遺跡-3
114
「「「うぉぉぉっ!」」」
「うらぁっ!」
ギィーンッ!ウォーハンマーをヘビカメの胴体目掛けて振るう大男。
うは、手が痺れそうな音だ。
「ぐぬっ!」
ヘビカメの前で盾役を買って出た盾男。
しなる鉄首の一撃をくらい、たたらを踏んでいるが持ちこたえている。
中々やるな。
「機動力を奪うぞ!」
横からヘビカメの足を潰しに行くパーティ。
「ファイアランスも効かないわ!」
「ウインドスラッシュもダメ!」
「矢も刺さらない……」
後衛は攻撃が効かず動揺している。
特に連携する事もなく、指揮官も存在しない戦闘が始まった。
後衛以外はパーティ単位で行動している。
抜け駆けして扉へ行く奴がいるのではないかと思っていたが、ヘビカメに襲い掛かっている……逆に驚いた。
更に様子見で誰も動かないと思っていたのに、冒険者が我先へと襲い掛かるのを見て評価を改めた。
こいつらはヘビカメに勝てると思っている単純馬鹿で、そして愛すべき馬鹿だ。長生き出来そうもない大馬鹿共だ。
生き死には自己責任と思っていたが、何となく死なせたくないと思った。
俺も馬鹿なんだろうか。
「うぉぉぉっ!!」
周りの熱に押されて俺も気合を入れて盾を構え前進する。
一応後衛の斜線を潰さないように位置取りして、ヘビカメの左の一番後ろの足を潰しに行く。
ゴィンッ!俺の全力タウロスハンマーが弾き返された……一撃で潰せないまでもへこむ位はするかと思ったがまるで効いていない。
シャッ!ガギィンッ!俺の攻撃に反応して首による反撃が来た。盾で防げたが体がずれる。
俺は体格は普通くらいだが、力はある。その俺でこの有り様だ。
既に壁まで吹き飛ばされて伸びている冒険者が出ている。
ヘビカメは想像以上に強い。
魔法は……かっちゃんのストーンランスで鈍い音を立てて傷をつけているくらいか。
同じ魔法が連打されているから、見なくてもかっちゃんだと解る。
他の土魔法の使い手では傷もついていない。
ましてや火、風、水の魔法では打つだけ無駄であろう。
前衛が次々減っていく。
倒れている者のパーティメンバーらしき者達が倒れている者を引きずってヘビカメの行動範囲外へ連れて行っている。
ヘビカメの行動範囲内で倒れている冒険者が居る以上は彼らの回収が終わるまで食い止めねばなるまい。
ガギィンッ!グハッ!盾で蛇の首を止めたと思ったが、しなりによって俺の左肩から背中に掛けてを強打された。
俺はヘビカメの攻撃で転がされた。
痛みを我慢して直ぐに立ち上がり盾を構える。
あー痛ぇ!!
お返しだ!
ゴィンッ!気を込めたタウロスハンマーも効いている感じがしない。
ゴーレムには気功術は効果ないな……生命体じゃないから当然かも知れない。
またもや俺の攻撃に反撃が来るが今度は受けずに躱す。
首は伸縮性もありそうなので、下へ躱すしかない。
鞭だと思えば首の動きの予想も出来る。
速い鞭だが、なんとか躱せた。
ヒュンッ!という風切り音と共に再度俺に向かって首が振られる。
下へ躱す。
既に前衛は半減している。
後衛からの攻撃も、かっちゃんだけだな。
しかし、かっちゃんの攻撃魔法連打は留まる所を知らないな。
なっちゃんは更に上を行くらしいけどね……恐ろしい嬢ちゃんに成りつつある。
「こいつぁ無理だ!死に損だぜ」
俺が言おうと思ったセリフが隣の盾男に奪われた。
最前線で踏ん張り続けている盾男は中々の実力者のようだ。
彼の働きを前衛の俺達は見ている。
「だなっ!」
「引こう!」
「コレの行動範囲内で倒れている負傷者の回収を頼む!!」
「「おう」」
前衛から次々と声が上がる。
盾男の言葉の説得力はあった。
それでも踏みとどまる俺達。
早く負傷者の回収をしてくれー。
「回収終わった。引け!」
「「「おう」」」
俺達は盾を構えたまま後ずさりする。
ヘビカメの行動範囲が決まっていて助かったぜ。
追いかけられたら死ねる。
なんとかヘビカメから逃げる事に成功した。
俺は周辺を見回す余裕が出来た。
死者は出ていないようだが半数近くが負傷している。
酷い状況だな……魔法薬を使っている重傷者もいるな。
ガチで戦う相手じゃないな。ヘビカメ。
休憩していた場所へ戻った。
後衛にいた、うちのパーティメンバーは既に座り込んでいた。
俺も壁を背に座り込む。
肩の痛みが復活した。ジワジワと広がる痛み。
ようやく気功術で治療に入れる。
最前線に張り付いていると治療なんて出来るもんじゃないね。
「アレは強すぎだな」
「話にならんなぁ」
かっちゃんがヘビカメを見て呆れたように言う。
本当にヘビカメを作った奴に会ってみたいよ。
ゴーレムの作り方は解らないが、マジックアイテムの要領で作れるのだろうか?それともギフトが必要だったりするのなぁ。
これが大量に作れれば魔物を駆逐出来そうなもんだ……これを従えていた遺跡の主達がいないってのは気になる。
国が滅んだにせよ、移住したにせよ、ヘビカメを持ってしても去らなくてはならない脅威があったと言う事だろう。
恐ろしすぎる。
ヘビカメを放置していくのも理由があるはずだ。そう考えると遺跡の主達は滅んだと考えるのが妥当だろうか?
遺跡に下層にその脅威があったら不味いな……俺の想像力が次々と連鎖していく。
「トシさん大丈夫ですか?」
アリーナが俺を見ていた様で怪我の心配をしてくれる。
「ちっと痛いけど、大丈夫だ」
俺の返事に表情が柔らかくなるアリーナ。
心配してくれる人がいるってのは嬉しいもんだ。
「私達の攻撃はまったく効いていなかった」
アンドロメダが低い声で呟く。
「無駄でしたねぇ」
「あれは無理や」
「かっちゃんのストーンランスが一番傷を付けていましたね。かっちゃん凄いです!」
シーダがかっちゃんの攻撃魔法を褒めている。
実際前衛も含めて一番ダメージを入れていたんじゃないかな。
かっちゃんが、ヘビカメの行動範囲外から延々と攻撃魔法をぶちかましていたら、そのうち倒せるかも……そう考えると凄いな。
「アレは倒せない!俺達は怪我の治療が済みしだい帰る。共同戦線はこれで終わりだ。お疲れ様……」
チャラ男が部屋の中央で声を張り上げた。
最後の方は気力が尽きた感じで小さくなっていった。
チャラ男は話終わった後で、その場に座り込んだ。
辺りからは呻き声だけが聞こえてくる。
ここに居る全員がヘビカメの力を思い知った。
まともに倒せないと解っただろう。
死者が出なかったのは幸いだ。
「トシ、この結果で良かったのか?」
「アレは倒せないですよぉ」
「うん。正面からやりあうつもりはないよ。ただ倒せる目途はついた」
俺は右手の上に金属の塊を乗せて、仲間たちに見せながら小声で言う。
かっちゃんだけが、その塊が何なのかを理解している。
そう、その塊はヘビカメの足の一部だった物だ。
ちょっと性質が違いそうだが鉄だと思う。
俺の『錬成』が効くのを確認出来た。
そしてヘビカメの動きに着いていける事も解った。
ヘビカメの移動速度と人型ではない奇妙な挙動相手でも『錬成』を使える。
「怪我をした甲斐はあったようやな」
「おう。痛い思いをした意味はあったね」
アンドロメダ、シーダ、アリーナが首を傾げている。
「とにかく、お俺がアレを何とか出来るとだけ解ってくれれば良いよ」
「そうや。トシに任せとき」
「かっちゃんがそう言うのなら……」
かっちゃんが言うとアリーナが渋々ながらも了承している。
アンドロメダとシーダも頷いていた。
俺って……いや、かっちゃんが素晴らしい人物ってだけだ。
俺は治療をしながら少しだけ落ち込んだ。少しだけね。
怪我の程度が軽い者達から部屋を去っていった。
俺達はこれから眠るが、起きたら俺達以外いなくなってそうだな。
よしよし。
俺は既に扉の向こう側を想像してニヤニヤが抑えられない。