転落
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あー疲れた。今日の仕事も終わったし帰ろう。なんか夕飯作るのめんどいな、おにぎりで済ますかね。おかかにツナマヨ、鮭が俺のジャスティス。お茶とコーヒーのボトル、どら焼きも買おう。
ゴンタに会ってくか。ゴンタてのは宿舎に帰る間にある神社に住み着いている犬だ。柴犬っぽい雑種で黒毛に足の4隅が白い雄で2歳くらいかな。昔飼ってた犬に似ているのでちょくちょく会いに行ってる。今の環境じゃ動物なんて飼えないからさ。
えっ会いに行くなら彼女とかじゃねーの?なんていわないでくれよぅ。そこは触らないのが優しさってもんじゃろ。とほほ。
ちなみに宿舎ってのは工事現場で短期で働いてる人の一時的な住居ね。短期っつっても結構かかるから現場近くで会社がアパートを借り上げてるみたいだ。
コンビニでおにぎりを買ってから神社へ来た。しかしここって神社の社しかないし、人もみないしどうやって運営してんのかね?なんて思いつつ社の裏手に行く。人の気配を感じたのかゴンタが尻尾を振って出てきてくれた。なんか嬉しい。
「おいっす!元気にしてたかーゴンタ」
わう
「そっか元気かー、そら良かった」
わう
もちろん言葉が解るわけもなし。おっさんは独り言得意なんだよ。
「ゴンタ用にもおかかのおにぎり2個買ってきたぞ。食いなされ」
封を切って手に乗せてゴンタの口許へおにぎりを差し出す。食べていいの?って感じで俺を見た後食べだす。かわいいのぅ。空いた手で背中をなでなで。あっという間に食べた。もいっちょいく?ウッスってな具合にもう一つおにぎりを差し出す。これもはぐはぐ食べた。そして俺はなでなで。
「水も買ってきてあるんだ水も飲みなせ」
わう
手で器を作り水を飲ませる。
ぺろぺろ
わう
「もっと飲みたいのかね?」
わう
水を追加する。
ぺろぺろ
わうわう
たぶんお礼だな。俺も毛並を堪能しましたとも、ありがとうございます。
しゃがんでいたので立ち上がり背を伸ばす。
ぐぐぐ
「それじゃーまたなゴンタ」
挨拶をして踵を返す。さて銭湯いくかね。
わうわうー!
数歩進んだところでゴンタが足元に寄ってきた。それとともに眩暈がした。朦朧としつつ足がふらつく。座り込もうとしたところで足元が消失した。
そして一人の男と一匹の犬が地球上から消えた。
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