表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/387

分析

102


 早朝に花ちゃんの屋敷を出た。

昼前には湖のログハウスへ着く予定だった。

二つ目の山を越えて山を下っている時に、オーガを発見した。が最初にオーガを見つけたのはゴンタです。


わうー

わふ


「オーガや!数は七体や」


「多いな!オーガロードは?」


わう


「おらん」


「よし、オーガロードが居ないならやれる」


「オーガ!」


「ナナタイ!」


 俺達の話にヌートカ達も反応した。


「俺達だけでもやれます。ヌートカ達はどうしますか?」


「ヤルトモ」


「ヤル」


 ヌートカとユーロックは即答し、斧を構えた。

彼らは鉈のような斧を両手にそれぞれ持っている。

斧の二刀流か……《闘族》の斧男を思い出すな。

ホーが子供達の前で杖を構えた。

ホーは火の魔法使いらしい。


「俺、ヌートカ、ユーロックが一体ずつ相手にする。ゴンタとミナモは遊撃だ、好きに戦え。かっちゃん達後衛はかっちゃんが指揮を執ってくれ。馬達の守りもよろしく」


わうー

わふ


「はいな」


「ヨカロウ」


「オウ」


 俺は盾を出さずミスリルの剣だけでオーガの相手をした。

オーガの馬鹿力なんて盾で受けていられない。

速度で勝負だ。

一番左端にいたオーガを相手にする。

オーガに囲まれない限り負ける気はしない。

気功を纏わせた剣でオーガの攻撃をかわしつつ攻撃する。


ゴガァァァッ


 俺の相手にしているオーガが雄叫びを上げる。

至近距離で、これをやられると一瞬動きが止まるんだよな。

しかし俺もオーガとの戦闘は初めてではないので、オーガが息を大きく吸う予備動作で後方へ飛び退いている。


 飛び退いた時に周りの確認もできた。

ゴンタは速度を生かし、オーガの背後に回って攪乱している。

ミナモは後衛の守りに入っている。

ゴンタの指示なんだろうけど、ありがたい。

アリーナも剣を構えて後衛の守りに入っているがオーガと正面からやりあえる力はない。

ヌートカと、ユーロックはオーガと正面からやりあっている。


 俺は速度を生かしオーガの背後へ回り心臓部へ『浸透撃』をお見舞いする。

対生物の俺の得意技だ。

いくら皮膚が固く筋肉の鎧を纏っているとはいえ、体に血を巡らす器官に支障が出てはまともに動けなくなる。

前のめりに膝を着いたオーガの首目掛けて剣を振り下ろす。


 ザシュッと嫌な手ごたえと共に首から血が吹き出す。

落ちた頭の目が俺を睨んだままだ。


 みんなの様子を見る。

俺より前にゴンタが一体を倒していたようだ……俺も相当早く倒せたのに、強いぞゴンタ。

ゴンタは二体目の相手をしている。

後衛の魔法により、二体が沈められていた。

うちの後衛は火力が高いからな。ホーさんもいるし更に強力だったろう。

ヌートカとユーロックは、まだ戦っていた。

後衛陣も手を出さずに静観している。

ゴンタの所へはミナモが参戦していた。

後衛の守りの必要がなくなったからであろう。

俺もヌートカとユーロックの戦い方に興味があるので静観することにした。

ヌートカとユーロックは斧に気を乗せて攻撃している。

どちらも気功術のレベルが三はありそうだ。

斧を振るう度に必ずオーガに手傷を負わせている。

あ、ヌートカの斧がオーガの腹を裂いた。

それに激昂したオーガが襲い掛かるが斧でオーガの棍棒をいなし喉元へ斧をぶち込んだ。

ヌートカの戦いはそこで終わりとなった。

今の俺ならヌートカと戦っても負けないと思うが、楽勝ではないだろう。

ヌートカの戦いを見て分析する。

時を同じくしてミナモがオーガを倒したようだ。

ミナモに後衛の守りをさせたから、ゴンタが戦いの主導権をミナモに譲ったのであろう。

俺の中では、オーガを一人で倒せる奴は強い奴という思いがある。

ミナモも強い奴に分類出来るな。

最後のオーガを相手にしているユーロックにみんなの視線が集まる。

父親のヌートカと同じ戦い方のようだ。

まだ成長中の体なのでヌートカほどの身体能力までには至っていないようだ。

戦いを楽しんでいるようにも見える。

時折口の端が持ち上がって八重歯が顔を出していた。


「ウォォォッ!」


 ユーロックが雄叫びと共にオーガの太腿に斧を当てた。

気の乗せた一撃だったようで、オーガの太腿の半ばまで斧が食い込んだ。

そしてユーロックが斧を手放した。

おそらくオーガが筋肉を締めつけて斧を抜けさせなかったのであろう。

ユーロックは二本の斧のうちの一本を失ったが、そこからは危なげなかった。

足をやられ動きの鈍ったオーガはユーロックの敵ではなかった。

最後は這いつくばったオーガの首を叩き切った。

うちのパーティでいえばミナモと良い勝負を出来そうなくらいの強さは持っているな。

戦い方から推測するに戦士系の職業とオーラマスターは持っていそうだ。

若いのに中々やる。

俺はユーロックの評価を上げた。


 ユーロックは戦いを終えた途端に、なっちゃんの所へ駆け寄った。

話は聞こえないが、俺の戦いを見てくれていたか!?ってとこだろうな。

若いうちはそんなもんだ。

ユーロックの戦いに満足したヌートカはオーガから魔石を取り出しにかかった。

俺も観戦を終え魔石の取り出しにかかる。

オーガは緑色魔石を持っているので一体辺り金貨二枚だ。

一戦で金貨十四枚なら十分な儲けだ。もちろん分配するけどな。


「ユーロックも強いな」


「マダマダ」


 俺がヌートカに言うと、彼は一瞬頬を緩めたが、直ぐに顔を引き締めそう言い放つ。

厳しい父親って感じだね。


 俺達は湖のログハウスへ入り、戦いの汗を流した。

魔法でお湯を出さない風呂の入れ方を教えるために、湖からの水のくみ上げから薪による湯沸しまで教えた。

排水に関しては風呂の栓があるので簡単だ。


 ゴンタとミナモは馬達を連れて湖の周りを走りに行った。

魔物もいる地域だが、ゴンタとミナモがいれば馬達に危険はないだろう。


 ユーロックを除いた山の民の一家とは明日でお別れだ。

夕飯の席でヌートカがユーロックへ色々教えていたね。

町の事も教えていたようだ。

山の民は基本的に町へ行くことはないらしい。

行くとしても家長だけとの事。


 山の民で塩が欲しい者がいれば、花ちゃんの屋敷に塩の在庫があるので来てくれとヌートカさんには言っておいた。

山の民には塩は貴重品らしく喜ばれた。

ヌートカ一家以外の山の民が花ちゃんの屋敷を訪れる事もありそうだ。

戦いには問題がなさそうなユーロックだが、町に入るのには心配だ。

ユーロックがトラブルを起こしたら知らん顔をしたい所だが、そうもいかないんだろうなぁ。

なんだか俺は断れない日本人のままらしい。

根底にある物はそうそう変わらないって事か。


 花ちゃんも旅に同行させてあげたいな。

ずっと屋敷にいて話でしか外の事を知らない。

こっちの世界に花ちゃんと同じ存在がいるとも思えないので、本や人に聞いても花ちゃんを外へ連れ出す方法が解るとも思えない。

色々試行錯誤をし、実験を繰り返していくしかないだろう。

人では無いが、良い人柄だし得難い存在だ。


 俺は俺達の将来について考えながら夜を過ごした。



「それじゃあ、またなヌートカ」


 翌日に湖のログハウス前で俺達は山の民の一家に別れを告げた。


「アア、マタナ」


「イッテクル」


 ユーロックがヌートカに言う。


「イッテコイ」


 彼らの片言での会話にも慣れて来た。

単語だけってことも多いが、言葉以外にも伝わってくる物もある。

今の行って来いにはしっかり経験を積んで帰ってこいという気持ちが籠っていたように思う。

不思議なものだ。


 俺達は湖のログハウスを後にした。


 花ちゃんの屋敷までの間にはゴブリン十一体が出て来ただけだ。

ゴンタとミナモだけで戦いは終わった。

俺達は立ち止まっただけでした。

アリーナに言って魔石の回収だけはさせたけどね。



「ただいまー、花ちゃーん」


「帰ったでー」


わう

わふ


「ただいま」


「戻りました」


「お帰りなさい」


 昼前には花ちゃんの屋敷に戻ってこれた。

山の歩き方も慣れて来た物だね。なんか職業に就いてもいいくらいだ。

俺達が声を掛ける前には扉を開いて顔を出してくれていた花ちゃんが俺達の帰りを喜んでくれている。


 俺達は旅装を解いて、囲炉裏端へ座る。


「花ちゃん、俺達が居なくて猪だけがいる状態はどうだった?」


「やはりダメですね。少しづつ存在が薄れるのを感じました」


「適当な生き物ではダメか」


「そのようですね」


「今度のギルスア王国行きはエルフ領の北側の山や森を抜けて陸路で行こうや」


「かっちゃんが言うならそうしようか」


 かっちゃんは海路が嫌いだものな。


「山道も多いから馬達は屋敷に残ってもらうで」


「ふむ。バクシンオー達なら花ちゃんと仲良しだから、そうしよう」


 俺達が留守の間に花ちゃんが消えてしまうようなことがあってはならない。

馬達がいれば花ちゃんの存在が薄れないと判ったのは大きいな。

未知の国へ行くのにメンバーが減るのは避けたかった。


「実験が終わったのなら、花ちゃんと遊ぶのー」


 なっちゃんが言う。


「そうだな。ギルスア王国の遺跡は逃げない。しばらく花ちゃんと一緒に過ごそう」


「わーい」


「そうしよか」


「一緒に過ごしましょう!」


 花ちゃんの言葉に力が入っている。こういうのも増えて来たね。


わう


「ゴンタとミナモは山や森で遊んでいてもいいぞ?」


わうー

わふ


「遊びには行くけど花ちゃんの屋敷に戻ってきて寝るんやと」


「そうか、ゴンタとミナモも花ちゃんが好きなんだな」


「嬉しいです」


 花ちゃんがゴンタへ嬉しそうな顔を見せる。いつもよりニコニコが増している。


「私だって花ちゃんが好きー」


 なっちゃんが、ニコニコしている花ちゃんを見て対抗している。

ギュッと花ちゃんを胸に抱きしめている。

それを羨ましそうに見る俺……とユーロックであった。

かっちゃんはみんなを微笑ましそうに見ていた。


 ギルスア王国の遺跡へ行った跡は、のんびりここで過ごすかなぁ。

俺は強さの追及と、心休まる生活を天秤にかけていた。

どうも復讐心以上に大切な物が出来ているらしい。

それでもいいと思う自分がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ