遺跡-7
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「地下七階と違うて戦っとるようやな」
「戦っているな」
「地下八階は各部屋のアンデッドの数が減ってるわねぇ」
「そうなのか?」
「そうやな。地下七階は一部屋辺り百は下らんアンデッドがおった。こっちは多くても二十ってとこやな」
かっちゃんが教えてくれる。
かっちゃんの後ろでアンドロメダとシーダも頷いている。
彼女らが言うならそうなのだろう。
アンデッドは判らないが冒険者が慌ただしく動いているのは判る。
骨だけだとしても百ものアンデッドの相手はしたくない。
二十でも避けられるなら戦闘を避けたい数だ。
それでも戦っているという事は強い人達か、それだけの価値があるって事だ。
お宝でも見つかったかな。
乱入する訳にもいかないけどさ。横殴りダメ。
「良く解らないけど、戦うだけの価値がありそうだね。どこかの部屋で戦ってみる?」
俺は提案してみる。
「アンデッドの数が少ない部屋で一戦して見よか」
「はい」
「いいぞ」
「ゴーレムじゃないならいいわ」
みんなの了承を得たので、かっちゃんに魔力と数の少ないアンデッドのいる部屋を探してもらった。
いくつかの部屋の扉を通り過ぎた。
「ここが手頃そうやな」
「結構魔力があるぞ?」
「リッチが混じってそうねぇ」
「おいおい……」
サラッと言ってくれたがリッチは強いぞ。
魔法使いならそんなにきつい相手じゃないかもしれないが、魔法防御の出来ない俺には厄介な相手だ。
魔法を使う魔物が一体だけならやれるだろうけどさ。
「まぁ大丈夫やろ」
かっちゃんに、そう言われて部屋へ入った。
かっちゃん基準の手頃でした……リッチが一体に黒っぽいスカルナイトが二体、スケルトンが七体も待ち構えていましたね。
スカルナイトはスケルトンナイトとは色が違う。強さもスカルナイトの方が上だ。
瘴気の浸透が影響しているっぽい。
黒っぽいアンデッドは概ね強力だ。
やると決まったからには、全力で行きますとも。
「俺が前衛を倒す。後衛はリッチを中心に攻撃!アリーナは後衛に迫る奴を倒せ!」
「はいな」
「「「はい」」」
こういうとき対アンデッド用に特殊銀の武器があれば楽なんだろうなぁ。
今度町へ行ったら一つ買っておくか。
俺はアダマンタイトの盾とタウロスハンマーを構える。
アンデッドには鈍器の方が効く。
通常の魔物ならば剣で切って血を流させた方が早く倒せるが、アンデッドには意味がない。
特にスケルトンには鈍器で骨を砕くのが有効だ。
再生する個体もいるが気功術で砕くと再生出来なくなる。
気功術使いにはアンデッドは脅威でもない。
「うらぁっ!」
俺に向かってきたスケルトンの頭部へ気を乗せた一撃を喰らわす。
ゴスッと手ごたえが有り、スケルトンの動きが止まる。
うちの後衛から攻撃魔法が飛ぶ。
石礫はほとんどの魔物に効く良い魔法だ。
かっちゃんの得意な魔法だね。
石礫を喰らったスケルトンは体をバラバラにされている。
そしてアンドロメダとシーダから矢が放たれて魔石を砕いている。
良い腕をしている。
そしたかっちゃんの攻撃魔法はリッチへ向いた。
リッチはうちの後衛を狙いだした。
リッチの火の魔法が飛ぶがアンドロメダとシーダの水の壁で相殺されている。
かっちゃんは攻撃に専念しているようだ。短期間で連携できるようになっているね。
アリーナは後衛に近寄ろうとするスケルトンを牽制している。彼女の気功術でもスケルトンは倒せるようだ。
ガギィンッ!俺はスカルナイトの剣を盾で受け止める。
ここのアンデッドは武器を持っているので一つ上の強さがある。
兜と鉄の胸当ても着けているので一撃では倒せそうにない。
連携などしてこないが何も考えていないように進んでくるのが怖い。
シャッ!別のスカルナイトも俺に向かって剣を振るってくる。バックステップで躱す。
よし俺に向かって来い!前衛は敵を引き付けてこそだからな。
俺とスカルナイトが戦っているとリッチからの魔法が来ない。
リッチとスカルナイトの間に仲間意識があるのか、うちの後衛しか狙っていないのか解らないが助かる。
さすがに二体の武器持ちスカルナイトを同時に相手にすると攻撃する余裕がない。
既にスケルトンは全て倒しているようで、姿が見えない。
たぶんリッチとスカルナイト二体だけになっているようだ。
「やった!」
「やりましたねぇ」
「凄い……」
後衛から歓声が上がった。
リッチを仕留めたな。
そして後衛からスカルナイトへの攻撃が始まった。
一体のスカルナイトへ石礫が当たりよろめくスカルナイト。
俺はもう一体のスカルナイトを狙って気を乗せたタウロスハンマーでスカルナイトの左膝を叩く。
ゴシャッと手ごたえが有り、スカルナイトの左膝から下が折れてなくなった。
這いつくばったスカルナイトはそれでも剣を振るってくる。
アンデッドには動揺とか躊躇ってものがない。足が無くなっても何てことないもんなぁ。
執念は認めるが、こうなっては敵ではない。
武器を持っている右腕を肘の辺りで粉砕する。
四肢を粉砕してから魔石を引っこ抜いた。
ガシャッと骨がバラバラになる。
ようやく倒せたか。
俺がスカルナイトの一体を倒す前に後衛がもう一体のスカルナイトを仕留めていた。
うちの後衛は強いよね……なっちゃんがいたら火力は倍だけどな。
俺が最後のアンデッドを倒したので、それぞれ魔石や武器防具を漁りに行った。
「かっちゃん、ありがとう。リッチが俺に向かってこなくて助かったよ」
「任せとき」
「魔法でリッチを抑えるとか……リッチだって相当な魔法防御だろうに」
「アンドロメダとシーダが防御を買って出てくれたからなぁ。うちが攻撃に専念できたのは大きいで」
「アリーナも自分が出来る事をやってくれていたみたいだね」
「そうやな。スカルナイトの相手は厳しいやろうけどな」
「これからだな」
俺はかっちゃんと話ながら部屋を見回す。
テーブルや棚などの家具の残骸が目につくがお宝がありそうには見えない。
「収穫はリッチの持っていた杖くらいですね」
「リッチの魔石も矢で打ち抜いたから価値が下がってしまった……」
「そうねぇ」
アリーナが部屋を物色して収穫はリッチの持っていた杖だけだと言うのならそれだけなのであろう。
他の冒険者達は何を狙っていたのだろうか?まさかリッチの魔石じゃないだろうな?そりゃ金貨九枚は良い報酬だけどさ。
そんなに美味しい話はなかったようだ。
「かっちゃん、その杖は良い物?」
「瘴気が宿っとるな」
「呪われた杖って事?」
「そうや。捨てて行こうや」
「そうだな」
「残念ですぅ」
リッチの杖もはずれのようだ。
かっちゃんが杖を部屋の隅へ放り投げる。
魔物を倒せたので俺の力にはなってくれているから良いか。
俺が強くなるのも目標の一つだしな。
「誰も怪我をせずに魔物を倒せたんだから良しとしよう!先へ進もう」
「はいな」
「そうですね」
「うむ」
「行きましょう」
みんなも気持ちを切り替えたようだ。
部屋を出て少し歩いた所で冒険者らしき気配が俺達に向かってくる。
「誰か来るぞ!警戒を緩めるな」
「はい」
何だろうか?走っているな。
俺達は通路で立ち止まり警戒する。
「あんたらも逃げろ!下の階からエルダーリッチが上がって来たぞ!!」
俺達の警戒している様子を見て遠くから大声で叫ぶ冒険者。
「エルダーリッチやて!?」
「大物だな」
「不味いんじゃない?」
うちの後衛陣が動揺している……そうでもないか割と平然としているな。
俺にはリッチの上位種かな?としか解らない。
魔法が怖そうだね。
「逃げる?」
俺はかっちゃんに聞く。
「逃げるで。今の火力じゃ倒せんやろ」
「あいよ」
俺はかっちゃんの判断を信頼しているので素直に了承する。
「逃げるぞ!」
「「「はい」」」
逃げてきている冒険者達の先を走る俺達。
「エルダーリッチってリッチの上位種?」
「リッチが長い年月を掛けて魔力と瘴気を蓄えると進化すると言われとるなぁ」
「へぇー」
俺は事態の深刻さが解らないので呑気に話す。
かっちゃんは自分だけなら危険がないからか答えてくれる。
「やっぱり強力な魔法を使ってくるんだよね?」
「そうや。魔力による再生能力もあるらしいで」
「うへ。それは厄介だ」
「エルフ以上の魔力に再生能力、他のアンデッドも使役するらしいから強敵やな」
「単体ならやれそうな気もするけど、雑魚を引き連れて来られたら無理かなぁ」
「雑魚もリッチやスカルナイトやからな」
「それは無理だ……」
「下に潜っとった冒険者は全滅したかも知れんなぁ……」
「……」
「この遺跡は封鎖されるかも知れんな」
「そこまでの相手なのか?エルダーリッチって」
「一種の災害扱いやからな。エルダーリッチに冒険者の死体もアンデッドとして使われるんよ、ランクの高い冒険者の死体が利用されたら怖いで」
どうやらエルダーリッチはネクロマンサーでもあるようだ。
確かに戦うのも馬鹿らしい相手だな。
遺跡の入口各所を封鎖した方が賢明かもしれない。
せめてここの階の階段の封鎖にして欲しい。
せっかくの戦利品である魔導炉まで封鎖されてしまう。
あ、でもここはダンジョンと違って周囲の壁や床に俺の『錬成』が効くからな、最悪他の場所から掘り進めばたどり着けるかも。
ちょっとだけ気が楽になった。
「ハァッ、ハァッ、何、を、呑気に、話して、いるんですかぁ」
アリーナが呼吸を乱しながら言ってくる。
「情報は大事だろ?」
俺は平然として返事をする。
実際アリーナの足に合わせて走っているので楽なもんだ。
「……」
アリーナは話すだけ無駄と言った顔でジト目を向けてくる。
それでも足は止めないね。
俺達は七階への階段を上った。
七階の様子は来た時と違っていた。
それを見た時、俺は一瞬目の前が暗くなった。
だが俺はこのパーティのリーダーだ。狼狽えてもダメだし、絶望の表情なんて論外だ。平然として見せねば。
「なんでアンデッドが通路へ溢れているの……」
アリーナが呟く。
そう七階の通路にはアンデッドが溢れていた。
う……俺がフラグを立ててしまったのか!?
アリーナはがっくりと膝を着いている。絶望といった表情だ。
「アリーナ立て!薙ぎ払ってでも進むぞ!」
「はいな」
「うむ」
「やるしかないですねぇ」
かっちゃんはさすがだ。こういう修羅場をいくつも潜って来たのだろう平然としている。
アンドロメダも進むしか生き残る手段はないと解っている。
シーダも焦った様子はない。
ラミアの二人も頼もしいぞ。俺は何か力を貰った気がした。
仲間の様子を見たアリーナが青い顔を赤くした。
自分だけが絶望したのを恥じたのか、ヤル気になったのかは解らないが、立ち上がる気にはなってくれたようだ。
「行くぞ!」
俺達は通路に立ち塞がっている数百のアンデッドへ戦いを挑む。もちろん生き残って見せる!!