遺跡-9
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「若、私の後ろへ」
盾持ちの大男が金髪イケメンに言う。
「若は止めろと言っているだろう……」
それに返事をする金髪イケメン。
「あんたに死んでもらっちゃ困るっつーの」
日焼け男が軽口を叩く。
「クリス、言葉に気を付けなさい」
金髪美女が日焼けを窘める。
こいつらエルダーリッチを前にして余裕あるな。
なんとなくこいつらの人間関係も解った。
一番上は金髪イケメン、次が金髪美女かな、そして盾持ち大男と日焼け男かね。
主従って感じだな。
金髪イケメンの装備品が上等なので貴族かそれに準ずる立場であろうと推測される。
「あんたが一番上の人間だろう?指揮になれているなら、この即席対エルダーリッチ部隊の指揮を執ってくれ」
「む。良かろう」
金髪美女が俺を軽く睨むが何も言わない。金髪イケメンをあんた呼ばわりが不味かったか。
「俺はトシだ、盾と気功術が使える。ケットシーはかっちゃん。魔力は減っているが結界魔法が使えるぞ」
「うむ。私はエニアスだ。時間がないのでエルダーリッチの迎撃へ出るぞ」
「「はい」」
エニアスの声に金髪美女と盾持ち大男が返事をする。
「アイネアス!お前の盾なら火の魔法を防げるだろう!通路の左前方で防げ!」
「承知!」
アイネアスと呼ばれた盾持ち大男がエルダーリッチの方へ出て盾を構える。
「クリスはアイネアスの後ろで援護してやれ」
「おう」
クリスと呼ばれた日焼け男が両手持ちの剣を構えてアイネアスの後ろへ着く。
「ベルニスは後衛だ。攻撃魔法より防御魔法を中心に私達を守れ」
「はい」
ベルニスは金髪美女だ。エニアスに命令されて嬉しそうにしている。
なんとなくむかつく。
「トシは後衛の右手の守りだ。かっちゃん……名前だよな?かっちゃんはトシの左で対角線で右前方を攻撃」
「おう」
「はいな」
俺達の実力を知らないだろうが、エニアスは無難に指揮を執っている。
俺の仕事は敵を食い止める事だな。
魔法だけは誰かに潰してもらわないと不味い。
「かっちゃん、俺へのエルダーリッチの攻撃魔法を潰してね」
「任せとき」
「この人数では防ぐので精一杯だろう。突出せずに守り、後方がスケルトンの排除をしてくれるのを待つぞ!」
エニアスが大声で言う。
「「おう」」
俺は右側が壁なので武器を振り回せない。
タウロスハンマーをマジックバッグへ仕舞ってミスリルソードを出す。
盾で敵を防ぎつつ余裕があれば剣で突こう。
シュゴッ!!前面に炎の壁が迫ってくる。
火の範囲魔法っぽい。
俺はアダマンタイトの盾で体を隠す。体勢を低く体を縮めてもから体の全ては守れないが足元はブーツでそこそこ防げるだろう。
しかし炎が俺を襲うことは無かった。
水の壁によって火の魔法は相殺されていた。
横を見るとかっちゃんがドヤ顔でいる。
「ありがと、かっちゃん」
「礼はいらんで」
今のがエルダーリッチの攻撃魔法だろう。しかし一緒に連れて来たスケルトンの一部も焦げているぞ……味方という概念がないのかな?スケルトンを防いでいる間に、エルダーリッチの火の魔法でスケルトンごとやられたら堪らんな。
よく見ればスケルトンのなかにスカルナイトも交じっている。
うげ……リッチも引き連れてきているじゃないか!
魔法は不味い。
「エニアス!一列に並んだほうが守りやすいんじゃないか?」
「うむ。指向性がある魔法にはそのほうが良いようだな。トシもクリスの後ろでアイネアス達から抜けて来たアンデッドの始末を頼む」
「おう」
俺の提案に乗ってくれた。
左側に一列縦隊だ。アイネアスの盾は火の魔法への耐性がある代物のようで、さっきの火の魔法も防ぎきっていた。
その後ろにいるクリスも守られている。そしてアイネアスの横から近寄るスケルトンを葬っている。
俺の仕事はクリスと同じだな。あとは後衛の守りか。
かっちゃんから石礫の魔法が飛ぶたびにスケルトンはおろかスカルナイトも行動不能になっている。
ただ距離があるので止めを刺せない奴もいる。
エニアスは状況を見つつ指揮を執っている。
剣士らしく剣を構えているが、たまに火の攻撃魔法も使っていた。
エニアスは魔法剣士らしい。金髪イケメンのくせに生意気だ。
ベルニスも水の玉を連射している。彼女も人間だと思うが魔力が多いのかね。
かっちゃんほどの連射ではないが大したものだ。
装備が上等そうなので、そのへんに連射の秘密がありそうだね。
かっちゃんと、ベルニスは二人とも水の魔法が使えるのでエルダーリッチが使ってくる火の魔法を水の壁によって上手く相殺出来ている。
水の壁は俺達の後方でスケルトン軍団と戦っている冒険者達を守るためだろう。距離は開いているが後方から攻撃魔法が飛んできたら、動揺してまともに戦えないからな。
前門の虎後門の狼ってとこだな。
なんとかアンデッド軍団の攻撃を防げているが綱渡りだな。
守れている要因の一つは通路が狭いので一方向さえ防げば良い事だな。
あとアイネアスとクリスのコンビで食い止めてくれているのも大きい。おかげで俺が仕留める相手はそんなに多くない。
問題もある。守りの要である後衛の魔力次第でいつでも崩壊しそうだという問題だ。
ベルニスは魔法薬らしき物を飲んでいる。おそらく魔力の回復薬ではないだろうか。
かっちゃんは最終手段の結界魔法こそ使っていないが、攻撃に防御にと魔法を引っ切り無しに使っている。
さっきの休憩のタイミングからして、そんなに持たないだろう。
「かっちゃん!魔力は大丈夫か!?」
俺は大声で言う。
「もうちょいで尽きるやろな」
「今ならエルダーリッチは後方で魔法を撃っているだけだから休めないか?後方の冒険者達とも距離が空いたし」
「ベルニス、かっちゃん後方で休め!」
俺とかっちゃんの会話を聞いてエニアスが判断を下す。
「はいな」
「はい」
かっちゃんとベルニスが少し下がって座り込んだ。
こうなると守りの主役はアイネアスだな。
彼の魔法の盾が頼りだ。
俺達は無理をせず攻撃を控えて守りを主体に戦う。
アイネアスもクリスもタフだ。
しかしアイネアスは肩で息をしている。疲労が溜まって来たか。
クリスは……戦いの始めと様子が変わっていない異常なタフさだ。
おぉ、クリスがスカルナイトを仕留めた。
頼もしい奴らだな。
後方から水の玉が飛んだ。
アンドロメダとシーダ、アリーナがかっちゃんと共に来ていた。
かっちゃんが彼女らを呼んで来てくれたのか。
アリーナが俺に小さく手を振ってくれる。
俺は仲間の無事な姿を見て気力が復活する。
「トシ、アイネアスの盾を借りて前列をやれるか?」
エニアスが厳しい表情で俺に問う。
後衛の援護が来たのでアイネアスを休ませるのか。
「ああ。やるさ」
「よし!アイネアス!盾をトシに渡して前列交代だ。お前は休んで治療と休憩に入れ」
「はい」
俺はアイネアスの後ろへ着き盾を借り受ける。
「後は任せろ」
「頼む」
アイネアスはそう言って後方へ下がっていった。
彼も細かい傷をいくつも負っていた。さっきの俺の様だ。
俺はアイネアスに代わり前列でアンデッドの群れを止める。
横からスケルトンが襲ってくるがクリスがそれを防いでくれる。
これなら何とか凌げるか。
アイネアスと盾役を交代する時にエルダーリッチの方を見た。
奴の周囲のリッチは健在で、スケルトンもアンデッド部屋ほどの数はいないがスカルナイトが何体か交じっており厄介だ。
エルダーリッチの攻撃は火の範囲魔法が主体で、後衛の水の壁がない今は盾でも被害を抑えきれていない。
髪の毛や皮膚の表面が焦げて変な匂いがしている。
俺はアイネアスから借りた盾で被害は少ないがクリスとエニアスは影響があるだろう。
しかし彼らは自分の仕事を淡々とこなしている。戦う人って感じだな。
どれくらい戦い続けていただろうか?何故かエルダーリッチは前に出て来なかった。
奴が魔法を撃ちながら迫ってきたら防げる自信はない。
対エルダーリッチ部隊はそれぞれ治療や休憩をしつつ一歩も引かなかった。
アリーナが後方の冒険者達とアンデッド軍団の様子も伝えてくれている。
あちらも激戦が続いているが戦線を維持出来ているようだ。
あちらが終われば逃げ出せる。
俺達の綱渡りは未だ続いていた……いつまで持つか。
「グゥッ!」
「若っ!」
俺が休憩で下がっていた時に状況が動いた。
エニアスがエルダーリッチの火の槍を喰らった。
アイネアスの後ろで指揮を執っていたのに何故だ。
ベルニスは顔を真っ青にしてエニアスへ駆け寄った。
「グッ!何だと……」
エニアスに続いてクリスも火の槍を喰らった。
クリスへの攻撃を見て解った。
エルダーリッチの放った火の槍の軌道が変化したのだ。
奴は自分の手元から放たれた火の槍を遠隔操作した!?
そんなことが出来るのか!?
ザシュッ!
エニアスが倒れた事で動揺したアイネアスがスカルナイトの剣を喰らった。
ヤバイ!戦線が崩壊する!
俺はアイネアスへ走り寄る。
そして倒れたアイネアスへ止めを刺そうとするスカルナイトを蹴り飛ばす。
ズシャッ!っと音を立てて周りのスケルトンと一緒に倒れるスカルナイト。
アイネアスの盾を拾い追撃の火の槍の前へ立つ。
後ろへ通すものか!
ドンッと盾を通して衝撃が腕に伝わる。
追撃の魔法を止める事に成功した。
「エニアス、クリス、アイネアスを後方で治療しろ!俺の援護はアリーナがやれ」
「「「はい」」」
だれの返事かは解らないが従ってくれているようだ。後方で動きがある。
横から俺に向かって振るわれる剣をアリーナが剣で受け止めてくれた。
「盾の守りから大きく出るなよ?火の槍は軌道が変わるから完全に避けろ!」
「はい!」
アリーナの返事が聞こえた。
しかし不味い!不味いぞ。
主力がやられた。さすがに焦らずにはいられない。
何か現状を打破する手はないか?時間が経てば経つほど俺達が不利になるのは目に見えている。
考えながらもエルダーリッチの魔法を盾で受け止め、迫りくるアンデッドを蹴り倒す。
エルダーリッチが火に包まれたのは、そんな時であった。




