ギルドの偉い人
10
キィ
偉い人らしき人が部屋に入ってきた。
金色の短髪で小麦色の肌をした、ごっつい40歳くらいの男だ。
どかっとソファーに座る。隣には真偽官の青年。
偉そうな人の横に受付嬢が立ち、青年の横に護衛だろうかさっきもいた青年が立つ。
「俺はここの冒険者ギルドサブギルドマスターのアベルだ。事情は、このバルバラから聞いた。説明できるのか?」
隣の受付嬢のことかな?
受付嬢が頷いている。
「初めましてやな。うちはランク2のカッツォいいます。問題の当事者はトシオいいます。あと犬のゴンタ。おそらくの話でよければできます」
「ほう、ランク2か。聞かせてもらおう」
「それでは俺から説明します。違う世界から落ちてきた異世界人のトシオです。異世界とは違う理で動くここではない場所です。歩いても飛んでもいけない場所でしょう」
「……続けてくれ」
「向うの世界で眩暈がしたと思ったらこの大陸近くの海に落ちていました、このゴンタと一緒にです。なんとか泳いで上陸してうろうろしていたところを、このカッツォと出会い都市まで案内してきてもらいました」
「ふむ」
「異世界人と証明する手立ては思いつきませんが、向うの世界には魔力や魔法がありませんでした。こちらに落ちてきてからカッツォに見てもらったところ、魔力を持っていないことが解りました」
「確かに魔力は感じられないな。どうだカルレス?」
「嘘は言っていませんね……。あと私から見ても魔力は感じられません」
「むぅ。ヨシツネなる人物の事も調べてきたが、およそ200年前の人物で北のロセ帝国で登録されていた。トシオといったな?お前さんはいくつだ?」
「俺は39歳です」
「200歳超えにも見えんし、39歳にも見えんな…」
「嘘は言っていません」
「ぬぅ。ヨシツネなる人物とトシオは別人なのだな?」
「はい。そうです」
カルレスさんも頷く。
「前提は解った。説明を頼む」
「はい。おそらくですが、そのヨシツネなる人物に心当たりがあります。俺のいた世界で800年ほど前に活躍していた武将でしょう。源義経と言って、俺と同じ国にいた古の英雄です」
「ほう。800年前が200年前とはずいぶんずれているようだが?」
「そこは解りませんが、時の流れ方が違うのではないでしょうか」
「……ふむ。続けてくれ」
「さっきも言ったように俺の世界では全てのものが魔力を持っていないはずです。ヨシツネも持っていなかったでしょう。ですのでこちらで登録したときに魔力なしで登録されたのではないでしょうか。そして時をへて魔力なしの俺が登録しようとして同じだと判断されたのではないかと……」
「一応説明は付くか」
「嘘は言っていません」
「うちもそれであっていると考えとるで。魔力無しなんて異常やもの。ちなみにそこのゴンタも同じ世界からきてて魔力無しや」
呼んだ?というふうに顔をあげるゴンタ。
あ…バルバラさんの顔がにやけている。可愛さにやられたか。
「動物であっても魔力は持っているからな。そこのゴンタ君からは感じられないな……」
「私から見ても無しですね」
アベルとカルレスさんが意見を交わす。
「そんなこともあるのだな。信じがたいが他に説明も思いつかんな。ヨシツネなる人物の情報を抹消して、トシオで上書きするわけにもいかん。どうしたものか」
「魔力判定で重複した例はありませんからね」
「……王族対応でいくか」
「そうですね。それしか登録方法はないでしょう」
なにそれ!?
「王族対応ってなんやのん?」
「うむ。今後の処理を全て手作業でしていくのだ。知っての通りカードの更新時に情報の更新もされていく。王族関係の情報に関して絶対にもらすわけにはいかんので、サブギルドマスター以上が全て手作業で処理をしていくのだ」
「なんぎやねぇ。忙しい役職やろうに、手間かけてまうのぅ」
「仕方あるまい。こちらで対応できぬのが悪いのだから。俺が処理しよう」
「助かります。よろしくお願いします」
ありがたい。なんとかなるようだ。
頭を下げる。
「1日滞在許可証で都市に入っているのですが、カードを作るのに間に合うでしょうか?」
「ああ、これからすぐにやってやる。少しここで待ってろ」
「ありがとうございます」
アベルさんが部屋を出ていく。
「あの…トシオさんはテイマーなのですか?」
バルバラさんが問いかけてきた。
「いいえ違いますよ?俺とゴンタは仲良いですけど」
「少し撫でさせていただくわけにはいきませんか?」
ゴンタを見る。
反応無しか。眠そうね。
「ゴンター、バルバラさんがゴンタを撫でたいってさ」
わう
仕方ないなぁという感じに吠える。
「いいって言ってます」
たぶんそう。
「ゴンタは頭から首にかけてを撫でられるのが好きみたいですよ」
「ありがとうございます!」
バルバラさんがゴンタに近寄りしゃがみ込む。
おぉ!素晴らしいアングルっ!
動物をかまう女の人って無防備になるよねー。
ぐへへへへ
白か…。
バルバラさんが恐る恐るゴンタの頭を撫でだす。
なでなで
なでなで
顔がにやけてますよー。
って思っていたら、カルレスさんも護衛の人も体を傾けて覗き込んでいる。
もちろん犬との戯れをだ。
白のほうじゃない。
この世界には従順な動物は牛や馬くらいで、犬も猫も町では見かけないそうだ。
魔物化してるとか。
ゴンタは見た目も仕草も可愛いからなっ!
そしてアベルさんが戻ってきた。
「……何してんだ、お前ら?」
「失礼しました」
名残惜しそうにゴンタから離れるバルバラさん。
「このカードを使え。これは情報表示などの機能は使えない。名前が書いてあって、白いラインが入ってるだけのカードだ。この都市の冒険者ギルドでしか使えない。城壁で身分証明書としては使えるがな」
アベルさんが俺にカードを渡してくれた。
「ありがとうございます。違う都市へ行くときはどうすればいいですか?」
「俺に連絡しろ。行く先へ渡す手紙を書いてやる」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
「あとなんかあるか?」
「そうですね、大森林からサヒラに来たので魔石があります。買い取ってほしいのです」
「いいぞ。出せ」
風呂敷にまとめてある魔石を出す。
100近くあるはず。
「多いな……」
「あと、これも」
ナイトバイパーの黄色魔石1とオーガの緑魔石4も出す。
「おぉ!黄色魔石じゃねぇか!お前こんなのも倒せるのか。やるじゃねえか」
「カッツォとゴンタが優秀なので……」
「お、おう。バルバラ買い取りに回して、金受け取ってこい。」
「はい」
バルバラさんが魔石の入った風呂敷を抱える。
頑張って抱えていってくださーい。
「トシオも戦ったんだろ?」
「はい」
「トシはオーガをソロで倒してたで」
「ソロでか?たいしたもんだ。ランク2がいうなら問題ないな。ランク8じゃ収まらんな。討伐クエストを受けられる、ランク6に変えてやろう」
「いいんですか?」
「ああ、いきなりランク4にってのは無理だがランク5までは俺の権限で与えられる。討伐以外にも覚える事は多いからランク6からだな」
「はい」
「よかったなぁトシ」
「おう」
「それじゃ替えてくるぜ」
アベルさんが慌ただしく出ていった。
何度もお手間取らせてすみませぬ。
「カルレスさんの真偽判定って、スキルなんですか?」
「ああ、知らないのか。これはスキルではなくギフトだね。子供のうちから、このギフト持ちは真偽ギルドに集められ育てられる。そして呪法で自分自身に偽りを言わないという制約を掛けるんだよ」
「子供を集める?」
「うむ。子供はなんの疑いもなく、思ったことを口にするからね。親や周りのものに敬遠されがだ」
ぼかしていっているが、酷いことになる子供がいっぱいいたんだろうな……。
「そうでしたか」
「地位も名誉も待遇も悪くないのが救いだね」
「なるほど。需要は多そうですもんね」
「悪い事にも使えるから、このギフト持ちの管理は厳しいよ。だから彼のような護衛が付くのさ」
といってカルレスさんは隣の青年を目で示す。
待遇はよくても自由に行動できないのかな。
「替えてきたぞ、ほれ」
少ししんみりした空気を吹き飛ばすかのようにアベルさんが戻ってきた。
カードを受け取る。
青いラインのカードだ。
「お手数をおかけしました。コンゴトモヨロシク……」
「おう?なんかあったら俺にいってこい」
「はい」
バルバラさんも戻ってきた。
「お待たせしました。締めて白金貨1枚と金貨3枚、銀貨1枚に銅貨5枚です」
「いい稼ぎだな」
「明細ですが……」
「問題なしや。まぁ適正やな」
「ランク2ですものね、話しが早くてありがたいです」
カッツォに預かってもらう。
「ありがとうございます。ついでにゴンタも部屋で一緒に泊まれる宿を知りませんか?」
「馬んとこじゃだめなのか?」
「大事な仲間ですからで、できれば同じ部屋で過ごしたいんですよ」
「ゴンタちゃん可愛いですもの。当然ですわ」
バルバラさんが握りこぶしで鼻息も荒く宣言する。
入れ込みすぎだ。ひひひ
「第1城壁近くの、小麦亭なら大丈夫かと思われます。以前テイマーが連れ立って入っていきましたし」
カルレスさんが教えてくれた。
「ありがとうございます。そこで聞いてみようと思います」
「どういたしまして」
「ああ、それじゃあな」
「ゴンタちゃんまたねー」
わう
「それでは失礼します」
「あんがとさん」
3人でお礼をいって部屋を出る。
そして階下へ。
やっと登録終わった。
戦闘とは違う疲れが出るな。
のびをしながら外へ出る。
ぐぐぐ
さぁ、町の冒険だっ!
えーっと、まずは1日滞在許可証の返却をして銀貨1枚を返してもらおう。
処理し忘れると、逮捕されて強制労働ってこともあるらしいからな。
「1日滞在許可証を返してくる。ここで待っててー」
「はいな」
わう
カッツォはゴンタを撫でながら待つようだ。
なでなで
門のすぐ側なので、あっというまに返却完了。
おぉ!?ゴンタが子供らに囲まれてる。カッツォも似たような扱い!?
近寄る。
「おぉ、どしたんだ?」
「あぁ……ゴンタ撫でてたら、子供達が寄ってきてこのありさまや」
「人気者だな」
わぅ
タスケテーって感じかな。
優しい子だから振りほどけないようだ。
むぅ。
パンパン
手を叩いて注目を集める。
「ゴンタとこれから宿探しにいかなくちゃいけないんだ。離してあげてくれないか」
わう
「しばらくここらにいるから、こんど遊んであげてくれ」
「そやでー離したり」
残念そうにしながらも、離れてくれる。
さっさと移動しちゃおう。
「またね」
わう
後ろで子供たちがゴンタに手を振っていた。
「ふぅ、びっくりだな」
「囲まれるとは思わんかったで」
わぅ
大通りを第1城壁に向かって進む。
すでに13時を回っているので、いい匂いに釣られそうになる。
ぐぅ
だれかのお腹がなった。
「ギルドカードで時間くっちゃったね。ご飯食べにいこうか」
「賛成や」
わう
「あっちに屋台が固まっているから、あそこで買って食べようか?」
食堂にゴンタを連れては入れないだろう。
外で食べる提案をする。
「ええな。この匂いはたまらんで」
わうー
「よし行こう」
空き地に10件以上屋台が固まって出店していた。
魚の塩焼き、肉の串焼きに、スープ、パンにサンドイッチ、果物、果物の飲物もあるな。
単純だが、どれも美味そうだ。
どれからいこうか。
「よしどれがいい?ゴンタは肉が好きだよな?」
わうわうー
決定らしい。
はてカッツォは何を選ぶのかな?
「カッツォは何にする?」
「うちは魚の塩焼きとパンにしよ」
猫だからか!?
魚ー。
「俺は魚と肉、果物でいくぜ。門で返却された銀貨使っていい?」
「ええでー」
銀貨1枚ってーと、一万円相当だっけか。
「じゃー買ったら、あの箱のベンチのとこで食べよう」
「はいな」
ゴンタを連れて肉の屋台へ向かう。
「おっちゃん、これ何の肉?」
「これは、マッドボアだぜ。脂も乗ってて美味いぞ!」
1本の串に大きい肉が2つ刺さっている。
んーと、ゴンタに3本、俺に2本でいいか。
「1本いくら?」
「1本で鉄貨6枚だ」
けっこうするな。
金はあるし気にしなくてもいいか。
「それじゃー5本くれ」
「まいどー、5本だと……銅貨3枚だ」
暗算で答えをだしているものの、一瞬の間があったな。
識字率も計算もすべての人ができるわけではないって、カッツォもいってたもんな。
銀貨で払う。
「銅貨7枚のおつり、よろしくー」
「えっと……そうだな。7枚っと」
葉っぱで包んだ肉串を渡してくれてから、おつりを返してくれる。
「ありがとなー。またよってくれよー」
「あいよー」
わう
お次はっと。
魚の塩焼きだ。これも串に刺さってる。
海の側で生活してたのに、海の幸は食べられなかったからなぁ。
今度の店主は丸っこいおばちゃんだ。
「おばちゃん、これ何て魚?」
「これはねー、鯵って魚の塩焼きだよー」
……言語補正どーなってんの?
確かに鯵っぽいけど。まんまそーくるとは思わなかったぜ!
似たようなのにあてはめて変換してくれてんのかな……。
いかんいかん。
言語補正様に突っ込みは禁止だったな。俺の中では。
「1本いくら?」
「鉄貨2枚だよ」
お、安い。
「1本おくれー」
「ありがとね」
魚の串焼きは丸出しのまんま渡されてきた。
銅貨1枚を渡す。
慣れているのか、すぐ鉄貨8枚を返してくる。
さて最後に果物だ。
橙色の果物だ。
これはみかんでしょう。
これに決めた。
「このみかんを1つください」
「鉄貨1枚で2個だよ」
なるほど最低貨幣に個数をあわせているのか。
若い男が答えてくれた。
みかんで合っているようだ。
鉄貨1枚を渡す。
みかんを2個もらう。
「まいど」
「あいよ」
こっちで初めての買い物終了。
ゴンタと箱のベンチに向かう。
やはりゴンタが珍しいのか、見られている気がする。
視線恐怖症になりそー。
「お待たせー」
「お帰り」
わう
3人で並んで座る。
空いている箱の上に戦利品も並べる。
背負っていた荷物は足の間に置く。
「初めての買い物楽しかった」
「さよか。ここは新鮮な魚が安く食べられるから、いい都市やー」
「うん。安かった」
ゴンタの分を並べてあげる。
「さて食べよう。いただきます」
「いただきます」
わう
まずは魚からいこう。
ワイルドに齧りつくぜ。
がぶりっ
もぐもぐ
脂が乗っていて美味い!
塩振ってやいてあるだけだが、これは完成された料理といってもいいな。
これ以上、手を加えてもうまくなるとは思えない。
骨は思ったより小さいな。
まるごといけそう。
もぐもぐ
カッツォみたいに2本買っても良かったな。
「魚美味い!」
「うんうん。当たりやで」
カッツォも満足げだ。
串から外してあげた肉を食べているゴンタにも少し、魚のお裾分け。
もぐもぐ
ゴンタも好きな味のようだ。嬉しそう。
次の機会はゴンタに魚も買ってあげよう。
お次は、肉串。
俺には2本で4つの塊だ。
どれどれ。
がぶりっ
もぐもぐ
これも獣の脂が乗っている。
味付けは塩だけか。少し臭みがあるな。
これは胡椒が欲しい所。
ピリッと味を引き締めたいね。
でもウルフの焼肉より美味いな。
もぐもぐ
ごきゅり
2本目ー。
もぐもぐ
もぐもぐ
結構お腹にたまるな。
最後はミカンでさっぱりとだな。
むきむき
うむ、大きさ的にもミカンだ。
口に1房放り込む。
もぐもぐ
おー酸味が少なくて甘い。
これはいいミカンだ。
ひょっとして、形がまんまだから意表を突いてくるんじゃないかと思っていたが、見事なミカンです。
いける。
宿に向かう前に、もう少し買っていこう。
もぐもぐ
「このミカン美味いよ」
「酸っぱいやろ?それ」
「いやいや酸味控えめでいけるよ。ほれ、あーん」
躊躇したが、照れくさそうに口を開けるカッツォ。
1房放り込んでやる。
もぐもぐ
「おー!酸っぱくない。いけるで」
「だろ?後で追加分買いにいっとくよ」
「うちのも買っといて」
「あいよー」
わう
ゴンタが俺にもーっていってるようだ。
確か犬にミカンはあんまりよくないんだっけか……。
1房を向いて中身を出し、さらに半分に。
「あんまり犬にはいい食べ物じゃないから、少しだけな?」
わう
口に入れてやる。
もぐもぐ
これも気にいったみたい。
でも気を付けないとだな。
水筒から水を皿に出してやる。
「ゴンタお飲みー」
わう
俺も水筒から直接水を飲む。
ぬるい。
今夜は宿に泊まれるはずだから飲み切っちゃう。
ごくごく
飲み終わった後で座ったまま、にぎやかな屋台周辺を見物する。
魚の屋台は人いっぱいだな。
安いし美味いものな。
スープは……暑いせいかいまいち人がいない。
選択ミスだな。
しかし食材を焼くだけ、煮るだけ、はさむだけってのが多いな。
調理法が少ないのかな。それとも屋台だから手間を考えてかな。
カッツォがパンも食べきって水を飲み、落ち着いたようなので、みかんを買って宿へ向かう。
パンは固いパンらしい。
まだ焼きたてだから悪くない味だったそうだ。
大通りを進み小麦亭とやらを探す。
小麦の穂が目印の屋号があるらしい。
第1城壁も近くなってきたぞ。
下にいる人と対比すると、
おそらく7mってとこかな。第2城壁より高い。
向う側は都市運営者や大商人が邸宅を構えているらしい。
王族ではないが都市の代表は市長と呼ばれ代々役割を担っているそうだ。
あと騎士団駐屯所や訓練場などもあちらにあるみたい。
おお、小麦亭発見!
第1城壁が通りを挟んで反対側にある。城壁に一番近い建物だったよ。
ギルドの建物ほどではないが、大きい。
「ここか小麦亭」
「そうみたいやな。立派な宿屋やね」
カッツォが見上げて言う。
「よし、入ったら入口のとこで待っててね。俺が聞いてくるよ」
「よろしゅう」
わう
カランカランッ
扉を開けるとカウベルみたいなのが鳴る。
「こんにちわー」
「いらっしゃいませ」
すかさず店員が近づいてくる。
俺も歩み寄る。
執事服っぽい。
カッツォのライバルだな。ひひひ
渋くてかっこいいおじさんだな。口髭とグレーの髪がいかすぜ。
「しばらく泊まりたいんですけど……」
「はい、おひとり様でしょうか?」
「2人と1匹なんだけど、入口にいる子らと同じ部屋に泊まりたい」
「さようですか。2人部屋でよろしいでしょうか?」
「犬も大丈夫?」
「はい。問題ございません」
「ちょっと待ってあの子らも連れてくるね」
「はい。どうぞ」
2人に近寄り声を掛ける。
「大丈夫だってさ」
「よかったなぁ」
わう
「一緒に話を聞こう」
「はいな」
連れ立って店員さんの所へ行く。
「この宿の仕組みを聞いても?」
「はい。当宿は完全個室の宿でございます。お食事も部屋へ配膳させていただきます。各部屋にはトイレも付いております。風呂は共同ですがございます。2人部屋ですと1泊銀貨3枚ですが、そちらの犬の食事は別料金になります」
1泊三万円ってとこか2人分の料金だから1人頭だと一万五千円か。
高めだがいいかな。
確か普通の宿は銅貨5枚前後らしい。
「はい。解りました。とりあえず1泊お願いします」
「かしこまりました。お部屋のご用意をいたします」
奥にいた女の子の店員に目くばせしてた。
「はいな。銀貨3枚な。犬の食事は肉ならなんでもええで?おいくらやろか」
「それでしたら、銅貨2枚でいかがでしょうか」
「銅貨2枚やな。よろしくなぁ」
「承りました。お部屋へご案内したします」
カッツォがゴンタの食事代も支払う。
おじさん店員が先導してくれる。
2階にあがってすぐの部屋だった。
「こちらのお部屋になります。食事の時はお声をお掛けいただいてから30分後くらいになります。お風呂は1階の突当りにございますのでいつでもご利用をどうぞ。それでは失礼いたします」
10畳くらいかな。大き目のベッドが2つある。
窓には曇っているがガラスもはまっている。
あるんだなガラス。
ギルドには見当たらなかったな。
4人掛けのテーブルもあるな。
荷物を下ろしながら部屋を見て回った。
「夕飯まで休もうか、人に酔って疲れたよ」
「はいな。うちは昼寝するでー」
カッツォがベッドに飛び込む。
ゴンタもベッドの脇で寝るようだ。
俺も少し寝ようかな。
森は静かだったな……。