ」


 アンドロメダとシーダは真面目な顔で言う。

彼女達は自分達の問題は自分達で解決すると言って俺達の協力は必要ないと言っていた。

そう言われても俺も情報を集めるつもりではある。


「うちらは近いうちにエルフ領の北を通って家に帰るけど、アンドロメダとシーダはどないするん?」


 俺も気になっていた事をかっちゃんが聞いてくれた。

ラミアの里長にギルスア王国内だけなら俺達に着いて行っても良いと許可を貰っていたはずだ。

彼女らは気持ちの良い子なので一緒にいて楽しい。

賊の問題がないのであれば花ちゃんの屋敷へ連れていきたい。

きっと花ちゃんの屋敷の仲間たちとも上手くやれるだろう。

魔物も倒せる実力もあるから旅の問題もないしな。


「……やはり戻ってしまうのだな」


「困ったわねぇ」


 アンドロメダとシーダはジィッと俺を見つめてくる。

そう言ってもらえて嬉しく思う自分が居た。

一緒に飲み食いをして一緒に戦ったからか、俺と彼女達の間にある距離が縮んでいると思う。

俺から見ても、種族は関係なく好意は間違いなくある。

彼女らはボインボインの美女だしな。


「俺達と一緒に来ないか?」


 俺がそう言うとアンドロメダとシーダは一瞬嬉しそうな顔をするが、やはり困っているようだ。


「そう言ってもらえて嬉しいぞ」


「これがデレなのねぇ」


 かっちゃんに続き、シーダにも妙な言葉を覚えられてしまった。


「ラミアの里へ行って里長を説得しようか?」


 俺が誘っても困っていると言うことは、ラミアの里長の言葉が彼女達にとって絶対であるのだろう。


「説得できるかどうかは別として、ラミアの里へは一緒に来てもらいたいな」


「そうねぇ。また宴会をしましょう」


 アンドロメダは真面目な口調で、そしてシーダは楽しげな口調で言う。ラミアは酒好きだ。特にシーダはお酒が大好きだね。


「ドーツ王国周辺の村が賊に襲われたって里長は言ってたよね?俺達の家からドワーフ領を越えればドーツ王国は近いよ。現場と周辺の聞き込みって事で説得出来ないかなぁ」


「それはええかもな」


「たしかに山さえ越えれば遠くはないですね」


 俺の提案にかっちゃんと、アリーナが乗ってくる。

かっちゃんとアリーナもラミアコンビと上手くやってくれている。

一緒に話をしている姿もよく見る。

かっちゃんも、花ちゃんの屋敷にいる仲間達とラミアコンビを会わせても良いと考えてくれているようだ。

かっちゃんは俺達のご意見番である。彼女がそう言ってくれるなら安心できるね。


「……それは良いな。我らも現場には行きたいと思っていたのだ」


「それなら里長の許可も貰えるかもしれないわねぇ」


 アンドロメダとシーダは自分達の望みを交えて言う。

シーダの言葉からは、それでも無理かも知れないと言うニュアンスが感じられる。

ラミアの里からラミアを出さないって言ってたもんな……里長の説得……アリーナの事を言ったらどうだろうか?

賊は精神汚染により自分の意思で村を襲った訳ではないと思っていたようだし、アリーナの精神汚染を解除出来た知り合いがいると里長に知ってもらえれば許可を貰えるのではないだろうか。

精神汚染の解除は誰でも出来るわけではないとアッツさんも言っていた。そういう人材と知っているというだけでも交渉材料になるに違いない。

これは良い手だと思えてきた。


「かっちゃん、アッツさんをラミアの里長への交渉材料に出来ないかな?」


 俺はかっちゃんに相談する。


「……なるほどなぁ。トシ、ええとこに目を付けたやんか」


 かっちゃんは頭の回転が早い。

なぞかけのような俺の言葉の意味も直ぐに理解してくれる。

話が早くて助かる。

アリーナは首を傾げている。

アンドロメダとシーダもアリーナと同じく何の事かと思っているようだ。


「昨日のアッツさんがアリーナにしてくれた事を賊にも出来るとしたら交渉材料になると思わないか?」


「ああ!その手があったか!」


 アンドロメダが手を打って喜びを顔に出す。


「なるほどねぇ。トシって頭も良いじゃないの!これは子供が楽しみねぇ」


 シーダが俺を褒めた後で流し目で色っぽく俺を見てくる。

嬉しいけど今は勘弁してくれ。


「私以外にも似たような被害を受けている人がいるのですね……」


 アリーナは微妙な表情をしている。

精神汚染の被害者と自分を重ねているのだろうか。

彼女の心の内は判らない。こればかりは精神汚染の被害者でなければ判るまい。


「アッツさんに頼ってばかりってのもどうかと思うけど、良い手だと思うんだ」


「そうやなぁ。おっちゃんはうちのお願いなら聞いてくれるとは思うけど、借りっぱなしってのは良くないなぁ」


「だよね。アッツさんにそれなりの報酬で精神汚染の解除をお願いしないとな」


「おっちゃんもお金には困ってへんから、報酬も妙な物で欲しがるかもなぁ」


 かっちゃんはちょっと困ったように言う。


「今のままでは俺達が思っているだけで交渉材料にすら出来ていないから、アッツさんに話を通しておこう」


「もっともやな」


「たしか2件隣の宿だったよね?早速行こう」


「はいな」


 俺達はアッツさんが泊まっている宿へ向かう。

近いので直ぐに着く。

宿の一階が食堂になっていて、ちょうど朝飯を食べていたアッツさん一向が目に入る。


「いてくれたね」


「ちょうどええ」


「かっちゃん、アッツさんへのお願い担当をしてくれる?」


「うちに任せとき。でもおっちゃんへの報酬については相談するで?」


「あいよ」


 俺とかっちゃんは軽く打ち合わせをする。

これで話が済むから、かっちゃんは好きだ。


「おっちゃーん!おはよーさん」


「おはよーさん。朝から元気やな、かっちゃん」


「うちはいつでも元気やで」


 かっちゃんも、アッツさんもニコニコして挨拶している。


「みなさん、おはようございます」


「「おう」」


 俺は昨日宴会で話したアッツさんの仲間のみなさんにも挨拶をする。

強面のみなさんがドスの効いた声で返事をくれる。

何人かは飯に夢中で俺は眼中になさそうだ。


「おっちゃん、お願いがあるんやけど……後で時間もらえんやろか?」


 かっちゃんが上目づかいでアッツさんにお願いしている。

可愛い事も出来るんだなぁ。

頭を撫でたくなる可愛さだ。


「わしは、かっちゃんの頼みを断ったことはないで!」


 アッツさんはかっちゃんに弱いね。微笑ましいけどさ。


「いつがええ?」


「今晩も呑もうや。その前でええか?」


「美味しい酒と料理を期待しとるでー」


「任せとき!夕方ここで待っとるわ」


「はいな」


 俺達はアッツさんに会釈して宿へ戻った。


「たぶん問題ないやろ」


「アッツさんはかっちゃんに甘々だね」


「小さい頃から可愛がってもろとるからなぁ」


 かっちゃんは満更でもなさそうだ。


「さて、夕方まで時間が出来たね。今日は自由行動にしようか」


「はいな。夕方にさっきの食堂で集合やな」


「はい」


「解った」


「トシ、一緒に店を見て回りましょうよ」


「そうしようか」


「それが良い」


 シーダの誘いに乗る。アンドロメダも同意している。


「アリーナ、うちとなっちゃん達へのお土産を買いに行こか?」


「はい。ミナモさんのお子さんに何か買ってあげたいです!」


 かっちゃんが気を効かせてくれている。

俺と、アリーナへのフォローまでしてもらっちゃったな。

俺はかっちゃんへ両手を合わせて感謝を伝える。

かっちゃんは俺を見てヒラヒラと小さく手を振ってくれた。


 それからアンドロメダとシーダと一緒に店を見て回った。

俺の両側で腕を組んでくる彼女達。

腕に幸せな感触が伝わったよ。

しかし傍から見たら身長は大差ないが捕まった宇宙人のようでもある。

そんな俺達を見て顔を引き攣らせている冒険者達もいたね。

ラミアが恐ろしいのだろうか。

それともそんなラミア二人と仲良さそうにしている俺が畏怖されているのかは定かではない。

アンドロメダは真面目で凛々しいが可愛らしい物が好きというのが判った。

服屋で可愛らしいデザインのワンピースを見ていたり、ぬいぐるみを熱心に見たりしていた。

ギャップがあって面白い。

彼女は凛々しい戦士って感じだからな。

あまりにも熱心に見ていたので、ぬいぐるみをアンドロメダとシーダの二人にプレゼントした。

それからアンドロメダの俺への密着度が上がった気がしたね。

シーダについてはホンワカ、ノンビリってイメージのままだな。

まだ付き合いは長くないが裏表はあまりなさそうだ。

そして酒好きだ。

昼に食堂へ入った時も宴会ばりに呑んでいた。

アンドロメダが俺へスキンシップを取ると、それに対抗してくるのは意外だった。

そういう事に関しては負けられない何かがあるのだろうか。

俺はスキンシップになれていないのでキョドッていたかも知れない。

久しぶりのデートだったんだから仕方ないじゃないか。

穏やかで楽しいデートでした。


 夕方になったのでアッツさんの宿へ向かう。


「こんばんは」


「お楽しみやったようやな」


 アッツさんが俺達を見てからかう。

既にかっちゃんとアリーナ、アッツさんが食堂のテーブルで呑んでいた。


「楽しかったですよ」


 俺は素直に返事をする。

アッツさんはからかいがいのない奴といった感じで溜息を付く。

俺がアタフタするのを期待していたのだろう。

俺が楽しかったと言ったのを聞いてアンドロメダとシーダは嬉しそうにしている。

俺が率直に言ったのが良かったのかな。


「みんな揃った様やし、話をしてもええか?」


「あいよ」


「ええで」


 俺とアッツさんがかっちゃんに返事をする。


「おっちゃんにお願いっちゅうのはな、精神汚染の解除についてやねん」


「アリーナの件なら問題ないはずやが?」


 アッツさんは自分の仕事に自信があったのか、アリーナを見て不満そうな顔をして言った。


「アリーナの事は問題ないで大丈夫や。ラミア達の同朋に精神汚染されて賊として働かされている人がおるらしいねん」


「ほぉ」


 アリーナの件ではないと知って不満さを消すアッツさん。


「ドーツ王国周辺の村が襲われて、その賊の中にラミアがいたらしいんよ。そのラミアは精神汚染を受けている可能性が高くてなぁ」


「そこでわしか?」


「そうなんよ。とはいえまだ情報も足りんし、その当人もおらん。もし当人が見つかったらおっちゃんにその人を観てもらいたいんよ」


「ふむ。わしはしばらくここの遺跡に籠るつもりやから、いつでも来るとええ」


 アッツさんは嫌な顔もせず、引き受けてくれた。


「おっちゃんならそう言ってくれると思っとったで。おっちゃんへの礼をどうしようかってのが今回の問題でな」


「かっちゃんとわしの仲やないか」


「そうはいかんで。うちらは借りっぱなしってのは嫌いなんや」


 かっちゃんの言葉を聞いて嬉しそうにするアッツさん。

ウンウン頷いている。


「かっちゃんはええ子に育っとるなぁ。わしは嬉しいで」


「照れるがなー」


 かっちゃんがアッツさんの肩をバシバシと叩いて照れている。


「アッツさんに何か礼となる物を教えてもらいたいんです」


「礼なぁ……トシの話がええなぁ。昨日かっちゃんに聞いた鍛冶神の話は良かったで」


 俺の話か……以外な要求が来たね。


「俺の話で良いならいくらでも話しますよ」


「今晩の宴会の席でたっぷり聞くで」


「お手柔らかに」


 俺達がアッツさんに支払う報酬が決まった。

さすがケットシーというような報酬であった。

アッツさんの隣でかっちゃんも嬉しそうにしている。


 アッツさんの乾杯の音頭から始まった宴会で、俺はかっちゃんと一緒にアッツさんとサムへ俺の話をした。

異世界からの転落から始まって、かっちゃんとの出会い、ダンジョンでヴァンパイアと戦った話、イチルア王国での賊襲撃からの騒動、バッキンでのヒミコの話、花ちゃんの屋敷についてと次々話していった。

異世界に関してアッツさんは熱心に聞いていた。

異世界の人の生活や政治にも話は広がる。

そしてアッツさんも異世界へ行きたいと言い出したのに参った。

転移魔法や召喚魔法について調べるとも言っていた。

かっちゃんが神の力が必要だと言っても聞かなかったね。


 アッツさんが暴走気味であったが、とても楽しい宴会でした。

ケットシーは気持ちの良い人にしか会っていない。

力を持っていてもこんな風に自然体でいられるのは凄いと思う。

俺だって異世界に来て力を得て調子に乗っていた部分はあるから、強くそう思った。

人としての目標にすべき人達だね。

俺もケットシーのように見聞を広め人としての魅力を高めたいものだ。


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