03「このこどこのこきのこなこのこ『後編』」
03「このこどこのこきのこなこのこ『後編』」
此処は、僕の通う学校の最寄り駅近くにある商店街の外れ
ちょっとした路地に入った場所にある
「このこどこのこきのこなこのこ」と、言う名の御洒落な雑貨屋
可愛らしく、小さ目な店の正面入り口の雰囲気から考えると
僕が店に入る前に思っていたよりも、店内は凄く広く
密かに1階の天井の吹き抜けの先に2階もあるとても大きな店だった。
因みに今、現在「このこどこのこきのこなこのこ」の客は・・・
僕とアオイ・ソラを除くと
何故か「小林と小林の女友達2人」の合計3人しか居ないらしい
僕等より少し前「このこどこのこきのこなこのこ」に入った筈の・・・
僕が「このこどこのこきのこなこのこ」を見付ける切っ掛けになった
アオイ・ソラと同じ様な「青い髪の和装な女性は何処へ消えたのだろう?」
僕が小林達を探し、店内を歩き回ってた時にも
その姿を見なかった気がするのは、気の所為なのだろうか?
僕は一足先に、何となく購入した「oso的キノコ擬人化図鑑」の表紙を眺め
見に行かなかった2階を見上げて、手持無沙汰に
絵と同じ青い人影を捜した。
実は、青い女性の事が気になったので「此処の店員なのかも?」と
本を買う時・・・
「アマニタ・ヴォルヴァタ」と、書かれた名札を首から下げた
レジに居る、髪も服も全体的にモコモコな女性に
僕らより先に店に入った「青い髪の女性の事」を訊ねたのだが
訳有りで、ワザと話を逸らしたのか?…
ぶっちゃけ、僕の話をちゃんとしっかり聴いていなかったのか?
『ふふふ、やだなぁ~直ぐ隣に居ますよぉ~?』と
アオイ・ソラの事を指して、笑うだけで会話が成り立たなかったのだ。
そんなモコモコな女性店員と、白い女性店員は
名前の一部が同じなので
どちらかが「姉か妹であろう」と、僕は勝手に推測した
その白い女性店員の胸元を飾る
「黒い髑髏のペンダント」と、一緒に首に掛けられた名札の名前
曰く「アマニタ・ヴィロサ」の方は…
アマニタ・ヴォルヴァタ同じ様に、ニコニコしながら
小林達3人を接客しつつ、同じ顔から見せた怖い笑顔で
今、僕のこれからの行動を現在進行形で制限してくれている
僕はヴィロサの強い要望で、レジの近くにあるトイレの近く
観葉植物とベンチが配置された、休憩所的な場所で
半ば強引に待機させられていたのだ。
木製のベンチに座る僕の隣では、アオイ・ソラが・・・
『その図鑑ね、私もいるんだよ』と、何故だかとっても嬉しそうにしている
でも本人、『私もいるんだよ』と、言いながら
この本が欲しい訳ではなさそうで、渡そうとしたら拒否られた…
「この娘はこの娘で、どう対処して良いか僕には良く分からない」
そして僕の現、状況・・・
「待たされる理由を聞かされないまま待つ」と、言う事が
どれ程までに辛い事なのかを初めて体感させられている所だった。
空は曇り、時間の割に外が薄暗くなってきた
雰囲気的に、客がこれから増える気配はなさそうだ
天気が崩れそうな中、辺鄙な場所に隠れる様に存在する店に
これから足を向けようと思う客は、少ないのかもしれない
僕は気を紛らわせる為に、帰りの事を考える事にした
「朝の天気予報では、雨は夜からって言ってたんだけどな…」
傘を敢えて持って来ていなかった為に、僕は帰り方を思案する。
制服を極力、濡らしたくないのだが
正直な所、この場所から家までは金銭的にタクシーを使えない
此処から歩いて商店街に戻り、商店街を抜け
電車の駅まで歩いて電車に乗って、最寄駅から徒歩で自宅に帰る
何時もの帰り方と、ほぼ相違ない事しかできないだろうが
帰り道の何処かで「雨宿りする」と、言う手がある
本当は・・・
「今朝アオイ・ソラに貸出た傘を今、返して貰えたら
濡れずに帰れるんだけどなぁ~…」
僕はアオイ・ソラの顔を見た、アオイ・ソラは頬を染めにっこり笑う
僕が壊れた傘の代わりに貸し出した傘を
アオイ・ソラが現在、近くに置いてたり
何処かに所持している様子は見た所、無い様子だった。
僕が思案し、色々考えている間に小林達が買い物を終え
僕の元へやってきた
『じゃ!俺等そろそろ帰るわ、また明日な』
「あぁ~やっぱり小林はまた、僕を置いてくのか…」
僕は軽く手を振り、小林達を無言で静かに見送り溜息を吐いた
『ハルト…ヴィロサさん、こっちに来たよ』
アオイ・ソラが僕の腕に自分の腕を絡ませ
僕等にいる方にアマニタ・ヴィロサが来た事を伝える
白いキャミソールロングワンピースの
鋭角な凹凸の裾と、切り離しデザインの裾を交互にする
マキシ丈のティアードスカートが僕の視界を塞いだ。
『あら、偶然にしては良く出来ているわね
もしかしたら君、私達の本当の姿を認識出来ているのではなくて?』
ヴィロサが僕の目の前にしゃがみ込み
僕の手にある「oso的キノコ擬人化図鑑」の表紙の
ヴィロサとそっくりな絵に触れて、僕に微笑みかけてきた
「困ったな…彼女の言葉の意味が理解できてない」
僕は、無言で曖昧な微笑みを返すしかなかった。
『本当に不思議ね…本来なら、普通の人間には
私達に出会っても、私達の事は記憶に残らない筈なのよ
残ってたとしても、普通の一般的な人間としてしか認識出来ない筈なの』
ヴィロサは一呼吸置いて立ち上り、ギリギリまで近付いて僕を見下ろす
「この娘の言う普通って…どんなのが普通なんだろう?」
『私達の特殊な容貌に気付く事も無く、私達の特徴を記憶する事も出来ず
私達と楽しく会話しても、私達の名前を聴いても
記憶には殆ど残らないのが本来の姿なのよ!ねぇ、君は何で…どうやって
「青居 空(アオイ ソラ)」を憶えていたの?君はいったい何者なの?』
「いやいや…そもそも『私達』って、どんな括りで『私達』?」
僕は事態を理解出来ていない為、答えに困った
でも、それにしても
「『特殊な』って事は、人とは違う格好してる事は自覚していたんだね」
僕は返せない答えを探すのを諦め、下からヴィロサの胸を見上げ・・・
『でかいな…』と、胸を凝視しながら無意識に呟いていた。
沈黙が訪れる、ヴィロサが首を傾げ・・・
想定外に『だよね…おっぱいで挿めそうだよね』
アオイ・ソラが自分の小さな胸と、ヴィロサの大きな胸を見比べる
「この小娘ちゃんは、行き成り何て事を口走ってくれるんだ」
僕もついつい同じ様に見比べてしまう
ヴィロサは言葉の意味を理解し『?!』ビクリと体を震わせる
僕の視線に気付いて、胸を両腕で隠し後ろに下がる
『ちょっ…ちょっと!何処見て…何を考えてたのよ!』
何故かヴィロサは僕を非難している様子だ…
「『挿む』とか言ったのって、僕じゃないんだけどな…」
僕は何か少し理不尽さを感じてしまう。
『あぁ~そう言う事かぁ~…』
何を納得したのか、レジの方からポンっと手を打つ音と
間延びしたヴォルヴァタの声が聞こえてきた
「え?もしかしてモコモコな店員さんも同じ事を考えて?」
僕がレジの方に振り向くと、そう言う事ではなかったらしく
『ヴィロサちゃぁ~ん!その学生さんってもしかしたら…
私達の正体に気付いてないんじゃないかしら?』
「その通りなのだろうが、正体とは何ぞよ?」
僕にとって、理解出来ていない事が更に発覚しただけであった。
『え?あぁ~…そっか…ん?でも、あれぇ~?
ハルトは、さっき…図鑑に「私も居る」って言ったの
何も訊かないで納得してくれてたよぉ~』
『はあ?!』僕から発せられた第一声が裏返った
確かにアオイ・ソラは『その図鑑ね、私もいるんだよ』と、言ったが
「もしかして、それは「自分が載っている」って意味なのか?」
僕は、自分の耳で聴きとった意味を信じられなくて
「事実の確認」を取る為に「oso的キノコ擬人化図鑑」を開き
本のページをペラペラと捲る。
「これって…人を驚かして、その様子を配信して嘲笑う事を楽しむ
TV番組とかの撮影とかじゃないだろうな?」
僕の隣でアオイ・ソラがまた、雨合羽まで黄色くなっていなければ
一瞬、浮かんだ思考に僕は支配されていただろう
僕は先に、今朝から数人見掛けた派手な人達の姿を発見して
「マジですか!」と心の中で驚き
何度も本を最初から捲り直し、本の半ばで「青居 空」を発見して
「マジかぁ~…普通、そう言う意味で「いる」って
解釈する人はいないだろ?」と、思いながらも
その正体を確認する為に読み耽る。
青居 空の事が描かれたページには
「(心が)傷付くと赤くならずに黄色っぽくなる。」と、書いてあった
僕は、図鑑を膝の上に置き…
涙目になり、斑に黄色くなってしまった青居 空の・・・
強く握りしめ白くなり、冷たくなった手に
優しく触れ、両手ですくい上げる様に持ち上げて握り真剣に謝罪する
『ごめん…僕はまだ、理解しきって無いんだけど
青居 空ちゃんは、どうやってか擬人化したキノコの子なんだね
出会えて嬉しいよ、これからもよろしく』
しかも、僕は何て言っていいか分からなかったので
正直、適当な事を笑顔で口走っていた。
『ハルトォ~!』
青居 空は、僕の言葉の何かが嬉しかったらしく僕の首に抱き付いて来た
その拍子に、oso的キノコ擬人化図鑑が床に落ちる
『ハルト…あのね…フルネームじゃなくて…私の事をね…
「空」って呼んで欲しいの…「ソ・ラ」だよ?』
僕は、女の子の機嫌が直るなら取敢えず何でもよかったので
青居 空を「空」と呼ぶ事を了承し…されるがままになる事にした。
『あらあら…空ちゃんは人間さんの事、大好きになっちゃったのね』
その様子を見て、レジカウンターの中のヴォルヴァタは微笑を浮かべ
『擬人化したですって?貧相な想像力ね
私達ってどう見ても、フェアリー以外の何物でもないじゃない』
ヴィロサは両手を腰に添え、格好良いポージングで
僕を見下ろして…いや、多分…見下している様子だった
「フェアリーって言うより、妖精だな…」
僕は擬人化図鑑にも載っている、この3人に対して・・・
「超自然的な存在」「人間と神の中間的な存在」と、言うより
悪く言えば「妖怪」・・・「座敷童子」や「猫又」とか
「九尾の狐」みたいな「付喪神」的なのを連想していた
強いて言えば・・・
「精霊」って感じの、神社に祭られてそうなのでも良いだろ。
僕の気持ちを知ってか知らずか・・・
空は、僕の胸に抱き付く様にして僕の膝の上に座り落ち着く
それまで、2人は何も言わず見守ってくれていた。
レジから出てきたヴォルヴァタが
oso的キノコ擬人化図鑑を拾い上げ、空の顔や表情が見える方の
僕の隣のスペースに腰を下ろす
『御名前は?』
ヴォルヴァタのモコモコしたバルーン型のスカートが
僕の太股に覆い被さり、モフッと僕の腕にも触れる
「ちょっと、この人…距離感が近過ぎないか?」僕は少しドキドキした
『えぇ~っと…「森野 春兎」です。』
ヴォルヴァタは『そう、君は「ハルト」って言うのね』と、確認して
『御住いは、この近くかしら?どの辺りに住んでるの?』
『僕は隣の市の市民なんで、2個隣の駅の近くに住んでますよ。』
「何か、面接みたいだな…」
僕はヴォルヴァタの質問に少し緊張しながら答えていった
緊張の原因の一つの要因は、制服のズボンの上から触れた感触の柔らかさ
ちょっとヴォルヴァタのスカートの素材に触ってみたかったけど…
もう一つの原因・・・
目の前に立ちはだかるヴィロサに何か言われそうなので止めておいた。
『それじゃ…今は、バイトもしてなくて
学校が終わってから、特にやらなきゃイケナイ事は無いのよね?』
『えぇ~まぁ~…そうですね』
僕はちょっとした緊張から
ヴォルヴァタに聴かれた意味を考える事無く答えていた
『どうかしら?ヴィロサ店長?』
ヴォルヴァタは僕に伝えるべき事を伝えぬまま、意味深な微笑を浮かべ
ヴィロサが『あぁ~成る程!それも良いわね』と、何か決めたらしい
空の項目を見付ける前に、oso的キノコ擬人化図鑑で発見した
白い方の女性店員、元い「ヴィロサ店長」・・・
「死の天使」「猛毒御三家」「猛毒三羽烏」の通り名がある
猛毒キノコの妖精様と、同じく猛毒キノコ妖精のヴォルヴァタは
麗しい外見に似合わない毒で、僕を支配する事にしたらしい
この時まだ、僕はその事に気付いていなかった。