09「遠足が始まる」
09「遠足が始まる」
僕達は・・・
担任に話を通す前に、担任が好意を寄せている養護教諭
「日向に対して好意を寄せている」と、言う噂の保健室の先生に
『僕と「日向が」可愛がってる親戚の子が付いてきてしまって…』と
相談を持ち掛け、日向を出汁に…
担任への説得を協力してくれるように約束を取り付けて
『「保険の先生と一緒に」僕等を監視してくれても構いませんから』と
担任に「苦栗・Ⅴ(ファイブ)・マロン」の同行を許可させる事に成功した。
そして、僕が念の為・・・
『ありがとうございます!先生達が子供好きで良かったです
事情があって、コイツ…遠足って生まれて初めてらしいんですよ』と
大きな声で宣言したら
遠足に同行していた、涙脆いタイプの校長先生が予定通り
何かしら色々勘違いしてくれたらしく、そちらからの許しも簡単に出て
「関係ない者を連れてきた」と、言う
他の生徒や、他のクラスの先生からの追及も免れる事にも成功した。
僕は、キノコ擬人化図鑑を確認し
日向とその連れの派手な化粧の女の子達と戯れる5の様子を見て
擬人化図鑑に・・・
「ビターマロンズ」が「仲良しで寄り添って離れない」って
書いてあっても、意外と一人でも平気らしき様子に
「大丈夫そうだな…」と、安堵の溜息を吐いた
僕は・・・
何時も5人一緒の5が、独りで来てしまった事に気が付いたら
「泣いてしまうのではないか?」と心配していたのだ。
「班の2人の女の子達も、何時も自分から雑用引き受けてくる奴も
3人の性格上、子供を邪険に扱ったりしないだろうし…」
僕は面倒事が起こらなそうな感じに安心しきって
自分の母親からのメールを確認し
『5!頂上のキャンプ場で、ビターマロンズ全員集合だってさ』
駅から見える山を指す
5は、急に不安げな表情をし…
『あれ?春兎!何で皆がいないの?No、1~No、4は何処!』
周囲を確認して自分の思う皆がいないので、動揺を見せる
『はぁ?お前、もしかして…気付いてなかったのかよ!』
『だって、一緒に居なかった事ないんだもん!』
5の泣き出しそうな雰囲気に、5の傍に居た日向が驚いて慌てふためき
僕は自分の迂闊さを早速で、後悔する事となった。
僕は携帯を鞄に放り込み、周囲を見回し
5を泣かさ無い為に、何か秘策は無いか?と探し・・・
ビターマロンズ達が、お気に入りのTVアニメのキャラクターを使った
宣伝ポスターに目を付けた
『ビターマロンズは…
あぁ~言う「正義のヒロイン」に成るんじゃなかったけ?』
僕はポスターを指指して5に微笑み掛け、5に近付いて頭を撫でる
『5は正義のヒロインなのにもう、負けてしまうのか?
それに、泣くのはNo、4の専売特許なんだろ?
5は格好良く、笑顔で登場しなきゃ駄目なんじゃない?』
5の目尻に滲んだ涙を、僕がハンカチを出してそっと拭うと
『私、泣いてないからね!目にゴミが入っただけだもん!』
と、言って…5は、胸を張る
『ビターマロンズは、何にも負けない正義の味方なの!』
5は、何かのスイッチが入って
ハイテンションでクルリと回り、スカートの裾を翻して
左手は腰に…
右手は人差指と親指を立てて『一番強いんだよ!』と、空を指した。
どうやら、当面の問題は簡単に解決したらしい・・・
『残りのマロンズを誰が、此処まで送って来るんだ?』
日向が、僕の鞄から勝手に携帯を発掘する
暫くの沈黙の後・・・
『これは不味くないのか?
お前の母ちゃん…ソラは兎も角、ブーマーまで連れて来る気だぞ』
顔を嫌そうに引き攣らせている
『連れて来ないでくれ…とは、言えないだろ?
普通の人には、ブーマーが普通の女の子にしか見えないんだから…』
『まぁ~そうらしいけど…
実際の所、通報したいレベルで明らかにブーマーは
逮捕レベルでヤバイタイプの可笑しな子だぞ…』
僕等2人は、奇行に走ってもその奇行さが認識されにくい
奇行に走ってても、普通にしている様に見えるキノコ娘達に対し
その「キノコ娘の存在のあり方」が、羨ましいと思えてならなかった。
僕等が緩い笑いを浮かべていると、ポンっと軽く僕の肩が叩かれる
『所で…何でこんな所にNo、5が居るんだい?他の子達は?』
僕等が振り返ると、末広さんが立っていた
『あれ?末爺?山の麓からの参加じゃなかったのか?』
日向が「遠足のしおり」を開く・・・
『ははは…これは、死の天使様の思召しとでも言っておこうか』
末広さんは苦笑いを浮かべる
多分…何かを察知したヴィロサが末広さんに何かしら言って
僕の元へ来させたのだろう
『何か…すいません、ヴィロサに脅されましたよね?』
『あぁ~ま~そうだけど…気にしなくていいよ
キノコ娘達の為に準備された、数少ない新人「宿主君」達の為だからね』
「あぁ~…また何かしら新しい単語が出てきた…」
僕は大きく溜息を吐いてから意を決して訊いてみる事にした
『新人宿主ってどういう事ですか?』
末広さんが笑う
『最近では、クイーン・シルキー嬢が外国語ブームで
ネコナントカとか、色々名前を変更したらしいんだけど
私みたいな年寄りは憶えられなくてね…以下略…』
どうやら・・・
僕が半ば強引にヴィロサ達に了承させられた役処の事らしかった
『末爺?新人宿主君達ってさっき、複数形で言ったよな?
それって…俺もその新人に入ってしまってねぇ~か?』
『勿論、数年前に私からの生前分与の財産受け取った時点で
日向は、私の跡取り息子なってるんだぞぉ~知らなかったのか?』
どうやら、日向も・・・
知らず知らずの内に僕と同じ立場に立っていたらしい…
『私の千野の御指名だ、有り難く思えよ
それと…私が何時か死んだ時、千野の事は頼むよ』
『末爺…縁起悪いし重たいから、そう言うのを気軽に言うなよ』
『勿論、断る!日向が「引き受ける」って言わなきゃ
この場で、泣き崩れて縋り付くぞ?』
『マジでか』
『マジでだ!』
日向と末広さんの無言の見詰め合いの後
『…すいません、引き受けるんでそれだけは勘弁して下さい』
何だかよく分からないが…日向が折れて、話しは纏まったらしい
僕は、子供の様におんぶをせがむ5を背中に担ぎ
事の成り行きを黙って見守っていた。
『それにしても春兎くんは、上手に交渉できているみたいだな
学校の先生や校長先生をも手玉にとってしまうだなんて…
春兎君は、本当に将来有望だね』
『最初の方から見てたなら、最初から居たって事ですよね
僕等から、5を引取って預かってくれても良かったんじゃないですか?』
『それじゃ、人生経験に成らないだろ?』
末広さんは悪びれる事無く笑っていた
「意外と食えない人だな」
僕と末広さんは、無言で笑い合う…
そうこうする内に、出発の時間が迫り
担任の御好意で、点呼の時に名前をフルネームで呼んで貰って
上機嫌になった5を連れ、手を繋ぎ山の麓まで行って
地元のキノコ狩り名人の人達と合流する事になった。
山の麓で僕は、末広さんに数人の仲間を紹介され
『毒キノコに愛されるとは珍しいねぇ~
残さん以降いなかったから、80年振りくらいじゃないか?』
『残さぁ~ん!御仲間できたよぉ~』
ある意味僕は珍獣扱いで高齢者に囲まれて、苦笑いを浮かべる
『これは…ワシの相続人Getじゃのぉ~』
そこで紹介された「山中 残(ヤマナカ ノコル)」さんは
キノコ娘が起業した大企業を定年してから、30年近く経っても現役
キノコ狩り歴は、80年程のベテランで
90代の元気な爺さんだった
『相続人って…もしかして、僕の事ですか?』
『他に誰がいよう?気にせんでもえぇ~ぞ?
家と、この山の相続税が払える分の現金も相続さしたるけぇ~』
僕は周囲の老人達の雰囲気で、冗談ではない事を悟り
我が家が、持ち家になってからの
自分の母親から零される、金銭的な愚痴を思い出して
毎年の土地の税金考えると、喜べないし笑えなかった。
僕が老人達に捕まっている内に、1組から遠足の山登りが開始された
僕と日向の所属するクラスの順番が回って来る頃には
担当するクラスと一緒に老人も出発して、老人の数も減り
僕も自由に動けるようになる
因みに、このキノコ狩りをしながらの山登りが5の御蔭で・・・
毒キノコ狩りへと変貌する事となったのは、言うまでも無い
毒キノコの妖精に、食べれるキノコを見付ける事は難しく
当たり前なのかもしれないが、5が見付けるキノコは悉く
猛毒の「苦栗茸(ニガクリタケ)」だったのだ。
『どうしてこうなった!
千野なら、数種類は食べれるキノコ見付けられる所だぞ?
何で5は、苦栗茸しか見付けて来ないんだよ!
他にも生えてる筈だろ?ワザとか?ワザとなのか?』
温厚な他の班のメンバーは笑って許してくれたけど
5のキノコ娘としての能力を当てにしていた日向が、独りで怒りだした
「面倒な男だなぁ~…」
『怒るまでの事は無いだろ?
他の子と比べてやるなよ…千野さんは千野さん、5は5じゃないか?
5は5なりに良い所あるんだから、そこを認めてやるべきだろ?』
僕は5の機嫌を損ねたくなくて、正論で日向を黙らせ
5の耳元でそっと
『5は、苦栗茸の妖精だもんな!綺麗な苦栗茸を見付ける天才だよ』
毒キノコを見付けてきた5の事をこっそり褒める事にした
『春兎…お前、茸食えないから内心喜んでるだろ?』
日向が大袈裟に溜息を吐き、非難がましく僕を睨んできた。
『嫌だなぁ~、結果的に紅葉狩り感覚で
キノコを見て愛でて楽しんでるんだからいいじゃないか
これも一種のキノコ狩りだろ?
ちゃんと、間違いが起きない様に引っこ抜かないで
鑑賞する様に指示出してるんだから、問題無いとは思えないのか?』
『昼飯はキノコ鍋なんだぞ?このままだと…
飯盒炊飯の白御飯だけになっちまうじゃねぇ~か!』
僕は日向に対して、満面の笑みで答える
『僕的にOKだが、何か問題でも?
味噌鍋なんだから、具が無くても味噌汁があると思えばOKでしょ?』
『俺的に、具の無い味噌汁もアウトだぞ!美味かねぇ~だろ?』
『いや、大丈夫だ!具は有るぞ!
さっきコンビニで、ホタテのひもを買ったんだ…
ホタテ入りの味噌汁になるぞ!何か単語的に美味そうだろ?
ホタテ入りの味噌汁って』
『春兎…ゴリ押し過ぎて俺、泣けてきたよ』
「勝った!」
僕は、キノコ鍋を諦めた様子の日向を横目に
天真爛漫に走り回る、5の様子を見守る事に専念した。
山道の林の中、駆け回る5を目で追うのも意外と大変で
日向の手も借りる
視界の隅に、愁いを帯びた女性の姿が映る・・・
灰色の髪に飾られた赤紫色のサングラス
灰色の服装に映える、襟元のピンク色のポイントカラーと
灰色の服から覗く、細い脚を包むピンク色の網タイツが
強く僕の中で印象に残った
僕は少しその女性の事が気になって、日向に
『山の途中で、僕等を少し離れて見ていたキノコ娘は
何のキノコ娘か知っているか?』と
キャンプ場に付いてから、訊ねたが・・・
日向は、その女性の存在に気付きもしていなくて
『居たっけ?俺は多分、見てないぞ』
腕を組み、小首を傾げて
『もしかしたら…キノコ娘でも無くて、幽霊かもしれないぞ?』
自暴自棄風味に、僕に対してニヤニヤと笑いを向けた
僕等の今の現状だか・・・
結局、僕等の班は食べられるキノコを発見できず
最低限、準備されていた白菜・白葱とホタテのひもの…
味噌汁を食べる事になりそうだったのだ。