見物
11
ぐいぐい
「トシー起きぃー」
ん。カッツォが俺を起こす。
「おはよ」
「夕方やでー。支配人のエドゥさんに言って夕飯食べようや」
俺は時計を見る。
もう18時になるな。
結構寝てたね。
肉体的な疲れはないが、精神的に疲れていたようだ。
ひさびさにカッツォ以外の人と話をしたからかなぁ。
「あの髭でグレーの髪のおじさんがエドゥさん?」
「せやで、さっき少しだけ話をしててん。18時から夕飯出せる言うてたで。ゴンタが催促するねん」
わう
「ひさびさのベッドで眠りすぎたみたいだ」
起き上がって。
ぐぐぐ
っと伸びをする。
「よし支配人さんに頼んでくるよ。食べたら風呂に入りたいな」
「せやね。そうしよか」
わう
支配人のいた階下へ向かう。
ふむ、見当たらない。
エントランスにある2つのテーブル席のうちの1つで、泊り客だろう人物が座ってお茶を飲んでいるな。
耳、腕回りが剛毛の茶色って感じの人だ。
丸っこい耳をした獣人さんだ…。熊かな。顔は背を向けているので、よく見えないが人間っぽい。
椅子に座っていてもでかい。
冒険者だろうか、脇に大剣を置いている。
ごっつくてカッコイイ。あれで力任せにぶったぎるのかな。
向かいに座っているのは、ローブ姿のお嬢さんだ。
魔法使いかな。初めて魔法使いを見たぞ。
カッツォは魔法使いに見えないんだもの。ひひひ
金色の長髪をポニテで纏めている。
かわいらしい感じでまだ若そうだ。
その隣に青年が座っている。まぁ普通の人だな、冒険者だろうけど。
っと、カウンターに先ほどチラッ見えた女の従業員がいる。
そちらへ向かう。
受付と、お茶出しを兼ねているのかな。
どんなお茶なんだろうか。気になりマス。
「どうなされましたか?」
俺を見て声を掛けてくる。
「夕飯を頼もうと思ってね。201号室の2名と1匹だよ」
「承りました。30分後にお持ちいたしますね」
白いシャツに黒いチョッキ、下は見えないがさっきは膝までのスカートだったかな。
胸元が大胆に空いている。
この子も胸大きいぞ。
20歳いってるかどうかってとこだな。
肩までの茶髪で、たれ目っぽく可愛い。
「支配人さんはエドゥさんだったよね?お嬢さんのお名前は?」
「ダニエラと申します。よろしくお願いしますね」
にこやかに名前を教えてくれる。
日本じゃこうはいくまいて。
俺の性格なだけかもしれんが。
手を振り部屋に戻る。
落ち着いて感じの内装だな。
外は石造りなのに内装は気を多く使っているな。
柔らかい感じがしていい。
2階へ上がる。
キィ
部屋に戻った。
「夕飯頼んできたよー」
「ごくろーさん」
わう
「下で熊の獣人さんがお茶飲んでたよ。でっかい人だった」
「この都市の2割は獣人といわれとるからなぁ。熊なら人間の倍以上の力だせるで」
「すごいな!ギルドにも大通りにも獣人は居なかったから、ここのはいないのかと思ってたよ」
「ギルドサブマスターがもう1人いてそっちは戦闘系なんだが、狼の獣人だったはずや。能力高いから冒険者に多いで獣人は」
「ほほー」
わう
「あと表の売り子とかはあまりせーへんな。裏で力仕事してること多いで」
「なるほどね、あと大きい剣持ってた」
「大剣か。そらーカビーノやな。《赤い旋風》を率いてる『剛腕カビーノ』ランク1の冒険者や。こっちきとったんやな」
「おー!なんかカッコイイ。チューニビョーが疼くってやつだな。3人で座っていたよ」
「ふむ。確か5人組だったはずやけど。まぁどっかにおるやろ」
「ランク1かー強そうだったもの」
「強いで。遺跡探索のクエストで一緒に戦った事があるんやけど、うちの出番はほとんどなかったで」
「知り合いなのか」
「あとで挨拶せんとなぁ」
コンコン
それから獣人や冒険者の有名どころの話をカッツォから教えてもらっていたら部屋をノックする音が。
夕飯かな。
「どうぞー」
「失礼します。夕食をお持ちしました」
ダニエラさんと、エドゥさんではないおじさんが食事を運んできてくれた。
テーブルに配膳してもらう。
ゴンタの分は大きな皿に肉が持ってある。生肉だな。
「それではごゆっくり。夕食が終わりましたら、ご連絡ください」
優雅に挨拶をして部屋を出ていく。
外人さんってのはこういうのが、さまになるな。
さて夕飯だ。
席に着く。
「いただきます」
「いただきます」
わう
パンに野菜スープ、小魚とステーキ、果物といったメニューだ。
どれも量がある。
酒は頼まなかった。
スープを飲む。
ごくり
塩だけだが溶かした野菜と別に入れてある野菜で美味しくできている。
人参、ジャガイモ、玉葱、あとなんだろう葉野菜も入っている。
パンに手を伸ばす。
もぐもぐ
焼きたてのようだが固い…。
酵母を使っていないようだ。
日本のパンの味を知っているからいまいちだ。
香ばしい風味だけはいいけども。
魚はっと、酢漬けだね。
調味料で酢はあるんだな。良かった。
日本でも古くからあるしな。
軽く火を通した後に酢で締めたのか。
いける。
ぱくり
もぐもぐ
メインのステーキは、塩にハーブが散らしてあるな。
どれどれ。
ナイフとフォークで切り分ける。
食器は似たようなもんだね。
もぐもぐ
ハーブで臭みを抑えているのか。
マッドボアじゃないかな。
美味い。
ラードで焼いたのかな。
バターは使っていないようだ。
もぐもぐ
500gくらいあるぞ。
もぐもぐ
果物は木苺だった。
一般的なのかな。
大森林の木苺より
酸味が控えめだな。
さっぱりしていいね。
「ご馳走様でした」
「ゴンタステーキ半分食べんか?うちには多すぎや」
わう
カッツォがゴンタにステーキをあげている。
ゴンタはすでに食べ終わっていたようだ。
1kgくらいの生肉だったのにね。
楽勝かっ。
食器を下げてもらい。
少し休んだ後、待望の風呂にいった。
4人くらいが入れる日本風の風呂桶だったよ。
石鹸もあった。
泡立ちはよくなかった。
匂いも付いていて、あとでカッツォに聞いたら高級品だそうだ。
だれも入ってこなかったので、のんびりできたよ!
さっぱりした。
風呂帰りにカウンターでエールを頼みテーブルで飲んだ。
ぬるくて雑味が多かったが、久しぶりの酒だったので一気に飲めた。
ナッツもつけてくれたよ。金は後で払うことに。
部屋に戻ったら明かりがついていた。マジックアイテムらしい。
その後3人で獣人や冒険者の有名どころの話の続きをした。
マジックアイテムについても聞いたよ。
俺にも使える物がありそうだ。電池式みたいに魔石使うんだってさ。
話の切りがよくなったところで、就寝。
明日は町を見て回るんだ!楽しみ。
翌日だ。
「おはよー」
「おはよーさん」
わう
早めに寝たのが良かったのか、ベッドが良かったのか、朝すっきりと起きることができた。
7時すぎたくらいだ。
あと1時間ほどで朝飯がくるな。
昨日エール頼んだときに頼んでおいた。
「朝飯まで少し時間あるから訓練しようかゴンタ?」
わう
柔軟体操と気の訓練だけだと場所選ばなくていいから楽だ。
オーラマスターを取得して瞑想ってスキルが出てきたんだが、マナの効率的なオドへの変換と、気の回復力強化ができるのだ。
魔力は意味がないが、気のほうは放出する技を使うようになったから、訓練に瞑想もいれるようにしている。
訓練が終わったころ朝飯が来た。
パンとスープに燻製肉をカリカリに焼いたのと果物だった。
朝飯が終わり今日の行動について相談する。
「今日は町を見て回って、武器や服といった装備品を買いたいです!」
「ええんやない?昨日お金も手に入ったしな」
わう
「ここの宿は安くないから明後日からは仕事もしていきたいと思います」
「そやな、せっかくやから冒険者ギルドの仕事もしていったほうがええやろ。ランクあげは気にせんでもええが、ここではどういう仕事があるんか知っといた方がええ」
「はい、カッツォ先生」
わう
「宿は継続でいいよね?」
「ええで」
「家ってのも興味あるけど、まだまだ足りないよね?」
「魔石売却だけだと、あの10倍近くいるやろな」
「あれ集めるのにも激戦続きだったんですが…」
「稼げるんは、判ったやろ?にひひ」
「一攫千金を狙うには?」
「んー、白金貨5枚の橙色魔石狙いの討伐なら、素材も含めれば家買えるくらいの稼ぎになるやろなぁ」
「黄色魔石の上は価値が跳ねあがるねー。黄色魔石で金貨3枚だろ?」
「そや。そこに強さの壁があるからなぁ。オーガロードが橙色魔石やったで、オーガがいたんやからオーガロードもおるかもしれんな。あとはシルバーエイプって大猿あたりやね」
「むぅ。カッツォは昔オーガロード倒したんだよね?俺達で倒せないかな?」
わうー
やれるよっってゴンタは言ってそう。
「このパーティならやれなくもないやろが、あの大森林じゃ狙って倒しに行くのは厳しいで」
「無理かぁ、残念」
わぅ
「そろそろ店空いてるやろ、いこか?」
「うっす」
わう
鍵をかけて(日本の鍵に近かったよ)階下へ行く。
支配人のエドゥさんがいたので、今日も泊まることを伝え、支払いをした。
鍵も預かってもらう。
さぁ町見物だ!
カッツォも武器は使わないので、武器屋の場所を知らないとのこと。
大通りで店をひやかしながら、ギルドに向かう。
ギルドで紹介してもらう作戦だ。
ギルド経営の店しか教えてくれないかもだが…。
「おぉ!」
「あれはっ!」
「面白い」
「高いんじゃないか?」
「ひひひ」
「ふむ」
なんだか1人ではしゃいでしまってた。
買い物は1件だけ。
服屋で日常用の服を1着買った。
パンツ3枚と靴下3足も買ったよ。ゴムがないのか紐だ…。
ゴンタを見て、バンダナをおまけしてくれた!
首には周らなかったので、首輪に通してリボンみたいにしといた。黒い毛並に白いバンダナは似合うね。
なんだかカッツォも羨ましそうにしていたので、ゴンタと同じのを買ってお揃いにしてあげた。喜んでもらえたよ。
なでなで
ぐふふ
うちの子は可愛いだろー。ひひひ
ギルドに入る。
まだ、ぎりぎり朝といってもいいので、仕事を探しに来たのか人が多い。
むむむ。
登録受付で聞こうか。
「おはよーございますバルバラさん」
「おはよーさん」
わう
「おはようございます」
昨日のバルバラさんがいたので挨拶する。
ゴンタが見難いのか、カウンターから出てきたよ、この人。
視線は釘づけだね。
「今日は武器の購入にいこうと思ってるんですよ。いい武器屋さん知りませんか?」
「そうでしたか。昨日の稼ぎと力量を考えますと…イバンさんの店がいいでしょう。大通りを挟んだ反対側の区画で城壁沿いにあります」
「ありがとうございます。行ってみますね」
「うちの経営してる武器屋や道具屋も見ていってくださいね。ギルド員ならおまけしてもらえますから」
おまけか、そういうのに弱いんだよね。
武器は妥協しちゃいけないんだろうけどさ。
「はい、そちらも見る予定です。行ってきますね」
「はい、いってらっしゃい。またねゴンタちゃん、バンダナがとてもお似合いですよ」
ゴンタに手を振っている。
わう
他の受付嬢さんたちもカウンター越しにゴンタを注視している。
熱い視線だぜ!俺にじゃないけどさ…。
一度外にでてギルド併設の武器屋と道具屋を見て回った。
カッツォの勧めで、ポーションだけ買った。
体力回復疲労回復に効くというポーション2つと、毒消しポーションはは動物毒と植物毒対応それぞれの物だ。
締めて銀貨2枚。適正価格なのかは俺にはわからんです。
武器はどんなものかと値段だけ見て回った。参考までにね。
バルバラさんお勧めのイバンさんの店も見つかった。
剣と盾の屋号が書いてある看板があったからね。
店に入る。
誰もいないね。
客どころか店員すらいない。
まぁ勝手に見させてもらうか。
やはり剣はロマンがあるぜ。
ここのは装飾がほとんどないな。
実用1点張りという感じだ。
ブロードソード1本で金貨2枚か。お高い。
安い剣でも銀貨7枚とかするな。
防具もあるね。
盾も威圧感あるなー。
自分にはどういうものが合っているのだろうか。
いままでの戦い方でいうと近接の殴りあいなんだよね。
刃物が欲しいなんて最初の解体以外思わなかったし。
剣道歴5日の俺じゃあな…。中学の時の授業で竹刀を買わされ5回の授業で剣道は終わった。
柔道は高校の時に毎週1回はあったから、そこそこやれるんだけどな。
お手製棍棒が木と石から、オーガの大腿骨仕様に代わって強くなったしな。軽くて強靭、先っぽに石を詰めた頭蓋骨を付けてある。重さが足りなかったのよ。見た目蛮族ってのが増幅されたね。
防具はナイトバイパーの皮で脛当て、小手、胴に皮鎧と錬成で作って使っている。カッツォ曰くランク3あたりの人も欲しがるだろうってさ。
大振りのナイフとかがいいかな。
森を切り開いていくのに便利そうだ。
グルカナイフに近いものがあるな。
これがいいかも。
ちょっと持ってみる。
重いんだろうけど、今の俺は苦にならないな。余裕。
皆から離れて周りを見てから、振ってみる。
ぶんっ
ぶんっ
いいな、これ。
これにしよう。
「これにするよ。大きさといい、重さといいちょうどいい」
「よっしゃ決まりか」
「店員さんはっと…」
いつの間にかカウンターに店員さんがいる。
気が付かなかったよ。最近は人の気配とかすぐ判るんだけどな。
背の低い髭面…ドワーフか!?
がっしりしてるし当たりだろう。
「これください」
グルカナイフを渡す。
「おう。銀貨5枚だ」
ぶっきらぼうに言う。
いかにもドワーフ、職人って感じだね。
カッツォからお金を貰い支払う。
「ナイフを納める鞘もつけてやろう」
いい人でした。
「ありがとうございます。これはあなたが作ったものですか?」
「おう、そうだ。これはいい鉄が入った時に作ったやつだな。長く使えるはずだ」
「そうでしたか。大切に使います」
「おう」
鞘に納めてからナイフを渡してくれた。
「それでは、また」
「おう」
店を出る。
「いい物買ったみたい。あの人ってドワーフだよね?」
「そうやね。うちと変わらん身長のくせに戦闘系獣人並の力だしよる。力持ちや」
「ほほー」
イメージ通りだねえ。
「次は、どこいくん?」
「このまま城壁沿いを時間と体力が続く限りまわっていこう」
「ええで、途中で茶ーくらい飲ませてくれるんやろ?」
「もちろん」
わう
3人で町を歩いた。
第2城壁は1辺あたり2Kといったところかな。四方をぐるっと覆っている。
偶に空き地や農地があったが、ほとんど利用済みになっていた。
第3城壁が必要になるわけだ。
途中で昼飯を食べ紅茶っぽいものを飲んで休んだり、珍しい果物を買ったりして町見物を楽しんだ。
宿に戻ったころには夕方になっていた。
さすがに疲れたね。
かっちゃんとカビーノ達の関係について修正。